文研ブログ

2023年2月15日

文研フォーラム 2023年02月15日 (水)

#454デジタル情報空間とメディア ~"信頼"のフレームワークをどう構築するか~

メディア研究部(メディア動向)村上圭子

 私は放送やメディアを巡る最新動向をウオッチし、俯瞰して分析したり、提言したりすることを主な業務としています。そのため、毎年3月に実施する「文研フォーラム」では、できるだけこの1年の動向を象徴するような、そして簡単には答えが見つからないようなテーマを設定して、建設的な議論の場を作ろうと試みています。ただ、年を追うごとに変化が激しくなり、政策の議論は複雑になり、関係する事業者も増えている気がします。毎年テーマ選びと登壇者選びにはとても苦戦していて、今回も悩みに悩んで、他のプログラムよりも遅れてシンポジウムの登壇者をようやく公表しました。遅くなって申し訳ありません!

Gprogram.png文研フォーラム プログラムGの詳細はこちら

テーマは「デジタル情報空間とメディア ~“信頼”のフレームワークをどう構築するか~」。なぜこのテーマを選んだのか、共有しておきたいと思います。

 本ブログでも繰り返し取り上げていますが、2021年秋から総務省では、「デジタル時代の放送制度の在り方に関する検討会(在り方検)」が続けられています。 私は地デジ化が終了した頃から、総務省で開催される放送やNHKの未来像に関する様々な検討会を傍聴、取材していますが、在り方検はこれまでの検討会と比べ、議論の組み立て方が大きく異なっていると感じています。
 在り方検以前の検討会では、前提とする問題意識は、通信と放送が融合していく時代に、放送がこれまでのような役割を果たしていくにはどのように通信を活用していけばいいのか、そのための制度改正をどのように進めていくか、でした。もちろん今回の在り方検でもそれは踏襲されていますが、議論を傍聴しているとそれにとどまらないものを感じます。議論では常に、ネット上で信頼できる情報を循環させる枠組みをどのように整備していくか、そしてその情報を確実に届けていく方法をどのように提供していけるかが問題意識の前提にあり、未来像の“主語”は放送ではなくデジタル情報空間そのものであるという印象を受けています。つまり、在り方検の議論の組み立て方は、増え続けるデジタル情報空間の課題に対して、放送は今後どのような役割を果たしていくべきか、それを推進していくためにどのような制度改正を行うべきか、であるといえると思います。
 ただ難しいのは、取材と編集機能を備えた信頼できる情報を提供する主体は放送だけではないということです。伝統メディアとしては新聞や雑誌、そしてネットメディアの中にも数多く存在し、日々取り組みを進めています。また、ネット上で情報を届けていくには、多くのユーザーが集うプラットフォームの存在を抜きには考えられません。プラットフォームの役割やメディアとの関係性については、グローバルなテーマとなっています。とはいえ、在り方検は国内の放送の未来像や放送制度改革を議論する場、つまり放送を“主語”とする議論にならざるを得ません。そのためしばしば議論は暗礁に乗り上げているようにもみえますが、それは、挑戦的で今日的な問題意識で既存の放送政策議論を超えようとしているが故のことなのだと私は受け止めています。今後も期待して傍聴、取材を続けたいと思います。

 さて、肝心の文研フォーラムの内容に戻ります。文研はNHKの組織であり放送文化に寄与することを目的としていますが、総務省の在り方検ほど議論に制約があるわけではありません。ですので、今回はあえて放送を主語には据えず、デジタル情報空間を主語に、放送、新聞、ネットメディア、プラットフォームという“事業者横断”で、“信頼”のフレームワークの構築について考えてみたいと思います。在り方検の問題意識も意識しつつ、それを越える議論もできればと思っています。
 そして、登壇者についてですが、今回は全て、現場で格闘し続けている方々にお願いしました。このテーマは研究者や啓発活動等の様々な取り組みを行う実務家も多い領域なのですが、どのような枠組みを検討したとしても、事業者の主体的な意思がなければそれが実装されることはないと思い、あえて“現場縛り”にしています。様々な事情や制約の中で抱いている課題意識や取り組みを、業界を越えて共有し議論していくことで、事業者自身によるリアルな競争や協創のあり方を探っていきたいと思います。
3月3日15時半から120分。真剣勝負の徹底議論を行う予定です。皆様のご意見もどんどん議論に反映させていきたいと思っています。ぜひ奮ってお申し込みください。お待ちしています!

【申し込みはNHK放送文化研究所ホームページから】
uketukechubanner.png