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調査あれこれ

調査あれこれ 2023年02月24日 (金)

#456「関東大震災100年」 震災の「警鐘」をいかに受け止めるか

メディア研究部(メディア動向)中丸憲一

  1923年(大正12年)9月1日に発生し、10万人以上が犠牲になった関東大震災から、今年(2023年)で100年になる。この震災では、放送にも大きく関わる「情報伝達」が大きな課題になった。また、私はNHKで長年、災害担当記者をしてきたが、今回、関東大震災の記録を改めて探ったところ、初めて知ることも多かった。この関東大震災から学びとるべき「警鐘」について詳しく見ていきたい。

【ラジオ放送誕生を早めた関東大震災の“怪物”】
 まず目を向けたいのが、関東大震災の時の「情報の途絶」だ。まだテレビやラジオ、当然ながらSNSはなかった時代。電信・電話といったほぼすべての通信網が途絶し、新聞社も社屋が焼失するなどして新聞の発行がままならなくなった。生き残った人たちは、被災時に最も必要なものの一つ「情報」が入手できなくなることによって混乱を極めてゆく。 

yoshimurabook300.png  その様子を、吉村昭は「関東大震災」で次のように書いている。(一部中略・原文ママ)

「知る手がかりを失ったかれら(被災者※筆者追記)の間に無気味な混乱が起り始めた。かれらは、正確なことを知りたがったが、それは他人の口にする話のみにかぎられた。根本的に、そうした情報は不確かな性格をもつものであるが、死への恐怖と激しい飢餓におびえた人々にとってはなんの抵抗もなく素直に受け入れられがちであった。そして、人の口から口に伝わる間に、臆測が確実なものであるかのように変形して、しかも突風にあおられた野火のような素早い速さでひろがっていった。流言はどこからともなく果てしなく湧いて、それはまたたく間に巨大な怪物に化し、複雑に重なり合い入り乱れ人々に激しい恐怖を巻き起こさせていった」

  この流言飛語にはさまざまなものがあった。「上野に大津波が襲来した」「富士山が爆発した」「秩父連山が噴火した」などという偽情報がまことしやかに流れ、地方紙に掲載された。さらに混乱に拍車をかけたのが、朝鮮人に関するデマである。再び吉村昭の「関東大震災」から引用する。(一部中略・原文ママ)

「大地震の起った日の夜七時頃、横浜市本牧町附近で、『朝鮮人放火す』という声がいずこからともなく起った。その夜流布された範囲も同地域にかぎられていたが、翌二日の夜明け頃から急激に無気味なものに変形していった。『朝鮮人強盗す』『朝鮮人強姦す』という内容のものとなり、さらには殺人をおかし、井戸その他の飲水に劇薬を投じているという流言にまで発展した。殺伐とした内容を帯びた流言は、人々を恐れさせ、その恐怖が一層流言の拡大をうながした」

  この流言の発生と急速な拡散が、朝鮮人虐殺という悲惨な事件まで引き起こしたことを考えると、まさに「怪物」以外のなにものでもないと思う。そしてこの「怪物に2度と遭遇したくない=迅速で正確な情報が欲しい」という人々の強い願いが、ラジオ放送の誕生を早めるきっかけとなった。
  ラジオ放送は、1920年(大正9年)に正式の免許をうけた初の放送局がピッツバーグで放送開始後、アメリカ全土に急速に広がった。これに刺激されて日本でもラジオ放送開始への機運が高まり、政府は放送を民営で行うとする方針に沿って関係法令の整備など準備を進めた。そのさなかに関東大震災が発生し、作業は中断。しかし、震災直後、横浜港に停泊中の船が船舶無線で被災状況や救援要請をいち早く伝えるなど無線による情報伝達が一部で機能したことなどから、無線の一種であるラジオ放送への要望が急速に高まった。政府も緊急・非常時に備えるために一日も早くラジオ放送を実現すべきだとして関係法令の整備作業を再開。2年後の1925年(大正14年)3月22日の東京・芝浦での放送開始につながった。

housousi400.png20世紀放送史より(放送文化研究所編さん)

  こうして産声を上げた日本のラジオ放送は、その後、テレビやSNSなどのメディアにつながっていく。しかしその原点には、「怪物に遭遇したくない=災害時に迅速で正確な情報が欲しい」という100年前の震災を経験した人々の痛切な思いがあることを忘れてはならない。

【関東大震災から学びとる「今後起きうる災害」への警鐘】
  100年前に首都を襲った大地震。とはいえ今とは状況がかなり違う中で起きた地震だけに、どれだけの教訓があるのか。気象庁が今年1月4日に立ち上げた特設サイトを通じて各防災機関の資料を調べてみた。関東大震災というと有名なのはやはり「火災」。発生時刻が正午前と昼食時間帯だったこともあって次々に出火し延焼。火災による死者は震災の死者の約9割にものぼる。特に4万人余りが犠牲になった東京の陸軍被服廠跡地で起きた「火災旋風」は、非常にまれな現象であることもあり、メディアも頻繁に取り上げる。私自身、社会部の災害担当記者時代に火災旋風を作り出す実験を専門家に行ってもらうなどして火災旋風のおそろしさを伝える番組を作ったことがある。しかし、今回、資料を読み込むことで、関東大震災では火災以外にも多くの災害が起き、それはいずれも「今後起きうる災害」につながっていることを知った。

