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調査あれこれ

調査あれこれ 2023年12月08日 (金)

新聞・テレビ各社の「ファクトチェック」実施状況アンケート【研究員の視点】#515

ファクトチェック研究班 斉藤孝信/上杉慎一/渡辺健策

 デジタル情報空間が拡大し続ける中、インターネット上での誤情報・偽情報の氾濫が深刻な社会課題になっている。人々に正しい情報を届けるためには、そうした真偽が疑わしい情報を検証し、その検証経過や結果を伝えるファクトチェックの取り組みが不可欠である。
 日本国内では、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)や日本ファクトチェックセンター(JFC)といった非営利の団体・組織が活発にファクトチェックをおこなっている。一方で、そうしたファクトチェック団体などからは、日本ではマスメディアによる取り組みが遅れていると指摘されてきた。
 そこで文研では、この問題に関する研究プロジェクトを立ち上げた。今後、シリーズで、国内の新聞・テレビ各社に対して行ったアンケートや取材の結果を報告する。
 初回は、メディアによるファクトチェックの実施状況を把握するために、全国の主な新聞社と、東京・大阪・名古屋のテレビ局(民放・NHK)、74社を対象に実施したアンケート結果を紹介する。調査期間は2023年3月7日(火)から27日(月)で、22社から回答があった。この調査におけるファクトチェックの定義については、ファクトチェック団体が提唱している「チェックの結果を、専用のサイトで、検証経過や根拠も含めて個別に公表すること」とする旨を、協力依頼の段階で伝えた。なお、今回は調査時点の各社の回答を尊重し、その後の取り組みの変化や、各社の詳細な取り組みの実態や思いなどについては、次回以降のブログで報告したい。


ファクトチェック「日常的におこなっている」のは少数派
 まず、日常的にファクトチェックをおこなっているか否かを尋ねたところ、22社中、8社(新聞5社、テレビ3社)が「おこなっている」と答えた(図1)。
1208_factcheck_zu1.png どのような媒体や情報をチェックの対象にしているのかについて、「おこなっている」社の回答は以下のとおりであった。
・「チェックの対象は決めていないが、SNSを中心に、偽情報とみられる情報の根拠を分析し、誤りや曖昧な点を取材して指摘している」(琉球新報)
・「ファクトチェック・イニシアティブの基準に沿って、SNSから選挙ビラまで、あらゆる媒体を対象に実施している」(沖縄タイムス)
・「政治家の発言などを対象に、ファクトチェック・イニシアティブの判断基準をもとに報じている」(朝日新聞)
・「投稿者について、過去の投稿、広がりやつながり、投稿日時に矛盾はないかを含むヒアリング、住所、氏名の確認をおこなっている」(フジテレビ)


報道機関の使命として
 チェックを「おこなっている」8社に対し、取り組む動機を複数回答で尋ねた(表1)。 最も多かったのは「報道機関の責任・使命だから」で、8社すべてが挙げた。うち4社は「他の地域や海外の事例を見て、取り組むべきだと判断したから」とも答えている。一方で、「当事者・被害者からの要望があったから」は1社にとどまった。
 注目したいのは、読者や視聴者の存在を意識した「読者・視聴者の信頼を得たいから」(6社)、「読者・視聴者のニーズがあるから」(5社)を挙げた社の多さである。
 アンケートでは、実際に読者や視聴者からどのような反響があったのかも尋ねた。その結果、「ネットで肯定的に拡散されることも多い」(沖縄タイムス)、「継続的に調査・報道・ファクトチェックしていただけるよう希望しますなどという声が寄せられる」(朝日新聞)、「2022年11月20日に放送した特番『ザ・ファクトチェック』では、視聴者から好意的な反応が多く来た」(日本テレビ)などおおむね好評のようで、「読者から一定の支持が得られていると認識している」(北海道新聞)と手応えを感じている社が多い。
 個別の記事への評価にとどまらず、その社全体の「ブランディングに役立つ」と考える社も2社あった。一方で、「購読者数や視聴率が伸びるから」取り組むという社は1つもなかった。
 このように、現時点でファクトチェックを「おこなっている」メディアは、まずは“果たすべき責任である”という使命感で取り組み、読者増や視聴率向上につながるとは考えていないことがわかった。 1208_factcheck_hyou1.JPG


人手不足と見極めの難しさ
 では、実際にファクトチェックに取り組む中で、どのような課題を感じているのだろうか。
引き続き、「おこなっている」8社に複数回答で尋ねた結果を紹介したい(表2)。
 最も多かったのは「人手が足りない」の5社であった。また「知識・スキルのある人材の育成が進まない」と答えた社も2つある。チェック自体の難しさを挙げる社もあり、「情報の真偽の見極めが難しい」が4社、「チェックの対象選びが難しい」も3社となった。
 なお、「専門部署がある」と答えたのは1社のみであった。つまり、ほとんどの社では、特にファクトチェックを専門としているわけではない記者が、日頃の取材や記事執筆のかたわら、対象の選定や真偽の見極めに苦労しながら、ファクトチェック記事“も”書いているのである。

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 実施している8社が挙げた課題は、ファクトチェックを「おこなっていない」14社が、取り組みに踏み出せない原因にもなっている。
 表3は「おこなっていない」社に、なぜ実施しないのかを複数回答で尋ねた結果である。
 「要員が確保できないから」が10社と大半を占めた。次いで「専門的な知識・スキルがないから」も7社にのぼる。
 「おこなっていない」14社からは、「必要性を感じているが、体制がまだ取れていないのが現状。検討する考えはあるが、時期は未定」(地方新聞社)、「実施すべきと思うが、そのための人員や予算がないのが実情。また放送での発言をチェックして後日放送するにしても、そのための放送枠を作るのも難しい」(在阪テレビ局)など、ファクトチェックの意義には賛同するものの、人手や予算、アウトプットの場の確保など、現実的な困難さのせいで踏み出せないといった声が多かった。また、「地方紙単独で実施するには、あらゆる面でリソース不足だ。地方紙連携などで、調査期間を設け、テーマを定めて行うなど、メディア全体で取り組む環境が必要だ」(地方新聞社)という意見も聞かれた。

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ファクトチェックの“現在地”~自由記述の回答から~
 最後に、全社に対して「フェイクニュースやファクトチェックに関して、どのような問題意識をお持ちですか?」と尋ね、自由に答えてもらった結果を抜粋して紹介したい。

○報道機関の“使命感”~政治・選挙に関するファクトチェック~
 報道機関の使命だと捉えている社が多かったことは述べたとおりだが、中でも政治や選挙における偽・誤情報を防ぐことに強い使命感を抱いているという意見が多くみられた。
 「虚偽情報が政策や政治の信頼に関わる分野で流れると、有権者が誤った認識で投票し、 健全な民主主義のプロセスが大きくゆがめられる危険性がある。それを食い止めるのは、 報道機関として当然、挑まなくてはならない課題である」(地方新聞社)
 「選挙期間中の報道はとりわけ政治的公平性が求められるが、真偽不明の情報が飛び交い、有権者の投票行動に影響を及ぼしかねないのであれば、報道機関として取材を尽くし正しい情報を伝える使命は感じている」(在阪テレビ局)

○ファクトチェック記事は、読者・視聴者に届くのか?
 ファクトチェックをおこなっている社が、読者増や視聴率向上のためではなく、使命感で取り組んでいる旨はすでに紹介したとおりだが、そうして発信したところで、本当に読者や視聴者に届けることができるのかという不安や、波及力の限界に関する声もあった。
 「視聴者、ユーザーがまず知りたいのは、社会で起きている事象そのものであり、その先にある『何が起きたのか』『ナゼ起きたのか』だろうから、ファクトチェックの営みは、直接的に視聴者、ユーザーのニーズを満たしづらいのではないか」(在京テレビ局)
 「フェイクニュースの拡散は、個人・企業を問わず大きな問題だが、拡散された誤情報を打ち消すのは、象徴的な出来事がない限り不可能だ」(地方新聞社)

○マスメディア自体の信頼は?
 ファクトチェックをおこなうには、まずメディア自身の信頼を高めることが先決だろうという自戒の念についても、複数の社が言及している。
 「既存のマスメディアも自らの記事をチェックしなければ『ご都合主義的』と見られかねない懸念がある。紙媒体と放送、ネットメディアなどで、『紙の新聞は正確』『ネットは不確か』などとレッテルを貼り合っていては話が進まない。全媒体がチェックを受ける覚悟を持つべきだ」(地方新聞社)
 「SNS上のフェイクニュースを正そうとする前に、信頼されるメディアという存在意義を見つめ直し、再構築すべきだ」(地方新聞社)

