メディア研究部(メディア動向) 山口 勝
「震災アーカイブ」をご存じですか?
災害の映像や画像をデジタルで保存して、誰もがネットで見られるようにしたものです。
私たちは、2016年の文研フォーラムで、東日本大震災から5年「伝えて活かす 震災アーカイブのこれから」と題したシンポジウムを開催しました。
https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/600/249824.html(文研ブログ)
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20160701_4.html
震災からわずか5年で、東日本大震災を機につくられたアーカイブの閉鎖が相次いでいました。「デジタルアーカイブは、活用されてこそ持続できる」。使われなければすぐに閉鎖されてしまうのです。
そして、今年、東日本大震災から10年を迎えます。被災地では、震災を知らない子供たちが増え、デジタルアーカイブを活用した防災教育が始まりました。全国の小中学校で「端末1人1台」を実現させる「GIGAスクール構想」も、コロナ禍で前倒しされ、整備が進んでいます。震災後に改訂された文科省の学習指導要領は「生きる力」と名づけられ、新たな防災教育も始まります。
地球温暖化を背景に、災害がさらに激化、多発化することが危惧される時代。メディアの使命としてNHKや民放各社は相次いで災害デジタルアーカイブの公開を進めています。
災害を「伝えて、活かし、備える」ために、メディアに求められる役割と課題は?
いま改めて、パネリストの皆さんと考えます。オンライン配信します。ぜひ ご参加ください!
【パネリスト】
今村 文彦(東北大学災害科学国際研究所所長)
森本 晋也(文部科学省総合教育政策局安全教育調査官、元釜石東中学校)
木戸 崇之(朝日放送テレビ報道情報デスク)
権田 裕巳(NHK知財センター アーカイブス部長)
【司会・報告】
山口 勝(NHK放送文化研究所 メディア研究部 主任研究員)
https://www.nhk.or.jp/bunken/forum/2021/program.html#programI
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メディア研究部(海外メディア) 小笠原晶子
国内外でダイバーシティー&インクルージョンへの機運が高まっています。
ダイバーシティーとは多様性、インクルージョンは包摂するという意味で、性別や人種などにかかわらず、社会を構成する多様な人々を、その違いを尊重してともに生きていく社会を目指すものです。日本の産業界、そしてメディアでは主に経営的側面からダイバーシティー推進が語られ、女性の活躍推進に焦点があてられてきました。
それに対し、欧米メディアでは、採用や人事といった職場に関わること(Off Screen)だけでなく、出演者(On Screen)についても、ダイバーシティー推進が進められています。“テレビに映っている”出演者にも多様性を反映し、社会を反映することがメディアの使命と位置付けられているのです。いま欧米では、2016年のイギリスEU離脱国民投票、2018年のフランス黄色いベスト運動など、社会の分断を象徴する動きが続いています。こうした事態を防ぎ、民主主義を守るため、メディアが社会の多様性を反映して多様な意見、視点を反映しないと、その存在意義を失うという危機感があります。また去年世界に広がった黒人の人権尊重を求めるBlack Lives Matter運動も、ダイバーシティー推進を加速させる要因になりました。
それでは、何をもって多様性としているのか?例えば欧米メディアは、男女や人種、障害者、LGBTなど、カテゴリー別に職場や出演者の比率を調べています。それを労働人口を比較し、社会を反映しているか監視しています。客観的データに基づいて問題提起し、改善策を講じています。
日本には、まだ定期的に出演者のダイバーシティーについて量的な調査は行われていません。もちろんダイバーシティー推進は、数字だけで全て語れるものではありませんが、フォーラムでは、欧米の事例を参考に、日本でどのような指標、手法を用いて、メディアのダイバーシティー推進を進めるべきか、考えていきます。特に本来は構成比が1:1となるべき男女のジェンダーバランスに焦点を当てながら、その現状、課題を取り上げます。欧米のメディアはジェンダーバランスの実現に向けて、それなりの成果を上げています。そしてジェンダーバランス推進の考え方、手法を、人種や障害者、LGBTといった対象に展開しようという動きもあります。ダイバーシティー推進にメディアが果たすべきことについて、まずは、欧米で進んでいるジェンダーの観点から掘り下げていきたいと思います。
