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調査あれこれ

調査あれこれ 2023年03月16日 (木)

#462 マスク着用 「個人の判断」に 顔を隠したくて着ける人ってどのくらいいるの?~「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査(第3回)」の結果から~

世論調査部(社会調査) 小林利行

新型コロナウイルスの感染が、国内で初めて確認されてから3年あまり。

この間、マスクは多くの人の必須アイテムとなっていますが、政府は3月13日からマスク着用の方針を大きく変えました。

医療機関を受診するときや混んだ電車やバスに乗るときなどは着用を推奨するものの、それ以外の場所での着用は個人の判断に委ねるとしたのです。

皆さんはどうしているでしょうか?

文研では2022年11月に新型コロナウイルスに関する世論調査を実施しました。

その中には今回のような状況を想定した質問もあります。

図①は、感染拡大が収束して、屋内や人混みでマスクの着用が求められなくなったとしたらどうするかと尋ねた結果です。

図①  着用が求められなくなったときマスクをどうするか?

figure1_4.png

1番多いのは「感染拡大前よりは着ける機会を多くする」で47%、2番目は「できるだけ着けたままにする」で27%でした。

一方、「以前のように外す」は23%にとどまっています。

調査時点と今の感染状況や、この質問の前提と政府のマスク推奨の基準は少し異なりますが、結果をみる限り、すぐさま多くの人が以前のようにマスクを外すことにはならないようです。

考えてみれば、3月12日以前も、会話がなければ基本的に屋外でマスクを着ける必要はないとされていましたが、外でも着けていた人のほうが多かった印象があります。

この調査では、「感染拡大前よりは着ける機会を多くする」と「できるだけ着けたままにする」と答えた人に対して、その理由も尋ねています(図②)。

図②  求められなくなってもマスクを着け続けるのはなぜか 〈回答者1,671人〉

figure2_4png.png

ご覧のように、圧倒的多数の人が「感染症対策など衛生上の理由から」と回答しています。

ただ、「素顔をさらしたくないなど見た目の理由から」という人も7%います。

男女年層別に分けてみました(図③)。

図③  求められなくなってもマスクを着け続けるのはなぜか
(男女年層別)
figure3_4.png

いずれの年層も「衛生上の理由から」が多数を占めていますが、18歳~39歳の男女では、「素顔をさらしたくないから」と回答している人も16%います。

この人たちを、18歳~39歳全体に占める割合でみても、男性11%、女性13%となります。

若い男女の10人に1人強が、顔を隠すなどの目的でマスクを着け続けたいという意向を示していることがわかります。

今回の調査は、コロナ禍をきっかけにマスクの意外な着用目的を明らかにしたようです。

調査の他の結果についても「コロナ禍3年 社会にもたらした影響-NHK」で公開していますので、ぜひご覧になってみてください。

また、「放送研究と調査 2023年5月号」では、3年にわたるコロナ禍によって、人々の意識や暮らしがどう変わったかなどについて詳しく紹介しますので、ご期待ください。

調査あれこれ 2023年03月14日 (火)

#461 岸田内閣支持率 若干回復の先は ~どうしのぐ統一地方選・統一補選~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 新年度予算案の成立に向け国会で答弁に立っている岸田総理大臣が、この日は東京ドームのマウンドにも立ちました。WBC・ワールドベースボールクラシックの1次リーグ、ライバル対決として注目された日本対韓国の一戦での始球式です。

始球式 出典:首相官邸ホームページ 出典:首相官邸ホームページ (https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202303/10wbc.html)

 侍ジャパンの栗山監督がキャッチャーを務め、高校球児だったという岸田総理の投球をワンバウンドで捕球。野党側の厳しい追及や質問を受ける予算委員会では見せることがない岸田総理の笑みがこぼれました。

 この3月10日(金)から翌々日12日(日)にかけて、東日本大震災から12年目の3・11をはさんでNHK月例電話世論調査が行われました。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  41%(対前月+5ポイント)
 支持しない  40%(対前月-1ポイント)

統計上の誤差もありますから支持と不支持が横並びと見た方が良いのかもしれません。それでも数字の上で支持が不支持を上回ったのは去年の8月以来7か月ぶりです。

「岸田内閣を支持する」と答えた人の割合を与党支持者、野党支持者、無党派の別に比べてみるとこうなります。

 与党支持者  69%(対前月+9ポイント)
 野党支持者  19%(対前月+2ポイント)
 無党派  24%(対前月+6ポイント)

 去年の8月以降の支持率低迷の期間は特に与党支持者(自民党支持者+公明党支持者)の支持率が陰っていたのですが、この1か月は上向きました。予算委員会の審議がストップするような大きな政治的トラブルが浮上せず、岸田総理が物価上昇を超える賃上げを呼び掛けたことに一部の企業が呼応し、一定の評価につながっている面もあるようです。

 さらには3月に入って韓国のユン・ソンニョル政権が、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題で、解決に向けた判断を示してきたことも追い風になっているようです。この韓国政府の判断は、裁判で賠償を命じられた日本企業に代わって、韓国政府の傘下にある財団が支払いを行うとするものです。

岸田首相/韓国 ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領

 ユン・ソンニョル大統領はアメリカのバイデン政権の強い働きかけを受け、日本との関係を改善するために、問題の解決を急いだと伝えられています。地域の安全保障環境を不安定化させている北朝鮮に向き合うには、日米韓の連携強化が最重要ということは岸田総理が繰り返し主張してきたことでもあります。「待っていました」といったところでしょう。

 しかしながら、こうした好材料の半面で肝心要の国民との対話が深まっているとは言えません。最も特徴的なのが昨年末に打ち出した5年間の防衛費の大幅増額問題です。

☆あなたは、防衛費の増額についての政府の説明が、十分だと思いますか。不十分だと思いますか。

 十分だ 16% < 不十分だ 66%

3分の2が不十分だと感じているという数字は、岸田総理をはじめとする政府関係者の言葉が国民に届いていないことを端的に示しています。

 国会審議を通じて「巡航ミサイル・トマホークを400発購入する予定」といった断片的な情報は出てきました。しかし、防衛費の水準を5年でGDP(国内総生産)比2%に引き上げるという判断が、どういう積算に基づいたものなのかは依然として不透明です。

巡航ミサイルトマホーク(資料) 巡航ミサイル トマホーク(資料)

 論戦の焦点になっている「反撃能力」つまり敵基地を攻撃できる能力を抑止力として保有することについても不明確です。政府の答弁は「これまでと同様の専守防衛の範囲内だ」と繰り返すだけで、一向に説得力が増しません。新たな攻撃的装備を保有するならば、新たな歯止めの仕組みも備えないことには「専守防衛」は空念仏になってしまいます。

 ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、安全保障に対する国民の関心が高まったとはいえ、勢いで物事を進める姿は好ましいものではありません。平和憲法を掲げる日本にふさわしい国防政策、自衛隊の運用をより多くの国民に納得してもらうことが重要です。そうでなければ信頼は増しません。

☆岸田総理大臣は、将来的な子ども予算の倍増を掲げる一方、「数字ありきではない」として、まず政策を整理し、大枠を示すとしています。あなたは、政府の少子化対策に期待していますか。期待していませんか。

 期待している 39% < 期待していない 56%

このように岸田総理が力を込めて語る少子化対策についても、国民の受け止めは今一つです。特に気になるのは、まさに子育て世代にあたる18歳~39歳の回答が否定的なことです。(⇒期待している39%、期待していない66%)

 この背景には、岸田総理が通常国会冒頭の施政方針演説で総論は高く掲げたものの、中身の各論については「6月の骨太方針までに大枠を提示します」という所でストップしたままになっているという問題があります。

 4月には統一地方選挙、そして合わせて5つの衆参両院補欠選挙が控えています。地域にもよりますが、多くの人が現在の政治を見つめながら投票の機会を待つ中で、「具体的なことは後で」という姿勢には厳しい目が向けられて当然です。ここをどうしのぐかは大きな課題です。

 3月は岸田内閣の支持率が若干上向いたとはいえ、今後も一進一退が続く可能性はあります。5月のG7広島サミットを舞台に「外交・安全保障の岸田」をアピールしたいのだろうと思いますが、そのためには内を固める必要があります。

 国民の信頼を得られてこその外交・安全保障です。防衛費に関する一層の説明、少子化対策の具体的な柱建ての提示といった課題への向き合い方が、政権の今後を左右するように思います。

調査あれこれ 2023年03月07日 (火)

#459 WBC直前企画② 侍ジャパンと視聴率

計画管理部(計画) 斉藤孝信

 3月9日(木)に日本が「ワールドベースボールクラシック」の初戦を迎えるのに合わせてお届けしている「視聴率からみるプロ野球平成史」の第2弾です!

 前回のブログでは、関東地方での6月調査週のプロ野球中継の視聴率が、セ・パ交流戦の開始や球団再編のあった"平成17年"を境に減少したことをお話ししました。 では、WBCのように、日本代表が世界に挑んだ試合の視聴率はどうだったのでしょうか。 まずは、前回お見せした6月視聴率調査のグラフに、同じ年の11月調査週に行われた国際試合の視聴率(各年で最も高かった試合)を重ねてみます。
※視聴率は他のチャンネルで放送されている番組の影響も受けるので、両調査の結果を単純に比較できるわけではありません。

プロ野球視聴率の平成史

 6月、すなわち国内のレギュラーシーズン中の中継の視聴率が平成17年を境に減少したのに比べ、11月に行われた国際試合は、平成24年にも9.2%、平成27年には10.1%と、よく見られていました。
 ふた桁となった平成27年は、「世界野球プレミア12」のベネズエラ戦。日本は、日本ハムの大谷、巨人の澤村、菅野、坂本、ヤクルトの山田、横浜の筒香、西武の秋山などの豪華メンバー。特にこの試合は、8回の裏から9回裏まで3度の逆転が起きる名勝負となりました。
 この試合の男女年層別の視聴率を、参考として同年6月に最もよく見られた「日本ハム対巨人」のデータと見比べてみます。前提として、ベネズエラ戦がよく見られたのは、日曜日の夜だったという要素もあるかもしれません。
 男女年層別にみると、いずれも男性60歳以上が15%超で全体より高く、女性20代以下が2~3%程度で全体より低いという傾向は同じです。一方で、男性50代以下と女性30~50代では、日米野球のほうが格段によく見られていました。

平成27年 世界野球プレミア12の男女年層別視聴率(関東)

 平成の国際試合で最も高かった平成14年「日米野球第2戦」についてもみてみましょう。
 このシリーズには、前年にMLBでMVPと新人王に輝いたイチロー選手がMLB代表の一員として凱旋。そのほかにもジャイアンツのホームラン王バリー・ボンズや、ヤンキースの看板選手・バーニー・ウイリアムズ、ドジャースの抑えの切り札ガニエなど、スター選手が名を連ね、イチロー選手を通じてMLBを見るようになったファンにとっては「そんな大物が来るの!?」と驚きと喜びの絶頂でした。迎え撃つ日本代表も、のちにアメリカに渡ることになる"W松井(秀喜、稼頭央)、岩隈、上原、福留など、各球団のトップ選手ぞろい。第2戦では日本が8対2で勝ちました。
 この試合の男女年層別の視聴率も、参考として同年6月に最もよく見られた「ヤクルト対巨人」のデータと見比べてみます。
 どちらも全体では10%を超えてよく見られ、男性60歳以上が20%超で全体より高く、女性20代以下が5~6%程度で全体より低いという傾向は同じですが、男性20代以下と女性30~50代では、日米野球のほうがよく見られていました。
 若い男性や、女性が、「日本が世界を相手に挑む国際的な試合をよく見る」というのは、以前、サッカーW杯について考えたブログで紹介しましたが、ここでも共通した傾向が浮かび上がってきます。

平成14年 日米野球第2戦の男女年層別視聴率(関東)

 今回のWBCも、まさに「日本が世界を相手に挑む国際的な試合」です。これまでの大会ではなかなかMLBのトップ選手が参加できなかった各国代表も、今回はそうそうたる顔ぶれがそろい、"本気勝負"のムードが満ち満ちています。そして日本代表は、平成14年のイチロー選手と同じように、いまやMLBの看板選手になった大谷選手の凱旋大会でもあるわけですから、これは、いやが応にも盛り上がるのではないでしょうか!?
 プレーボールが楽しみで仕方ありません!


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#435 視聴率でみる"大河ドラマ平成史"

調査あれこれ 2023年03月06日 (月)

#458 WBC直前企画① 視聴率でみる日本プロ野球平成史

計画管理部(計画) 斉藤孝信

 3月9日(木)、野球の世界大会「ワールドベースボールクラシック」で日本が初戦を迎えます。過去2度優勝の日本は、今回、MLBで活躍中の大谷選手やダルビッシュ選手、去年史上最年少で打撃三冠王に輝いたヤクルトの村上選手も参加し、非常に楽しみですね!