○ファクトチェックの定義は? 責任は誰に?
 ファクトチェックを誰が実施すべきか、その責任の所在について、疑問を投げかける声も多くあった。また、今回のアンケートでは、ファクトチェックの定義について、ファクトチェック団体が提唱している「チェックの結果を、専用のサイトで、検証経過や根拠も含めて個別に公表すること」としたが、回答した社に取材したところ、「自社の記事やコンテンツの中で誤情報を出すことがないよう日常的に行っている事実確認」も、広い意味でのファクトチェックなのではないか、と捉えているところもあった。
 こうした意見からは、デジタル情報空間の急拡大とそこで生まれる偽・誤情報対策という新たな難題にどう向き合うべきなのか、メディア自身の課題整理が追いついていない現状が浮かび上がってくる。
 「ファクトチェックという言葉の定義が曖昧。社会的な認知度や理解度が、マスコミを含め、 不足している。ファクトチェックのプロセス(何を対象に、どのような確認検証をしたのか)を読者、視聴者、有権者にできる限り知らせ、自ら確認できる透明性を確保する必要がある」(地方新聞社)
 「フェイクニュースは淘汰(とうた)されるべき存在であるのは当然だが、自社メディアが報じたわけでもない情報を、当事者でもない我々がチェックするのは疑問だ。偽情報の氾濫はプラットフォーマーやネット自体の信頼性を著しく低下させるものであり、インターネット事業者側の責任においてチェックするのが自然ではないか」(在名新聞社)
 「表現の自由との兼ね合いもあるが、情報発信者やプラットフォーム事業者の責任を明確にする必要がある。情報リテラシー教育をさらに推進する必要もある」(地方新聞社)

  次回以降のブログでは、研究班が、各メディアを取材した結果を報告していきたい。

調査あれこれ 2023年11月22日 (水)

まもなくCOP28がスタート!日本人は気候変動についてどう思ってる? ~ISSP国際比較調査「環境」から~【研究員の視点】#512

世論調査部(社会調査)村田ひろ子

 2023年11月末からUAE=アラブ首長国連邦で開かれる国連の気候変動対策の会議「COP28」では、国連の気候変動枠組条約に加盟するおよそ200か国が、地球温暖化など世界的な気候変動による影響や対策について議論を行う予定です。会議は、各国が自主的に設けた温室効果ガスの削減目標がどの程度達成されているのかを確認する場にもなるわけですが、日本については、2021年に「2030年度までに温室効果ガスの排出量を13年度比で46%削減する」という方針を打ち出しています。
 この目標を達成するためには、ひとりひとりの意識が重要なことは言うまでもありませんが、果たして日本人は環境問題や気候変動についてどのように考えているのでしょうか?2020年に実施し、2023年8月末にリリースされた国際比較調査※1の結果からみていきます。この国際比較調査、日本からはNHK放送文化研究所が参加しています。

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 『環境問題について心配している』※2という人は、日本で8割近くにのぼり、比較データのある28の国や地域の中で3番目に多くなっています。また、気候変動による世界的な気温の上昇が『危険だと思う(極めて+かなり)』という人も8割近くで、各国の中で上から5番目になっています。

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 各国と比べて、多くの日本人が環境問題や気候変動について不安に思っている様子がうかがえます。
 それでは、環境保護に対する意識も高いのでしょうか。『環境を守るためなら、今の生活水準を落とすつもりがある(すすんで落とす+ある程度は落としてもよい)』と回答した人の割合をみると、日本では約3割にとどまり、各国の中ではやや少ないほうです。さらに、20代以下の若い人に限ってみると、日本では2割に届かず、下から数えて4番目に位置付けています。
 日本人の多くが環境や気候変動について心配しているわりには、環境を守るためであっても、自分の生活を犠牲にしたくないと考えているようです。

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 もう一つ、気になる結果をみてみましょう。『私だけが環境のために何かをしても、他の人も同じことをしなければ無意味だと思う』かどうかを尋ねた結果です。『無意味だと思う(どちらかといえばを含む)』※3と答えた人は、日本で61%を占め、各国の中で4番目に多くなっています。さらに20代以下に限ってみると、日本では73%にのぼり、1番多くなります。日本では、市民が「メディアを通じて気候変動に関する政治・経済動向についてはよく知っている一方で、それらが自分の生活や活動に関連した問題としてはとらえにくく、自分の行動によって社会を変えられるとの感覚を持てない」という指摘※4があります。
 個人1人では、環境問題はとうてい解決できない、という無力感が日本の若い世代にまん延しているとしたら、とても気がかりです。

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 まもなく始まる「COP28」で、世界的な気候変動による影響や対策が話し合われる予定ですが、日本でも脱炭素社会のあり方についての議論が高まるのかどうか、引き続き注目したいと思います。


※1 ISSP国際比較調査「環境」
ISSP Research Group (2023). International Social Survey Programme: Environment IV - ISSP 2020. GESIS, Cologne. ZA7650 Data file Version 2.0.0, https://doi.org/10.4232/1.14153.

※2 「まったく心配していない」を「1」、「非常に心配している」を「5」として、1~5までの中から選んでもらい、「4」と「5」を合算して『心配している』とした。また、各国の回答傾向を把握しやすくするため、「わからない」や無回答を除外して集計している。

※3 「賛成」と「どちらかといえば、賛成」を合算した結果。

※4 ジェフリー・ブロードベント、佐藤圭一(2016)「世界のなかの日本—気候変動対策の政策過程」、長谷川公一・品田知美編、『気候変動政策の社会学—日本は変われるのか』、昭和堂


○おすすめ記事
脱炭素時代の環境意識 ~ISSP国際比較調査「環境」・日本の結果から~
#334 予想外?予想どおり? 日本人の環境意識

【村田ひろ子】
2010年からNHK放送文化研究所で社会調査の企画や分析に従事。これまで、「中学生・高校生の生活と意識」「生命倫理」「食生活」に関する世論調査やISSP国際比較調査などを担当。

調査あれこれ 2023年10月20日 (金)

部活にまつわるエトセトラ ~「中学生・高校生の生活と意識調査2022」から~【研究員の視点】#508

世論調査部(社会調査)村田ひろ子

 猛暑の夏が終わり、ようやく秋らしくなってきましたね。近所の商店街で、テニスラケットを持った中高生たちがたい焼きをおいしそうにほおばっているのを見かけて、「秋といえば、スポーツ、それからなんといっても食欲だよね」と一人納得したのでした。もちろん芸術の秋も楽しみたいですよね。

 話は少しそれますが、中高生にとって、スポーツや芸術といえば、部活動ではないでしょうか。イマドキの中高生たちは、どのように部活動に取り組んでいるのか、気になりませんか?NHK放送文化研究所が昨夏、全国の中高生を対象に実施した世論調査※1の結果を確認してみましょう。

 学校で、部活動をしているかどうかを尋ねた結果、中学生では、「体育系(運動部)にだけ入っている」という人が6割以上を占めています。高校生では4割近くで、中学生より少なくなっています。また、部活動に『入っている(体育系+文化系+両方)』人は、中学生が8割、高校生が7割で、多くの中高生たちが部活動に入っていることがわかります。

部活動に入っているか1020_1_nyuubu.png

 それでは、中高生たちは自分が入っている部活動にどのくらい満足しているのでしょうか? 中高ともに『満足している(とても+まあ)』が9割近くにのぼります。部活動の内容別にみると、「体育系(運動部)にだけ入っている」人も、「文化系にだけ入っている」人も、『満足している』が9割近くで、差はありません。

部活動に満足しているか(分母:部活動に入っていると回答した人)1020_2_manzokudo.png

 中高生の多くが、部活動に満足しているのはなぜでしょうか?部活動に入っている理由を複数回答で尋ねた結果をみると、中高ともに「自分がやりたかったから」が他の選択肢を引き離して最も多く、中学生が72%、高校生が76%にのぼります。「自分がやりたかったから」を選んだ人の部活動の満足度は9割を超えていて、それ以外の回答を選んだ人の満足度(約7割)と比べてかなり高くなっています。やりたいことが選べて満足できている人が多いようです。一方で、学校で必ず入ることになっているという回答が1割程度あります。学校の方針なのでしょうが、納得できていればいいのですけど、少し心配もしてしまいます。

