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調査あれこれ

調査あれこれ 2022年12月19日 (月)

#438 サッカー日本代表への応援熱はいつまで続く?

計画管理部(計画) 斉藤孝信

 前回に引き続き、FIFAワールドカップ2022で大健闘し、多くの感動をもたらしてくれたサッカー日本代表のお話です。
 試合後の会見で、森保監督は「これから先、日本サッカーが最高の景色を願い続ければ、必ず壁は乗り越えられます。そのためにもこの素晴らしい選手たちを今後も後押ししていただき、日本一丸となって世界に臨めば必ず乗り越えられます」と語りました。
 今大会の日本代表の活躍に多くの人が感動し、大いに盛り上がったことはたしかですが、森保監督が望むように、"今後も日本一丸となって世界に臨む"という状況が実現するかどうかは、今大会で盛り上がった応援熱が、果たしてどれだけ持続するかにかかっています。

 それを考える参考として、文研の「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」で、「東京五輪で見たい競技」として挙げた人の割合の推移を、リオデジャネイロ五輪(以下、リオ五輪)で日本がメダルを獲得した主な競技に絞ってみてみます。

東京五輪で「見たい」と答えた人の割合(複数回答の結果)

 リオ五輪の1年後に実施した第2回では、男子4×100mリレーで銀メダルを獲得した「陸上競技」が66%、男子シングルスの水谷選手のほか男女とも団体でもメダルを取った「卓球」が50%、メダルラッシュ(12個)となった「柔道」が48%、金4つを含む7個のメダルを手にした「レスリング」が38%、そして「サッカー」は43%でした。
 ところが、五輪1年半後の第3回では「陸上競技」「柔道」「サッカー」が減少、さらにその半年後の第4回にかけては「卓球」「柔道」「レスリング」も減少しました。やはり、大きな大会直後の熱気をその後も長く持続することは簡単ではないようです。
 ただし、「サッカー」が第4回以降続落せず、第5回には第2回と同程度まで盛り返した背景には、2018年6月にロシアでのW杯、2019年1月にアジア杯、同年6月にコパアメリカと、五輪以外にも大きな国際大会が定期的に開催され、そのたびにメディアでも試合中継や関連ニュースなどで取り上げられるという、この競技ならではの事情があるのかもしれません。
 その2018年6月のW杯ロシア大会でも、日本代表は今回と同じくベスト16でした。西野監督に率いられた、本田、香川、大迫、柴崎などタレントぞろいのメンバーが、1次リーグで格上の相手を撃破し、決勝トーナメント初戦で惜敗。テレビ各局の試合中継の視聴率も今回同様に高く、試合後には渋谷のスクランブル交差点で大盛り上がりする若者たちの騒ぎぶりに"DJポリス"まで出動したことを覚えていらっしゃる方も多いと思います。
 あれだけ盛り上がったのだから、応援熱は大会前よりも格段に高まったのだろうと思いますよね? そこで、文研の「全国個人視聴率調査」から、ロシア大会1年前と1年後に行われたキリン杯の日本代表戦の、関東地方の視聴率をみてみます。なお、以下の3試合はいずれも19・20時台キックオフでした。

サッカー日本代表の試合の視聴率(関東・男女年層別)

 全体は8~9%と同程度、男女年層別にみても、男性60代以上が高めで、女性が低めであるという傾向には、大会前後で目立った変化がありませんでした。大会時、女性も含めて、若い人たちが大いに盛り上がっていた姿が目に焼き付いていた私にとっては、少し意外な感じがしました。
 これを、"W杯のおかげで下がらずに済んだ"とみるべきか、"たった1年でW杯の熱気が冷め、通常に戻ってしまった"とみるべきか。皆さんはどう考えますか?
 ちなみに、東京五輪・パラに関しては、大会後『楽しめた』と答えた人が7割を超えましたが、一方で「盛り上がりは一時的なものに過ぎない」といういささかクールな意見を持つ人も同じく7割近くに上っていました。

東京五輪・パラ 大会後の感想

 なお、W杯初戦前に掲載したブログで、女性50代以下では、ふだんスポーツを『見る』人が4~5割程度しかいないのに、東京五輪・パラを『楽しみ』にしていた人は8割前後に上り、"スポーツの中でも、五輪は別モノ"として受け止められていたようだと紹介しましたが、サッカーについても、W杯時にはあれだけ盛り上がったのに、その後の試合の視聴率が特段上がるわけではなかったことをみると、彼女たちにとっては五輪同様に、"W杯は別モノ"であり、それ以外の試合は"ふだんのスポーツ"であるということなのかもしれません。

 サッカーでは、来年・2023年6~7月にアジア杯、7~8月に"なでしこジャパン"の女子W杯、再来年・2024年にパリ五輪と、大きな国際大会が続きます。果たして、今大会で新たにサッカーや日本代表を好きになった人々によって、応援・視聴の熱が高い状態が維持され、再始動する代表チームを後押しすることになるのか? それとも、一時的な盛り上がりで終わってしまうのか。
 "熱しやすく冷めやすい"私自身への自戒の念と、"これだけの感動をもらった恩返しとして応援し続けます!"という誓いの気持ちも込めて、今後も、代表チームの活躍ぶりと、人々の視聴行動に注目していきたいと思います!

調査あれこれ 2022年12月16日 (金)

#437 サッカー日本代表、大健闘!! 感動をありがとう!

計画管理部(計画) 斉藤孝信

 FIFAワールドカップ2022は、いよいよ日本時間12月18日24時(19日0時)に決勝戦を迎えます。我らが日本代表は、惜しくも目標のベスト8にはあと一歩届きませんでしたが、ドイツとスペインを撃破するなど大健闘で、多くの感動をもたらしてくれました。 改めまして、日本代表の皆さん、お疲れ様でした!ありがとうございました!

