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2023年7月11日

調査あれこれ 2023年07月11日 (火)

夏、視界不良気味の岸田内閣 ~無党派層と若い世代の支持率低迷~【研究員の視点】#497

NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 安倍元総理が遊説中に凶弾に倒れてから1年。命日の7月8日、岸田総理大臣は安倍氏をしのぶ会合で「あなたから受け継いだバトンを、しっかり次の世代へと引き継いでいく」と強調しました。

 安倍元総理の下で5年近く外務大臣を務め、安倍氏が首脳外交にかけた情熱をよく知る岸田総理は、3日後の11日朝、NATO (北大西洋条約機構)首脳会合に出席するためリトアニアに向かいました。NATOの加盟国ではない日本の総理大臣がこの会議に出席するのは、ロシアのウクライナ侵攻を受けて開かれた昨年の首脳会合に続いてのことです。

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 5月のG7広島サミットを終え「それなりの成果はあった」と総括していた岸田総理ですが、その後の報道各社の世論調査では軒並み内閣支持率が低迷し、内政・外交すべてに注がれる国民の視線には厳しいものがあります。

 7日(金)から9日(日)にかけて行われた7月のNHK電話世論調査も、そうした傾向と同様の結果になりました。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

  支持する   38%(対前月-5ポイント)
  支持しない   41%(対前月+4ポイント)

2月から5月にかけて4か月連続で上向いていた内閣支持率が、6月、7月と連続して低下。「支持する<支持しない」になったのは、ことしの2月以来です。

 この1か月の間に内閣支持率がどこで低下しているかを詳しく見ると、与党支持者の微減、野党支持者の横ばいと比べて、無党派層の支持率が18%にとどまり前の月より9ポイント下がっているのが目立っています。

 また、年代別に見ると18歳~39歳の若い世代で前の月より8ポイント減、60歳代で10ポイント減という変化が出ています。

 では、こうした内閣支持率低下の要因になっているのは何か?今月の調査で国民の不評をかっている傾向が浮かび上がったのがマイナンバーカードの利用拡大に関する政府の方針です。

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☆政府はマイナンバーの利用範囲を拡大する方針です。あなたはこの方針に賛成ですか。反対ですか。

  賛成   35%
  反対   49%

反対がほぼ半数に上っています。これを詳しく見ると、与党支持者では賛成が反対をやや上回っているのに対し、野党支持者と無党派層では6割近くが反対と答えています。

☆政府は来年秋に今の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化させる方針です。今の健康保険証を廃止する方針についてどう思いますか。

  予定通り廃止すべき   22%
  廃止を延期すべき   36%
  廃止の方針を撤回すべき   35%

「廃止を延期すべき」と「廃止の方針を撤回すべき」を合わせた、政府方針に待ったをかける答えが合わせて7割に達しています。この質問では与党支持者でも待ったをかける答えが7割近くに上り、野党支持者、無党派層はそれ以上に厳しい数字になっています。

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 マイナンバーカードの利用促進を掲げる河野デジタル担当大臣は、相次ぐトラブルを受けて、秋までにすべてのデータの総点検を行って対応するので、方針を変更する考えはないとしています。

 しかし、そもそもマイナンバーカードの利用拡大は、政府や自治体の側の行政効率化のために発想された政策です。確かに利用者にとっても便利になる面はありますが、「デジタル弱者」と呼ばれる高齢者などに対する配慮が十分でない点は大きな問題です。

 河野大臣は今の健康保険証を廃止した後も、経過措置を設けるので問題はないと言いますが、デジタルの世界とは無縁の高齢者やそうした高齢者を抱える家族にとっては大きな不安材料になります。

 ロシアのウクライナ侵攻の後、首脳外交に対する注目度が高まり、岸田総理は安倍元総理に劣らぬ情熱を傾けているように見えます。しかし、どうも政権運営の足元が危うい印象が拭えません。

 さらにもう一つ、岸田内閣が大きな看板を掲げる「異次元の少子化対策」についても、国民の期待感は薄いようです。

☆少子化対策について、政府は今後3年間をかけて年間3兆円台半ばの予算を確保し、児童手当の拡充策などに集中的に取り組む方針です。あなたはこの少子化対策の効果に期待していますか。期待していませんか。

  期待している   33%
  期待していない   62%

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全体の6割以上が期待していないというのは、岸田内閣にとって極めて厳しい数字でしょう。これを年代別に見ても、子育て世代にあたる18歳~39歳、40歳代でも、期待しているは3割台にとどまっています。

 少子化対策について、岸田総理は「国民に新たな負担は求めない」と強調していますが、そうなるとどういう方法で財源を確保するのかが不鮮明です。

 視界不良気味の岸田内閣の原因は、国民との間で共通了解を生み出す努力に欠けている点にあると思います。とりわけ日々の暮らしに直結するテーマでは、国民に率直にメリット、デメリットを伝え、協力を求める姿勢が必要です。

 岸田総理にとって、首脳外交を華々しく展開する一方で、国民の素朴な疑問に真摯(しんし)に応える力を磨くことが、この夏の課題になりそうです。

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島田敏男
1981年NHKに入局。政治部記者として中曽根総理番を手始めに政治取材に入り、法務省、外務省、防衛省、与野党などを担当する。
小渕内閣当時に首相官邸キャップを務め、政治部デスクを経て解説委員。
2006年より12年間にわたって「日曜討論」キャスターを担当。
2020年7月から放送文化研究所・研究主幹に。長年の政治取材をベースにした記事を執筆。