 選手たちへのエールの意味も込めまして、今回は、文研の過去の視聴率調査の結果から、「プロ野球」に注目して、①「国内のプロ野球平成史」、②「国際試合の平成史」の2回シリーズでお届けします。
 まずは、毎年6月第1週に実施している「全国個人視聴率調査」の関東地方のデータから、その週の夜間(18時以降)に地上波テレビで生中継された中で、各年最も視聴率の高かった試合をピックアップしてグラフにしてみます。

【プロ野球平成史】6月第1週に最もよく見られたプロ野球中継(関東)

 ご覧のように、大づかみに言うと、"右肩下がり"。平成16年までは10%を超えていましたが、その後は5%前後となる年が多くなりました。
 最も高かったのは平成2年の「巨人対中日」の16.9%です。
 この年は、前年の日本シリーズで近鉄を相手に3連敗からの4連勝で日本一に輝いた巨人が、開幕ダッシュに成功。5月8日以降は一度も首位の座を明け渡さずに独走し、優勝。つまり6月調査週にはすでに「巨人がぶっちぎりの好調」だったのです。
 ちなみに、この年の巨人の開幕戦オーダーは、1番ショート川相、2番セカンド篠塚、3番センタークロマティー、4番レフト原、5番サード岡崎、6番ライトブラウン、7番ファースト駒田、8番キャッチャー中尾、9番ピッチャー斎藤。当時野球少年だった筆者には、涙がでるほどに懐かしい顔ぶれです...。
 次いで、「阪神対巨人」が16.8%だった平成11年は、中日が開幕11連勝でスタートダッシュ。出遅れた巨人が、ルーキーの上原投手の活躍もあり、夏場に猛追するシーズンでした。すなわち6月は「巨人がここから巻き返すぞ」という時点でした(結果的には、首位中日に1.5ゲーム差まで迫りましたが、あと一歩届かず2位)。
 平成12年は、前年に熾烈な優勝争いを繰り広げた「巨人対中日」の15.6%。そこまで3年連続で優勝を逃していた巨人はシーズンオフに大補強を行い、ダイエーから工藤、広島から江藤を、それぞれFAで獲得。松井、江藤、清原、仁志、清水などの大物選手がずらりと並んだ打線は、西暦2000年にちなんで"ミレニアム打線"とも呼ばれました。6月はこの大補強が功を奏して、「巨人が混戦から頭ひとつ抜け出した」時期でした。
 このように、トップ3はいずれも「巨人が好調な6月」の巨人戦です。
 初めて視聴率が10%を割り込んだ平成17年。巨人は開幕4連敗でつまずき、主力選手の故障も相次いで、4月21日から6月2日までは最下位に低迷し続けました。つまり、前述の3年とは対照的に「巨人が絶不調の6月」だったわけです。
 そもそも地上波では巨人戦の中継が圧倒的に多かったですし、巨人が本拠地を置く関東のデータでは、"平成のプロ野球史"と言っても、どうしても"平成の巨人戦史"をみているようなものなので、「巨人が強ければ高くなるし、弱ければ低くなる」という平成前半の傾向は、ある意味で、当然なのかもしれません。
 しかし、平成17年以降の巨人は、14年間のうち11年はAクラス(3位以上)で、6度も優勝したにもかかわらず、視聴率がふたたび10%を超えることはありませんでした。もちろん、平成の前半に比べて、地上波での中継自体が減ったり、BSやCS、ネット動画サービスなど、視聴手段が多様化したりした影響もあるかもしれませんが、ここまでのデータでは、平成17年をひとつの大きな転換点として、"プロ野球テレビ観戦離れ"が進んだようにみえます。

 ではその"平成17年"、プロ野球にいったい何があったのでしょうか。
 まさにその年、セ・パ交流戦が始まっています。これまで(関東の巨人戦視聴者の目線で言えば)オールスター戦や日本シリーズくらいでしか見ることのできなかった、パ・リーグのチームや選手を目にする機会が一気に増えました。また、球団再編によって、宮城に新球団・楽天が誕生したのもこの年です。
 さらに、時は少し前後しますが、平成4年にはロッテが千葉に、平成5年に当時のダイエー(現ソフトバンク)が福岡に、平成16年には日本ハムが北海道に、それぞれ本拠地を移転。さらに、広島では平成21年に新球場がオープンしました。平成17年に生まれた楽天も含め、これらの球団が地元で多くのファンを獲得し、好成績も相まって、各地で応援熱が高まったことは皆様ご存じの通りです。
 すなわち、セ・パ交流戦開始や球団再編のあった"平成17年"を境に、パ・リーグや地方の球団の試合を見る機会が格段に増え、それによって、プロ野球の視聴や応援も、それまでの「野球といえば巨人」という状況から、大きく多様化を遂げたと言えるのではないでしょうか。
 そうした変化、とくに地方の盛り上がりが感じられるデータを、同じく6月の「全国個人視聴率調査」からご紹介します。まずは総合テレビ木曜日19:30~20:43の地方別視聴率です。平成29年と30年、総合テレビでは、木曜は19:30まで『ニュース7』を放送した後、各地域局のニュース前の20:43まで、北海道と中国地方では、他の地域とは別編成で、地元球団である広島と日本ハムの試合を中継しました。この時間帯の視聴率について、平成最後の5年間と、参考まで平成元年と15年のデータも合わせて表にしました。

総合テレビ 木曜19:30~20:43の地方別視聴率

 北海道では、平成30年は13%、平成29年は11%で、いずれも全体より高く、それまでの3年間よりも上昇しました。中国地方は、もともとこの時間帯の視聴率が比較的高めなので目立った上昇とまでは言えませんが、平成29年の11%は北海道同様に全体よりも高くなりました。

 総合テレビでは同様に、平成28年~30年の金曜も、20:00から、各地域局のニュース前の20:42まで、独自にプロ野球中継を放送していた地域がありますので、その時間帯の地方別視聴率もお示しします。

総合テレビ 金曜20:00~20:42の地方別視聴率

 この枠では、平成30年には北海道と中国地方で「広島対日本ハム」、平成29年には北海道で「日本ハム対巨人」、東北と中国地方で「楽天対広島」、九州地方で「ソフトバンク対阪神」、平成28年にも東北で「楽天対広島」が放送されました。
 平成29年の北海道と中国地方の11%は、とくに目を引きますね。日本ハムと広島はともに前年にリーグ優勝。まさに黄金期にあった広島では若い女性ファンも増え、"カープ女子"という流行語も生まれましたし、日本ハムはこの年が大谷選手の日本でのラストシーズンということにもなり、もともと巨人ファンも多いという土地柄もあって、多くの人が視聴したのではないでしょうか。
 なかなか10%に届かなくなった関東とは対照的に、ここ数年、地方によっては、地元球団の試合中継で視聴率が10%超となるというこの現象は、プロ野球の愛され方が多様化した平成を物語っているようにも思えます。
 そして今度のWBCには、そうした地方の球団からも多くの選手が日本代表に選ばれています。ソフトバンクの甲斐・近藤・周東選手には九州から、日本ハムの伊藤選手や、MLBからの凱旋となる大谷・ダルビッシュ選手には北海道から、広島の栗林選手には中国地方から、楽天の松井選手には東北から......、ひときわ大きな声援が送られるのではないかと、このデータをみていると感じます。
 次回は野球日本代表(侍ジャパン)の平成史を振り返ろうと思います。


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#429 大谷翔平選手、2年連続MVP受賞なるか!?