部活動に入っている理由(複数回答、分母:部活動に入っていると回答した人)1020_3_riyuu.png

 さて、中高生は、部活動を通じて多くの人と知り合い、交流を深めていると考えられますが、部活動と友だちづきあいの間には関連がみられるでしょうか? 高校生では、「ちょっとした悩みごとを相談できる友だち」や「深刻な悩みごとを相談できる友だち」がいる人は、部活動への参加の有無では差がありません。一方、中学生では、部活動に入っている人のほうが、いずれの場合についても、割合が高くなっています。高校生と比べて行動範囲が限定され、おのずと学校内の友人関係が中心になるなか、部活動に入っている子のほうがクラス以外の交友範囲が広がって、深い関係の友だちのいる割合が高くなっているのかもしれませんね。

友だちがいる人の割合(部活動への参加の有無・中高別)1020_4_yuujinnsuu.png

 中高生について調べた世論調査の結果は、他にもたくさん!SNS利用やジェンダー意識、親子関係、学校生活など、イマドキの中高生の意識、ぜひ、こちらからチェックしてみてください!
今どきの中高生たち~第6回「中学生・高校生の生活と意識調査2022」単純集計結果~

※1 第6回「中学生・高校生の生活と意識調査2022」

○おすすめ記事
コロナ禍の不安やストレス,ネット社会の中高生~「中学生・高校生の生活と意識調査2022 」から①~
ジェンダーをめぐる中高生と親の意識~「中学生・高校生の生活と意識調査2022」から②~

【村田ひろ子】
2010年からNHK放送文化研究所で社会調査の企画や分析に従事。これまで、「中学生・高校生の生活と意識」「生命倫理」「食生活」に関する世論調査やISSP国際比較調査などを担当。

調査あれこれ 2023年10月12日 (木)

経済対策は国民の心に届くのか?~内閣改造も政権浮揚につながらず~【研究員の視点】#507

NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 9月13日に行われた内閣改造は、上川陽子外務大臣をはじめ5人の女性閣僚の起用で注目されました。ところが2日後に決まった副大臣と政務官は全員が男性。思わず「艶消し」という言葉を思い浮かべた人もいれば、与党の女性議員の層が薄いと感じた人もいたことでしょう。

 この改造人事の後、最初のNHK電話世論調査が、10月7日(土)から9日(月・祝)にかけて行われました。

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☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

  支持する   36%(対前月±0ポイント)
  支持しない   44%(対前月+1ポイント)

改造前と比べてほぼ横ばいでした。岸田総理の周辺は、人事によって自民党内での求心力を高め、政策遂行の力を強化するのだと力説していました。しかし、国民の側の評価は冷ややかで、いわゆるご祝儀は舞い込んでこなかったということです。

 岸田内閣の発足は2021年10月4日。新型コロナウイルスの感染拡大が社会を覆っていた時期でしたが、その後は徐々に収束の方向に向かいはじめ、永田町界わいでは「岸田総理はついている」とも言われました。

 ただ、2022年2月にはロシアがウクライナに軍事侵攻を開始し、食糧や資源の流通が滞ったりして世界規模で経済活動に影響が及び、国際社会の秩序も動揺が続いています。

☆岸田内閣の発足から2年がたちました。あなたは、この2年間の岸田内閣の取り組みを評価しますか。

  評価する   40%
  評価しない   54%

これを与党支持者、野党支持者、無党派の別に見てみると、「評価する」は与党支持者65%、野党支持者27%、無党派25%となっています。与党支持者で何とか3分の2を占めていますが、野党支持者と無党派では4分の1にすぎません。野党支持者と無党派では、「評価しない」が7割に上っています。

 この2年間、岸田総理は「新しい資本主義」「異次元の少子化対策」「安全保障の対処力強化」とスローガンを並べ立ててきました。しかしながら国民の目には具体的な優先政策が何で、自分たちに求められる新たな負担は何なのかといった点が腹に落ちていないように感じます。

 とりわけ物価高への対応を柱とする経済対策には厳しい目が向けられています。

keizaitaisaku1012_2__W_edited.jpg9月25日

 内閣改造後の9月25日に岸田総理は官邸で、「近年の税収増加を経済対策で国民に還元する」と強調しました。確かに2021年以降、所得税、法人税、消費税の基幹3税を中心に、財務省の当初の見積もりよりも結果として税収が多くなる「上振れ」が続いているのは事実です。

 ただ、これについては物価高騰で原材料費や人件費が上がった分、製品やサービスの価格に転嫁されたために税収増となっているだけで、経済の実勢が上向いているわけではないというエコノミストの分析も出ています。

☆政府は、物価高対策などを盛り込んだ新たな経済対策を、10月末をめどにまとめる方針です。あなたは、対策の効果に期待していますか。期待していませんか。

  期待している   38%
  期待していない   57%

期待していないが全体の6割近くを占めています。この設問でも、野党支持者と無党派で「期待していない」という否定的な回答が7割に達しています。

 税収が増えた分を国民に還元するということは、国民の不満や不安を解消するために、まず目先の支出、金配りを優先するということでしょう。そうなると、国が抱える多額の借金の返済に充てる財政健全化の取り組みは後回しになる懸念も生じます。

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☆政府は、新たな経済対策を早期に実施する方針です。一方で、防衛費の増額や、少子化対策強化のための財源の確保も課題となっています。あなたは国の財政状況に不安を感じていますか。感じていませんか。

  感じている   75%
  感じていない   19%

この設問に対しては、与党支持者で「感じている」が8割、野党支持者と無党派で7割超という結果になっています。岸田政権の足元を支える与党支持者の方が中長期的な財政状況の悪化を懸念しているのは少し驚きです。

 これまで国会の予算委員会で岸田総理と議論を戦わせた野党幹部に感想を聞くと、こんな答えが返ってきました。「彼は延命と自己保身にはたけているが、目指している国のあり方や国家像を感じたことはない」つまり、岸田総理は足元の出来事への対応に終始しているだけだという痛烈な批判です。

 岸田内閣の支持率が一進一退を続ける背景には、総理大臣から発せられるメッセージに耳を傾けても、近い将来のことさえなかなか見通すことができないという、一種の「もやもや感」が国民の間にあるように感じます。

 10月20日には政府の経済対策などを巡って議論する臨時国会が召集される予定で、その直後の22日には衆議院長崎4区と参議院徳島・高知合区の補欠選挙が行われます。

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 岸田総理は新たな経済対策をてこにして2つの補欠選挙で与党の2勝を目指していますが、どちらの選挙も野党候補が1本化されています。限られた地域の選挙ではありますが、岸田政権2年への評価が示される側面も否定できませんので与野党対決の結果に注目です。

 そして、この選挙結果のいかんに関わらず、物価高に苦しみ、先行きに対する不安をぬぐえない国民に、しっかりした政治のメッセージが届くことに期待せずにはいられません。

 通常国会の閉会から4か月もたっています。臨時国会での久しぶりの本格論戦が、目先のことだけでなく、多くの国民が自分たちの将来について思いをいたすことができるものになるよう、政府・与党にも野党にも期待したいと思います。

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島田敏男
1981年NHKに入局。政治部記者として中曽根総理番を手始めに政治取材に入り、法務省、外務省、防衛省、与野党などを担当する。
小渕内閣当時に首相官邸キャップを務め、政治部デスクを経て解説委員。
2006年より12年間にわたって「日曜討論」キャスターを担当。
2020年7月から放送文化研究所・研究主幹に。長年の政治取材をベースにした記事を執筆。

調査あれこれ 2023年10月03日 (火)

メディアは社会の多様性を反映しているか~2022年度調査から② ~テレビニュースでは「名前がない」女性たち~【研究員の視点】#506

メディア研究部(多様性調査チーム) 青木紀美子 小笠原晶子 熊谷百合子 渡辺誓司

テレビの多様性調査の結果を紹介する前のブログ(#505)では、テレビの世界は番組全般をみてもニュース番組をみても「若い女性と中高年の男性」が中心で、人口推計では高齢になるほど女性が多い日本の現実とかなり違いがあることをお伝えしました。それでは年齢以外の側面からみると、女性と男性の取り上げられ方には、どのような特徴があるのでしょうか。

今回は、2022年度に私たちが行った調査のうち、夜のニュース報道番組の登場人物についての分析結果から、女性と男性の取り上げられ方をみてみます。調査の対象としたのは2022年6月と11月のある1週間、平日(月~金)の夜9~11時台のニュース報道番組で話をした、あるいは話が引用された人たちです。なお性別で集計した際に、女性・男性にあてはまらない性自認や性表象の人たちは数がとても少なかったため、今回も女性と男性に絞って比べてみます。