daisinsai400.png関東大震災の被災地 気象庁ホームページより 

  震災で火災のほかに起きた災害としては、まず津波があげられる。早いところでは地震発生から5分程度で襲来。相模湾沿岸や伊豆半島東岸で大きな被害が出て、死者は200人から300人にものぼるとされた。特に神奈川県小田原市根府川では河口付近で遊泳中の子ども約20人が犠牲になったという。津波で子どもが犠牲になる被害は、1983年の日本海中部地震や2011年の東日本大震災などでも起きている。これを教訓に、今、各地の学校などで子どもたちを津波から守る防災教育が進められているが、関東大震災のこの悲惨な被害も忘れてはならないと思う。
  また、土砂災害も多発。山沿いを中心に、地震発生の前日にかなりの量の雨が降ったことが原因の一つとされている。この「地震前の雨」が要因となったとされる土砂災害も、平成30年(2018年)の「北海道胆振東部地震」などで起きている。
  さらに「海上火災」も起きていた。神奈川県横須賀市では、当時、海軍の基地があり、8万トンの重油を貯蔵する重油タンクがあったが、これが破損。
流出した油が海面を覆って引火し、火の海となった。海上に流れ出した重油に火がつく大火災は、東日本大震災の際、宮城県気仙沼市などでも起きている。私自身、社会部の災害担当記者時代に、東日本大震災関連の番組用に、海上を漂う重油に火がつき燃え広がるメカニズムを取材したことがあるが、それとほぼ同じ現象が100年前に起きていたことを今回初めて知った。さらに思い起こせば、東日本大震災が起きる7年ほど前、仙台放送局の記者時代に、取材で気仙沼市を訪れた際、同行した津波防災の専門家が「もし大津波が来たら、気仙沼湾にある重油タンクが危険だ」と指摘していた。これはその後、東日本大震災で現実のものとなる(震災直後に気仙沼市の被災地を取材した際、津波に流され破損して陸に打ち上げられた巨大なタンクを見て、悔しくて仕方がなかったのを覚えている)のだが、当時はそれほどの危機感を持って原稿を書くことができなかった。このとき、この関東大震災の横須賀市の事例を知っていればもっと違った伝え方ができたのでは、と悔やまれてならない。
  東日本大震災以降、国などは、南海トラフや千島海溝・日本海溝沿いの巨大地震、そして首都直下地震などの新たな被害想定を次々に発表している。100年前に起きた現象・被害が再び起きるおそれのあることを是非知るべきだと自戒を込めて強く思う。
  関東大震災の史実から学びとる「今後起きうる災害」への警鐘をいかに対策に生かすことができるか。そして、ラジオ放送開始のきっかけとなった「迅速で正確な情報が欲しい」と願った人たちの思いを放送に携わる私たちは、しっかりと受け止め災害報道に生かさなければならない。
  関東大震災から100年を迎える今年は、防災対策と災害報道のあり方を問い直す、節目の年となりそうだ。

調査あれこれ 2023年02月14日 (火)

#453 「低位安定」の岸田内閣 ~支える自民党支持者の動向は~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 1月23日に通常国会が召集され、6月21日までの150日間にわたる与野党論戦に入りました。ただ、ことしは4月に統一地方選挙があるため、4月中の会期を十分に活用できるとは限りません。それだけに濃密な議論と時間の使い方が政府にも与野党双方にも求められます。

 初日の施政方針演説で、岸田総理大臣は12の章立てをして、自らの内閣の向こう1年の基本方針を国民に訴えました。防衛力の整備強化、新しい資本主義の進展、子ども・子育て政策の推進などを並べましたが、具体策は後で示すというものが目立ちました。

 例えば、新しい資本主義の部分では、年功序列型賃金を見直し、構造的な賃上げを実現するために日本企業に合った「職務給」導入のモデルを6月までに示す。また、子ども・子育ての部分では、今の社会で必要とされる政策を取りまとめ、6月の骨太方針までに予算倍増に向けた大枠を提示する。

1月23日施政方針演説 1月23日施政方針演説

 一見すると締め切りの時期を示した誠実な姿勢に見えますが、裏を返せば結論の先送りです。見方を変えれば、5月のG7広島サミットまでは外交に専念し、内政課題については霞が関官僚の年間スケジュールに合わせて時間稼ぎをしているとも言えます。スピード感に欠けています。

 施政方針演説をもとに衆参両院での代表質問、そして衆議院予算委員会での質疑へと進んでいますが、答弁で具体的な政策内容が浮上している気配はありません。

 こうした中で、2月のNHK電話世論調査は10日(金)から12日(日)にかけて行われました。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  36%(対前月+3ポイント)
 支持しない  41%(対前月-4ポイント)
 わからない、無回答  23%(対前月±0ポイント)

NHK世論調査での岸田内閣の支持率は、去年7月に発足以来最も高い59%を記録した後、下降局面に入りました。去年12月と今月は、前の月より若干支持率がアップしましたが30%台のままです。「低位安定」が継続していると見ることができます。

 この「低位安定」を支えているものはと言えば、やはり自民党支持者です。2月調査でも自民党支持者のうち61%が岸田内閣を支持すると答えていて、支持するが17%の野党支持者、18%の無党派とは大きな差があります。

 ただ、自民党支持者の中にもテーマによってさまざまな考え方が存在し、岸田総理にとってもとらえどころに苦慮する面がありそうです。今月の調査から2つの項目を見てみます。

☆政府は増額する防衛費の財源の一部を確保するため、増税を実施する方針です。あなたはこれに賛成ですか。反対ですか。

 賛成 23% < 反対 64%

これを詳しく見ると次のようになります。

 自民党支持者 ? 賛成 33% < 反対 58%
 野党支持者 ? 賛成 17% < 反対 76%
 無党派 ? 賛成 18% < 反対 71%

野党支持者、無党派ほどではありませんが、防衛費増額のための増税に対しては、自民党支持者でも否定的な考えが多いことが分かります。

 いつの時代でも国民は増税に警戒感を持ちます。それが何に使われ、どれだけ自分の暮らしの安定に役立つのかが明確にならなければ、簡単には賛成しません。

 岸田総理は、日本を取り巻く安全保障環境の悪化に対応する防衛費増額なので、今を生きる我々が負担すべきものとして、国債発行で将来につけを回す方法はとらないと明言しています。財政健全化を目指す観点から妥当な判断と言えます。

 しかしながら、この基本的な方針を最後まで貫くことができず、議論を続ける中で国債発行で賄うという結論に至ったならば腰砕けのそしりを免れません。まず、足元の自民党支持者に理解を得るための努力、とりわけ反撃能力を保有することが国民の命と日本の社会システムを守るうえでなぜ必要か、どこまで有効かの説明を尽くす必要がありそうです。

☆あなたは、男性どうし、女性どうしの結婚を法律で認めることに賛成ですか。反対ですか。

 賛成 54% > 反対 29%

こちらも詳しく見ると次のようになります。

 自民党支持者 ? 賛成 51% > 反対 38%
 野党支持者 ? 賛成 57% > 反対 33%
 無党派 ? 賛成 62% > 反対 20%

この数字を見て、私は少々驚きました。自民党の国会議員などと話していると伝統的な家制度を継承すべきという主張が多いのですが、自民党支持者の数字からは野党支持者、無党派層と大きな傾向の違いを感じません。より多角的に調査してみる必要があるとは思いますが、自民党支持者の中にも時代の変化に身を添わせるべきという考え方が広がっているように感じます。

 今回の調査の1週間前に、総理秘書官が記者団に内閣の基本姿勢を解説する中で「同性婚は嫌だ」と発言して更迭される出来事がありました。本人が何を守ろうとしてこうした発言をしたのかは定かではありません。ただ、岸田内閣を支える自民党支持者に寄り添おうと考えて発言したとしたならば、これは少々現状を見誤っていたということなのかもしれません。

 「低位安定」の岸田内閣について見てきました。こういう状況の下で行われる4月の統一地方選挙。とりわけ41の道府県議会議員選挙が注目点になりますが、与野党の勢力図にどういう変化が現れるのかは流動的です。

