最近気になる放送用語

起きる?起こる?

「津波が起きる」と「津波が起こる」とでは,どちらが正しいのでしょうか。

「津波が起こる」というのが伝統的な言い方で、「津波が起きる」はどちらかというと新しい表現です。「津波」や「地震」の場合、現代ではどちらを使ってもかまいません。また、ニュアンスの違いもほとんどありません。

解説

次の文を見てみましょう。

  • 早く起きる子ども(○)
  • 偏食が原因で起こる病気(○)

「起きる」は目を覚ますこと、また横になっている状態から立ち上がることが、もともとの意味です。つまり、主語は「人間か動物」です。

いっぽう「起こる」は、伝統的には、病気や災害などある状態・状況が発生するときに用いられてきました。つまり、主語は「出来事」です。

しかし、もともとは「起こる」と言っていたところに「起きる」を使う場合がたいへん多くなっています。たとえばさきほどの文では、

  • 偏食が原因で起きる病気(○)

と言ってもほとんど抵抗は感じられません。いっぽうこの逆はだめで、

  • 早く起こる子ども(×)

とすると、何のことかよく分からない文になってしまいます。

いわば、人間・動物専用だった「起きる」が、出来事の領域にまで意味を広げてきて、「起こる」は劣勢に立たされている、と言ってもよいでしょう。この変化はかなり昔から始まっているので、いまさら「昔の使い分けをしっかり守れ」と言っても、やや無理があります。

ただし、いまでも「起こる」しか使えない場合もあります。たとえば、「サッカーブームが巻き起こる」や「拍手がわき起こる」などは、「巻き起きる」「わき起きる」とは言えません。また「国が(産業が)おきる」とは言いません。この場合は必ず「おこる(興る)」です。

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)