ニュースでは、番組が登場人物を一定の重みをもって取り上げているかどうかをみる材料として、字幕表記などによって名前がわかる立場で登場しているかどうかが1つの指標になると考えました。「名前あり」「名前なし」に分類し、人数を女性と男性に分けて比べてみた結果が下の図です。

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「名前あり」は圧倒的に男性が多く、女性の5倍近くになります。また、男性に絞ってみると、「名前あり」が「名前なし」の2倍以上でした。一方、「名前なし」では女性と男性の差がかなり小さくなりました。そして、女性に絞ってみると、「名前あり」よりも「名前なし」が多いという結果が出ています。

それでは女性と男性はどのような立場で登場しているのか。これをみるために登場人物を職業・肩書別に分類したのが下の図です。女性と男性の人数の偏りが少ない指標を左から順に並べました。

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偏りが小さく、女性の人数が比較的に多いのは「親、家族」「雇員、従業員」「市民、住民、通行人」などです。一方、偏りが大きく、女性の人数が少ないのは「メディア・マスコミ関係者」「学識者、研究者、専門家」「スポーツ関係者」「政治家」「中小企業主、個人事業主」「財界人、企業経営者、役員」などでした。

ここまでの情報をあわせてみると、夜のニュース報道番組に出てくる女性は、いわば「名もなき」市民や雇員として取り上げられる人が多く、これに対して男性は、名前はもちろん社会的権威や決定権がある立場で登場することが多いことがわかります。こうした格差があるのは、なぜなのでしょうか。

これについては、日本では女性の社会進出が遅れているという現実があり、それがメディアに反映されているという側面もあるかもしれません。そこで社会の実態に比べてみるとどうか、格差が大きい職業・肩書の指標と比較可能なデータを探して比べてみたのが以下です。

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3つのグラフそれぞれ一番左側の数字が夜のニュース報道番組に登場した女性の割合、そのほかのデータは総務省などのデータをもとにしています。こうして比べてみると、テレビの世界に登場する「政治家」「学識者、研究者、専門家」「医師」における女性の割合は、社会の実態よりもさらに少ないようです。これは限られた日数のサンプル調査ではありますが、名前の有無、職業・肩書という側面からみても、テレビの世界が社会の多様性を反映しているとは、なかなか言いがたいことを示唆しています。

2回のブログでみたテレビのジェンダーバランスの偏りは何を意味しているのか、また背景には何があるのか。文研フォーラム2023秋 10月4日(水)13時~ 「メディアの中の多様性を問う~ ジェンダー課題を中心に」では、メディアにおける多様性の課題をパネリストとともに考えます。

文研フォーラムの事前申し込みは既に締め切りましたが、その後も多くの方から視聴のご要望を頂いているため、10月4日のフォーラム開催当日にも申し込みも受け付けることにしました。ご関心ある方は、当日、下記リンクからお申し込みください。受け付け後に視聴用URLを送付します。
https://www.nhk.or.jp/bunken/forum/2023_aki/index.html
上記リンクでは、10月10日(火)~12月24日(日)に見逃し配信も予定しています。

2022年度調査結果全体については、「放送研究と調査」10月号で詳しく報告しています。
https://www.nhk.or.jp/bunken/book/monthly/index.html?p=202310

また、これまでの多様性調査チームの調査報告も以下からご覧いただけます。

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか① 調査報告 テレビのジェンダーバランス
『放送研究と調査』2022年5月号 掲載

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか② 研究発表「テレビのジェンダーバランス」ディスカッションから
『放送研究と調査』2022年8月号

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか③ 将来に向けた危機感を問うアメリカの事例と専門家の提言
『放送研究と調査』2023年1月号

放送研究リポート
テレビ出演者のジェンダーバランス~トライアル調査から
『放送研究と調査』2021年10月号

調査研究ノート 海外公共放送とダイバーシティー戦略 "多様性"の指標とは
『放送研究と調査』2021年2月号

調査あれこれ 2023年10月02日 (月)

メディアは社会の多様性を反映しているか~2022年度調査から ①~テレビの世界は「中高年の男性と若い女性」~【研究員の視点】#505

メディア研究部 (多様性調査チーム) 青木紀美子 小笠原晶子 熊谷百合子 渡辺誓司

 誰もが生きやすい、多様な人々が力を発揮できる社会をつくっていくためには多様性の尊重と、公平性、包摂性の実現が欠かせないという認識が広がってきました。では、社会を映す鏡であると同時に、社会のあるべき姿を示す役割も持つメディアは多様性をどう反映しているのでしょうか?それを把握する一つの方法として、私たちは、テレビ番組に登場するジェンダーバランス、まずは女性と男性を中心に調べてみました。

 その前に、総務省の人口推計によると、日本の人口に占める女性と男性の割合は、女性は男性より多く、2022年時点で総人口の51.4%を占めています。

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 一方、テレビに登場している女性と男性の比率は、2022年度の文研の調査では、番組全般で、女性は半分に満たない約4割でした。これは、番組について放送日時や内容、登場人物などを記録したメタデータを使い、6月の1週間、NHKと民放キー局計7チャンネルで放送された全ての番組(映画、アニメ、再放送を除く)を対象に調査したものです。なお番組全般は、エム・データ社の性別分類で分析しています。

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 さらに、NHKと民放キー5局の夜ニュース報道番組(夜9時~夜11時台に放送)にしぼり、6月と11月のそれぞれ5日間(月~金)で、登場した人物を調べてみると、登場する女性の割合は、番組全般の出演者よりも1割程度少なく、約3割を下回りました。

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 次に年代別にみてみます。日本の人口統計では、50代まで男性が女性を上回っていますが、60代以降は女性が男性より多くなっています。

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 しかし、メタデータをもとに分析した番組全般出演者でみると、女性は20代が最も多く、30代以降は減少します。男性は40代がピークで50代以降は減少しますが、60代、70代とも女性より圧倒的に多くなっています。

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 夜のニュース報道番組でも同じような傾向がみられました。女性は19-39歳で最も多く、40歳以降は減少します。男性は40-64歳が最大で、65歳以降は減少しますが、40代以降、女性よりはるかに多くの男性が登場しています。

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 テレビ番組やニュースに登場する人たちは全体として男性に偏っていることがわかりましたが、ある分野では、女性の方が多い、あるいは女性と男性が半々に近い状況がありました。それが、番組の司会者やリポーターです。番組全般では「アナウンサー・キャスター・リポーター」、夜のニュース報道番組では「レギュラー出演者」という指標に分類して数えています。テレビ番組全般、夜のニュース報道番組とも、登場する数は、男女半々に近く、バランスが取れているようにみえます。

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 ところが、番組全般の「アナウンサー・キャスター・リポーター」や夜のニュース報道番組の「レギュラー出演者」も、年代別、年層別にみると、女性と男性の現れ方の違いがみえてきます。
 番組全般、夜のニュース報道番組とも、女性は20代、30代に大きく偏っています。調査からは、明らかに「中高年の男性と若い女性」という構図がみえてきました。

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 私たちは、2021年度からこの調査を行っていますが、2021年度と22年度、ほぼ同じ傾向でした。22年度は、このようなジェンダーバランスのほか、障害の有無や人種的多様性についても、テレビの登場人物をみる分析指標に加えています。調査結果全体については、「放送研究と調査」10月号で詳しく報告しています。ぜひご覧ください。
https://www.nhk.or.jp/bunken/book/monthly/index.html?p=202310

 また、文研フォーラム2023秋 10月4日(水)13時~ 「メディアの中の多様性を問う~ ジェンダー課題を中心に」では、こうした調査データもご紹介しながら、メディアが社会の多様性推進に向けて、果たすべき役割について、パネリストとともに広く考えます。
すでに事前申し込みは締め切りましたが、その後も多くの方から視聴のご要望をいただいておりますので、今回は当日申し込みも受け付けることにいたしました。当日になりましたら、ぜひ下記リンクからお申し込みください。受付後に視聴用URLを送付します。
https://www.nhk.or.jp/bunken/forum/2023_aki/index.html

なお、同時配信を見逃された方は、10月10日(火)~12月24日(日)まで、上記HPで見逃し配信を予定しています。

 

これまでの多様性調査チームの調査報告は以下からご覧いただけます。

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか① 調査報告 テレビのジェンダーバランス
『放送研究と調査』2022年5月号

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか② 研究発表「テレビのジェンダーバランス」ディスカッションから
『放送研究と調査』2022年8月号