 国会論戦の中で、岸田総理が先頭に立って具体的な中身に踏み込んだ発信を積み重ねることができるかが、政権を担う自民党にとって欠かせない要素になりそうです。

調査あれこれ 2023年01月19日 (木)

#442 幼児のネット動画視聴が急増。調査からみえたテレビとの使い分けの実態は? ~2022年「幼児視聴率調査」から~

世論調査部 (視聴者調査) 舟越雅

文研ではこれまで、年に一回のペースで幼児を対象にした視聴率調査を行ってきましたが、この調査は「視聴率」と銘打ちながら、実は録画番組やインターネット動画の利用状況についても把握することができます。
テレビのリアルタイム放送の視聴だけでは、多様化する幼児のメディア利用を正確につかめないことから、調査項目に加えているのですが、最近はその存在感が以前より増してきており、2022年に行われた最新の調査でも、勢いが裏付けられました。

2~6歳の幼児「リアルタイムのテレビ・録画番組やDVDの再生・インターネット動画」の週間接触者率

こちらのグラフは2~6歳の幼児の、「リアルタイムのテレビ」、「録画番組やDVDの再生」、「インターネット動画」の週間接触者率(調査期間の1週間で15分以上利用した割合)です。今年を入れて3回分の調査結果です。(2020年はコロナ感染拡大により実施せず)
2019年から2022年にかけて、リアルタイムと録画+DVDは減少しているのに対して、インターネット動画は2019年の4割弱から今年は67.8%と、大きく増加しました。2019年の時点では、リアルタイムとインターネット動画のボリュームはまだまだ差がありましたが、次第に肩を並べつつあります。

そんなインターネット動画ですが、ではどのような形で利用されているのでしょうか。
「幼児がインターネット動画をどんな機器で見ているのか」について尋ねた結果(複数回答)では、今年は「テレビ」が73%、ついでタブレット端末が44%、スマートフォン(携帯電話)が38%でした。昨年はテレビ65%、タブレット44%、スマートフォン39%でしたので、テレビで視聴する子どもが増加しています。
昨年の調査結果をご紹介したブログでも、「インターネット動画視聴にテレビ画面が最も利用されているのは幼児の特徴」と書きましたが、今年はその特徴がより強まっていることが分かります。

また、テレビやインターネット動画などを視聴する「場面」について聞いた結果をみると、それぞれがシーンによって微妙に使い分けられていることもみえてきます。

テレビを利用する場面(付帯質問・複数回答) インターネット動画を利用する場面(付帯質問・複数回答)

こちらはテレビが視聴される場面について、テレビとインターネット動画それぞれで分けたグラフです。
テレビでは「保護者が家事や仕事などで手が離せない時」(50 %)や「子どもが番組を見たがる時」(46 %)、「家族で番組を楽しみたい時」(35 %)などが上位に来ます。物理的な理由や子どもの主体性、そして周囲の家族との団らんなど、さまざまな場面でテレビが選択されていることがわかります。
ではインターネット動画はどうでしょう。「子どもがコンテンツを見たがる時」が69%と、かなり多く、「保護者が家事や仕事などで手が離せない時」(51%)が続きます。テレビとの違いに注目すると、「手が離せない時」はいずも5割強でいずれも同程度ですが、「コンテンツを見たがる時」はインターネット動画の方が、「家族で楽しみたい時」はテレビの方が、それぞれ高くなっています。
保護者の手が離せない時は様々な場面があり、テレビもインターネット動画も選択されますが、子どもが「自分が見たい」と思う内容を選択できたり、見たい時間帯に都合の良いコンテンツが見られるかといった側面では、ネット動画の使い勝手が良いのかもしれません。一方で、家族と一緒に番組を楽しむなどその場でのコミュニケーションを重視したい時には、テレビが選ばれる場面もあるようです。

テレビとインターネット動画のボリュームは拮抗しつつあり、いずれもテレビの大画面で見ている子どもたちが多いようですが、実際に見ているシーンやその背景をみていくと使い分けがされているのは興味深いですね。
ではこの傾向は、果たして幼児全体に言えるものなのか、あるいは年齢が増すにつれて強まるものなのでしょうか。そしてテレビとネット動画を利用している時間帯や、見ているコンテンツなどもまた異なっているのでしょうか。このあたりの詳しい結果は「放送研究と調査」12月号に掲載しています。気になった方は、ぜひそちらをご覧ください!

調査あれこれ 2023年01月16日 (月)

#441 進むか? 放送アーカイブの「公共利用」

メディア研究部 (メディア動向)大髙 崇

今年、テレビ放送開始から70年という節目を迎えました。

これまで、星の数ほど、というと大げさかもしれませんが、とにかく毎日毎日、膨大な数の番組が放送されてきました。
そして今、NHK・民放とも、再放送やインターネット配信、過去の出来事を伝える新たなコンテンツの制作など、放送アーカイブの活用に力を入れています。(ここでは、放送局が保存する、過去に放送した番組やニュースの音声・映像とその素材を、ひとまとめに「放送アーカイブ」と総称します)

放送アーカイブが貴重な文化資産であることは論をまたないでしょう。放送局が、自らのコンテンツとして、アーカイブを発信する取り組みは今後もますます盛んになるはずです。どんな面白いコンテンツが生まれるか、ぜひご期待ください。

ただ同時に、放送アーカイブ活用に向けた調査研究を続けている私としては、「それだけでいいのか?」という思いも募ります。
視聴者側である一般の皆さんが、この膨大な放送アーカイブを手軽に視聴し、それぞれの目的のためにもっと利活用しやすい環境を整備することも、必要だと思うからです。

「〇年前に放送した番組の上映会を開催したい」
「研修や授業に活用したい」
「とにかくもう1度見たい」
「静止画でいいから使わせてほしい」
……などなど、放送局にはアーカイブの提供を求める数多くの要望が寄せられます。
さまざまな立場の人が利活用することで、私たち放送関係者だけでは気づかなかった放送アーカイブの価値が見出されるはずです。
しかし、こうした要望に放送局は応えられている、とは言い切れないのが現状です。

『放送研究と調査』2022年12月号に、「放送アーカイブ×地域と題した論文を発表しました。
石川・富山・福井の北陸3県の博物館や図書館などを主な対象に、展示や講座などで放送アーカイブを利用したいか、を問うアンケートの結果をまとめ、考察しています。
高い利用ニーズが確認されたことに加え、その理由や利用方法などに関する回答からは、放送アーカイブが持つたくさんの可能性が浮き彫りになりました。