 「日本が世界に挑む大きな大会」は、老若男女問わず、多くの人が視聴する傾向があると前回のブログでお話ししましたが、今回も、テレビ各局の試合中継が高視聴率となりました。また、インターネットのABEMAで視聴した人が毎試合1000万人を超えたと発表されたのは、メディアが多様化した時代を象徴するニュースでもありました。
 ニュースや番組での街頭インタビューを見ていても「これからもずっと日本代表を応援したい」「自分も仕事や勉強を頑張ろうという勇気をもらった」と熱い感想を述べる若者が多かったように感じます。きっと、大会前に思っていたよりも夢中になった方が多いのではないでしょうか。
 このような、「大会での活躍を見て、事前に思っていたよりも夢中になる」傾向は、今回に限らず、これまでの大きなスポーツ大会の際にも、世論調査で捉えられています。
 たとえば、「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」では、2018年2月に韓国・ピョンチャンで開かれたオリンピック(以下、五輪)の前と後で、それぞれ「見たいと思う競技」と「実際に見た競技」を複数回答で尋ねましたが、その中で、カーリングを挙げた人の割合はこのようになりました。

ピョンチャン五輪で、カーリングを「見たい」(事前)「見た」(事後)人の割合

 開催4か月前には「見たい」人が25%しかいなかったのに、終わってみれば、じつに70%もの人が「見た」と答えました。女子の日本代表が史上初の銅メダルを獲得したこの大会。チームの躍進を応援しながら、ルールや面白さを知った方も多いでしょうし、競技以外にも、選手たちが競技の合間にお菓子やフルーツを頬張る"もぐもぐタイム"も話題になりました。

 さらに......。同調査は2016年から五輪後の2021年まで通算7回実施し、第2回以降はずっと「東京五輪で見たい競技」を複数回答で尋ねてきました。その中から、2018年3月(第3回)と同年10月(第4回)のあいだで起きた興味深い変化をご紹介します。「テニスを見たい」と答えた人の割合です。

東京五輪で「テニスを見たい」人の割合

 「テニスを見たい」人は、第3回の約3割から、第4回には約4割へと増加しました。調査では24の競技を選択肢に示しましたが、第3回から第4回で増えたのは、テニスだけでした。テニスにいったい何があったのかというと、第4回の1か月前に、全米オープンの女子シングルスで大坂なおみ選手が初優勝に輝いていたのです。世界的な大会での日本勢の活躍が、その競技に対する人々の観戦意欲を高めることにつながることの好例です。

 実際の東京五輪でも、大会前(2021年3月の第6回)に「見たい」答えた人よりも、大会後(2021年9月の第7回)に「印象に残った」と答えた人の割合が増えたのは、ご覧のとおり。いずれも五輪で日本がメダルを獲得した競技でした。

東京五輪「見たい」(事前)よりも「印象に残った」(事後)が高かった競技

 今回のサッカーW杯については、世論調査を行ったわけではないので想像でしかありませんが、おそらく、大会前に「見たい」と思っていた人よりも、いま「印象に残っている」と感じている人が多いのではないでしょうか。

 まずは日本代表の奮闘ぶりに大いに盛り上がった今大会ですが、高まった応援熱は、この先、果たしてどれだけ持続するのでしょうか!?次回のブログで考えます!

調査あれこれ 2022年12月13日 (火)

#436 懸念材料は自民党内の掌握力 ~岸田総理の越年課題~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 臨時国会会期末の12月10日、岸田政権の当面の最大課題ともいえる寄付強要などを対象にした被害者救済法が参議院本会議で可決・成立しました。旧統一教会の元信者や家庭を破壊された宗教二世の怒りの声を受け、野党の主張を取り入れながら協議を進めた結果です。

 衆議院を通過する段階から「内容が不十分でも、まずは前に進めよう」という流れができ、異例の土曜日の本会議で、自民、公明、立民、維新、国民が賛成して成立。国民の強い反発が表面化した旧統一教会問題に対し、とりあえず被害者救済の道を広げることによって政治が格好を付けた形です。

被害者救済法成立(12月10日)被害者救済法成立(12月10日)

 とはいえ、被害者の救済に奔走してきた弁護士らは「ないよりはましだが、禁止行為などの対象範囲が狭く、直ちに法律の改正強化に向けた検討が必要だ」と厳しい注文をつけています。ようやく入り口に立ったに過ぎないという位置づけは妥当だと思います。

 この被害者救済法が参議院本会議で成立したのと重なる9日(金)から11日(日)にかけてNHK 月例電話世論調査が行われました。

☆旧統一教会の被害者の救済を図るため、悪質な寄付を規制する新たな法律についてうかがいます。あなたは、被害者の救済や被害の防止という点から、この法律をどの程度評価しますか。

 大いに評価する  18%
 ある程度評価する  48%
 あまり評価しない  19%
 全く評価しない  7%

大いに評価するを除くと、対策にあたってきた弁護士らの指摘にあるように7割以上の人が改善の余地があるとしているともいえます。岸田総理大臣が、一層の取り組みを求める数字の重みをしっかり受け止めるかに厳しい視線が向けられます。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  36%(対前月+3ポイント)
 支持しない  44%(対前月-2ポイント)

臨時国会の焦点になっていた被害者救済法をとりあえず成立させたことで、4か月続いていた内閣支持率の低下に一旦歯止めがかかりました。これが岸田総理の反転攻勢の足掛かりになるのか、それとも一瞬の出来事で終わるのかは次の大きな課題にかかっています。それが防衛費の増額問題です。

国会閉幕の記者会見国会閉幕の記者会見

 岸田総理は国会終了を受けて行った10日夜の記者会見で、2023年度から2027年度にかけての5年間の防衛費を総額で43兆円とする政府・与党の方針を改めて表明しました。そしてそのための財源について「安定した財源が不可欠だ。国債の発行は未来の世代に対する責任としてとりえない」と強調しました。

 つまり、一部を増税で賄う方針を貫く決意を示したわけです。4月の統一地方選挙を前に増税方針を打ち出すことに、自民党内では強い反発が噴き出しています。「選挙を控えたタイミングでの表明は得策でない」というお定まりの意見です。

 高市早苗経済安全保障担当大臣は岸田総理と直談判に及び、閣内に身を置きながら「実際の増税は再来年以降のことなのだから、増税の中身の議論は春以降に先送りすべきだ」とかみつきました。御本人は閣僚罷免も覚悟しての発言だとしています。

 防衛費増額の財源問題は自民党税制調査会で検討が始まり、財務省が検討している法人税の上乗せを軸に議論が進む見通しです。しかし、選挙で応援してくれる企業に嫌われたくない自民党議員からは「薄く広くということで所得税も検討に加えるべきだ」といった意見まで出ています。

自民党税制調査会(12月13日)自民党税制調査会(12月13日)

☆政府は、来年度から5年間の防衛力整備の水準について、今の1.5倍にあたるおよそ43兆円を確保する方針です。あなたは、こうした防衛費の増額に賛成ですか。反対ですか。

 賛成  51%
 反対  36%

この質問に対する回答を与党支持者、野党支持者、無党派の別に見てみます。

 与党支持者 ➡賛成66% 反対26%
 野党支持者 ➡賛成46% 反対48%
 無党派 ➡賛成41% 反対42%

ロシアのウクライナ侵攻、台湾海峡を巡る緊張、相次ぐ北朝鮮の弾道ミサイル発射といった安全保障環境の悪化を受けて、野党支持者や無党派層でも防衛費の増額に一定の理解は広がっているように見えます。それでも、与党支持者では3分の2が賛成というのは際立っています。