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世論調査部(社会調査) 村田英明
2011年3月11日(金)午後2時46分。私は、東京・渋谷で震度5弱の非常に強い揺れを体感しました。かつて取材した阪神・淡路大震災の記憶がにわかに蘇り、この首都圏や遠く離れたどこかの都市で、ビルや高速道路が倒壊するほどの甚大な被害が出ていると直感しました。地震の揺れでNHK放送センターのエレベーターは停止してしまい、当時、ラジオセンターでニュースデスクをしていた私は、階上のフロアから職員が続々と避難してくる非常階段を1階から駆け登り、高層階にあるスタジオまでたどり着きました。そこで初めて、宮城県で最大震度7。東北から静岡にかけての広い地域で震度5弱以上の地震を観測したことを知り、かつて経験したことのない巨大災害が起きていることを理解しました。そして、その瞬間から、長くて、終わりの見えない取材が始まりました。
あの日から10年。現在、文研で世論調査を担当している私は、3人の研究員とともに、東日本大震災からの復興と大規模災害に対する人々の意識を把握するため、大掛かりな世論調査を実施することにしました。思い描いていた復興は実現できたのか?福島の復興はどうか?国の復興対策の課題は何か?震災の記憶や教訓は風化していないか?災害や防災への意識は変わったか?等々、いま私たちが知りたいこと、多くの人に伝えたいことを質問して、全国と被災地の方々から数多くの回答が寄せられました。その貴重な回答の結果を、3月4日(木)の文研フォーラム(午前10時30分~)でご報告するとともに、専門家によるシンポジウムを開催して、被災地の復興と今後の大規模災害への備えについて考えたいと思います。
パネリストは、防災や災害時の危機管理がご専門の河田惠昭さんと、災害情報学がご専門で全国各地で防災教育を指導されている片田敏孝さん。被災地からも、岩手県釜石市の野田武則市長にご参加いただく予定です。司会は、長年、国内外の災害を取材してきたNHK解説委員の松本浩司が務めます。ひとりでも多くの方の参加をお待ちしています。
プログラムE:私たちは東日本から何を学んだのか~震災10年・復興に関する世論調査報告~
https://www.nhk.or.jp/bunken/forum/2021/program.html#programE
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メディア研究部(海外メディア) 佐々木英基
政府の“機密文書”。
そこには、公にされていない軍の“不法行為”が記されていた。
その事実を国民に知らせようと、軍の関係者が公共放送に機密文書を提供し、
公共放送がそれを報じた結果、
軍の関係者は訴追され、
公共放送は家宅捜索を受け、データを押収される・・・
これは、2017年から2019年にかけて、オーストラリアで起きたことです。
ABC(オーストラリア放送協会)が報じた機密文書には、
“アフガニスタンに派遣されたオーストラリア軍兵士が、非武装の民間人を殺害した”
という衝撃的な内容が含まれていました。
この事例が注目を集めた理由は、
機密文書の内容を報じたメディアに対して家宅捜索が入ることが、
“民主主義国”では異例だったことです。
ABC(オーストラリア放送協会)
日本人である私からみても、ABCが報じた内容は、
主権者であるオーストラリアの人々が知らなければならない重大な問題をはらんでいると思えました。
「なぜ“民主主義国家”オーストラリアでこんなことが起きたのか?」
「メディアは、“機密の壁”にどう向き合うべきなのか?」
こうしたテーマについて、徹底的に議論するシンポジウムを開催します。
登壇者は、いずれもこのテーマを語るにふさわしい方ばかりです。
柳澤秀夫さん(ジャーナリスト)
「あさイチ」の「ヤナギー」としてお茶の間の人気を集めましたが、
1991年の湾岸戦争では、特派員として、バグダッドから最新の情報をリポートし続けました。
太田昌克さん(共同通信社編集委員 論説委員兼務)
核をめぐる日米関係の闇に深く切り込んできた太田さんは、
日米政府の最奥部から情報を得て、知られざる数々の事実をスクープしてきました。
西土彰一郎さん(成城大学教授)
憲法・メディア法の専門家です。