博物館など、地域の文化施設でそれぞれのニーズに応じた利用が進むとすれば、放送アーカイブが地域文化の一翼を担える未来が見えてきます。それは放送局にとって、新たな地域貢献になるはずです。
学校などでの教育目的の利用、学術研究目的の利用などもまた然り。
公共性と公益性の高い、「公共利用」がより多く実現することで、“テレビ離れ”が進む今、放送局の存在意義の再構築につながるでしょう。

ootakasan.png
放送アーカイブが、放送局による新たなコンテンツとして展開するだけでなく、多くの人々によって「公共利用」される未来は来るのか。その可能性と課題に向き合っています。ぜひともご一読いただき、ご意見をいただけますと幸いです。
『放送研究と調査』2022年12月号
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これまで筆者が執筆した放送アーカイブに関する主な論文
※「放送アーカイブ "懐かしい"のその先へ ~NHK回想法ライブラリー活用の現場から~」
 『放送研究と調査』2019年7月号(https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20190701_6.html
※「再放送の可能性を探る(前編)」
 『放送研究と調査』2021年2月号(https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20210201_7.html
※「再放送の可能性を探る(後編)」
 『放送研究と調査』2021年7月号(https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20210701_5.html
※「放送アーカイブ活用と肖像権ガイドライン 過去の映像に写る顔は公開できるか」
 『NHK放送文化研究所年報2022』第65集(数藤雅彦と共著)(https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20220201_2.html
※「『絶版』状態の放送アーカイブ 教育目的での著作権法改正の私案」
 『放送研究と調査』2022年6月号(https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20220601_6.html

調査あれこれ 2023年01月11日 (水)

#440 年明けも変わらない低空飛行~消えぬ岸田政権の懸念材料~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 新年最初に岸田総理大臣が国民に向けて声を発したのは、4日に伊勢神宮に参拝した際の年頭記者会見でした。柱は「インフレ率を超える賃上げの実現」「異次元の少子化対策への挑戦」の2点。

kishidanentou.jpg1月4日 三重県伊勢市

 1年前の年頭記者会見は、押し寄せるオミクロン株の感染拡大に対処する受け身の発言に終始していました。それと比べると、この1年で新型コロナウイルスへの守りの態勢が定まってきていることもあって、岸田総理は先々に向けて何とか前向きなトーンを打ち出そうとしているように感じました。

 しかし、年明け早々の1月7日(土)から9日(月・祝)にかけて行われたNHK月例電話世論調査の数字は芳しいものではありませんでした。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。 

 支持する  33%(対前月-3ポイント)
 支持しない  45%(対前月+1ポイント)

この33%という内閣支持率は、一連の閣僚辞任ドミノが始まってから記録した昨年11月調査の支持率と同じで、岸田内閣発足後、最も低い数字です。

 年末の12月27日になって秋葉復興担当大臣を事実上更迭し、後任には元復興担当大臣の渡辺博道衆議院議員を据えました。秋葉氏は政治資金をめぐる問題などで野党側の追及がやまず、通常国会に備えて守り固めを図ったわけです。とはいえ、昨年10月以降、次々と4人の閣僚が辞任というのは岸田総理の任命責任が厳しく問われる事態に他なりません。

2gamen.png秋葉復興相          渡辺復興相

 岸田総理は新しい年を迎えるのに合わせて心機一転を図ろうと考えたのでしょうが、国民の側は厳しい視線を向け続けています。

☆岸田内閣は2か月で4人の閣僚が辞任することになりました。あなたは、岸田総理大臣の任命責任についてどう思いますか。

 任命責任がある  71%
 任命責任はない  22%

 任命責任があると答えた人は与党支持者で7割、野党支持者では8割以上、無党派で7割以上に上っています。政権を支える与党支持者の7割が総理の任命責任ありとしている点は見過ごすことができません。

 さらに岸田内閣が低空飛行を続けている理由には、昨年末に駆け込むように政府・与党で決定した防衛費の大幅増額に対し、幅広い国民の理解が得られていないことが考えられます。とりわけ防衛増税に対する反発が目立ちます。

☆政府は、増額する防衛費の財源を確保するため増税を実施する方針です。あなたは、これに賛成ですか。反対ですか。

  賛成   28%
  反対   61%

これを与党支持者について見ると防衛増税に賛成4割、反対5割ですが、野党支持者では反対8割、無党派で反対7割と反発の強さは明らかです。相手国に対する「反撃能力」を保有するなど、国の根幹をなす歴史的な政策変更にも関わらず、政府・与党の中だけで決めたことへの不満。幅広い理解には程遠い数字です。

1004bouei.jpg この「反撃能力」というのは、これまで敵基地攻撃能力としてきたものを、あくまでも専守防衛の考え方の範囲内と説明するために改めたものです。しかし、従来、敵国に対する攻撃は日米安全保障条約に基づいて、アメリカ軍に担ってもらうというのが基本姿勢でした。それを一部とはいえ自衛隊自身が射程距離の長い攻撃兵器を保有し、使いこなそうというのですから大転換に他なりません。

 この問題は1月23日に召集される見通しの通常国会で論戦の柱になるでしょう。いや、公然と議論しなくてはいけないテーマです。

 論点の一つに、敵国の攻撃着手をどの時点で把握したと判断するかという問題があります。国際法上、相手に先に戦争を仕掛ける先制攻撃は認められていませんので、政府も先制攻撃は意図していないという立場です。

 日本周辺で相手国が弾道ミサイルなどを発射した場合、瞬時にそれを感知できるのはアメリカ軍の早期警戒衛星だけです。その端緒情報の提供を受けて自衛隊のイージス艦が搭載する高性能レーダーなどで追尾し、迎撃するというのが現在の防衛システムです。

 これと同じ情報収集システムを利用しながら、どの段階で日本に対する攻撃と評価するのか、あるいはできるのかは極めて微妙で、難易度の高い問題です。

 国際法に反する先制攻撃と見られないようにするには、確実に日本の領土に攻撃が及び、国民に被害が出る蓋然性が高いと判断できるまで「反撃能力」を行使しない、つまり具体的な能力として保有する長距離ミサイルや巡行ミサイルを使わないという説明が必要でしょう。

 しかし、自民党内の強硬派の中には「実際に被害が出るまで使わないと宣言するならば意味がない」「張り子の虎だ」といった意見もくすぶっています。
この問題が自民党内政局、自民党の中で政治的な対立や抗争が起きる火種にもなりかねません。

 歴代の内閣が憲法の下で培ってきた専守防衛の考え方を、岸田総理が今の安全保障環境に照らしながらどう具体的に説明するのか。防衛力の強化に一定の理解を示しているものの、不安も抱えている国民に納得してもらう説明ができるのか。かたや自民党内の強硬派を抑えることができるのか。

