文研ブログ

調査あれこれ 2022年06月15日 (水)

#397 経済・物価 暮らしに向かう国民の視線 ~参院選での判断要素は?~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 ウクライナ東部などでの戦闘が一進一退の膠着状態になり、ロシア軍の侵攻とこれに対するウクライナ軍の反撃が様々に伝えられ、次第に双方の情報合戦の色彩が濃くなってきました。

 岸田総理大臣は、バイデン大統領を東京に招いての日米首脳会談(5月23日)、その翌日のQUAD(クワッド)日米豪印4か国首脳会合を通じて外交・安全保障の分野で活発に発信しました。

1.png プーチン大統領の領土拡大の目論見を批判し、NATOの国々と足並みをそろえウクライナを支援する。東アジアで力による一方的な現状変更が行われることが無いよう防衛力の強化を進める。金額こそ示さなかったものの「相当の防衛費を増額する」と明言しました。

 一方で、ロシアと歴史的なつながりが深いインドに配慮して、QUADの合意文書ではウクライナ侵攻に対する直接の非難は避けました。世界規模での危機的な状況に向き合い、首脳外交でのポイントゲットを重ねた趣です。
 
 13.jpg さらに6月上旬にはシンガポールで開かれたアジア安全保障会議に出向き、この後、6月26日からドイツで開かれるG7サミットにも出席します。

 参議院選挙の公示日はG7サミット直前の6月22日、投票日は7月10日となる見通しですから、岸田総理は国際情勢の「風」に乗って外交・安全保障の積極的発信で選挙を乗り切ろうという構えです。

☆そういう岸田総理に向けられた国民の視線はどういうものなのか。6月10日(金)から12日(日)にかけて行われたNHK電話世論調査で「あなたは岸田内閣を支持しますか。支持しませんか」と聞いた結果です。

 「支持する」  59%(対前月+4ポイント)
 「支持しない」 23%(対前月±0ポイント)

 支持率59%というのは、去年10月の内閣発足直後の49%から10ポイント上がって最高を更新。岸田総理が国際情勢の「風」を受けて政権運営に臨んでいる点に、国民が一定の理解を示している現状が浮かび上がっています。

 ただ、気になるのは発足から8か月たっても「新しい資本主義はどこに行った?」「何をやりたいのか分からない」といった声が消えていないことです。

「6つの政策課題を読み上げます。その中からあなたが今回の参議院選挙で投票先を選ぶ際に、最も重視するものを1つ選んでください」という設問に対する回答です。

 経済対策      42%
 外交・安全保障   17%
 社会保障      15%
 新型コロナ対策    7%
 憲法改正        5%
 エネルギー・環境    5%

 これを見ると経済対策を重視するという回答が飛びぬけています。外交・安全保障は2番手につけてはいますが、経済対策の半分以下の数字です。

 ふと、永田町に昔からある「外交は票にはならない」という決まり文句を思い出します。その一方で「いやいや平時ならそうだが、今は非常時なのだから」という官邸方面のつぶやきも聞こえてきます。

「食品や日用品、光熱費の値上げが相次いでいます。家計にどの程度影響していますか」と聞きました。

 影響している    76%
 影響していない  17%
 11.jpg 
 ロシアのウクライナ侵攻が始まり、それに対する欧米諸国を中心とした経済制裁も相まって世界経済の循環に大きな変化が生じました。物価高が世界的な課題になり、多くの日本国民も不安に感じていることを示す数字です。

 6月6日に都内で講演した日銀の黒田総裁が「家計が値上げを許容している」と述べて反発を買い、発言を撤回し陳謝する出来事がありました。

 マクロ経済をコントロールする立場から「上から目線」の発言をしてしまったわけですが、日々の暮らしに忍び寄る脅威に敏感な庶民との意識のズレは明瞭です。

 岸田総理がよりどころにしている外交・安全保障というのは、為政者にとって、時には「上から目線」での判断も必要になるテーマです。

 今度の参議院選挙は、国民が岸田内閣の発足からこれまでの軌跡に対し、総合的に評価を下す機会でもあります。「上から目線」のテーマだけでなく、庶民の目線に寄り添ったメッセージも必要でしょう。
 4.png 黒田発言の翌日に閣議決定された「骨太の方針」には、「資産所得倍増」「脱炭素やデジタル化への投資」など大きな目標は書き込まれました。しかし、庶民が期待する「成長の果実の分配」「賃金の引き上げ」に向けた具体的手段は盛り込まれず、参議院選挙後に先送りという姿勢が透けて見えました。

 そのことを考えると岸田内閣の軸足はバランス十分と言えるのか?一本足打法と見られることが与党にとって選挙での落とし穴にならないのか?

 これから先の日本と世界の進むべき道筋を想い描き、7月10日までの間、目を凝らし、耳を澄まして様々な角度から政治の現状を評価する。これが専制主義国家ではない民主主義国家の有権者の権利であり、責務だと思います。