 防衛費の増額、その財源確保という課題は、岸田総理大臣にとって、与党とりわけ足元の自民党内の掌握力が試される重いものです。

 自民党税制調査会は議論を急ぐ構えで、その結論を2023年度予算案に反映させ、政府は年明けの通常国会に臨みます。そこからが、また大仕事になります。

 なぜならば5年で43兆円という莫大な防衛予算で、何をどう整備するのか。その莫大な予算措置で国民の安全をどこまで守ることができるのかを示すのは容易なことではありません。

防衛省防衛省

 例えば敵に対する反撃能力を持つことが抑止力の強化につながるという理屈で導入が検討されている、射程距離の長いスタンド・オフ・ミサイルや巡航ミサイルが、どの程度有効なのかを示すデータも必要でしょう。

 こうした肝心要の議論が政府・与党の一部、つまり国民の目に届かない「ブラックボックス」の中で練り上げられているのが現状です。

 政府は国家安全保障戦略など、防衛費増額のよりどころになる3つの文書を近くとりまとめて公表します。問題は納税者である国民が「なるほど」と納得できる内容かどうか。とりわけ「買い物リスト」と俗称される防衛力整備計画をまとめた文書に、どれほどの説得力があるかが焦点になります。

 政府の案は年内にまとまるでしょうが、それを国民に納得してもらう作業は越年の課題になります。岸田総理にとって、4月の統一地方選挙、その先の5月19日から21日に予定しているG7広島サミットに至る道のりの中で、最も険しい上り坂に他なりません。

調査あれこれ 2022年12月11日 (日)

#435 視聴率でみる"大河ドラマ平成史"

計画管理部(計画) 斉藤孝信

 今年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は、いよいよ18日(日)に最終回! 皆さま、この1年、お楽しみいただけましたでしょうか!? 毎回、さすがは三谷幸喜さんの脚本だなぁと感嘆させられる予想もつかない展開で、インターネット上でも、視聴者の皆様が今後のストーリー予想などを繰り広げていらっしゃる様子もうかがえて嬉しいかぎりです!

鎌倉殿の13人

 もちろん、来年以降も楽しみな大河ドラマが皆さまをお待ちしております!来年(2023年)は松本潤さん主演の「どうする家康」、再来年(2024年)は吉高由里子さん主演で、大河ドラマ初の"平安文学モノ"である「光る君へ」です。両作品はいったいどんな盛り上がりを見せるのか!? ...こればかりは、始まってみなければわからないことではありますが、今回は、文研が蓄積した過去の調査データから、大河ドラマの"平成史"を振り返りながら、その"盛り上がり具合"を勝手に想像してみたいと思います!

 今回ご紹介するのは6月第1週に行っている「全国個人視聴率調査」の結果です*1
1年に渡って放送する大河ドラマのうち、たった1回、総合テレビの本放送のみ*2のデータですので、通年でどれだけご覧いただけたかを示すものではないことをご承知いただいたうえで、平成の30年間に放送された各ドラマの視聴率のお話をいたします。
 まず、平成元(1989)年「春日局」から平成30(2018年)「西郷どん」までの大河ドラマを、一覧表にして振り返りましょう。

平成の大河ドラマ一覧

この30作品について、視聴率のトップ10をお示しすると、ご覧のとおりです。

平成の大河ドラマ視聴率トップ10

 トップは平成8年「秀吉」の25.8%。じつに4人に1人もの人が、竹中直人さん演じる豊臣秀吉のサクセスストーリーをご覧になっていたのです。2位の平成元年「春日局」と3位の平成9年「毛利元就」も視聴率が20%を超えていました。
 一見すると、「人気作が平成"ひと桁"台に多く、平成後半はそこまで奮わなかった」ように見えるかもしれません。しかし、その平成後半は、続々と誕生したインターネット動画サービスを楽しむ人が増えたぶん、リアルタイムでテレビを見る人自体が徐々に減少した時代です(平成19年にYouTube日本語版、平成27年にTVerやAmazonプライム・ビデオ、NETFLIXなどがサービス開始)。また、今回は総合テレビの本放送のみのランキングですが、平成以降、BSでの放送や「NHKオンデマンド」「NHKプラス」など、大河ドラマ自体の視聴方法も多様化し、"何が何でも日曜夜8時に総合テレビを見なくちゃ!"という状況でもなくなりました。そうした様々な要素を踏まえて考えると、この本放送のリアルタイム視聴率トップ10に、平成20年「篤姫」や平成22年「龍馬伝」がランクインすること自体が"凄いこと"のようにも思えます。
 次に、各ドラマが描いた"時代"という視点で、平成の大河ドラマ30本を振り返ると、"戦国モノ"が13本、"幕末~維新モノ"が8本、それ以外の時代が9本という内訳です。

平成の大河ドラマが描いた時代

 これを頭に入れてから、男女年層別の視聴率トップ5をご覧いただくと......。

男女年層別 平成の大河ドラマ 視聴率トップ5 (6月第1週「全国個人視聴率調査」)

 多くの年代で、トップ5の半分以上を"戦国モノ"が占めています。中でも男性では「秀吉」が30代以上の各年代でトップ。「信長」も13~19歳でトップとなっています。
 来年の「どうする家康」は"戦国モノ"、しかも家康は、信長、秀吉と並んで"戦国3英傑"とも呼ばれていますので、特に男性の皆さんにはこのランキング表のトップに躍り出るほどにご覧いただけたら嬉しいなあ......と思います。

どうする家康

 一方の女性では、「春日局」が強いですね。誰もが一度は教科書で読んだことのある"戦国3英傑"ほどの知名度は(少なくともドラマ開始前には)なかったと思うのですが、戦国の動乱期を生き抜き、江戸幕府3代将軍徳川家光の乳母として武家社会で成功するまでの"女性の生きざま"を描いたドラマが、多くの女性を惹きつけたのでしょうか。
 そこで、さきほどと同じランキング表を、今度は、主人公が女性の作品(夫婦を含む)に色を付けてみてみます。すると......、

女年層別 平成の大河ドラマ 視聴率トップ5 (6月第1週「全国個人視聴率調査」)

 明らかに、女性のほうで、主人公が女性の作品が多くランクインしていることがわかります。「春日局」に加えて、平成6年「花の乱」(三田佳子さんが室町幕府8代将軍足利義政の正室日野富子を演じた)が60代で、平成14年「利家とまつ」(松嶋菜々子さんと唐沢寿明さんのW主演)が女性40代で、平成20年「篤姫」(宮﨑あおいさんが徳川13代将軍家定の正室天璋院の生涯を演じた)が女性20代・60代・70歳以上で、それぞれランクインしています。この3作品は男性の各年代ではトップ5圏外でした。
 再来年の「光る君へ」の主人公は、源氏物語の作者・紫式部(吉高由里子さん演じるドラマ中の名前は「まひろ」)です。この作品もきっと女性の皆さんが特に熱心にご覧くださるのではないかと、今から期待してしまいます。

光る君へ

 もちろん、「どうする家康」「光る君へ」のどちらも、老若男女問わず、多くの皆様にお楽しみいただけたら最高なのですが!
 今回は、文研が得意としている、長期スパンの視聴データ分析から考察してみました。なお、今年の「鎌倉殿の13人」については、2022年6月「全国個人視聴率調査」の結果として『放送研究と調査』10月号に掲載しております。そちらもぜひお読みください!