 これだけ考えても難題中の難題です。懸念材料の最たるものです。しかし、岸田政権を取り巻く懸念材料には、旧統一教会と政治の関係、とりわけ自民党議員との関係についての不明瞭さも加わってきます。
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 4月に行われる統一地方選挙、中でも41の道府県議会議員選挙を前に、長年にわたって旧統一教会の支援を受けてきた立候補予定者の存在が浮上しかねません。与野党問わず、実務の先頭に立ってきた選挙プロの人たちが口をそろえる点です。

 通常国会の論戦、そして統一地方選挙を乗り切りながら、岸田総理がリーダーシップを発揮し続けることができるのか。

 首脳外交でポイントゲットを狙う5月のG7広島サミットに至る道のりには、地雷原が横たわっていると考えておいた方が良さそうです。

 

調査あれこれ 2022年12月20日 (火)

#439 2月24日と7月8日が今年の原点~私のメディア研究

メディア研究部 (メディア動向) 上杉慎一

 国内メディアの動向を担当している私にとって、2022年の2月24日と7月8日はテレビ報道の研究を進めるうえで大きな原点となりました。2月24日は「特別軍事作戦」としてロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始した日、7月8日は安倍晋三元総理大臣が銃撃され死亡した日です。

 2月24日に始まったウクライナ侵攻は、21世紀に起きた侵略戦争として連日大きく報道されました。侵攻初期の段階で、テレビの主なニュース番組が何を伝えたのかは、「ウクライナ侵攻初期にテレビは何を伝えたか~ソーシャルメディア時代の戦争報道~」(「放送研究と調査」7月号)にまとめています。

 ご紹介した論考でも述べているのですが、2022年春の時点で、戦闘が長期化するおそれが指摘されていました。現在の状況を見ると、当時の指摘は文字通り現実のものになったと言えます。ウクライナは当初、陥落が時間の問題とさえ言われていた首都キーウを奪還しただけでなく、その後、反転攻勢に出て、冬を迎えた今も双方の攻防が続いています。
 この間、テレビ各局は毎月24日に「侵攻開始から〇か月」というスタイルで情報をせき止め、様々な角度から報道を続けていました。しかし、事態の長期化もあってか、このところこうしたスタイルでの報道も減ってきています。NHKの「ニュース7」「ニュースウオッチ9」、日本テレビの「news zero」、TBSテレビの「news23」、テレビ朝日の「報道ステーション」の5番組を見ると、「侵攻から8か月」の10月24日にウクライナ侵攻を取り上げた番組はありませんでした。「侵攻から9か月」の11月24日には、「ニュース7」だけがこのニュースを取り上げていました。無論、事態に大きな変化があれば各局とも手厚く報道しています。例えばポーランド国内にミサイルが落下し犠牲者が出たこと(※ウクライナが迎撃のために発射したとみられている)を伝えた11月16日には、4番組がこのニュースをトップで扱い、「報道ステーション」は20分近くの時間を割きました。とはいえ、長期化する戦争をどう伝え続けていくのかが、これからますます問われることになりそうです。

 一方、国内で起きた出来事に目を転じると、忘れられないのが安倍晋三元総理大臣が奈良市の駅前で街頭演説中に銃で撃たれて死亡した7月8日の報道です。この日、NHKと民放キー局では深夜までこのニュースを報じ続け、地上波の放送時間は合計60時間におよびました。その全体像は「安倍元首相が撃たれた日~テレビが伝えた7月8日~」(「放送研究と調査」11月号)に詳しく記録しています。

 事件のあと注目されたのが、9月27日に行われた安倍氏の国葬を巡る問題、それに旧統一教会=世界平和統一家庭連合と政治家との関係を巡る問題でした。とりわけ旧統一教会との関係を巡る問題は、山際経済再生担当大臣(当時)の辞任にもつながりました。また、12月に入って被害者救済を図るための新たな法律が成立したうえ、文部科学省が宗教法人法に基づいて2度目の質問権を行使しました。安倍元総理大臣死亡の衝撃が全国に広がった7月8日の時点では、事件のあとこのような展開になるとは誰も予期できなかったはずです。
 旧統一教会に対し2度にわたる質問権を行使した文部科学省は、今後、解散命令に該当しうる事実関係を把握した場合、裁判所への請求を検討することにしています。一方、安倍元総理大臣の銃撃事件で殺人容疑で逮捕され、精神鑑定を受けている容疑者は、鑑定の期間が2023年1月10日までとなっています。奈良地検は鑑定結果などを受けて、容疑者を起訴するかどうか判断することにしています。いずれも年明け以降の動きが注目されます。

 2022年に注目されたニュースは、これまで述べてきた2つだけに限りません。例えば北朝鮮の相次ぐミサイル発射の問題、日本の安全保障や防衛費の増額を巡る問題、ウクライナ情勢などを受けた物価高騰の問題、言論統制を強める中国の問題、さらに依然、衰えることのない新型コロナウイルスの問題など、挙げていけばきりがないほどです。メディア研究では1つの1つの事象に真剣に向き合えば向き合うほど、調査・研究に時間が必要です。このため直面する課題すべてを網羅することはできませんが、そうした課題を日本のメディアがどのように伝え、人々がそれをどう受け止めたのかという視点を持ち続け、新しい年も研究に取り組んでいきたいと考えています。

調査あれこれ 2022年12月19日 (月)

#438 サッカー日本代表への応援熱はいつまで続く?

計画管理部(計画) 斉藤孝信

 前回に引き続き、FIFAワールドカップ2022で大健闘し、多くの感動をもたらしてくれたサッカー日本代表のお話です。
 試合後の会見で、森保監督は「これから先、日本サッカーが最高の景色を願い続ければ、必ず壁は乗り越えられます。そのためにもこの素晴らしい選手たちを今後も後押ししていただき、日本一丸となって世界に臨めば必ず乗り越えられます」と語りました。
 今大会の日本代表の活躍に多くの人が感動し、大いに盛り上がったことはたしかですが、森保監督が望むように、"今後も日本一丸となって世界に臨む"という状況が実現するかどうかは、今大会で盛り上がった応援熱が、果たしてどれだけ持続するかにかかっています。

 それを考える参考として、文研の「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」で、「東京五輪で見たい競技」として挙げた人の割合の推移を、リオデジャネイロ五輪(以下、リオ五輪)で日本がメダルを獲得した主な競技に絞ってみてみます。

東京五輪で「見たい」と答えた人の割合(複数回答の結果)

