文研ブログ

調査あれこれ 2023年01月11日 (水)

#440 年明けも変わらない低空飛行~消えぬ岸田政権の懸念材料~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 新年最初に岸田総理大臣が国民に向けて声を発したのは、4日に伊勢神宮に参拝した際の年頭記者会見でした。柱は「インフレ率を超える賃上げの実現」「異次元の少子化対策への挑戦」の2点。

kishidanentou.jpg1月4日 三重県伊勢市

 1年前の年頭記者会見は、押し寄せるオミクロン株の感染拡大に対処する受け身の発言に終始していました。それと比べると、この1年で新型コロナウイルスへの守りの態勢が定まってきていることもあって、岸田総理は先々に向けて何とか前向きなトーンを打ち出そうとしているように感じました。

 しかし、年明け早々の1月7日(土)から9日(月・祝)にかけて行われたNHK月例電話世論調査の数字は芳しいものではありませんでした。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。 

 支持する  33%(対前月-3ポイント)
 支持しない  45%(対前月+1ポイント)

この33%という内閣支持率は、一連の閣僚辞任ドミノが始まってから記録した昨年11月調査の支持率と同じで、岸田内閣発足後、最も低い数字です。

 年末の12月27日になって秋葉復興担当大臣を事実上更迭し、後任には元復興担当大臣の渡辺博道衆議院議員を据えました。秋葉氏は政治資金をめぐる問題などで野党側の追及がやまず、通常国会に備えて守り固めを図ったわけです。とはいえ、昨年10月以降、次々と4人の閣僚が辞任というのは岸田総理の任命責任が厳しく問われる事態に他なりません。

2gamen.png秋葉復興相          渡辺復興相

 岸田総理は新しい年を迎えるのに合わせて心機一転を図ろうと考えたのでしょうが、国民の側は厳しい視線を向け続けています。

☆岸田内閣は2か月で4人の閣僚が辞任することになりました。あなたは、岸田総理大臣の任命責任についてどう思いますか。

 任命責任がある  71%
 任命責任はない  22%

 任命責任があると答えた人は与党支持者で7割、野党支持者では8割以上、無党派で7割以上に上っています。政権を支える与党支持者の7割が総理の任命責任ありとしている点は見過ごすことができません。

 さらに岸田内閣が低空飛行を続けている理由には、昨年末に駆け込むように政府・与党で決定した防衛費の大幅増額に対し、幅広い国民の理解が得られていないことが考えられます。とりわけ防衛増税に対する反発が目立ちます。

☆政府は、増額する防衛費の財源を確保するため増税を実施する方針です。あなたは、これに賛成ですか。反対ですか。

  賛成   28%
  反対   61%

これを与党支持者について見ると防衛増税に賛成4割、反対5割ですが、野党支持者では反対8割、無党派で反対7割と反発の強さは明らかです。相手国に対する「反撃能力」を保有するなど、国の根幹をなす歴史的な政策変更にも関わらず、政府・与党の中だけで決めたことへの不満。幅広い理解には程遠い数字です。

1004bouei.jpg この「反撃能力」というのは、これまで敵基地攻撃能力としてきたものを、あくまでも専守防衛の考え方の範囲内と説明するために改めたものです。しかし、従来、敵国に対する攻撃は日米安全保障条約に基づいて、アメリカ軍に担ってもらうというのが基本姿勢でした。それを一部とはいえ自衛隊自身が射程距離の長い攻撃兵器を保有し、使いこなそうというのですから大転換に他なりません。

 この問題は1月23日に召集される見通しの通常国会で論戦の柱になるでしょう。いや、公然と議論しなくてはいけないテーマです。

 論点の一つに、敵国の攻撃着手をどの時点で把握したと判断するかという問題があります。国際法上、相手に先に戦争を仕掛ける先制攻撃は認められていませんので、政府も先制攻撃は意図していないという立場です。

 日本周辺で相手国が弾道ミサイルなどを発射した場合、瞬時にそれを感知できるのはアメリカ軍の早期警戒衛星だけです。その端緒情報の提供を受けて自衛隊のイージス艦が搭載する高性能レーダーなどで追尾し、迎撃するというのが現在の防衛システムです。

 これと同じ情報収集システムを利用しながら、どの段階で日本に対する攻撃と評価するのか、あるいはできるのかは極めて微妙で、難易度の高い問題です。

 国際法に反する先制攻撃と見られないようにするには、確実に日本の領土に攻撃が及び、国民に被害が出る蓋然性が高いと判断できるまで「反撃能力」を行使しない、つまり具体的な能力として保有する長距離ミサイルや巡行ミサイルを使わないという説明が必要でしょう。

 しかし、自民党内の強硬派の中には「実際に被害が出るまで使わないと宣言するならば意味がない」「張り子の虎だ」といった意見もくすぶっています。
この問題が自民党内政局、自民党の中で政治的な対立や抗争が起きる火種にもなりかねません。

 歴代の内閣が憲法の下で培ってきた専守防衛の考え方を、岸田総理が今の安全保障環境に照らしながらどう具体的に説明するのか。防衛力の強化に一定の理解を示しているものの、不安も抱えている国民に納得してもらう説明ができるのか。かたや自民党内の強硬派を抑えることができるのか。

 これだけ考えても難題中の難題です。懸念材料の最たるものです。しかし、岸田政権を取り巻く懸念材料には、旧統一教会と政治の関係、とりわけ自民党議員との関係についての不明瞭さも加わってきます。
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 4月に行われる統一地方選挙、中でも41の道府県議会議員選挙を前に、長年にわたって旧統一教会の支援を受けてきた立候補予定者の存在が浮上しかねません。与野党問わず、実務の先頭に立ってきた選挙プロの人たちが口をそろえる点です。

 通常国会の論戦、そして統一地方選挙を乗り切りながら、岸田総理がリーダーシップを発揮し続けることができるのか。

 首脳外交でポイントゲットを狙う5月のG7広島サミットに至る道のりには、地雷原が横たわっていると考えておいた方が良さそうです。