連載 メディアは社会の多様性を反映しているか③ 将来に向けた危機感を問うアメリカの事例と専門家の提言
『放送研究と調査』2023年1月号

放送研究リポート テレビ出演者のジェンダーバランス~トライアル調査から
『放送研究と調査』2021年10月号

調査研究ノート 海外公共放送とダイバーシティー戦略 "多様性"の指標とは
『放送研究と調査』2021年2月号

調査あれこれ 2023年09月12日 (火)

内閣改造を"ばね"にできるか? ~自民党総裁選まで1年~【研究員の視点】#504

NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 岸田文雄氏が第100代内閣総理大臣に就任し、岸田内閣が発足したのがおととしの10月4日。来月で丸2年になります。その先の来年9月には3年間の任期満了を受けての自民党総裁選が予定されています。

 この2年間、内閣支持率は一進一退と言わざるをえません。それでも経済の回復基調と税収の増加、それにG7広島サミットなど首脳外交での手応えを感じながら、岸田総理は次の総裁選での再選を視野に入れているというのが大方の永田町関係者の見方です。

 そうした状況のもとで、9月8日(金)から10日(日)にかけてNHK月例電話世論調査が行われました。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

  支持する   36%(対前月+3ポイント)
  支持しない   43%(対前月-2ポイント)

6月以降、3か月連続で支持率が低下していましたが、今月はわずかながら持ち直した形です。各種の世論調査でも同様の傾向が現れていて、「一旦底を打った模様」という受け止めが出ています。

 この1か月間で、岸田内閣の姿勢が評価され、若干の支持回復につながった動きは何だったのか考えてみます。

 今回の世論調査で質問を重ねた調査項目に、8月24日に開始された福島第一原子力発電所の処理水放出に関するものがあります。

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☆東京電力福島第一原発の処理水の海への放出が始まりました。あなたは、この対応が妥当だと思いますか。妥当ではないと思いますか。

  妥当だ   66%
  妥当ではない   17%

これを与党支持者、野党支持者、無党派の別に見てみると、「妥当だ」は与党支持者79%、野党支持者65%、無党派60%となっていて、いずれでも「妥当ではない」を大きく上回っています。

 この問題では、風評被害を心配する国内の漁業者から依然反対の声が上がっています。これに対し政府は、IAEA=国際原子力機関の全面的な協力を得て、安全性に問題がないことを科学的なデータで示す努力を継続することで理解を得ようとしています。

 国際標準を十分に満たす安全性が確保されていることを具体的なデータで公表する対応によって、国民の間に理解が広がっていると言えそうです。

 そしてもう一つ重要なのは、風評被害が起きないようにするために欠かせない国際社会への説明の努力です。

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☆岸田総理大臣は、ASEAN=東南アジア諸国連合と日中韓の首脳会議で、中国による日本産の水産物の輸入停止は「突出した行動だ」と指摘し、処理水放出の安全性について理解を求めました。あなたは、こうした働きかけを評価しますか。評価しませんか。

  評価する   75%
  評価しない   14%

9月6日に岸田総理が行った説明に対しても、国民から肯定的な評価が示されました。

 トリチウム以外の放射性物質を取り除き海水で希釈した処理水を、中国政府は一方的に「汚染水」と表現して批判を強めていました。これまでのところ、中国側の公式発言に変化はありません。

 ただ、上記のASEANと日中韓の首脳会議に先立って岸田総理が中国の李強首相と15分ほど立ち話をした際には、処理水問題で激しいやりとりにはならなかったということです。

 この問題に詳しい外務省幹部は「国際社会の中で日本への反発が拡大していかない状況を見て、中国側も徐々に冷静な対応を模索しているようだ」と分析しています。日本の取るべき態度は、科学的データを開示しながら冷静な対応を促し続けることに尽きます。

 さらに処理水を巡る対応の他にも、今回の調査で政府の姿勢を支持する傾向が示された項目がありました。旧統一教会の解散命令を巡る設問です。

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☆旧統一教会を巡る問題で、政府は質問権の行使などによる調査をふまえ、教団に対する解散命令を裁判所に請求するか検討を進める方針です。あなたは解散命令の請求に賛成ですか。反対ですか。それともどちらともいえませんか。

  賛成   68%
  反対   1%
  どちらともいえない   24%

反対はわずかに1%。この問題では一部に信教の自由を巡る議論もありますが、その点に重きを置く人も反対ではなく「どちらともいえない」に回っているようです。長年にわたって強引な勧誘や多額の寄付の強要などが問題視されてきただけに、政府が旧統一教会に対して厳しい姿勢で臨むことを期待する声は強いといえます。

 以上見てきましたが、この世論調査の結果が公表された11日に、岸田総理は内閣改造と自民党役員人事を行うための調整に入りました。

 党幹部と相次いで会談し、麻生副総裁、茂木幹事長の続投が早々と固まりました。つまり岸田政権の土台は大きく変わらないということですので、改造による閣僚の入れ替えがあっても党内の安定優先に変化はないでしょう。

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 つまり、岸田総理としては来年秋の自民党総裁選での再選を視野に入れて、いわゆる「総主流派体制づくり」を目指すということです。

 岸田総理の足元の岸田派は党内第4派閥です。党内最大派閥の安倍派、第2派閥の麻生派、第3派閥の茂木派などの協力を得ながら、衆議院の解散・総選挙のタイミングを探ることにもなります。

 連立を組む公明党の山口代表との間では、一旦宙に浮いた東京での選挙協力を復活させることを確認し、9月4日に合意文書に署名しています。

 これまで支持率は一進一退だった岸田内閣が、内閣改造の機会を"ばね"にして安定度を増すのか。対する野党は次の衆議院選挙に向けて、若干なりとも足並みをそろえる方向に進むのか。

 まずは10月のNHK世論調査での、岸田改造内閣に対する有権者の評価に注目したいと思います。

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島田敏男
1981年NHKに入局。政治部記者として中曽根総理番を手始めに政治取材に入り、法務省、外務省、防衛省、与野党などを担当する。
小渕内閣当時に首相官邸キャップを務め、政治部デスクを経て解説委員。
2006年より12年間にわたって「日曜討論」キャスターを担当。
2020年7月から放送文化研究所・研究主幹に。長年の政治取材をベースにした記事を執筆。

調査あれこれ 2023年08月30日 (水)

関東大震災100年 ~地震と台風の「同時・時間差襲来」にどう備えるか~【研究員の視点】#502

メディア研究部(メディア情勢)中丸憲一

kantoudaisinnsaitunami_1_W_edited.jpg関東大震災の津波被害(気象庁ホームページより)

 2023年9月1日で、関東大震災の発生から100年になります。東京など首都圏を中心に約10万5,000人の犠牲者を出したこの大災害から学ぶべきことは多くあります。筆者は、元災害担当記者の経験を生かしながら、メディア研究の視点で、2023年9月1日発行予定の『放送研究と調査』9月号に、「地震と台風の『同時・時間差襲来』にどう備えるか」というテーマで論考を執筆しました。詳細な内容はそちらをご覧いただくとして、このブログでは、論考で書き切れなかったことも含めて記述し、関東大震災の教訓とともに考えていきたいと思います。

【関東大震災の被害を代表する火災旋風 だが…】
 「関東大震災」というと火が竜巻のようになって人々に襲いかかる「火災旋風」を思い浮かべる人も多いと思います。東京の本所区(現:墨田区)にあり、空き地になっていた「被服廠(ひふくしょう)跡」で発生し、家財道具や荷物を持ちながら避難してきていた約4万人が犠牲になったとされます1)
 この「火災旋風」をはじめとして、各地で火災が発生し、延焼が拡大。火災による犠牲者は約9万人にのぼり、全犠牲者の約9割に達しました2)。 その数の多さに加え、火災旋風という非常にまれな現象が引き起こした災害とあって、関東大震災をメディアが取り上げるときには、「火災の延焼と火災旋風」がメインに据えられることが多いです。しかし関東大震災の被害は、それだけではありません。土砂災害や津波などでも多くの犠牲者が出ています。このため論考では、あえて火災の記述を大幅に省き、火災以外の災害について多く記述するようにしました。

【関東大震災は「複合災害」 原因の1つが「同時襲来した台風」】
 前述した火災もそうですが、神奈川県などで多発した土砂災害も、震災発生当日の朝に能登半島付近にあった台風が関係しているとされています。この台風の震災発生2日前からの動きを、気象庁に残されている当時の天気図で見てみます。