 リオ五輪の1年後に実施した第2回では、男子4×100mリレーで銀メダルを獲得した「陸上競技」が66%、男子シングルスの水谷選手のほか男女とも団体でもメダルを取った「卓球」が50%、メダルラッシュ(12個)となった「柔道」が48%、金4つを含む7個のメダルを手にした「レスリング」が38%、そして「サッカー」は43%でした。
 ところが、五輪1年半後の第3回では「陸上競技」「柔道」「サッカー」が減少、さらにその半年後の第4回にかけては「卓球」「柔道」「レスリング」も減少しました。やはり、大きな大会直後の熱気をその後も長く持続することは簡単ではないようです。
 ただし、「サッカー」が第4回以降続落せず、第5回には第2回と同程度まで盛り返した背景には、2018年6月にロシアでのW杯、2019年1月にアジア杯、同年6月にコパアメリカと、五輪以外にも大きな国際大会が定期的に開催され、そのたびにメディアでも試合中継や関連ニュースなどで取り上げられるという、この競技ならではの事情があるのかもしれません。
 その2018年6月のW杯ロシア大会でも、日本代表は今回と同じくベスト16でした。西野監督に率いられた、本田、香川、大迫、柴崎などタレントぞろいのメンバーが、1次リーグで格上の相手を撃破し、決勝トーナメント初戦で惜敗。テレビ各局の試合中継の視聴率も今回同様に高く、試合後には渋谷のスクランブル交差点で大盛り上がりする若者たちの騒ぎぶりに"DJポリス"まで出動したことを覚えていらっしゃる方も多いと思います。
 あれだけ盛り上がったのだから、応援熱は大会前よりも格段に高まったのだろうと思いますよね? そこで、文研の「全国個人視聴率調査」から、ロシア大会1年前と1年後に行われたキリン杯の日本代表戦の、関東地方の視聴率をみてみます。なお、以下の3試合はいずれも19・20時台キックオフでした。

サッカー日本代表の試合の視聴率(関東・男女年層別)

 全体は8~9%と同程度、男女年層別にみても、男性60代以上が高めで、女性が低めであるという傾向には、大会前後で目立った変化がありませんでした。大会時、女性も含めて、若い人たちが大いに盛り上がっていた姿が目に焼き付いていた私にとっては、少し意外な感じがしました。
 これを、"W杯のおかげで下がらずに済んだ"とみるべきか、"たった1年でW杯の熱気が冷め、通常に戻ってしまった"とみるべきか。皆さんはどう考えますか?
 ちなみに、東京五輪・パラに関しては、大会後『楽しめた』と答えた人が7割を超えましたが、一方で「盛り上がりは一時的なものに過ぎない」といういささかクールな意見を持つ人も同じく7割近くに上っていました。

東京五輪・パラ 大会後の感想

 なお、W杯初戦前に掲載したブログで、女性50代以下では、ふだんスポーツを『見る』人が4~5割程度しかいないのに、東京五輪・パラを『楽しみ』にしていた人は8割前後に上り、"スポーツの中でも、五輪は別モノ"として受け止められていたようだと紹介しましたが、サッカーについても、W杯時にはあれだけ盛り上がったのに、その後の試合の視聴率が特段上がるわけではなかったことをみると、彼女たちにとっては五輪同様に、"W杯は別モノ"であり、それ以外の試合は"ふだんのスポーツ"であるということなのかもしれません。

 サッカーでは、来年・2023年6~7月にアジア杯、7~8月に"なでしこジャパン"の女子W杯、再来年・2024年にパリ五輪と、大きな国際大会が続きます。果たして、今大会で新たにサッカーや日本代表を好きになった人々によって、応援・視聴の熱が高い状態が維持され、再始動する代表チームを後押しすることになるのか? それとも、一時的な盛り上がりで終わってしまうのか。
 "熱しやすく冷めやすい"私自身への自戒の念と、"これだけの感動をもらった恩返しとして応援し続けます!"という誓いの気持ちも込めて、今後も、代表チームの活躍ぶりと、人々の視聴行動に注目していきたいと思います!

調査あれこれ 2022年12月16日 (金)

#437 サッカー日本代表、大健闘!! 感動をありがとう!

計画管理部(計画) 斉藤孝信

 FIFAワールドカップ2022は、いよいよ日本時間12月18日24時(19日0時)に決勝戦を迎えます。我らが日本代表は、惜しくも目標のベスト8にはあと一歩届きませんでしたが、ドイツとスペインを撃破するなど大健闘で、多くの感動をもたらしてくれました。 改めまして、日本代表の皆さん、お疲れ様でした!ありがとうございました!

 「日本が世界に挑む大きな大会」は、老若男女問わず、多くの人が視聴する傾向があると前回のブログでお話ししましたが、今回も、テレビ各局の試合中継が高視聴率となりました。また、インターネットのABEMAで視聴した人が毎試合1000万人を超えたと発表されたのは、メディアが多様化した時代を象徴するニュースでもありました。
 ニュースや番組での街頭インタビューを見ていても「これからもずっと日本代表を応援したい」「自分も仕事や勉強を頑張ろうという勇気をもらった」と熱い感想を述べる若者が多かったように感じます。きっと、大会前に思っていたよりも夢中になった方が多いのではないでしょうか。
 このような、「大会での活躍を見て、事前に思っていたよりも夢中になる」傾向は、今回に限らず、これまでの大きなスポーツ大会の際にも、世論調査で捉えられています。
 たとえば、「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」では、2018年2月に韓国・ピョンチャンで開かれたオリンピック(以下、五輪)の前と後で、それぞれ「見たいと思う競技」と「実際に見た競技」を複数回答で尋ねましたが、その中で、カーリングを挙げた人の割合はこのようになりました。

ピョンチャン五輪で、カーリングを「見たい」(事前)「見た」(事後)人の割合

 開催4か月前には「見たい」人が25%しかいなかったのに、終わってみれば、じつに70%もの人が「見た」と答えました。女子の日本代表が史上初の銅メダルを獲得したこの大会。チームの躍進を応援しながら、ルールや面白さを知った方も多いでしょうし、競技以外にも、選手たちが競技の合間にお菓子やフルーツを頬張る"もぐもぐタイム"も話題になりました。

 さらに......。同調査は2016年から五輪後の2021年まで通算7回実施し、第2回以降はずっと「東京五輪で見たい競技」を複数回答で尋ねてきました。その中から、2018年3月(第3回)と同年10月(第4回)のあいだで起きた興味深い変化をご紹介します。「テニスを見たい」と答えた人の割合です。

東京五輪で「テニスを見たい」人の割合

 「テニスを見たい」人は、第3回の約3割から、第4回には約4割へと増加しました。調査では24の競技を選択肢に示しましたが、第3回から第4回で増えたのは、テニスだけでした。テニスにいったい何があったのかというと、第4回の1か月前に、全米オープンの女子シングルスで大坂なおみ選手が初優勝に輝いていたのです。世界的な大会での日本勢の活躍が、その競技に対する人々の観戦意欲を高めることにつながることの好例です。

 実際の東京五輪でも、大会前(2021年3月の第6回)に「見たい」答えた人よりも、大会後(2021年9月の第7回)に「印象に残った」と答えた人の割合が増えたのは、ご覧のとおり。いずれも五輪で日本がメダルを獲得した競技でした。

東京五輪「見たい」(事前)よりも「印象に残った」(事後)が高かった競技

 今回のサッカーW杯については、世論調査を行ったわけではないので想像でしかありませんが、おそらく、大会前に「見たい」と思っていた人よりも、いま「印象に残っている」と感じている人が多いのではないでしょうか。

 まずは日本代表の奮闘ぶりに大いに盛り上がった今大会ですが、高まった応援熱は、この先、果たしてどれだけ持続するのでしょうか!?次回のブログで考えます!