*1:「全国個人視聴率調査」は、原則6月の第1週、調査相手に5分刻みのマークシートで、視聴した時刻と局を記入してもらっています。2019年までは配付回収法(調査員がお宅を訪問する方法)でしたが、コロナ禍による2年の中断を経て、2021年からは「郵送法」に切り替えました。そのため今回は、同じ調査方法で比較可能な"平成"に限定してデータを紹介しています。
*2:大河ドラマは、今回ご紹介した総合テレビ日曜夜8時のほか、土曜午後1時5分(再放送)、BSプレミアムとBS4Kで日曜午後6時から放送しています。また「NHKプラス」「NHKオンデマンド」でもご覧いただけます。
調査あれこれ 2022年12月09日 (金)

#434 BBC 放送開始 100年

メディア研究部(海外メディア) 税所玲子

 "2LO Marconi House London calling"(こちらは2LOロンドンマルコリーニ会館です)
 1922年11月14日午後6時。ロンドン中心部のストランドにある送信機のコールサインで、無線機メーカーの企業連合による共同の放送会社British Broadcasting Company によるラジオ放送が始まった。 それから100年。5年後に公共放送に改組し、"Inform、Educate、Entertain"(情報、教育、娯楽)を掲げながら、BBCはイギリス国内だけでなく世界でも広く利用されるいわば「公共放送の母船」(mothership of public broadcaster)として発展してきた。
 100年の節目の年を迎え、イギリスでは記念事業が目白押しである。お宝のアンティークの修理を通じて人間模様を描く"The Repair Shop"にチャールズ国王を引っ張り出したかと思えば、一般視聴者をエキストラとして数々の長寿番組などに出演させたり、アーカイブに眠っていた629時間分の職員オーラルヒストリーを「100人の物語」として公開したりするなどユニークな試みも行われている。イギリス各地の博物館では記念展示も行われ、ことし9月、エリザベス女王が死去した直後にロンドン科学博物館を訪問した時には、BBCが中継した女王の戴冠式の映像を感慨深く眺める市民が集まっていた。インタビューを行った記念事業を統括するジェームス・スターリング氏が、「BBCの歴史は、イギリスの過去100年の歴史だ」と胸を張る理由なのだろう。

写真 初代の伝送のための機器 初代の伝送のための機器

科学博物館ではBBCの展示会が開かれた科学博物館ではBBCの展示会が開かれた

 記念事業の中でも充実していたのはBBCの王道ドキュメンタリー番組の数々だ。特に、政治討論番組の司会を長年務めたジャーナリストのデビット・ディンブルビー氏が制作した3部作"Days that shook the BBC"は記憶に残る。BBC嫌いのサッチャー首相との確執や、会長が辞任に追い込まれたイラク戦争の大量破壊兵器をめぐる報道、ウソをついて入手したダイアナ元皇太子妃のインタビュー、フォークランド紛争、人種や極右政党の報道などBBCを揺るがせたスキャンダルについて、当事者へのインタビューを通じて検証している。
 度重なる危機に見舞われ、それを乗り越えてきたのがBBCの歴史とも言われる。しかしネット 社会の到来で、事実よりも自分の考えや価値観にあう情報を聞きたいと願う人が増え、社会の分断が広がる今、BBCがミスを犯せば「何らかの意図をもってやった」「誰かの思惑が働いた」との批判が沸き上がる。こうした信頼の揺らぎは、現在、進められている将来の受信料制度の在り方の議論にも影を落とす。
 番組の冒頭、ディンブルビー氏は「数々のスキャンダルがBBCにとって最も大切な人々、つまり視聴者との関係にどう影響したのか」と問い、そして過去の関係者を問いただすだけでなく、自らがかかわった人種問題の番組について黒人プロデューサーから検証を受ける。最後にディンブルビー氏は「分断の広がりをよしとし、自分にとっての"真実"が重要だと考える人が増える社会で、『互いの主張に耳を傾けよう』と呼びかけるBBCの役割・意義は残っているはずだ。BBCは失敗を犯してきた。欠点もある。しかし、国の足を引っ張ったことよりは、豊かにしたことのほうが多いはずで、不要だというのは、破壊的で悲しいことだ」と述べ番組を終えた。

デビット・ティンブルビー氏(ドキュメンタリーの広報 BBCホームページより)デビット・ティンブルビー氏(ドキュメンタリーの広報 BBCホームページより)

 過去を振り返るだけでなく、次の100年を見据えた活動もある。
 一連の記念事業を統括したスターリング氏は、「BBCは、100年前にもまして社会にとって有意義なものだということを示したい」と話す。スターリング氏が特に力を注いでいるのが、全国の700の中学校に、BBCのプレゼンターやジャーナリストなど200 人を派遣し、40万人の生徒と交流をはかる"Tell your story"の活動だ。欧米では、TED Talkなどに代表されるように、伝えたい思いやコンセプトを、それを想起させる物語と結び付けて話すストーリーテリング(Storytelling)が大切にされる。BBCの取り組みは、このストーリーテリングのスキルを中学生に伝授するというもので、例えば、ロックダウン中にメンタルヘルスについて発信し人気を得たインフルエンサーが、両親の心の病から学んだことなどを語ったりする。生徒も自分の物語を共有し、このうちの100のエピソードがラジオ番組などで放送される。

Share your storyの活動を伝える記事(BBCホームページより)Share your storyの活動を伝える記事(BBCホームページより)

 若者のアクセスを伸ばしたいBBCが中学生にアプローチするのは当然なことだろう。同時にこうした試みは多様性の実践にも関連しているように見える。「ロンドン中心のエリート」というイメージを払拭するため、BBCは2027年までに、職員の25%を貧しい家庭の出身者にするという多様性の目標を掲げている。スターリング氏は、「自分のことを、自信をもって語れるようになれば誰にでも道は開ける。地元のプロダクションなどとも連携しながらクリエイティブ産業をもりたてたい」と隠れた才能の発掘に意欲を燃やす。
 様々な課題と試練の中で迎えた100年だが、スターリング氏は「創設の理念を忘れず、視聴者にとってBBCならではのサービスはなにか?と追求し続けていけば、未来は決して暗くないはずだ。記念の年は、次の100年の章を書くためのものにしたい」と力を込めてインタビューを締めくくった。

調査あれこれ 2022年11月22日 (火)

#430 サッカーW杯日本代表いよいよ初戦! ドイツ戦せまる!