まず震災発生2日前の8月30日午前6時には、台風は九州南部の南西海上にあることがわかります。

tenkizu0830_2_W_edited.jpg8月30日午前6時の天気図(気象庁図書館所蔵)

震災発生前日の8月31日午前6時には、台風は九州北部付近にあります。このあとおおむね北東へ進みます。この影響で、神奈川県などでは山地を中心にかなりの雨が降りました。

tenkizu0831_3_W_edited.jpg8月31日午前6時の天気図(同上)

そして震災発生当日の9月1日午前6時には、台風は能登半島付近にあることがわかります。この台風による強風が火災を、前日からの大雨が土砂災害を引き起こした原因の1つになったとされています3)。つまり、関東大震災は、地震と台風が重なり「同時襲来」した複合災害だったといえます。

tenkizu0901_4_W_edited.jpg9月1日午前6時の天気図(同上)

【「同時襲来」を思い起こさせた『ある地震』】
 実は、この「同時襲来」は関東大震災だけではありません。統計がないので正確な数はわかりませんが、筆者は以下の2つのケースがあげられると考えています。1つは、2022年9月の台風14号です。猛烈な勢力で九州南部に接近し、気象庁は鹿児島県に「台風の特別警報」、その後、宮崎県に「大雨の特別警報」を発表しました。この特別警報が出ているさなかに、台湾付近を震源とする大地震が発生。沖縄県の宮古島・八重山地方に津波注意報が発表され、各メディアは、台風報道と津波注意報の伝達をほぼ同時に行わなければならなくなりました。
 もう1つは、2009年8月11日午前5時7分に駿河湾を震源として発生したマグニチュード6.5の地震です。静岡県内で最大震度6弱の揺れを観測。静岡県沿岸と伊豆諸島に津波注意報が発表され、静岡県内で実際に津波が観測されました。当時は「東海地震が予知できる」と言われていたころで、地震が発生した場所が東海地震の想定震源域内だったことから、このときの各メディアの報道は「東海地震との関連性はあるのか」という方向に集中しました(最終的に気象庁は「今回の地震は想定される東海地震に直接結びつくものではない」と発表した4))。当時、筆者は社会部の災害担当記者で、「東海地震との関連性」への取材にもあたりましたが、それ以上に記憶に残っていることがあります。それは、地震発生当時に本州の南海上にあった台風9号です。当時のニュース原稿には、地震発生時刻に近い午前5時の推定位置が、「和歌山県の潮岬の東南東160キロの海上」で東北東へ進んでいる、と書かれています。駿河湾にかなり近い場所に台風が接近していたのです。実際に、地震発生から約1時間半後の11日午前6時32分までの1時間には、強い揺れがあった静岡県伊豆市の天城山で76ミリの非常に激しい雨を観測しました。この台風は、地震発生2日前の9日から前日10日にかけて兵庫県や徳島県など西日本に大雨をもたらし、浸水や土砂災害などで大きな被害が出ていました5)。このため、地震発生は早朝でしたが、この台風への対応で複数の災害担当記者が出勤していて、地震と台風の原稿を手分けして書き続けました。
 今回、関東大震災100年について調査を進める中で、この2つの事例を思い起こし、「もっと大きな地震と猛烈台風が重なった場合、メディアは適切な情報伝達が可能なのか」という問いが浮かびました。筆者にとっては、これが論考を執筆する出発点となりました。また論考では、台風が時間差で襲来したために土砂災害が多発した2004年の新潟県中越地震や2018年の北海道胆振東部地震についても触れています。

【「台風+地震」の複合災害を独自シミュレーション】
 では、台風と地震の「同時・時間差襲来」で何が起きるのでしょうか。国や自治体による想定がない場合に、専門家による監修をもとに、災害の新たな危険性を伝えることも、メディアの重要な役割です。このため筆者はメディア研究者の立場から専門家に依頼して独自にシミュレーションを行いました。依頼したのは、津波防災に詳しい常葉大学の阿部郁男教授。神奈川県沿岸の一部地域を対象にして、先に台風が襲来して高潮による浸水が起こり、その後、地震が発生して津波が押し寄せるという「台風先行→地震後発型」で行いました。台風がまず近づき、その後地震が発生したという状況は、関東大震災もそうですし、前述の「2009年の駿河湾の地震」にもあてはまるからです。また、今回のシミュレーションでは、関東大震災と同じタイプの相模トラフのプレート境界を震源とする地震で、対象地域周辺で津波が最大となる断層モデルを使用しました6)。対象とした地域は人口が多く大勢の観光客も訪れます。東日本大震災以降、「想定外をなくすこと」が重要視されていることから、多くの人の命を守るために、あえて最大級のケースをもとに計算しました。

「高潮+津波」の浸水シミュレーション動画(画像提供:常葉大学 阿部郁男教授)
 

 シミュレーションを動画で見てみます。赤く塗られた部分が浸水したエリアです。最初の画面では対象範囲の中央付近を中心に高潮で浸水していることがわかります。そして動画が動き出すのと同時に地震が発生。地震から30分後以降に、画面右上の海側から次々に津波が押し寄せ、浸水が広がっていきます。シミュレーションの結果、最大で対象範囲の44%にあたる3.63平方キロメートルが浸水。「台風による高潮のみ」のケースに比べて最大浸水範囲が約2倍に広がりました。

prof.abe_5_W_edited.jpg常葉大学 阿部郁男教授

この理由として、阿部教授は、先に高潮が発生し、潮位がふだんより上がっているところに津波が押し寄せるので、高潮で浸水したエリアよりも広い範囲が浸水すると分析しています。そのうえで、「9月などの台風シーズンは、もともと潮位がかなり高く高潮が発生しやすい。その高潮のあとに津波が来るという想定は、これまでほとんどされてこなかった。ただ、台風と地震がほぼ同時に襲来した関東大震災の例を考えても、十分ありうる」と指摘しています。

【同時襲来想定は『パンドラの箱』 メディアに何ができるのか】
 こうした地震と台風の「同時・時間差襲来」による複合災害にどう備えればいいのでしょうか。また、メディアには何が求められるのでしょうか。
 筆者は、災害時の避難や防災情報に詳しい、京都大学防災研究所の矢守克也教授と議論を重ねました。詳細は論考に記載していますが、議論からは▼たとえば高潮を対象に指定していた避難所が、津波にも対応できるのかなど、避難所が複数の災害に対応できるか点検する必要があることや、▼自分の住んでいる地域の外に早めに逃げるなど、「他地域への積極的な疎開」についても今後は考えるべきだ、といった意見が出ました。

prof.yamaori_6_W_edited.jpg京都大学防災研究所 矢守克也教授

 議論の中で矢守教授は、「台風と地震は、1つだけでもかなり厳しい災害なのに、2つ同時に襲来するとなるとさらにシビアになる。これまで多くの防災関係者が見て見ぬふりをしてきた課題だと思う」と指摘。その上で「まさに『パンドラの箱』を開けるようなものだが、地球温暖化の影響や巨大地震の切迫度などを考えると、考え始めなければならない課題だ」とその重要性に言及しました。
 東日本大震災以降、「想定外をなくすこと」が、求められるようになりました。論考やこのブログで摘示してきたデータなどからは、地震と台風の「同時・時間差襲来」はもはや想定外とはいえないと思います。
 関東大震災から100年。『パンドラの箱』を開けてみることに意義があると考えます。そして「他地域への積極的な疎開」などの新しい避難の形を実現するためには、交通情報の迅速かつ正確な伝達の重要性などが、これまで以上に増すことが考えられます。住民の命を守るために、メディアとしてできることを考えていくことこそが、災害の教訓を生かすことだと確信しています。


1)武村雅之『関東大震災 大東京圏の揺れを知る』(2003 鹿島出版会)p13-16 および
『令和5(2023)年版防災白書』p4

2)2006年7月 中央防災会議 災害教訓の継承に関する専門調査会
「1923関東大震災報告書-第1編-」p4

3)武村雅之『関東大震災 大東京圏の揺れを知る』p13,図1
2006年7月 中央防災会議 災害教訓の継承に関する専門調査会
「1923関東大震災報告書-第1編-」p50

4)駿河湾の地震については、気象庁 災害時自然現象報告書2009年度 【災害時地震・津波速報】
平成21年8月11日の駿河湾の地震(東京管区気象台作成/対象地域 静岡県)を参照した。
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/saigaiji/saigaiji_200903.pdf