調査あれこれ 2023年02月24日 (金)

#456「関東大震災100年」 震災の「警鐘」をいかに受け止めるか

メディア研究部(メディア動向)中丸憲一

  1923年(大正12年)9月1日に発生し、10万人以上が犠牲になった関東大震災から、今年(2023年)で100年になる。この震災では、放送にも大きく関わる「情報伝達」が大きな課題になった。また、私はNHKで長年、災害担当記者をしてきたが、今回、関東大震災の記録を改めて探ったところ、初めて知ることも多かった。この関東大震災から学びとるべき「警鐘」について詳しく見ていきたい。

【ラジオ放送誕生を早めた関東大震災の“怪物”】
 まず目を向けたいのが、関東大震災の時の「情報の途絶」だ。まだテレビやラジオ、当然ながらSNSはなかった時代。電信・電話といったほぼすべての通信網が途絶し、新聞社も社屋が焼失するなどして新聞の発行がままならなくなった。生き残った人たちは、被災時に最も必要なものの一つ「情報」が入手できなくなることによって混乱を極めてゆく。 

yoshimurabook300.png  その様子を、吉村昭は「関東大震災」で次のように書いている。(一部中略・原文ママ)

「知る手がかりを失ったかれら(被災者※筆者追記)の間に無気味な混乱が起り始めた。かれらは、正確なことを知りたがったが、それは他人の口にする話のみにかぎられた。根本的に、そうした情報は不確かな性格をもつものであるが、死への恐怖と激しい飢餓におびえた人々にとってはなんの抵抗もなく素直に受け入れられがちであった。そして、人の口から口に伝わる間に、臆測が確実なものであるかのように変形して、しかも突風にあおられた野火のような素早い速さでひろがっていった。流言はどこからともなく果てしなく湧いて、それはまたたく間に巨大な怪物に化し、複雑に重なり合い入り乱れ人々に激しい恐怖を巻き起こさせていった」

  この流言飛語にはさまざまなものがあった。「上野に大津波が襲来した」「富士山が爆発した」「秩父連山が噴火した」などという偽情報がまことしやかに流れ、地方紙に掲載された。さらに混乱に拍車をかけたのが、朝鮮人に関するデマである。再び吉村昭の「関東大震災」から引用する。(一部中略・原文ママ)

「大地震の起った日の夜七時頃、横浜市本牧町附近で、『朝鮮人放火す』という声がいずこからともなく起った。その夜流布された範囲も同地域にかぎられていたが、翌二日の夜明け頃から急激に無気味なものに変形していった。『朝鮮人強盗す』『朝鮮人強姦す』という内容のものとなり、さらには殺人をおかし、井戸その他の飲水に劇薬を投じているという流言にまで発展した。殺伐とした内容を帯びた流言は、人々を恐れさせ、その恐怖が一層流言の拡大をうながした」

  この流言の発生と急速な拡散が、朝鮮人虐殺という悲惨な事件まで引き起こしたことを考えると、まさに「怪物」以外のなにものでもないと思う。そしてこの「怪物に2度と遭遇したくない=迅速で正確な情報が欲しい」という人々の強い願いが、ラジオ放送の誕生を早めるきっかけとなった。
  ラジオ放送は、1920年(大正9年)に正式の免許をうけた初の放送局がピッツバーグで放送開始後、アメリカ全土に急速に広がった。これに刺激されて日本でもラジオ放送開始への機運が高まり、政府は放送を民営で行うとする方針に沿って関係法令の整備など準備を進めた。そのさなかに関東大震災が発生し、作業は中断。しかし、震災直後、横浜港に停泊中の船が船舶無線で被災状況や救援要請をいち早く伝えるなど無線による情報伝達が一部で機能したことなどから、無線の一種であるラジオ放送への要望が急速に高まった。政府も緊急・非常時に備えるために一日も早くラジオ放送を実現すべきだとして関係法令の整備作業を再開。2年後の1925年(大正14年)3月22日の東京・芝浦での放送開始につながった。

housousi400.png20世紀放送史より(放送文化研究所編さん)

  こうして産声を上げた日本のラジオ放送は、その後、テレビやSNSなどのメディアにつながっていく。しかしその原点には、「怪物に遭遇したくない=災害時に迅速で正確な情報が欲しい」という100年前の震災を経験した人々の痛切な思いがあることを忘れてはならない。

【関東大震災から学びとる「今後起きうる災害」への警鐘】
  100年前に首都を襲った大地震。とはいえ今とは状況がかなり違う中で起きた地震だけに、どれだけの教訓があるのか。気象庁が今年1月4日に立ち上げた特設サイトを通じて各防災機関の資料を調べてみた。関東大震災というと有名なのはやはり「火災」。発生時刻が正午前と昼食時間帯だったこともあって次々に出火し延焼。火災による死者は震災の死者の約9割にものぼる。特に4万人余りが犠牲になった東京の陸軍被服廠跡地で起きた「火災旋風」は、非常にまれな現象であることもあり、メディアも頻繁に取り上げる。私自身、社会部の災害担当記者時代に火災旋風を作り出す実験を専門家に行ってもらうなどして火災旋風のおそろしさを伝える番組を作ったことがある。しかし、今回、資料を読み込むことで、関東大震災では火災以外にも多くの災害が起き、それはいずれも「今後起きうる災害」につながっていることを知った。