調査あれこれ 2022年12月13日 (火)

#436 懸念材料は自民党内の掌握力 ~岸田総理の越年課題~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 臨時国会会期末の12月10日、岸田政権の当面の最大課題ともいえる寄付強要などを対象にした被害者救済法が参議院本会議で可決・成立しました。旧統一教会の元信者や家庭を破壊された宗教二世の怒りの声を受け、野党の主張を取り入れながら協議を進めた結果です。

 衆議院を通過する段階から「内容が不十分でも、まずは前に進めよう」という流れができ、異例の土曜日の本会議で、自民、公明、立民、維新、国民が賛成して成立。国民の強い反発が表面化した旧統一教会問題に対し、とりあえず被害者救済の道を広げることによって政治が格好を付けた形です。

被害者救済法成立(12月10日)被害者救済法成立(12月10日)

 とはいえ、被害者の救済に奔走してきた弁護士らは「ないよりはましだが、禁止行為などの対象範囲が狭く、直ちに法律の改正強化に向けた検討が必要だ」と厳しい注文をつけています。ようやく入り口に立ったに過ぎないという位置づけは妥当だと思います。

 この被害者救済法が参議院本会議で成立したのと重なる9日(金)から11日(日)にかけてNHK 月例電話世論調査が行われました。

☆旧統一教会の被害者の救済を図るため、悪質な寄付を規制する新たな法律についてうかがいます。あなたは、被害者の救済や被害の防止という点から、この法律をどの程度評価しますか。

 大いに評価する  18%
 ある程度評価する  48%
 あまり評価しない  19%
 全く評価しない  7%

大いに評価するを除くと、対策にあたってきた弁護士らの指摘にあるように7割以上の人が改善の余地があるとしているともいえます。岸田総理大臣が、一層の取り組みを求める数字の重みをしっかり受け止めるかに厳しい視線が向けられます。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  36%(対前月+3ポイント)
 支持しない  44%(対前月-2ポイント)

臨時国会の焦点になっていた被害者救済法をとりあえず成立させたことで、4か月続いていた内閣支持率の低下に一旦歯止めがかかりました。これが岸田総理の反転攻勢の足掛かりになるのか、それとも一瞬の出来事で終わるのかは次の大きな課題にかかっています。それが防衛費の増額問題です。

国会閉幕の記者会見国会閉幕の記者会見

 岸田総理は国会終了を受けて行った10日夜の記者会見で、2023年度から2027年度にかけての5年間の防衛費を総額で43兆円とする政府・与党の方針を改めて表明しました。そしてそのための財源について「安定した財源が不可欠だ。国債の発行は未来の世代に対する責任としてとりえない」と強調しました。

 つまり、一部を増税で賄う方針を貫く決意を示したわけです。4月の統一地方選挙を前に増税方針を打ち出すことに、自民党内では強い反発が噴き出しています。「選挙を控えたタイミングでの表明は得策でない」というお定まりの意見です。

 高市早苗経済安全保障担当大臣は岸田総理と直談判に及び、閣内に身を置きながら「実際の増税は再来年以降のことなのだから、増税の中身の議論は春以降に先送りすべきだ」とかみつきました。御本人は閣僚罷免も覚悟しての発言だとしています。

 防衛費増額の財源問題は自民党税制調査会で検討が始まり、財務省が検討している法人税の上乗せを軸に議論が進む見通しです。しかし、選挙で応援してくれる企業に嫌われたくない自民党議員からは「薄く広くということで所得税も検討に加えるべきだ」といった意見まで出ています。

自民党税制調査会(12月13日)自民党税制調査会(12月13日)

☆政府は、来年度から5年間の防衛力整備の水準について、今の1.5倍にあたるおよそ43兆円を確保する方針です。あなたは、こうした防衛費の増額に賛成ですか。反対ですか。

 賛成  51%
 反対  36%

この質問に対する回答を与党支持者、野党支持者、無党派の別に見てみます。

 与党支持者 ?賛成66% 反対26%
 野党支持者 ?賛成46% 反対48%
 無党派 ?賛成41% 反対42%

ロシアのウクライナ侵攻、台湾海峡を巡る緊張、相次ぐ北朝鮮の弾道ミサイル発射といった安全保障環境の悪化を受けて、野党支持者や無党派層でも防衛費の増額に一定の理解は広がっているように見えます。それでも、与党支持者では3分の2が賛成というのは際立っています。

 防衛費の増額、その財源確保という課題は、岸田総理大臣にとって、与党とりわけ足元の自民党内の掌握力が試される重いものです。

 自民党税制調査会は議論を急ぐ構えで、その結論を2023年度予算案に反映させ、政府は年明けの通常国会に臨みます。そこからが、また大仕事になります。

 なぜならば5年で43兆円という莫大な防衛予算で、何をどう整備するのか。その莫大な予算措置で国民の安全をどこまで守ることができるのかを示すのは容易なことではありません。

防衛省防衛省

 例えば敵に対する反撃能力を持つことが抑止力の強化につながるという理屈で導入が検討されている、射程距離の長いスタンド・オフ・ミサイルや巡航ミサイルが、どの程度有効なのかを示すデータも必要でしょう。

 こうした肝心要の議論が政府・与党の一部、つまり国民の目に届かない「ブラックボックス」の中で練り上げられているのが現状です。

 政府は国家安全保障戦略など、防衛費増額のよりどころになる3つの文書を近くとりまとめて公表します。問題は納税者である国民が「なるほど」と納得できる内容かどうか。とりわけ「買い物リスト」と俗称される防衛力整備計画をまとめた文書に、どれほどの説得力があるかが焦点になります。

 政府の案は年内にまとまるでしょうが、それを国民に納得してもらう作業は越年の課題になります。岸田総理にとって、4月の統一地方選挙、その先の5月19日から21日に予定しているG7広島サミットに至る道のりの中で、最も険しい上り坂に他なりません。

調査あれこれ 2022年12月11日 (日)

#435 視聴率でみる"大河ドラマ平成史"

計画管理部(計画) 斉藤孝信

 今年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は、いよいよ18日(日)に最終回! 皆さま、この1年、お楽しみいただけましたでしょうか!? 毎回、さすがは三谷幸喜さんの脚本だなぁと感嘆させられる予想もつかない展開で、インターネット上でも、視聴者の皆様が今後のストーリー予想などを繰り広げていらっしゃる様子もうかがえて嬉しいかぎりです!