計画管理部(計画) 斉藤孝信

 日本時間11月23日22時、サッカー日本代表が、カタールでのFIFA ワールドカップ 2022初戦を迎えます!
 対戦相手のドイツは、18大会連続20回目の出場で優勝4回、世界ランキング11位という強豪です。日本はこれまで強化試合で2度対戦し、1敗1引き分けと、まだ勝ったことがありません。初勝利、なるでしょうか!? ドイツ戦はNHKで生中継がありますので、テレビの前で皆さんと一緒に気合いを入れて応援したいと思います!!

サッカー日本代表

 日本は7大会連続7回目の出場、世界ランキング24位。過去6回出場したW杯で3回、ベスト16に進みました。今大会の1次リーグは、ドイツのあとも、コスタリカ(世界ランキング31位)、スペイン(世界ランキング7位)と難敵続きですが、ぜひとも過去最高のベスト8以上への進出が実現するよう祈りましょう!

サッカーW杯 日本代表のこれまでの戦績と今大会の試合予定

 遠くカタールの地で戦う選手たちへのエールの意味も込めまして、今回は、文研の世論調査結果から、特に「サッカー」に注目して、スポーツの話題をお届けします。
 まずは、今年6月第1週に実施した「全国個人視聴率調査」の関東地方のデータから、その1週間(8時~23時)に生中継で放送されたスポーツの試合の視聴率ランキングをご覧いただいます。

スポーツ中継の視聴率ラインキング

 サッカーのキリン杯の日本代表戦がトップ2を占め、ブラジル戦が13.9%、ガーナ戦が7.0%とよく見られました。次いで、陸上、ゴルフの順です。BSは地上波に比べてそもそもの視聴率が低いのですが、それでも大谷翔平選手の出場した日曜のMLB中継が5番目に入っています(MLBについては先日のブログ#429で詳しく報告しています)。

 上位に入った「サッカー(ブラジル戦)」「陸上」「ゴルフ」「MLB」の4つについて、それぞれ、どんな方がよくご覧になったのか、男女年層別にグラフにしてみます。

主な試合の男女年齢層別視聴率 2022年全国個人資料率調査

 サッカーは、男性の各年代と女性の40代以上で10%超となり、他の3つよりもよく見られていました。
 とはいえ、男性の60歳以上では、陸上も11%、ゴルフとMLBも7%とよく見られていますので、"男性の高年層はスポーツ自体をよく見た(その中でも、特にサッカーをよく見た)"と考えて良さそうです。
 一方で、男性50代以下と女性40代以上では、"他のスポーツはあまり見なかったのに、サッカーだけはよく見た"という結果です。たとえば女性40・50代は、サッカーキリン杯は18%でしたが、あとの3つはいずれも1%以下と、ほとんど見られませんでした。
 この結果だけをみると、男性50代以下や女性40代以上は"サッカーをよく見る"、と思いたくなりますが、たった1年(どころか1週間)のデータで決めつけるわけにもいきませんので、文研の得意技として、過去のデータを振り返ってみたいと思います。
 ※ただし、「全国個人視聴率調査」は、2022年は郵送法で実施しましたが、コロナ禍による中断以前の2019年までは調査員がお宅に伺う「配付回収法」でしたので、ここまでとこのあとの視聴率は単純に比較できませんのでご承知おきください!

 同じく調査週にサッカーキリン杯があった2017年の、スポーツ中継の視聴率上位表です。

2017年6月第1週 スポーツ中継の視聴率ラインキング

 この年もキリン杯の日本代表戦がトップでした。しかし、よく見られた「サッカー」「卓球」「テニス」「プロ野球」の男女年層別視聴率をみてみると......、

主な試合の男女年齢層別視聴率 2017年全国個人資料率調査

 さきほどの2022年とは違い、男性40・50代や女性40代以上では、サッカーだけでなく、世界卓球やテニスの全仏オープンもよく見られていました(一方で、プロ野球はそれらに及びませんでした)。

◎男性40・50代: サッカー8%、 テニス6%、 卓球5%、 野球3%
◎女性40・50代: サッカー8% テニス5%、 卓球5%、 野球2%
◎女性60歳以上: サッカー10%、 テニス9%、 卓球11%、 野球4%

 プロ野球が国内での通常シーズンの試合だったのに対して、サッカーキリン杯、テニスの全仏オープン、世界卓球は、いずれも日本選手や日本代表チームがタイトルをかけて世界の強豪を相手に戦う1年~数年に1度開催される大きな国際大会で、代表選手の知名度も高く、メディアでもさかんに取り上げられて話題となっていたという共通点があります。
 すなわち......、男性40・50代や女性40代以上は、"世界を相手に日本が挑む大きな国際大会"はよく見る、ということなのではないでしょうか(なお、さきほどの2022年については、陸上とゴルフは国内の大会、MLBは通常のシーズンの試合で、"世界を相手に日本が挑む大きな国際大会"にあたるのはキリン杯サッカーだけでした)。
 "世界を相手に日本が挑む大きな国際大会"といえば、まだ記憶に新しい東京オリンピック・パラリンピック(五輪・パラ)はまさにそうした楽しみの詰まった大イベントでした。
 文研はこの大会についても世論調査を行ってきました。当初の開幕予定の"1年前"にあたる2019年夏に実施した調査では、「ふだんテレビやインターネットでスポーツを視聴するか」と「東京五輪・パラを楽しみにしているか」という質問をしました。ふだんスポーツを『見る』と答えた人と、五輪・パラが『楽しみ』だと答えた人の割合を男女年層別にしますと、こうなります。

ふだんのスポーツ視聴と、五輪・パラ「楽しみ」

 まず注目すべきは、女性の50代以下です。ふだんスポーツを『見る』のは4割~5割程度と他の年代よりも低いのですが、五輪・パラを『楽しみ』にしていた人は8割前後と、他の年代に負けず劣らず、大多数を占めていたのです。また、男性40・50代も、ふだん『見る』人の割合(65%前後)よりも、五輪・パラを『楽しみ』にする人の割合(80%弱)が高くなっています。
 やはり、こうした年代は、"世界を相手に日本が挑む大きな国際大会"であり、世の中で話題になっている大イベントを楽しみに思い、その気持ちが視聴行動にも結び付いているのかもしれません。