daisinsai400.png関東大震災の被災地 気象庁ホームページより 

  震災で火災のほかに起きた災害としては、まず津波があげられる。早いところでは地震発生から5分程度で襲来。相模湾沿岸や伊豆半島東岸で大きな被害が出て、死者は200人から300人にものぼるとされた。特に神奈川県小田原市根府川では河口付近で遊泳中の子ども約20人が犠牲になったという。津波で子どもが犠牲になる被害は、1983年の日本海中部地震や2011年の東日本大震災などでも起きている。これを教訓に、今、各地の学校などで子どもたちを津波から守る防災教育が進められているが、関東大震災のこの悲惨な被害も忘れてはならないと思う。
  また、土砂災害も多発。山沿いを中心に、地震発生の前日にかなりの量の雨が降ったことが原因の一つとされている。この「地震前の雨」が要因となったとされる土砂災害も、平成30年(2018年)の「北海道胆振東部地震」などで起きている。
  さらに「海上火災」も起きていた。神奈川県横須賀市では、当時、海軍の基地があり、8万トンの重油を貯蔵する重油タンクがあったが、これが破損。
流出した油が海面を覆って引火し、火の海となった。海上に流れ出した重油に火がつく大火災は、東日本大震災の際、宮城県気仙沼市などでも起きている。私自身、社会部の災害担当記者時代に、東日本大震災関連の番組用に、海上を漂う重油に火がつき燃え広がるメカニズムを取材したことがあるが、それとほぼ同じ現象が100年前に起きていたことを今回初めて知った。さらに思い起こせば、東日本大震災が起きる7年ほど前、仙台放送局の記者時代に、取材で気仙沼市を訪れた際、同行した津波防災の専門家が「もし大津波が来たら、気仙沼湾にある重油タンクが危険だ」と指摘していた。これはその後、東日本大震災で現実のものとなる(震災直後に気仙沼市の被災地を取材した際、津波に流され破損して陸に打ち上げられた巨大なタンクを見て、悔しくて仕方がなかったのを覚えている)のだが、当時はそれほどの危機感を持って原稿を書くことができなかった。このとき、この関東大震災の横須賀市の事例を知っていればもっと違った伝え方ができたのでは、と悔やまれてならない。
  東日本大震災以降、国などは、南海トラフや千島海溝・日本海溝沿いの巨大地震、そして首都直下地震などの新たな被害想定を次々に発表している。100年前に起きた現象・被害が再び起きるおそれのあることを是非知るべきだと自戒を込めて強く思う。
  関東大震災の史実から学びとる「今後起きうる災害」への警鐘をいかに対策に生かすことができるか。そして、ラジオ放送開始のきっかけとなった「迅速で正確な情報が欲しい」と願った人たちの思いを放送に携わる私たちは、しっかりと受け止め災害報道に生かさなければならない。
  関東大震災から100年を迎える今年は、防災対策と災害報道のあり方を問い直す、節目の年となりそうだ。

調査あれこれ 2023年02月14日 (火)

#453 「低位安定」の岸田内閣 ~支える自民党支持者の動向は~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 1月23日に通常国会が召集され、6月21日までの150日間にわたる与野党論戦に入りました。ただ、ことしは4月に統一地方選挙があるため、4月中の会期を十分に活用できるとは限りません。それだけに濃密な議論と時間の使い方が政府にも与野党双方にも求められます。

 初日の施政方針演説で、岸田総理大臣は12の章立てをして、自らの内閣の向こう1年の基本方針を国民に訴えました。防衛力の整備強化、新しい資本主義の進展、子ども・子育て政策の推進などを並べましたが、具体策は後で示すというものが目立ちました。

 例えば、新しい資本主義の部分では、年功序列型賃金を見直し、構造的な賃上げを実現するために日本企業に合った「職務給」導入のモデルを6月までに示す。また、子ども・子育ての部分では、今の社会で必要とされる政策を取りまとめ、6月の骨太方針までに予算倍増に向けた大枠を提示する。

1月23日施政方針演説 1月23日施政方針演説

 一見すると締め切りの時期を示した誠実な姿勢に見えますが、裏を返せば結論の先送りです。見方を変えれば、5月のG7広島サミットまでは外交に専念し、内政課題については霞が関官僚の年間スケジュールに合わせて時間稼ぎをしているとも言えます。スピード感に欠けています。

 施政方針演説をもとに衆参両院での代表質問、そして衆議院予算委員会での質疑へと進んでいますが、答弁で具体的な政策内容が浮上している気配はありません。

 こうした中で、2月のNHK電話世論調査は10日(金)から12日(日)にかけて行われました。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  36%(対前月+3ポイント)
 支持しない  41%(対前月-4ポイント)
 わからない、無回答  23%(対前月±0ポイント)

NHK世論調査での岸田内閣の支持率は、去年7月に発足以来最も高い59%を記録した後、下降局面に入りました。去年12月と今月は、前の月より若干支持率がアップしましたが30%台のままです。「低位安定」が継続していると見ることができます。

 この「低位安定」を支えているものはと言えば、やはり自民党支持者です。2月調査でも自民党支持者のうち61%が岸田内閣を支持すると答えていて、支持するが17%の野党支持者、18%の無党派とは大きな差があります。

 ただ、自民党支持者の中にもテーマによってさまざまな考え方が存在し、岸田総理にとってもとらえどころに苦慮する面がありそうです。今月の調査から2つの項目を見てみます。

☆政府は増額する防衛費の財源の一部を確保するため、増税を実施する方針です。あなたはこれに賛成ですか。反対ですか。

 賛成 23% < 反対 64%

これを詳しく見ると次のようになります。

 自民党支持者 賛成 33% < 反対 58%
 野党支持者 賛成 17% < 反対 76%
 無党派 賛成 18% < 反対 71%

野党支持者、無党派ほどではありませんが、防衛費増額のための増税に対しては、自民党支持者でも否定的な考えが多いことが分かります。

 いつの時代でも国民は増税に警戒感を持ちます。それが何に使われ、どれだけ自分の暮らしの安定に役立つのかが明確にならなければ、簡単には賛成しません。

 岸田総理は、日本を取り巻く安全保障環境の悪化に対応する防衛費増額なので、今を生きる我々が負担すべきものとして、国債発行で将来につけを回す方法はとらないと明言しています。財政健全化を目指す観点から妥当な判断と言えます。

 しかしながら、この基本的な方針を最後まで貫くことができず、議論を続ける中で国債発行で賄うという結論に至ったならば腰砕けのそしりを免れません。まず、足元の自民党支持者に理解を得るための努力、とりわけ反撃能力を保有することが国民の命と日本の社会システムを守るうえでなぜ必要か、どこまで有効かの説明を尽くす必要がありそうです。