「放送の自由」について、国内外の法制度に精通すると同時に、
メディア関係者と議論を重ね、「あるべき放送」について発信を続けています。
VTRで参加するゲストにもご注目ください。
モートン・ハルペリンさん(国際政治学者)
アメリカ国防総省の上級担当官を務めたハルペリンさんは、米国の核政策に深く関わり、
“沖縄返還交渉”の当事者です。
マーティン・ブライトさん(英国ジャーナリスト)
イラク戦争の開戦直前、米国の政府機関が、違法な盗聴を英国政府機関に要請した事実をスクープしました。
3月3日(水)午後4時、1時間半にわたる白熱した議論にご注目ください。
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世論調査部(社会調査)村田英明
みなさんは「国際比較調査」データをご覧になったことがありますか?調査に参加する国々が、同じ時期に、同じテーマで、同じ質問の世論調査を行い、国民の意識の違いや自分の国が抱える様々な問題を浮き彫りにすることができる、とても役に立つ調査です。
と言うと何だか難しく、取っ付きにくい感じがしますが、例えば、こんな調査ならばどうでしょう。
■「日本は、仕事にストレスを感じる人が多い国である。男女とも、およそ半数の人が仕事にストレスを感じており、男性は調査した国の中で2番目に多く、女性は4番目に多くなっている。アメリカや中国などでは、仕事にストレスを感じる人は3割程度しかいない。」 (2015年・ISSP「仕事と生活(職業意識)」調査)
■「日本は、家庭生活の満足度が低い国である。家庭生活に“非常に満足している”または“満足している”という人は、男性が4割ほど、女性が3割ほどで、参加国中、満足度は男性が4番目に低く、女性は2番目に低い。」(2012年・ISSP「家庭と男女の役割」調査)
仕事や家庭生活といった身近なテーマだと興味がわくのではないでしょうか。それと同時に、「なぜ日本人は仕事にストレスを感じるのだろう?」「なぜ日本人は家庭生活の満足度が低いのだろう?」といった疑問がわいて、その理由を知りたくなるはずです。
今年の文研フォーラムでは、世論調査部が20年以上前から世界の国々と協力して毎年実施してきた「ISSP国際比較調査」についてご紹介します。開発途上国を含めて40以上の国と地域が参加している調査から見えてきた“日本人の姿”や“日本の課題”をゲストとともに詳しく見て行きます。
ゲストにお招きするのは、NHKのニュース番組にもご出演いただいている白河桃子さんと常見陽平さんです。日本人の働き方の問題や、結婚や家庭の問題に詳しいお二人が、調査から浮かんだ様々な疑問にお答えします。どうぞお楽しみに!!
研究報告は、国際比較調査のベテラン、村田ひろ子主任研究員が担当します。
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世論調査部(視聴者調査)阿曽田悦子
現在、私は1歳と3歳の子育て真っ只中。
ご飯を作っているとき、片付けしているとき、ちょっと休憩したい時。
一番お世話になっているのが「テレビ」です。
上の子が1歳の頃までは、Eテレや知育教材など“親が見せたいコンテンツ”を見せていました。
2歳になり、“自分の見たいコンテンツ”を主張するように。
3歳になると、自分でテレビのリモコンを操作し、DVDやYouTubeまで見るようになりました。
子どもたちの最近のブームは「アナと雪の女王」。
毎日、飽きることなく何度も見ているため、まだ上手に話すことができない
1歳の娘も「ありの~ままの~」と鼻歌らしきものを歌っている始末です。
テレビ番組にこだわらず、“見たい時に見たいコンテンツを見る”。
これが、我が家の子どもたちの「テレビ」の見方です。
テレビ番組を放送された時間に見るリアルタイム視聴や、録画やDVDでの視聴、テレビで動画を視聴したりなど、いろいろな形の「テレビ」の見方がありますが、そもそも、幼児が1日にテレビ番組をリアルタイムで視聴している時間はどれくらいでしょうか?
毎年6月に実施している「幼児視聴率調査」のデータをご覧ください。
2006年のリアルタイムの視聴時間は、2時間19分。その後2011年までは2時間以上でしたが、2019年は1時間37分になってしまいました。
特に夕方の時間帯では、今なおリアルタイム視聴が最も多いものの、録画DVD視聴、インターネット動画視聴が存在感を増している兆しがみえています。
子どもたちをとりまく環境も変化し、テレビコンテンツだけではなく、
映像コンテンツが多様化している中で、子どもたちは何を見ているのでしょうか?