 さらに、五輪・パラ終了後の2021年秋に実施した調査では、「東京五輪・パラで印象に残ったこと」を複数回答で尋ねました。その結果...、

東京五輪・パラで印象に残ったこと

 全体では「日本が過去最多の金メダルを獲得したこと」(29.7%)と「10代などの若い選手たちの活躍ぶり」(29.1)が同じくらいに多くなりましたが、女性の50代では「日本の金メダル」が37%で最も多く、しかも他の年代よりも高くなりました。また、ふだんスポーツを『見る』人が全体より大幅に少ないはずの女性40代以下でも「日本の金メダル」を喜んだ人は全体と同じくらいに多く、男性40・50代でも「日本の金メダル」を挙げた人が3割超となっています。
 このように、男性40・50代や、50代以上を中心とした女性は、"日本勢が世界に挑む大きな国際大会"は楽しみに視聴するし、勝利の栄冠を勝ち取れば大いに喜ぶ!ということなのかもしれません。
 FIFA ワールドカップ 2022ドイツ戦は、まさに、日本代表が世界に挑む4年に1度の大舞台のスタートです。きっと多くの方がテレビで声援を送ることになるのではないかと、いまから楽しみです!!
 初戦、「日本×ドイツ」は11月23日の22時キックオフ。NHKでは試合の模様を、総合テレビ、BS4K、NHKプラスでお伝えします。ぜひご覧ください!

調査あれこれ 2022年11月17日 (木)

#429 大谷翔平選手、2年連続MVP受賞なるか!?

計画管理部(計画) 斉藤孝信

 明日(日本時間11月18日)、アメリカ大リーグ(MLB)アメリカン・リーグのMVPが発表されます。
 MVPはレギュラーシーズンに最も活躍した選手に贈られ、全米野球記者協会に所属する記者30人の投票によって選ばれます。今年はリーグ記録となる62本のホームランを打ったヤンキースのアーロン・ジャッジ選手と、投手として15勝、打者として34本塁打を記録し、受賞すれば2年連続となる我らが"二刀流"大谷翔平選手が、熾烈なMVP争いを繰り広げていることが、多くのメディアで取り沙汰されています。

saito_2211_0_gettyImages-1233842873.jpg 実際にはもう投票は終わっていますし、いまさら私がここで何を言ったところでどうなるわけでもありませんが、楽しみに待っている日本のファンの皆様のために、今回は、文研ならではの、"これは、もしかして受賞できるのではないか?"と思いたくなるデータを!
 ご紹介するのは、文研が6月最初の1週間で実施した「全国個人視聴率調査」の、NHKBS1の視聴率上位ランキングです。MLBを放送しているBSの視聴率は地上波に比べてそもそもの数字が小さい上に、まだまだシーズン序盤の1週間限定のデータなので、シーズン全体の活躍や視聴の盛り上がりを反映したものではないことをご承知いただいたうえで、あえて、順位だけでお話ししていきます。
 今年のランキング表をみると、なんと、トップ7がいずれも大谷選手の出場したエンジェルス戦。つまり調査週に行われた7試合すべてがランクインしたのです!*1

2022年 BS1視聴率高位番組

 アメリカ西海岸に本拠地を置くエンジェルスの試合は、ナイトゲームの場合、日本では日中に放送されることもあり、やはりトップ2は多くの人が比較的視聴しやすい日曜と土曜の試合となりました。平日トップとなった6月10日(金)のレッドソックス戦は、大谷選手が先発投手としてマウンドに立ちながら、指名打者として打席にも立つ"リアル二刀流"でした。視聴率は1.2%ですが、じつは、この時間にリアルタイムでテレビを視聴していた人たちを100とした割合(占拠率)は18%にのぼります。つまり、この時間にテレビ放送を視聴していた人の5人に1人が大谷選手の試合を見ていたことになります。
 この「全国個人視聴率調査」は、コロナ禍の影響で2020年と2021年は実施できませんでしたので、残念ながら、初のMVP受賞となった去年のランキングがどうだったのかをお示しすることができないのですが(去年も同じであれば、"だから今年もきっと!"とファンの皆様をさらに勇気づけることができたかもしれませんが......)。
 ご参考までに、大谷選手がMLBでの挑戦を始めた2018年と、翌2019年のデータを紹介します*2。なお、大谷選手は、2018年は打者としては114試合に出場し、打率2割8分5厘、22本塁打。投手としては10試合に登板し、4勝2敗、防御率3.31という好成績で、アメリカン・リーグの「新人王」を受賞しました。2019年は肘の故障で投手としての出場はなく、打者として106試合に出場し、打率2割8分6厘、18本塁打でした。その両年、6月第1週に「全国個人視聴率調査」BS1トップ10に入ったのはいずれも3試合でした。

2018年 BS1視聴率高位番組

2019年 BS1視聴率高位番組

 これだけでも、今年、7曜日すべての試合がトップ10入りしたのがどれだけ凄いことなのかおわかりいただけると思いますが、2001年以降の各年のトップ10中にランクインした試合数を振り返ると......、

BS1視聴率トップ10に入ったMLB中継

 なんと、全7試合がトップ10に入ったのは、今回が初めてだったのです。
 次に多かったのは2001年。この年にはイチロー選手がMLBに挑戦して大活躍。首位打者、盗塁王、最多安打、シルバースラッガー賞、ゴールドグラブ賞のタイトルを同時獲得。新人王、そして、MVPにも選ばれています。あの伝説のイチロー選手MLBデビューイヤーよりも多くの試合がランクインしたのだから、きっと今年も大谷選手がMVPを...。と願ってしまうのは、分析者というよりもファンとしての気持ちがまさってしまい、ちょっと説得力に欠けますでしょうか......。
 ちなみに調査では、今年6月の大谷選手の試合が少なからぬ女性にも見られたことがわかり、大谷選手の活躍を応援する女性ファンの存在も想像できて、興味深い結果でした。
 「全国個人視聴率調査」の結果は『放送研究と調査』10月号に掲載していますので、ぜひそちらもお読みいただければ幸いです!

 果たして、結果はどうなるのか!?皆さんと一緒にワクワクしながら、明日の発表を待ちたいと思います!