☆あなたは、男性どうし、女性どうしの結婚を法律で認めることに賛成ですか。反対ですか。

 賛成 54% > 反対 29%

こちらも詳しく見ると次のようになります。

 自民党支持者 賛成 51% > 反対 38%
 野党支持者 賛成 57% > 反対 33%
 無党派 賛成 62% > 反対 20%

この数字を見て、私は少々驚きました。自民党の国会議員などと話していると伝統的な家制度を継承すべきという主張が多いのですが、自民党支持者の数字からは野党支持者、無党派層と大きな傾向の違いを感じません。より多角的に調査してみる必要があるとは思いますが、自民党支持者の中にも時代の変化に身を添わせるべきという考え方が広がっているように感じます。

 今回の調査の1週間前に、総理秘書官が記者団に内閣の基本姿勢を解説する中で「同性婚は嫌だ」と発言して更迭される出来事がありました。本人が何を守ろうとしてこうした発言をしたのかは定かではありません。ただ、岸田内閣を支える自民党支持者に寄り添おうと考えて発言したとしたならば、これは少々現状を見誤っていたということなのかもしれません。

 「低位安定」の岸田内閣について見てきました。こういう状況の下で行われる4月の統一地方選挙。とりわけ41の道府県議会議員選挙が注目点になりますが、与野党の勢力図にどういう変化が現れるのかは流動的です。

 国会論戦の中で、岸田総理が先頭に立って具体的な中身に踏み込んだ発信を積み重ねることができるかが、政権を担う自民党にとって欠かせない要素になりそうです。

調査あれこれ 2023年01月19日 (木)

#442 幼児のネット動画視聴が急増。調査からみえたテレビとの使い分けの実態は? ~2022年「幼児視聴率調査」から~

世論調査部 (視聴者調査) 舟越雅

文研ではこれまで、年に一回のペースで幼児を対象にした視聴率調査を行ってきましたが、この調査は「視聴率」と銘打ちながら、実は録画番組やインターネット動画の利用状況についても把握することができます。
テレビのリアルタイム放送の視聴だけでは、多様化する幼児のメディア利用を正確につかめないことから、調査項目に加えているのですが、最近はその存在感が以前より増してきており、2022年に行われた最新の調査でも、勢いが裏付けられました。

2~6歳の幼児「リアルタイムのテレビ・録画番組やDVDの再生・インターネット動画」の週間接触者率

こちらのグラフは2~6歳の幼児の、「リアルタイムのテレビ」、「録画番組やDVDの再生」、「インターネット動画」の週間接触者率(調査期間の1週間で15分以上利用した割合)です。今年を入れて3回分の調査結果です。(2020年はコロナ感染拡大により実施せず)
2019年から2022年にかけて、リアルタイムと録画+DVDは減少しているのに対して、インターネット動画は2019年の4割弱から今年は67.8%と、大きく増加しました。2019年の時点では、リアルタイムとインターネット動画のボリュームはまだまだ差がありましたが、次第に肩を並べつつあります。

そんなインターネット動画ですが、ではどのような形で利用されているのでしょうか。
「幼児がインターネット動画をどんな機器で見ているのか」について尋ねた結果(複数回答)では、今年は「テレビ」が73%、ついでタブレット端末が44%、スマートフォン(携帯電話)が38%でした。昨年はテレビ65%、タブレット44%、スマートフォン39%でしたので、テレビで視聴する子どもが増加しています。
昨年の調査結果をご紹介したブログでも、「インターネット動画視聴にテレビ画面が最も利用されているのは幼児の特徴」と書きましたが、今年はその特徴がより強まっていることが分かります。

また、テレビやインターネット動画などを視聴する「場面」について聞いた結果をみると、それぞれがシーンによって微妙に使い分けられていることもみえてきます。

テレビを利用する場面(付帯質問・複数回答) インターネット動画を利用する場面(付帯質問・複数回答)

こちらはテレビが視聴される場面について、テレビとインターネット動画それぞれで分けたグラフです。
テレビでは「保護者が家事や仕事などで手が離せない時」(50 %)や「子どもが番組を見たがる時」(46 %)、「家族で番組を楽しみたい時」(35 %)などが上位に来ます。物理的な理由や子どもの主体性、そして周囲の家族との団らんなど、さまざまな場面でテレビが選択されていることがわかります。
ではインターネット動画はどうでしょう。「子どもがコンテンツを見たがる時」が69%と、かなり多く、「保護者が家事や仕事などで手が離せない時」(51%)が続きます。テレビとの違いに注目すると、「手が離せない時」はいずも5割強でいずれも同程度ですが、「コンテンツを見たがる時」はインターネット動画の方が、「家族で楽しみたい時」はテレビの方が、それぞれ高くなっています。
保護者の手が離せない時は様々な場面があり、テレビもインターネット動画も選択されますが、子どもが「自分が見たい」と思う内容を選択できたり、見たい時間帯に都合の良いコンテンツが見られるかといった側面では、ネット動画の使い勝手が良いのかもしれません。一方で、家族と一緒に番組を楽しむなどその場でのコミュニケーションを重視したい時には、テレビが選ばれる場面もあるようです。

テレビとインターネット動画のボリュームは拮抗しつつあり、いずれもテレビの大画面で見ている子どもたちが多いようですが、実際に見ているシーンやその背景をみていくと使い分けがされているのは興味深いですね。
ではこの傾向は、果たして幼児全体に言えるものなのか、あるいは年齢が増すにつれて強まるものなのでしょうか。そしてテレビとネット動画を利用している時間帯や、見ているコンテンツなどもまた異なっているのでしょうか。このあたりの詳しい結果は「放送研究と調査」12月号に掲載しています。気になった方は、ぜひそちらをご覧ください!

調査あれこれ 2023年01月16日 (月)

#441 進むか? 放送アーカイブの「公共利用」

メディア研究部 (メディア動向)大髙 崇

今年、テレビ放送開始から70年という節目を迎えました。

これまで、星の数ほど、というと大げさかもしれませんが、とにかく毎日毎日、膨大な数の番組が放送されてきました。
そして今、NHK・民放とも、再放送やインターネット配信、過去の出来事を伝える新たなコンテンツの制作など、放送アーカイブの活用に力を入れています。(ここでは、放送局が保存する、過去に放送した番組やニュースの音声・映像とその素材を、ひとまとめに「放送アーカイブ」と総称します)

放送アーカイブが貴重な文化資産であることは論をまたないでしょう。放送局が、自らのコンテンツとして、アーカイブを発信する取り組みは今後もますます盛んになるはずです。どんな面白いコンテンツが生まれるか、ぜひご期待ください。