5)2009年台風9号については、気象庁 災害時自然現象報告書2009年度 【災害時気象速報】平成21年台風第9号による8月8日から11日にかけての大雨(対象地域 九州、四国、中国、近畿、東海、関東甲信、東北地方)を参照した。
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/saigaiji/saigaiji_200902.pdf

6)神奈川県「津波浸水想定について(解説)」記載の「相模トラフ沿いの海溝型地震(西側モデル)」を参照した。
https://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/774580.pdf
また、国土地理院「重ねるハザードマップ」も参照した。
https://disaportal.gsi.go.jp/maps/?ll=35.012002,139.921875&z=5&base=pale&vs=c1j0l0u0t0h0z0

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【中丸憲一】
1998年NHK入局。
盛岡局、仙台局、高知局、報道局社会部、災害・気象センターで主に災害や環境の取材・デスク業務を担当。
2022年から放送文化研究所で主任研究員として災害や環境をテーマに研究。

★筆者が書いた、こちらの記事もあわせてお読みください
日本海中部地震から40年 北海道南西沖地震から30年 2つの大津波の教訓【研究員の視点】#494
1991年 雲仙普賢岳大火砕流から考える取材の安全【研究員の視点】#481
#473「災害復興法学」が教えてくれたこと
#460 東日本大震災12年 「何が変わり、何が変わらないのか」~現地より~
#456「関東大震災100年」震災の「警鐘」をいかに受け止めるか

調査あれこれ 2023年08月25日 (金)

朝のメディアに求めるものは?【研究員の視点】#501

世論調査部(視聴者調査)渡辺 洋子

 朝は必ず決まったテレビのチャンネルを見る、あるいは起きたらまず、好きなYouTuberの配信を確認するなど、毎日同じ時刻に特定のメディアを見るというような習慣はありますか?

 毎日の生活の中にメディアはどのように組み込まれているのか、そしてそれはなぜ使われているのでしょうか。
 調査からは、朝のメディア利用には、情報取得という目的に加えて、気分という要素も重要だということがみえてきました。
 世論調査のデータ、そしてオンラインインタビューで聞いた声をご紹介します。


 まずは、朝、決まって見たり聞いたりしているメディアについて、世論調査の結果をご覧ください。複数のメディアを使う人も多いと思いますが、ここでは「もっともよく利用するもの」を回答してもらっています。

朝:毎日、同じような時刻や状況で、決まって見たり聞いたりしているメディア
(もっともよく利用するもの)real-time-tv.png

※詳細な数値は『放送研究と調査』2023年8月号「朝のテレビ視聴減少の背景を探る~オンラインインタビューの発言から~」をご覧ください。

 「毎日決まって見たり聞いたりしているメディアはない」という人は全体では21%と、8割弱の人は何らかのメディアを決まって見たり聞いたりしていることがわかります。そして全体では、朝にもっとも利用するものとして、リアルタイムのテレビ放送を挙げた人が50%と、テレビが大きな存在感を占めています。
 もっとも利用しているメディアは性別や年齢で異なり、男性の30代以下ではリアルタイムのテレビ放送を挙げる人が3割以下と全体と比べて低くなっている一方、YouTubeは6~8%と全体(2%)と比べて高くなっています(男性30代:8%、男性16~29歳:6%)。また、SNSも全体では3%に過ぎませんが、男女の16~29歳では17~18%でした。

 30代以下では、朝、習慣としてYouTubeやSNSをもっとも使うという人が、他の年層より多くを占めていることがわかります。


 では、具体的にYouTubeやSNSは、朝の生活シーンの中でどのように使われているのでしょうか。19~39歳の方々にオンラインインタビューで朝のメディア利用を聞いた様子をご紹介します。

 まずは、朝起きてすぐにSNSを見る方の声です。

【女性29歳 パート・アルバイト】
(今朝、起きてからの時間の過ごし方は)
  8時半くらいに目覚ましのアラームで起きて、10分くらい二度寝をした。
  布団の中でTwitterを見て、起きて朝ご飯を食べたり、着替えたりして、今に至る。

(朝いちで立ち上げるのは必ずTwitterか)
  ほぼTwitter。

(Twitterではどんな情報を見ているのか)
  フォローしている人のタイムライン見たりTwitterのトレンドを見たりしている。

(寝ながらTwitterのチェックとのことだが)
  中身を見るというよりは、眠気覚まし的に見ている感じ。

(どんなところが眠気覚ましとして働いているのか)
  情報量がほぼないつぶやきが多いので、すぐに頭に入ってくる。

【女性34歳 主婦】
(布団の中で何かメディアを見ていたか)
  スマホでネットニュースとLINEとInstagramを見ていた。

(それぞれどんな目的でどんな気分で見ていたか)
  ネットニュースは新しいことが起きていないかとチェックする習慣がある。
  Instagramも暇さえあれば開いちゃう習慣になっている。

(LINEは何を見ているか)
  友人から来ていたLINEと、公式のアカウントで登録しているものを見ていた。

(ベッドの中でゴロゴロしながら見るインスタ、LINEはどんな助けになっているか)
  目を覚ますため。ちょっと気分転換になる。

【男性36歳 会社員】
(起きてから触れたメディアは)
  インスタ。あとはLINE。

(何を見たのか)
  LINEはメッセージが来ていたのでその確認。インスタは完全に暇つぶし。まだ起きたくないと。

(布団の中で見ていたのか)
  そう。

(インスタで具体的に見ていた内容は、流し見だったか)
  暇つぶしで本当に流し見だった。

(朝の気分の何がインスタやLINEに合っているのか)
  まだ起きたくない葛藤があり、そのためにインスタとかLINEとかをチェックしている。
  まだちょっと起きるには体がだるい。だるさから起きようと思う気持ちまでのつなぎ

(インスタLINEから得られる情報がどんなものだからか)
  情報がというよりも見る行為、光を目に浴びているから。それが目を強制的に起こしている感じだと思う。

 3人とも、朝布団の中でSNSを見ています。情報を取得するというより、まだ覚醒しきっていない状態で、いつも利用するSNSをタップして画面を眺めているという状況が見受けられます。友人からのメッセージを確認する人もいますが、どちらかというと、目が覚める状態に持っていくまで、頭と体に負荷をかけずに一定の時間を過ごすための道具として使われている様子がうかがえます。

 SNSは1日の生活のさまざまな時間帯で使われていますが、寝起きの場面では、頭が完全に起きていない中、内容を楽しむというより、朝までに起きたことや寝ている間に届いたメッセージを確認したり、あるいはただなんとなく眺めたりするために使われていることがわかります。


 続いて、朝に習慣としてYouTubeを見ている方の声です。

【男性25歳 会社員】
(朝食を食べながらYouTubeと書いてあるが、好きなYouTuberとして直近では何を見ていたか)
  芸人の霜降り明星が好きで、それを見ていた。結構、朝はほぼ毎日の習慣と言ってよいほどに見ている。
  更新が結構1日ごとにあるので、毎回面白いし見ている。

(ヘビーなネタが多いかと思うが、朝に見るのか)
  笑う要素があり、気分も楽しくなってくる。

(寝床で朝ゴロゴロしながら見ている動画はどんな役割を果たしているか)
  気分を上げるもの。

(望ましい内容は)
  お笑いとかで気分を上げていくのが一番望ましい

【女性25歳 会社員】
(朝は目についたYouTubeをテレビで見ているのか)
  そう。

(お笑い系が多いか)
  これ(YouTubeの【食の雑学2chスレ】)はお笑い系というより、外のサイトで一般人が討論、文章ですごいやりあったものをまとめて音声で流すようなチャンネルで、画面を見なくても良いのが一番のメリット

(選びたくなる内容は)
  本当に何でも良いけど、ライフハックとか、こういう牛丼700日食べたとかの挑戦とか、面白い感じが良い

(出かけるまでの時間がどんな時間だから、ライフハック、チャレンジ系が聴きたくなるのか)
  とりあえず楽しい気分になりたい。ニュースとかよりも面白いとか、楽しい気持ちになれるものを選ぶ傾向にある。

(朝のメディア視聴、動画を見たり聴いたりしている時間はどんな時間なのか)
  朝の時間は自分の1日のテンションを上げるような時間にしたい

(そのために必要な要素は)
  やはり動画や音楽など受け取れるので、自分はすごく楽しい、頑張ろうと思えるコンテンツを見る。東海オンエアとか読み上げ系。


 この2人に共通しているのは、1日が始まる朝、気分を上げたりテンションを上げたりすることを求めて、楽しい気分になるコンテンツを選択しているということです。それぞれ、面白いと思うコンテンツの内容は異なりますが、YouTubeの幅広いコンテンツはこうした個々の好みやニーズに応えるものとして使われていることがわかります。

