文研ブログ

調査あれこれ 2022年12月20日 (火)

#439 2月24日と7月8日が今年の原点~私のメディア研究

メディア研究部 (メディア動向) 上杉慎一

 国内メディアの動向を担当している私にとって、2022年の2月24日と7月8日はテレビ報道の研究を進めるうえで大きな原点となりました。2月24日は「特別軍事作戦」としてロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始した日、7月8日は安倍晋三元総理大臣が銃撃され死亡した日です。

 2月24日に始まったウクライナ侵攻は、21世紀に起きた侵略戦争として連日大きく報道されました。侵攻初期の段階で、テレビの主なニュース番組が何を伝えたのかは、「ウクライナ侵攻初期にテレビは何を伝えたか~ソーシャルメディア時代の戦争報道~」(「放送研究と調査」7月号)にまとめています。

 ご紹介した論考でも述べているのですが、2022年春の時点で、戦闘が長期化するおそれが指摘されていました。現在の状況を見ると、当時の指摘は文字通り現実のものになったと言えます。ウクライナは当初、陥落が時間の問題とさえ言われていた首都キーウを奪還しただけでなく、その後、反転攻勢に出て、冬を迎えた今も双方の攻防が続いています。
 この間、テレビ各局は毎月24日に「侵攻開始から〇か月」というスタイルで情報をせき止め、様々な角度から報道を続けていました。しかし、事態の長期化もあってか、このところこうしたスタイルでの報道も減ってきています。NHKの「ニュース7」「ニュースウオッチ9」、日本テレビの「news zero」、TBSテレビの「news23」、テレビ朝日の「報道ステーション」の5番組を見ると、「侵攻から8か月」の10月24日にウクライナ侵攻を取り上げた番組はありませんでした。「侵攻から9か月」の11月24日には、「ニュース7」だけがこのニュースを取り上げていました。無論、事態に大きな変化があれば各局とも手厚く報道しています。例えばポーランド国内にミサイルが落下し犠牲者が出たこと(※ウクライナが迎撃のために発射したとみられている)を伝えた11月16日には、4番組がこのニュースをトップで扱い、「報道ステーション」は20分近くの時間を割きました。とはいえ、長期化する戦争をどう伝え続けていくのかが、これからますます問われることになりそうです。

 一方、国内で起きた出来事に目を転じると、忘れられないのが安倍晋三元総理大臣が奈良市の駅前で街頭演説中に銃で撃たれて死亡した7月8日の報道です。この日、NHKと民放キー局では深夜までこのニュースを報じ続け、地上波の放送時間は合計60時間におよびました。その全体像は「安倍元首相が撃たれた日~テレビが伝えた7月8日~」(「放送研究と調査」11月号)に詳しく記録しています。

 事件のあと注目されたのが、9月27日に行われた安倍氏の国葬を巡る問題、それに旧統一教会=世界平和統一家庭連合と政治家との関係を巡る問題でした。とりわけ旧統一教会との関係を巡る問題は、山際経済再生担当大臣(当時)の辞任にもつながりました。また、12月に入って被害者救済を図るための新たな法律が成立したうえ、文部科学省が宗教法人法に基づいて2度目の質問権を行使しました。安倍元総理大臣死亡の衝撃が全国に広がった7月8日の時点では、事件のあとこのような展開になるとは誰も予期できなかったはずです。
 旧統一教会に対し2度にわたる質問権を行使した文部科学省は、今後、解散命令に該当しうる事実関係を把握した場合、裁判所への請求を検討することにしています。一方、安倍元総理大臣の銃撃事件で殺人容疑で逮捕され、精神鑑定を受けている容疑者は、鑑定の期間が2023年1月10日までとなっています。奈良地検は鑑定結果などを受けて、容疑者を起訴するかどうか判断することにしています。いずれも年明け以降の動きが注目されます。

 2022年に注目されたニュースは、これまで述べてきた2つだけに限りません。例えば北朝鮮の相次ぐミサイル発射の問題、日本の安全保障や防衛費の増額を巡る問題、ウクライナ情勢などを受けた物価高騰の問題、言論統制を強める中国の問題、さらに依然、衰えることのない新型コロナウイルスの問題など、挙げていけばきりがないほどです。メディア研究では1つの1つの事象に真剣に向き合えば向き合うほど、調査・研究に時間が必要です。このため直面する課題すべてを網羅することはできませんが、そうした課題を日本のメディアがどのように伝え、人々がそれをどう受け止めたのかという視点を持ち続け、新しい年も研究に取り組んでいきたいと考えています。