ただ同時に、放送アーカイブ活用に向けた調査研究を続けている私としては、「それだけでいいのか?」という思いも募ります。
視聴者側である一般の皆さんが、この膨大な放送アーカイブを手軽に視聴し、それぞれの目的のためにもっと利活用しやすい環境を整備することも、必要だと思うからです。

「〇年前に放送した番組の上映会を開催したい」
「研修や授業に活用したい」
「とにかくもう1度見たい」
「静止画でいいから使わせてほしい」
……などなど、放送局にはアーカイブの提供を求める数多くの要望が寄せられます。
さまざまな立場の人が利活用することで、私たち放送関係者だけでは気づかなかった放送アーカイブの価値が見出されるはずです。
しかし、こうした要望に放送局は応えられている、とは言い切れないのが現状です。

『放送研究と調査』2022年12月号に、「放送アーカイブ×地域と題した論文を発表しました。
石川・富山・福井の北陸3県の博物館や図書館などを主な対象に、展示や講座などで放送アーカイブを利用したいか、を問うアンケートの結果をまとめ、考察しています。
高い利用ニーズが確認されたことに加え、その理由や利用方法などに関する回答からは、放送アーカイブが持つたくさんの可能性が浮き彫りになりました。

博物館など、地域の文化施設でそれぞれのニーズに応じた利用が進むとすれば、放送アーカイブが地域文化の一翼を担える未来が見えてきます。それは放送局にとって、新たな地域貢献になるはずです。
学校などでの教育目的の利用、学術研究目的の利用などもまた然り。
公共性と公益性の高い、「公共利用」がより多く実現することで、“テレビ離れ”が進む今、放送局の存在意義の再構築につながるでしょう。

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放送アーカイブが、放送局による新たなコンテンツとして展開するだけでなく、多くの人々によって「公共利用」される未来は来るのか。その可能性と課題に向き合っています。ぜひともご一読いただき、ご意見をいただけますと幸いです。
『放送研究と調査』2022年12月号
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これまで筆者が執筆した放送アーカイブに関する主な論文
※「放送アーカイブ "懐かしい"のその先へ ~NHK回想法ライブラリー活用の現場から~」
 『放送研究と調査』2019年7月号(https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20190701_6.html
※「再放送の可能性を探る(前編)」
 『放送研究と調査』2021年2月号(https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20210201_7.html
※「再放送の可能性を探る(後編)」
 『放送研究と調査』2021年7月号(https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20210701_5.html
※「放送アーカイブ活用と肖像権ガイドライン 過去の映像に写る顔は公開できるか」
 『NHK放送文化研究所年報2022』第65集(数藤雅彦と共著)(https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20220201_2.html
※「『絶版』状態の放送アーカイブ 教育目的での著作権法改正の私案」
 『放送研究と調査』2022年6月号(https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20220601_6.html

調査あれこれ 2023年01月11日 (水)

#440 年明けも変わらない低空飛行~消えぬ岸田政権の懸念材料~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 新年最初に岸田総理大臣が国民に向けて声を発したのは、4日に伊勢神宮に参拝した際の年頭記者会見でした。柱は「インフレ率を超える賃上げの実現」「異次元の少子化対策への挑戦」の2点。

kishidanentou.jpg1月4日 三重県伊勢市

 1年前の年頭記者会見は、押し寄せるオミクロン株の感染拡大に対処する受け身の発言に終始していました。それと比べると、この1年で新型コロナウイルスへの守りの態勢が定まってきていることもあって、岸田総理は先々に向けて何とか前向きなトーンを打ち出そうとしているように感じました。

 しかし、年明け早々の1月7日(土)から9日(月・祝)にかけて行われたNHK月例電話世論調査の数字は芳しいものではありませんでした。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。 

 支持する  33%(対前月-3ポイント)
 支持しない  45%(対前月+1ポイント)

この33%という内閣支持率は、一連の閣僚辞任ドミノが始まってから記録した昨年11月調査の支持率と同じで、岸田内閣発足後、最も低い数字です。

 年末の12月27日になって秋葉復興担当大臣を事実上更迭し、後任には元復興担当大臣の渡辺博道衆議院議員を据えました。秋葉氏は政治資金をめぐる問題などで野党側の追及がやまず、通常国会に備えて守り固めを図ったわけです。とはいえ、昨年10月以降、次々と4人の閣僚が辞任というのは岸田総理の任命責任が厳しく問われる事態に他なりません。

2gamen.png秋葉復興相          渡辺復興相

 岸田総理は新しい年を迎えるのに合わせて心機一転を図ろうと考えたのでしょうが、国民の側は厳しい視線を向け続けています。

☆岸田内閣は2か月で4人の閣僚が辞任することになりました。あなたは、岸田総理大臣の任命責任についてどう思いますか。

 任命責任がある  71%
 任命責任はない  22%

 任命責任があると答えた人は与党支持者で7割、野党支持者では8割以上、無党派で7割以上に上っています。政権を支える与党支持者の7割が総理の任命責任ありとしている点は見過ごすことができません。

 さらに岸田内閣が低空飛行を続けている理由には、昨年末に駆け込むように政府・与党で決定した防衛費の大幅増額に対し、幅広い国民の理解が得られていないことが考えられます。とりわけ防衛増税に対する反発が目立ちます。

☆政府は、増額する防衛費の財源を確保するため増税を実施する方針です。あなたは、これに賛成ですか。反対ですか。

  賛成   28%
  反対   61%

これを与党支持者について見ると防衛増税に賛成4割、反対5割ですが、野党支持者では反対8割、無党派で反対7割と反発の強さは明らかです。相手国に対する「反撃能力」を保有するなど、国の根幹をなす歴史的な政策変更にも関わらず、政府・与党の中だけで決めたことへの不満。幅広い理解には程遠い数字です。

1004bouei.jpg この「反撃能力」というのは、これまで敵基地攻撃能力としてきたものを、あくまでも専守防衛の考え方の範囲内と説明するために改めたものです。しかし、従来、敵国に対する攻撃は日米安全保障条約に基づいて、アメリカ軍に担ってもらうというのが基本姿勢でした。それを一部とはいえ自衛隊自身が射程距離の長い攻撃兵器を保有し、使いこなそうというのですから大転換に他なりません。

 この問題は1月23日に召集される見通しの通常国会で論戦の柱になるでしょう。いや、公然と議論しなくてはいけないテーマです。

 論点の一つに、敵国の攻撃着手をどの時点で把握したと判断するかという問題があります。国際法上、相手に先に戦争を仕掛ける先制攻撃は認められていませんので、政府も先制攻撃は意図していないという立場です。