 今回のインタビューからは、朝のメディア利用では「起きようと思う気持ちまでのつなぎ」だったり「テンションを上げるもの」だったり、その時々の気分に応じたコンテンツが求められているということがわかりました。
 もちろん、朝のメディア利用には情報性も重要な要素です。前述の世論調査の自由記述からも、朝は、世の中の動向や自分の関心ごとを確認し、最新の情報に更新するためにメディアに接するケースが多いことがわかっています。インタビューでも、出かける前にその日の天気や交通情報、最新のニュースをリアルタイムのテレビ放送やニュースアプリなどから得ているという声がありました。
 しかし、それだけではなく、朝の生活に寄り添うメディアとなるには、そのシーンに応じた気分を満たすということも重要だと言えるのではないでしょうか。

『放送研究と調査』2023年8月号「調査研究ノート・朝のテレビ視聴減少の背景を探る~オンラインインタビューの発言から~」では、こうしたインタビューでの発言を基に朝のメディア利用について考察しています。ぜひご覧ください。

『放送研究と調査』2023年7月号「コロナ禍以降のメディア利用の変化と,背景にある意識~「全国メディア意識世論調査・2022」の結果から~」


おススメ記事
『放送研究と調査』2023年7月号
「コロナ禍以降のメディア利用の変化と,背景にある意識~「全国メディア意識世論調査・2022」の結果から~」
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/20230701_5.html
『放送研究と調査』2023年8月号
「調査研究ノート 朝のテレビ視聴減少の背景を探る~オンラインインタビューの発言から~」
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/20230801_4.html

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【渡辺洋子】
2001年NHK入局。仙台放送局、千葉放送局でニュースなどの企画制作、国際放送局でプロモーション・調査を担当。
放送文化研究所では視聴者調査の企画・分析に従事し、国民生活時間調査は2005年から担当している。
共著『図説日本のメディア[新版]』『アフターソーシャルメディア 多すぎる情報といかに付き合うか』など。

調査あれこれ 2023年08月01日 (火)

あなたはコンテンツや情報にお金を払いますか?【研究員の視点】#500

世論調査部(視聴者調査)渡辺 洋子

 インターネットで面白そうだと記事を読み始めたら、「ここから先は有料」の文字・・・。
 あるいは、面白そうな動画を見つけ、見たいと思ったら有料だった

 みなさんは、このような経験をしたことはありませんか。
 こうした時、あなただったらどうしますか。
 お金を払ってでも見る? それとも、お金を払ってまでは見ない?

 世の中の人は、どうなのでしょうか。
 NHKが行った世論調査をもとに、考えてみようと思います。

 こちらは「全国メディア意識世論調査・2022」で、映像コンテンツや情報にお金を払うことについて、どのように思うかを尋ねた結果です(図1)。

図1 お金を払うことに対する意識
graph1_ishiki.png

「映像コンテンツ」と「情報」のそれぞれについて、お金を払ってでも見たい(手に入れたい)かどうかを尋ねたところ、「好きな番組や動画なら、お金を払ってでも見たい」と答えた人が35%、「自分の知りたい情報は、お金を払ってでも手に入れたい」と答えた人が31%で、お金を払ってでも見たい、あるいは手に入れたいという人はともに3割台でした。※「どちらかといえば」を含む

 一方、お金を払ってまで見たい、あるいは手に入れたいと思わないと答えた人が6割以上を占めていて、
好きな番組や動画、自分の知りたい情報に対して、お金を払ってまで見たい、手に入れたいという人は多くないことがわかります。

 回答者全体では、このような結果となりましたが、年齢による違いはあるのでしょうか?
 年層ごとの結果を示したのが下のグラフです(図2)。

図2 お金を払うことに対する意識(年層別)graph2_1_ishiki.pnggraph2_2_ishiki.png

 映像コンテンツでも、情報でも、若い人たちほどお金を払ってでも、見たい、あるいは手に入れたいという意識が強い傾向がみられます。
 特に16~29歳では、「好きな番組や動画なら、お金を払ってでも見たい」と答えた人が52%と半数を超えていて、自分の知りたい情報に対する「お金を払ってでも手に入れたい」の38%よりも高く、「映像コンテンツ」に対して、よりお金を払ってでも見たいという意識が強いことがうかがえます。
 この背景には、何があるのでしょうか。

 いくつか要素が考えられますが、そのうちの1つは、メディアの効用の重要度、つまり自分が重要だと思っている目的や場面に対して、どのメディアがもっとも役に立っていると思うかという意識の違いです。

 まず、下の表に示した「世の中の出来事や動きを知ること」「感動したり楽しんだりすること」などの項目について、それぞれどの程度重要だと思うかを尋ねました。
 「世の中の出来事や動きを知ること」を「とても重要」と回答した人の割合は、16~29歳を除いたどの年層でも、もっとも高い項目の1つで半数を超えています。

 ところが16~29歳では、上位を占めたのは「感動したり、楽しんだりすること」(59%)、「生活や趣味に関する情報を得ること」(51%)、「癒やしやくつろぎを感じること」(49%)で、「世の中の出来事や動きを知ること」は半数に至らず(42%)、4番目でした。

 若年層では「世の中の出来事や動きを知ること」よりも「感動したり、楽しんだりすること」のほうが、重要度が高いと考えている人が多いことがわかります。

表 効用の重要度 (「とても重要」と回答した人の割合)(年層別)chart_kouyou.jpg

 次に、16~29歳で高かった「感動したり、楽しんだりすること」について、どのメディアがもっとも役に立っていると思うか、回答結果をみていきます(図3)。「テレビとYouTube、どんなときに役に立っている?【研究員の視点】#499」参照

 16~29歳では、「感動したり、楽しんだりするうえで」もっとも役に立っていると思うメディアとして、YouTubeが42%で、テレビなど他のメディアを大きく引き離す結果となりました。

 また、YouTubeには及ばなかったものの、テレビやYouTube以外のインターネット動画が続いていて、上位3つはすべて映像メディアとなっています。

図3 「感動したり、楽しんだりするうえで」もっとも役に立っているもの(16~29歳)graph3_media.png

 ここまでみてきたように、若年層にとっては、「感動したり、楽しんだりすること」が重要だと思う人が多く、さらに、その「感動したり、楽しんだりするうえで」、YouTubeをはじめとした映像コンテンツがもっとも役に立つと考えている人が多いため、若年層で特に映像コンテンツに対して、お金を払ってでも見たいという意識が強いという結果になったと考えられます。

 さらに、こうした若年層の意識を知る上で、もう1つポイントになる結果を紹介します。
 それは「好きなものに対する意識」です(図4)。

 「好きになったものには、とことんのめり込む」ことや、「好きなものだけに囲まれて過ごしたい」と思うことについて、あてはまるかどうかを尋ねたところ、若年層ほど、「あてはまる」と答えた人の割合が高くなる傾向が出ています。※「とてもあてはまる」「まああてはまる」の合計

図4 好きなものに対する意識(年層別)graph4_1_favorite.pnggraph4_2_favorite.png※ピンクの文字は、「とてもあてはまる」「まああてはまる」の合計

 このように、若年層ほど、好きなものにのめりこんだり、好きなものだけに囲まれて過ごしたりしたいという思いが強く、そうした意識が、好きな番組や動画に対して、お金を払ってでも見たいという結果につながっているのではないかと考えられます。

 今回のブログでは、年層によって、メディアに対する意識の違いやお金を払ってまでみたいと思う意識の違いをみてきましたが、「放送研究と調査7月号」では、紹介した結果以外にも、コロナ禍以降のメディア利用の変化や、人々の意識とメディア利用の関係について、詳しく報告していますので、ぜひご覧ください。

おススメ記事
2023年7月号
コロナ禍以降のメディア利用の変化と,背景にある意識
~「全国メディア意識世論調査・2022」の結果から~
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/20230701_5.html

2022年8月号
テレビと動画の利用状況の変化,その背景にある人々の意識とは
~「全国メディア意識世論調査・2021」の結果から~
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/20220801_8.html

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【渡辺洋子】
2001年NHK入局。仙台放送局、千葉放送局でニュースなどの企画制作を担当。
放送文化研究所では10年以上にわたり視聴者調査の企画・分析に従事。国民生活時間調査は2005年から担当。
共著『図説日本のメディア[新版]』『アフターソーシャルメディア 多すぎる情報といかに付き合うか』など。