文研ブログ

調査あれこれ 2023年01月16日 (月)

#441 進むか? 放送アーカイブの「公共利用」

メディア研究部 (メディア動向)大髙 崇

今年、テレビ放送開始から70年という節目を迎えました。

これまで、星の数ほど、というと大げさかもしれませんが、とにかく毎日毎日、膨大な数の番組が放送されてきました。
そして今、NHK・民放とも、再放送やインターネット配信、過去の出来事を伝える新たなコンテンツの制作など、放送アーカイブの活用に力を入れています。(ここでは、放送局が保存する、過去に放送した番組やニュースの音声・映像とその素材を、ひとまとめに「放送アーカイブ」と総称します)

放送アーカイブが貴重な文化資産であることは論をまたないでしょう。放送局が、自らのコンテンツとして、アーカイブを発信する取り組みは今後もますます盛んになるはずです。どんな面白いコンテンツが生まれるか、ぜひご期待ください。

ただ同時に、放送アーカイブ活用に向けた調査研究を続けている私としては、「それだけでいいのか?」という思いも募ります。
視聴者側である一般の皆さんが、この膨大な放送アーカイブを手軽に視聴し、それぞれの目的のためにもっと利活用しやすい環境を整備することも、必要だと思うからです。

「〇年前に放送した番組の上映会を開催したい」
「研修や授業に活用したい」
「とにかくもう1度見たい」
「静止画でいいから使わせてほしい」
……などなど、放送局にはアーカイブの提供を求める数多くの要望が寄せられます。
さまざまな立場の人が利活用することで、私たち放送関係者だけでは気づかなかった放送アーカイブの価値が見出されるはずです。
しかし、こうした要望に放送局は応えられている、とは言い切れないのが現状です。

『放送研究と調査』2022年12月号に、「放送アーカイブ×地域と題した論文を発表しました。
石川・富山・福井の北陸3県の博物館や図書館などを主な対象に、展示や講座などで放送アーカイブを利用したいか、を問うアンケートの結果をまとめ、考察しています。
高い利用ニーズが確認されたことに加え、その理由や利用方法などに関する回答からは、放送アーカイブが持つたくさんの可能性が浮き彫りになりました。

博物館など、地域の文化施設でそれぞれのニーズに応じた利用が進むとすれば、放送アーカイブが地域文化の一翼を担える未来が見えてきます。それは放送局にとって、新たな地域貢献になるはずです。
学校などでの教育目的の利用、学術研究目的の利用などもまた然り。
公共性と公益性の高い、「公共利用」がより多く実現することで、“テレビ離れ”が進む今、放送局の存在意義の再構築につながるでしょう。

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放送アーカイブが、放送局による新たなコンテンツとして展開するだけでなく、多くの人々によって「公共利用」される未来は来るのか。その可能性と課題に向き合っています。ぜひともご一読いただき、ご意見をいただけますと幸いです。
『放送研究と調査』2022年12月号
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これまで筆者が執筆した放送アーカイブに関する主な論文
※「放送アーカイブ "懐かしい"のその先へ ~NHK回想法ライブラリー活用の現場から~」
 『放送研究と調査』2019年7月号(https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20190701_6.html
※「再放送の可能性を探る(前編)」
 『放送研究と調査』2021年2月号(https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20210201_7.html
※「再放送の可能性を探る(後編)」
 『放送研究と調査』2021年7月号(https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20210701_5.html
※「放送アーカイブ活用と肖像権ガイドライン 過去の映像に写る顔は公開できるか」
 『NHK放送文化研究所年報2022』第65集(数藤雅彦と共著)(https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20220201_2.html
※「『絶版』状態の放送アーカイブ 教育目的での著作権法改正の私案」
 『放送研究と調査』2022年6月号(https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20220601_6.html