*1:マルチ放送(BS101と102で別の番組を放送)の場合、今回はMLB中継を優先して表示しています。なお、ニュースなどによる中断を挟んで、1つの試合が複数の番組として放送された場合は視聴率の高かったほうを優先し、表における開始時刻も該当の番組の開始時刻を示します(試合開始時刻ではありません)。
*2:「全国個人視聴率調査」は、原則6月の第1週、調査相手に5分刻みのマークシートで、視聴した時刻と局を記入してもらっています。2019年までは配付回収法(調査員がお宅を訪問する方法)でしたが、コロナ禍による2年の中断を経て、2021年からは「郵送法」に切り替えました。配付回収法と郵送法の視聴率などの結果は単純に比較できません。
調査あれこれ 2022年11月15日 (火)

#428 暗雲漂う岸田政権の前途 ~外交で挽回は図れるのか~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 10月24日、ロシア軍がせきを切ったようにウクライナに侵攻を開始してから8か月になったこの日、日本の永田町では岸田政権の足元で不安視されていた堤の一角が崩れ落ちました。

 山際大志郎経済再生担当大臣が「国会運営に迷惑を掛けたくない」として、岸田総理大臣に辞表を提出し、後任には後藤茂之前厚生労働大臣が充てられました。

 安倍元総理を死に追いやった銃撃犯の供述をきっかけに旧統一教会問題が噴出し、長年にわたる深い関係を指摘され続けていた山際大臣。旧統一教会関連の催しへの出席など、新たな事実が報道で明らかになるたびに「記憶になかった」という言い訳を連発し、辞任は時間の問題とされていました。

 この問題と安倍元総理の国葬に対する批判がないまぜになって、各種世論調査での岸田内閣の支持率は、8月以降、下り勾配が続いています。

 そして山際大臣の辞任から3週間足らずの11月11日午後、今度は葉梨康弘法務大臣が辞表を提出しました。法務大臣の重要な職責である死刑執行の署名を、パーティーの挨拶で受け狙いの話のタネに使った軽率さが問題視されていたからです。

 しかし葉梨大臣は、その日の午前中の国会答弁でも「職責を全うする」と繰り返し、辞任する考えはないと強弁していました。前日に岸田総理と会って確認した通りに発言していたということですが、これには自民党内からも反発の声が噴出しました。

 岸田総理は後手に回った事態の対応に追われ、予定していたアジア歴訪への出発を遅らせて、後任に齋藤健元農林水産大臣を充てました。

 11月のNHK月例電話世論調査は、この法務大臣交代のさなかの11日(金)の夕方から13日(日)にかけて行われました。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  33%(対前月-5ポイント)
 支持しない  46%(対前月+3ポイント)
 わからない、無回答  21%(対前月+1ポイント)

NHK世論調査での岸田内閣の支持率は、7月に発足以来最も高い59%を記録した後8月から下がり始め、これで4か月続けて最低を更新したことになります。

 相次ぐ閣僚辞任を巡って、自民党のベテラン国会議員たちからは「辞任ドミノを避けたい気持ちがあるのだろうが、人事権を持つ総理の決断の遅さが負のスパイラルを生んでいる」という声が聞こえてきます。

 「聞く力」はあるが「決める力」に欠けているという身内からの厳しい指摘です。

 10月と11月について、与党支持者、野党支持者、無党派の別に内閣支持率を比べてみるとこうなります。

 10月➡与党支持者68% 野党支持者16% 無党派17%
 11月➡与党支持者59% 野党支持者14% 無党派17%

 与党支持者の内閣支持率が9ポイント急落していて、もともと支持率が低い野党支持者、無党派層よりも落ち込みが激しくなっています。言い換えれば与党支持者の中で進む岸田離れの気配をうかがわせるものです。

 自民党の国会議員の中には「衆議院選挙や参議院選挙を控えていれば『岸田降ろし』が表面化しかねないが、当面は来年4月の統一地方選挙だけだからそうはならない」と語る人たちもいます。

 果たしてそうなのでしょうか。私は日頃から地方議会の議員たちとの意見交換を心がけていますが、先月あたりから「このままでは来春の選挙で当選できない」という自民党議員の悲痛な声を耳にするようになりました。11月のNHK世論調査では、こういう質問もしています。

☆旧統一教会と国会議員の関係が、相次いで問題になっています。あなたは、地方議員も関係を点検し、明らかにすべきだと思いますか。それとも明らかにする必要はないと思いますか。

 明らかにすべきだ  71%
 明らかにする必要はない  18%
 わからない、無回答  11%

国民の7割が「明らかにすべき」と答えているところに、旧統一教会を巡る問題に対する国民の厳しい視線を感じます。これに応えないままで国民の政治意識が変化するとは考えにくいというのが正直なところです。

 岸田総理は、葉梨前法務大臣から齋藤新法務大臣へのバトンタッチを見届けて、東南アジア各国で開催されている各種の首脳会議に精力的に臨んでいます。安倍内閣で4年8か月にわたって外務大臣を務めた経験を生かし、国際情勢が不安定化する中で、外交で存在感を示したいという思いが強いのはよくわかります。

 13日にはASEAN関連の首脳会議が開かれたカンボジアで、アメリカのバイデン大統領と日米首脳会談を行いました。厳しさを増す安全保障環境に対応するために、日米同盟の抑止力と対処力の一層の強化を図ることで一致しました。

 ただ、気になるのは日米同盟の強化に必要な防衛費の増額についてです。財源問題を含めて、具体的な内容が国民の目に触れるのは、まさにこれから。財務省は財源確保のためには各種の増税も必要になるという方針をすでに示していますが、そこに国民の理解が得られるかは不透明です。

 周囲を中国、ロシア、北朝鮮に囲まれた日本で、国民の多くが総論では防衛力強化は必要と考えても、増税を伴う各論に理解を得るのは容易な仕事ではありません。

 岸田総理の胸中を推し量れば、来年5月19日から21日に自らの地元の広島で開催するG7サミットに向けて外交・安全保障でポイントゲットを重ねて政権の浮揚を図りたいということでしょう。

 しかし、その前に今の臨時国会での補正予算案審議、年明けの通常国会での来年度予算案審議などを乗り越えなくてはなりません。「政権の体力回復」が必須条件で、そのために国民にどう自らの考えを発信していくのか。正念場です。

調査あれこれ 2022年10月17日 (月)

#427 人が太りすぎるのは、怠けているから?

世論調査部(社会調査) 村田ひろ子

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 学生時代に先輩が、「私、太っている人って嫌い。だって、太ってるってことは、自己管理ができていない、ってことでしょ」と言っていました。かすかに違和感を覚えたのは、「太りやすい体質の人もいるし、病気が原因のこともあるだろうし、『太っている=自己管理ができていない』と決めつけるのはどうなの?」と思ったからです。
 それでは、実際のところ、人々は、肥満についてどのように考えているのでしょうか?文研が実施した健康・医療に関する世論調査※1の結果をみると、「人が太りすぎるのは、多くの場合、怠けているからである」という意見について、『そう思う(どちらかといえばを含む)』が32%※2、「どちらともいえない」が32%、『そうは思わない(どちらかといえばを含む)』が31%で、意見が分かれています。

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 『そう思う』と答えた人を男女別にみると、男性が37%で、女性の28%を上回っています。また、男女年層別にみると、男女ともに、若年層ほど回答が多くなる傾向があります。特に男性の40代以下では、半数を超える人が『そう思う』と考えていることがわかります。

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 回答者の体型別でみると、『そう思う』と回答した人は、『標準』の人が34%、『肥満』の人が32%、『やせ型』の人が28%で、回答に差はありませんでした。
 一方、運動習慣の有無別にみると、『そう思う』は、運動をしている人では38%で、運動をしていない人の28%よりも多くなっています。運動をしている人では、「肥満は自己責任」と感じている人が多く、生活習慣によって、健康についての考えが異なることがうかがえます。そういえば、冒頭で紹介した先輩も、毎日のようにプールで泳いでいたっけ...。

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 「放送研究と調査」2022年9月号では、世論調査の結果から、こうした健康をめぐる人々の見方や、医療格差についての意識を分析・報告しています。新型コロナウイルスの感染拡大で、医師や医療制度に対する信頼がどう変わったのかも注目のポイントです。ぜひご一読ください!!


