文研ブログ

調査あれこれ 2022年05月10日 (火)

#394 事態長期化で試されるG7の結束~放置できないロシアの侵攻~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

  ロシア軍のウクライナ侵攻が始まってから2か月半。攻撃はウクライナ南東部を中心に止むことなく続き、ウクライナ軍の反撃も継続しています。

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  5月9日の「対ドイツ戦勝記念日」にモスクワ・赤の広場で行われた式典でプーチン大統領が行った演説の2か所のフレーズに、私は「なるほど」と問題の所在を感じ取りました。

  ① 「ロシアにとって受け入れられない脅威が国境付近にある」
  ② 「我々の兵士は異なる民族同士が兄弟のように互いに銃弾や破片から身を守りながら戦っている。これこそがロシアの力だ」

  一つは今回の事態を招いたのはNATOの東方拡大を推し進めてきた西側の国々であると自らの行動を正当化する論理。もう一つは多民族国家を一つにまとめていくことが、大祖国ロシアの指導者である自分の役目だという自己主張の現れです。

  第2次大戦の反省から生まれた国際連合の発足以来、戦争・紛争の事態に対しては、当事者双方の言い分に耳を傾け冷静に判断するのが現代の常識とされています。

  しかしながら、国連の安保理常任理事国P5の一つであるロシアが、相手のウクライナ国民の大多数が望まない“ロシア化”を押しつけることを目的に、一般市民から多くの犠牲者を出し続けている行為を放置することはできません。

  この日の朝、今年のG7議長国であるドイツの呼びかけでオンライン首脳会議が開かれ、ロシアに対する経済制裁の強化を打ち出しました。具体的な内容は「ロシアからの石油の輸入を即時または段階的に禁止する」というものです。禁輸の時期に幅を持たせ曖昧にしているので玉虫色と言えば玉虫色です。

  それでも6月26日にドイツ南部のエルマウで開催されるG7首脳会合を前に結束を再確認し、各国の事情に応じて同じ方向に足並みを揃えてみせることの政治的意味は大きかったでしょう。

  G7の中で最もロシアへのエネルギー依存度が高いドイツが議長国であり、そのドイツが音頭をとったことは、アメリカ主導で物事を進めるよりインパクトが大きかったのは確かです。

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  岸田総理はドイツのショルツ首相と綿密に連携を図り、日本が非軍事的な手段でG7のウクライナ支援に積極的に加わる方針を早い段階から伝えていました。

  今回のウクライナ侵攻の事態に際し、岸田総理は一貫してロシアに厳しい姿勢を示してきました。懸案である日ロ平和条約と北方領土を巡る話し合いが一時中断してもやむをえないと判断したこと。そしていち早くプーチン大統領自身を資産凍結リストに載せたこと。この2点は内外の外交関係者の間で「極めて明確なメッセージだ」と受け止められています。

  こういう情勢の下、5月のNHK電話世論調査は6日(金)から8日(日)にかけて行われました。

☆「ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対する日本政府のこれまでの対応を評価しますか」と聞きました。3か月連続の質問です。

  「評価する」  68%   (3月⇒58%、4月⇒71%)
  「評価しない」 25%  (3月⇒34%、4月⇒21%)

  岸田内閣のとったロシアに厳しい姿勢、そして非軍事的な方法でのウクライナ支援はおおむね肯定的に受け止められています。

  今月の「評価する」68%を詳しく見ると、与党支持者で75%、野党支持者で69%、無党派で65%となっていて、政治的な立場に違いがあっても、受け止め方に大きな違いは見られません。

☆「あなたは岸田内閣を支持しますか。支持しませんか」

  「支持する」  55%  (3月⇒53%、4月⇒53%)
  「支持しない」 23%  (3月⇒25%、4月⇒23%)

  去年10月の岸田内閣発足以来、コロナ禍にさいなまれながらも支持率はほぼ50%台で推移しています。そして3月以降は、ロシアのウクライナ侵攻に対する対応への評価が下支えしていると見ることもできそうです。

  5月9日のプーチン大統領の演説からは、ウクライナでの戦闘を一気に拡大しようという攻撃性は窺えず、国民の愛国心を鼓舞しつつ名誉ある着地点を探っているようにも聞こえました。

zerensuki3.png  しかし、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシア軍がウクライナから立ち去るまで戦う」と強く反発しています。

  ロシアが大量破壊兵器の使用に踏み切ることは何としても思いとどまらせなくてはいけませんが、通常兵器での局地戦は長期化が避けられないという見方が広がっています。

  日本を含めG7はウクライナ支援の先頭に立つことになりますが、一方でそれ以外の国々への連携の働きかけを進めることも重要です。

  アジアで唯一のG7メンバーの日本は、中国、インド、ASEAN の国々に対し、どういう呼びかけを重ねていくことができるのか。

  5年近く外務大臣を務めた岸田総理の外交力が、いよいよ試される段階に入ってきました。