 日本周辺で相手国が弾道ミサイルなどを発射した場合、瞬時にそれを感知できるのはアメリカ軍の早期警戒衛星だけです。その端緒情報の提供を受けて自衛隊のイージス艦が搭載する高性能レーダーなどで追尾し、迎撃するというのが現在の防衛システムです。

 これと同じ情報収集システムを利用しながら、どの段階で日本に対する攻撃と評価するのか、あるいはできるのかは極めて微妙で、難易度の高い問題です。

 国際法に反する先制攻撃と見られないようにするには、確実に日本の領土に攻撃が及び、国民に被害が出る蓋然性が高いと判断できるまで「反撃能力」を行使しない、つまり具体的な能力として保有する長距離ミサイルや巡行ミサイルを使わないという説明が必要でしょう。

 しかし、自民党内の強硬派の中には「実際に被害が出るまで使わないと宣言するならば意味がない」「張り子の虎だ」といった意見もくすぶっています。
この問題が自民党内政局、自民党の中で政治的な対立や抗争が起きる火種にもなりかねません。

 歴代の内閣が憲法の下で培ってきた専守防衛の考え方を、岸田総理が今の安全保障環境に照らしながらどう具体的に説明するのか。防衛力の強化に一定の理解を示しているものの、不安も抱えている国民に納得してもらう説明ができるのか。かたや自民党内の強硬派を抑えることができるのか。

 これだけ考えても難題中の難題です。懸念材料の最たるものです。しかし、岸田政権を取り巻く懸念材料には、旧統一教会と政治の関係、とりわけ自民党議員との関係についての不明瞭さも加わってきます。
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 4月に行われる統一地方選挙、中でも41の道府県議会議員選挙を前に、長年にわたって旧統一教会の支援を受けてきた立候補予定者の存在が浮上しかねません。与野党問わず、実務の先頭に立ってきた選挙プロの人たちが口をそろえる点です。

 通常国会の論戦、そして統一地方選挙を乗り切りながら、岸田総理がリーダーシップを発揮し続けることができるのか。

 首脳外交でポイントゲットを狙う5月のG7広島サミットに至る道のりには、地雷原が横たわっていると考えておいた方が良さそうです。

 

調査あれこれ 2022年12月20日 (火)

#439 2月24日と7月8日が今年の原点~私のメディア研究

メディア研究部 (メディア動向) 上杉慎一

 国内メディアの動向を担当している私にとって、2022年の2月24日と7月8日はテレビ報道の研究を進めるうえで大きな原点となりました。2月24日は「特別軍事作戦」としてロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始した日、7月8日は安倍晋三元総理大臣が銃撃され死亡した日です。

 2月24日に始まったウクライナ侵攻は、21世紀に起きた侵略戦争として連日大きく報道されました。侵攻初期の段階で、テレビの主なニュース番組が何を伝えたのかは、「ウクライナ侵攻初期にテレビは何を伝えたか~ソーシャルメディア時代の戦争報道~」(「放送研究と調査」7月号)にまとめています。

 ご紹介した論考でも述べているのですが、2022年春の時点で、戦闘が長期化するおそれが指摘されていました。現在の状況を見ると、当時の指摘は文字通り現実のものになったと言えます。ウクライナは当初、陥落が時間の問題とさえ言われていた首都キーウを奪還しただけでなく、その後、反転攻勢に出て、冬を迎えた今も双方の攻防が続いています。
 この間、テレビ各局は毎月24日に「侵攻開始から〇か月」というスタイルで情報をせき止め、様々な角度から報道を続けていました。しかし、事態の長期化もあってか、このところこうしたスタイルでの報道も減ってきています。NHKの「ニュース7」「ニュースウオッチ9」、日本テレビの「news zero」、TBSテレビの「news23」、テレビ朝日の「報道ステーション」の5番組を見ると、「侵攻から8か月」の10月24日にウクライナ侵攻を取り上げた番組はありませんでした。「侵攻から9か月」の11月24日には、「ニュース7」だけがこのニュースを取り上げていました。無論、事態に大きな変化があれば各局とも手厚く報道しています。例えばポーランド国内にミサイルが落下し犠牲者が出たこと(※ウクライナが迎撃のために発射したとみられている)を伝えた11月16日には、4番組がこのニュースをトップで扱い、「報道ステーション」は20分近くの時間を割きました。とはいえ、長期化する戦争をどう伝え続けていくのかが、これからますます問われることになりそうです。

 一方、国内で起きた出来事に目を転じると、忘れられないのが安倍晋三元総理大臣が奈良市の駅前で街頭演説中に銃で撃たれて死亡した7月8日の報道です。この日、NHKと民放キー局では深夜までこのニュースを報じ続け、地上波の放送時間は合計60時間におよびました。その全体像は「安倍元首相が撃たれた日~テレビが伝えた7月8日~」(「放送研究と調査」11月号)に詳しく記録しています。

 事件のあと注目されたのが、9月27日に行われた安倍氏の国葬を巡る問題、それに旧統一教会=世界平和統一家庭連合と政治家との関係を巡る問題でした。とりわけ旧統一教会との関係を巡る問題は、山際経済再生担当大臣(当時)の辞任にもつながりました。また、12月に入って被害者救済を図るための新たな法律が成立したうえ、文部科学省が宗教法人法に基づいて2度目の質問権を行使しました。安倍元総理大臣死亡の衝撃が全国に広がった7月8日の時点では、事件のあとこのような展開になるとは誰も予期できなかったはずです。
 旧統一教会に対し2度にわたる質問権を行使した文部科学省は、今後、解散命令に該当しうる事実関係を把握した場合、裁判所への請求を検討することにしています。一方、安倍元総理大臣の銃撃事件で殺人容疑で逮捕され、精神鑑定を受けている容疑者は、鑑定の期間が2023年1月10日までとなっています。奈良地検は鑑定結果などを受けて、容疑者を起訴するかどうか判断することにしています。いずれも年明け以降の動きが注目されます。

 2022年に注目されたニュースは、これまで述べてきた2つだけに限りません。例えば北朝鮮の相次ぐミサイル発射の問題、日本の安全保障や防衛費の増額を巡る問題、ウクライナ情勢などを受けた物価高騰の問題、言論統制を強める中国の問題、さらに依然、衰えることのない新型コロナウイルスの問題など、挙げていけばきりがないほどです。メディア研究では1つの1つの事象に真剣に向き合えば向き合うほど、調査・研究に時間が必要です。このため直面する課題すべてを網羅することはできませんが、そうした課題を日本のメディアがどのように伝え、人々がそれをどう受け止めたのかという視点を持ち続け、新しい年も研究に取り組んでいきたいと考えています。