※1 ISSP国際比較調査「健康・医療」・日本の結果 時期:2021年11月3日~12月2日、調査方法:郵送法、調査対象:全国18歳以上の2,400人、調査有効数(率):1,453人(60.5%)
※2 回答結果をまとめる場合は、実数で足し上げて%を計算しているため、単純に%を足し上げた数字と一致しないことがある。
調査あれこれ 2022年10月12日 (水)

#425 深まる岸田総理の憂鬱 ~内憂外患の秋から冬へ~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 9月30日、プーチン大統領がウクライナ東部・南部4州のロシアへの併合を一方的に宣言しました。2月24日にウクライナ侵攻を開始して以降、「力による現状変更」の最も露骨な姿を世界中の人たちに見せつけました。

 ウクライナを支援する日本などG7の国々、NATO(北大西洋条約機構)加盟の国々は、ロシアのあくなき領土拡張の行動を国際法違反だと批判し、制裁措置や武器援助を追加したりしています。

 しかしプーチン大統領は「国際秩序を破壊しているのはアメリカとそれに追従する国々で、我々はロシア人が暮らす地域を奪還したに過ぎない」と繰り返し、非難と攻撃の応酬が続くばかりです。

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 先日、ロシアの駐日大使、ミハイル・ガルージン氏の話を聞く機会がありましたが、2014年のクリミア併合はそこで暮らすロシア系住民を守るために行ったことだの一点張り。その後の東部・南部での停戦合意の話し合いを無にしたのは、ウクライナとアメリカなどNATO側だと強調するのみです。

 7月にはウクライナの駐日大使、コルスンスキー・セルギー氏の話も聞きました。セルギー大使は「ウクライナの真の独立は、旧ソビエト連邦から解き放たれた1991年当時の国の姿に戻ることだ」と強調していました。ロシアがクリミア併合に踏み切る以前の姿が本来のウクライナだということです。

 この両者の話を聞くと、大陸国家の抱える歴史的な困難さを突き付けられた思いがします。民族や宗教が異なる人々が、それぞれ背にしている違いを抱えながら平和な暮らしを営むことがいかに難しいか。島国日本の国民にとっては、目をこらして見ないと分かりにくい現実が存在しています。

 そうは言っても、プーチン大統領のやっていることは領土拡張を目指す覇権主義の表われ、専制主義的行動に他なりません。そこには「自由を尊重する」という気配が伺えないからです。黙認するわけにはいきません。

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 さて、こうした厳しい国際情勢が長期化の様相を見せる中で、日本国内では夏以降、岸田内閣の支持率に陰りが見え、政権を取り巻く環境が厳しさを増しています。

 10月8日から10日にかけて行われたNHK月例電話世論調査にも、それが如実に表れています。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  38%(対前月 -2ポイント)
 支持しない  43%(対前月 +3ポイント)
 わからない、無回答  20%(対前月 ±0ポイント)

岸田内閣の支持率は、発足直後の去年10月に49%でスタートし、衆議院選挙、参議院選挙での勝利を経て、7月には59%にまで上向きました。

しかし、8月、9月とじりじり下がり始め、10月は上記のように【支持する38%<支持しない43%】で初めて不支持が支持を上回りました。

☆岸田内閣の発足から1年がたちました。あなたは、この1年間の岸田内閣の実績を評価しますか。

評価する 38% < 評価しない 56%

岸田内閣の挙げた成果といえるものがなかなか見えてこない、ふわふわしているという国民の受け止めが少なくないことを物語っている数字に見えます。

 安倍元総理が健在だった7月8日より前までは、総理OBとなった安倍氏が展開する安全保障などでの保守的、あるいはタカ派的な政策提言を浮揚力として利用し、そこに「ちょっと待った」と言いながら国民に慎重さをアピールする面がありました。

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 しかしそれは成果・実績とは別のもので、向かい風を利用して空に舞う凧の姿にも似たものだったでしょう。それが安倍氏の死によって浮揚力を失い、失速の憂き目にあっているようにも見えます。

 改めて8月以降の内閣支持率の低下の理由を考えますと、大きく2つのことが密接に絡まった結果とする指摘は否定できないでしょう。

 1つ目は凶弾に倒れた安倍元総理を国葬で追悼したことです。そこには評価が割れている政治家の追悼を全額国費で行った、実施の根拠が曖昧なまま国会の議論を経ずに決められた、などの不満がまとわりついています。

 2つ目は旧統一教会と自民党の関係について疑問が残り続けている点です。安倍氏の命を奪った容疑者の供述がきっかけになり、霊感商法などが社会問題化してきた旧統一教会との関係が浮かび上がったにも関わらず、自民党が議員本人からの申告に基づく「点検」にとどめたことに対し、中途半端さ、曖昧さを感じる国民が多いということです。

 自らの政権運営の浮揚力となってくれていた安倍元総理との関連などで足元が揺らぐ現状。岸田総理にとって憂鬱な気分が深まる秋になっています。

 そして季節は秋から冬へと向かいます。岸田総理は状況を打開しようと、ウクライナ情勢を背景に冬場に懸念される電気料金などの上昇への備えに急ぎ足で取り組み始めました。

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 目指すのは家計や企業を直接支援する制度の創設で、岸田総理は「電力会社への補助金ではなく、全て国民の負担軽減に充てることを明確に示す仕組みにしなければならない」と強調しています。

 この冬のエネルギー対策は世界規模の問題です。エネルギー危機の発端となったロシアのウクライナ侵攻は2月下旬、北半球が冬から春へと向かう中で始まりました。従って今度の冬に初めて問題の深刻さに真正面から向き合うことになります。

 資源大国ロシアは、石油や天然ガスを戦略物資と位置付けて強気の姿勢を変えないでしょう。その時、エネルギーをロシアに依存してきたドイツなど、ウクライナを支援するヨーロッパの国々に揺らぎが生じはしないか。気になるところです。

 内憂外患。昔から「難しい問題はまとめてやってくる」と言います。一方で世界史的な難問への対処、一方で国民の信頼をつなぎとめるための努力。
秋から冬にかけて、岸田総理の発言や判断に、耳をすまし目をこらして向き合う必要がありそうです。