3月4日の文研フォーラムでは、「幼児視聴率調査」と「メディア利用の生活時間調査」の最新データをもとに、幼児のコンテンツ視聴の実態、母親のリアルな生活・メディア動向を詳しく報告します。
またゲストには、民放初の0歳~2歳向けの幼児番組「シナぷしゅ」を企画した、テレビ東京・飯田佳奈子プロデューサーと、Eテレの編成主幹・中村貴子を迎え、「幼児コンテンツ」のミライを一緒に考えます。
これからの時代を生きる子どもたちは、どんなコンテンツを、どのように見ているのか?
「何みてる?令和のこどもたち」 皆さん、ぜひご参加ください。
文研フォーラムの詳細はこちらから↓
メディア研究部(海外メディア)青木紀美子
「隠れた飢餓」の問題について話し合うため、カリフォルニア州サクラメントの
公共ラジオCapital Public Radioが開いた住民との対話集会
(写真:Steve Fisch/FischPhoto)
アメリカ、ハーバード大学のジャーナリズム研究所NiemanLabは、毎年の終わりに翌年の動向「予想」(1)を報道分野の先駆者や研究者に依頼し、発表しています。メディアの危機が深刻なアメリカでジャーナリストや識者は何に注目しているのか?海外メディアの動向調査を担当する私には、その知見からヒントを頂くことも多い読み物です。
2020年のNiemanLab予想で目立った言葉の一つは「エンゲージメント」でした。日本では「エンゲージメント・リング」など婚約という意味で使われることが多い言葉ですが、ジャーナリズムの分野では市民と「接点を持つこと」「双方向の対話をすること」「継続的なつながりを育むこと」「活動をともにすること」といった読者視聴者、さらに幅広い市民との関係を表す言葉として使われるようになっています。
非営利調査報道メディアProPublicaのエンゲージメント担当記者、ビーナ・ラガベンジュランさんは「エンゲージメント報道は、取り上げる課題の当事者がその取材報道に参加する機会をつくること」と説明し、特に地域ジャーナリズムの分野で人々とのエンゲージメントが増えることを予想しています。(2)
ヴィスコンシン大学ジャーナリズム校の教授スー・ロビンソンさんも、2020年のアメリカ大統領選挙に向けて有権者とのエンゲージメントを試みるメディアが増え、特に地域メディアの選挙報道の内容を変えてゆくだろうと述べました。(3)
カリフォルニア州の公共ラジオのコンテンツ責任者クリスティン・ムラーさんは「エンゲージメントは従来の報道を見直し、透明性を高め、取材から発信まで地域社会とともにかたちづくることで、人々とメディアとの間の距離を縮めるものだ」とした上で、このエンゲージメントをジャーナリズムの財政基盤の強化にも結びつけることを2020年の課題と位置づけています。(4)
情報が氾濫し、メディアへの信頼も落ち込む時代。このような「エンゲージメント」を柱に、人々が必要とする情報、信頼できる情報を届けることで、双方向の対話があるつながりを育み、信頼の回復をめざす試みを欧米では「Engaged Journalism」と位置付け、実践例や成果、課題や評価の指標などについて情報の交換が行われるようになっています。
具体的な手法は多様で、オンラインで募集した質問や意見を出発点に取材をすることもあれば、地域の課題について住民が話し合う機会を設け、その議論を参考に報道内容や発信方法を方向づけることもあります。共通しているのは、人々の声にもう一度耳を傾けることから始め、市民を、情報を受ける「オーディエンス」から情報をかたちづくる「パートナー」へと見直し、”市民のため”だけではなく、“市民とともに”発信することをめざしていることです。
文研フォーラム2020では、アメリカのCapital Public Radioをはじめ、イギリスのBBCや西日本新聞社からエンゲージメントに取り組む方々の参加を得て、実践例を紹介し、その可能性や課題について話し合います。
(1) https://www.niemanlab.org/collection/predictions-2020/
(2) https://www.niemanlab.org/2019/12/the-year-of-the-local-engagement-reporter/
(3) https://www.niemanlab.org/2019/12/campaign-coverage-as-test-bed-for-engagement-experiments/
(4) https://www.niemanlab.org/2019/12/the-year-we-operationalize-community-engagement/
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