鎌倉殿の13人

 もちろん、来年以降も楽しみな大河ドラマが皆さまをお待ちしております!来年(2023年)は松本潤さん主演の「どうする家康」、再来年(2024年)は吉高由里子さん主演で、大河ドラマ初の"平安文学モノ"である「光る君へ」です。両作品はいったいどんな盛り上がりを見せるのか!? ...こればかりは、始まってみなければわからないことではありますが、今回は、文研が蓄積した過去の調査データから、大河ドラマの"平成史"を振り返りながら、その"盛り上がり具合"を勝手に想像してみたいと思います!

 今回ご紹介するのは6月第1週に行っている「全国個人視聴率調査」の結果です*1
1年に渡って放送する大河ドラマのうち、たった1回、総合テレビの本放送のみ*2のデータですので、通年でどれだけご覧いただけたかを示すものではないことをご承知いただいたうえで、平成の30年間に放送された各ドラマの視聴率のお話をいたします。
 まず、平成元(1989)年「春日局」から平成30(2018年)「西郷どん」までの大河ドラマを、一覧表にして振り返りましょう。

平成の大河ドラマ一覧

この30作品について、視聴率のトップ10をお示しすると、ご覧のとおりです。

平成の大河ドラマ視聴率トップ10

 トップは平成8年「秀吉」の25.8%。じつに4人に1人もの人が、竹中直人さん演じる豊臣秀吉のサクセスストーリーをご覧になっていたのです。2位の平成元年「春日局」と3位の平成9年「毛利元就」も視聴率が20%を超えていました。
 一見すると、「人気作が平成"ひと桁"台に多く、平成後半はそこまで奮わなかった」ように見えるかもしれません。しかし、その平成後半は、続々と誕生したインターネット動画サービスを楽しむ人が増えたぶん、リアルタイムでテレビを見る人自体が徐々に減少した時代です(平成19年にYouTube日本語版、平成27年にTVerやAmazonプライム・ビデオ、NETFLIXなどがサービス開始)。また、今回は総合テレビの本放送のみのランキングですが、平成以降、BSでの放送や「NHKオンデマンド」「NHKプラス」など、大河ドラマ自体の視聴方法も多様化し、"何が何でも日曜夜8時に総合テレビを見なくちゃ!"という状況でもなくなりました。そうした様々な要素を踏まえて考えると、この本放送のリアルタイム視聴率トップ10に、平成20年「篤姫」や平成22年「龍馬伝」がランクインすること自体が"凄いこと"のようにも思えます。
 次に、各ドラマが描いた"時代"という視点で、平成の大河ドラマ30本を振り返ると、"戦国モノ"が13本、"幕末~維新モノ"が8本、それ以外の時代が9本という内訳です。

平成の大河ドラマが描いた時代

 これを頭に入れてから、男女年層別の視聴率トップ5をご覧いただくと......。

男女年層別 平成の大河ドラマ 視聴率トップ5 (6月第1週「全国個人視聴率調査」)

 多くの年代で、トップ5の半分以上を"戦国モノ"が占めています。中でも男性では「秀吉」が30代以上の各年代でトップ。「信長」も13~19歳でトップとなっています。
 来年の「どうする家康」は"戦国モノ"、しかも家康は、信長、秀吉と並んで"戦国3英傑"とも呼ばれていますので、特に男性の皆さんにはこのランキング表のトップに躍り出るほどにご覧いただけたら嬉しいなあ......と思います。

どうする家康

 一方の女性では、「春日局」が強いですね。誰もが一度は教科書で読んだことのある"戦国3英傑"ほどの知名度は(少なくともドラマ開始前には)なかったと思うのですが、戦国の動乱期を生き抜き、江戸幕府3代将軍徳川家光の乳母として武家社会で成功するまでの"女性の生きざま"を描いたドラマが、多くの女性を惹きつけたのでしょうか。
 そこで、さきほどと同じランキング表を、今度は、主人公が女性の作品(夫婦を含む)に色を付けてみてみます。すると......、

女年層別 平成の大河ドラマ 視聴率トップ5 (6月第1週「全国個人視聴率調査」)

 明らかに、女性のほうで、主人公が女性の作品が多くランクインしていることがわかります。「春日局」に加えて、平成6年「花の乱」(三田佳子さんが室町幕府8代将軍足利義政の正室日野富子を演じた)が60代で、平成14年「利家とまつ」(松嶋菜々子さんと唐沢寿明さんのW主演)が女性40代で、平成20年「篤姫」(宮﨑あおいさんが徳川13代将軍家定の正室天璋院の生涯を演じた)が女性20代・60代・70歳以上で、それぞれランクインしています。この3作品は男性の各年代ではトップ5圏外でした。
 再来年の「光る君へ」の主人公は、源氏物語の作者・紫式部(吉高由里子さん演じるドラマ中の名前は「まひろ」)です。この作品もきっと女性の皆さんが特に熱心にご覧くださるのではないかと、今から期待してしまいます。

光る君へ

 もちろん、「どうする家康」「光る君へ」のどちらも、老若男女問わず、多くの皆様にお楽しみいただけたら最高なのですが!
 今回は、文研が得意としている、長期スパンの視聴データ分析から考察してみました。なお、今年の「鎌倉殿の13人」については、2022年6月「全国個人視聴率調査」の結果として『放送研究と調査』10月号に掲載しております。そちらもぜひお読みください!


*1:「全国個人視聴率調査」は、原則6月の第1週、調査相手に5分刻みのマークシートで、視聴した時刻と局を記入してもらっています。2019年までは配付回収法(調査員がお宅を訪問する方法)でしたが、コロナ禍による2年の中断を経て、2021年からは「郵送法」に切り替えました。そのため今回は、同じ調査方法で比較可能な"平成"に限定してデータを紹介しています。
*2:大河ドラマは、今回ご紹介した総合テレビ日曜夜8時のほか、土曜午後1時5分(再放送)、BSプレミアムとBS4Kで日曜午後6時から放送しています。また「NHKプラス」「NHKオンデマンド」でもご覧いただけます。