文研ブログ

2022年11月15日

調査あれこれ 2022年11月15日 (火)

#428 暗雲漂う岸田政権の前途 ~外交で挽回は図れるのか~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 10月24日、ロシア軍がせきを切ったようにウクライナに侵攻を開始してから8か月になったこの日、日本の永田町では岸田政権の足元で不安視されていた堤の一角が崩れ落ちました。

 山際大志郎経済再生担当大臣が「国会運営に迷惑を掛けたくない」として、岸田総理大臣に辞表を提出し、後任には後藤茂之前厚生労働大臣が充てられました。

 安倍元総理を死に追いやった銃撃犯の供述をきっかけに旧統一教会問題が噴出し、長年にわたる深い関係を指摘され続けていた山際大臣。旧統一教会関連の催しへの出席など、新たな事実が報道で明らかになるたびに「記憶になかった」という言い訳を連発し、辞任は時間の問題とされていました。

 この問題と安倍元総理の国葬に対する批判がないまぜになって、各種世論調査での岸田内閣の支持率は、8月以降、下り勾配が続いています。

 そして山際大臣の辞任から3週間足らずの11月11日午後、今度は葉梨康弘法務大臣が辞表を提出しました。法務大臣の重要な職責である死刑執行の署名を、パーティーの挨拶で受け狙いの話のタネに使った軽率さが問題視されていたからです。

 しかし葉梨大臣は、その日の午前中の国会答弁でも「職責を全うする」と繰り返し、辞任する考えはないと強弁していました。前日に岸田総理と会って確認した通りに発言していたということですが、これには自民党内からも反発の声が噴出しました。

 岸田総理は後手に回った事態の対応に追われ、予定していたアジア歴訪への出発を遅らせて、後任に齋藤健元農林水産大臣を充てました。

 11月のNHK月例電話世論調査は、この法務大臣交代のさなかの11日(金)の夕方から13日(日)にかけて行われました。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  33%(対前月-5ポイント)
 支持しない  46%(対前月+3ポイント)
 わからない、無回答  21%(対前月+1ポイント)

NHK世論調査での岸田内閣の支持率は、7月に発足以来最も高い59%を記録した後8月から下がり始め、これで4か月続けて最低を更新したことになります。

 相次ぐ閣僚辞任を巡って、自民党のベテラン国会議員たちからは「辞任ドミノを避けたい気持ちがあるのだろうが、人事権を持つ総理の決断の遅さが負のスパイラルを生んでいる」という声が聞こえてきます。

 「聞く力」はあるが「決める力」に欠けているという身内からの厳しい指摘です。

 10月と11月について、与党支持者、野党支持者、無党派の別に内閣支持率を比べてみるとこうなります。

 10月➡与党支持者68% 野党支持者16% 無党派17%
 11月➡与党支持者59% 野党支持者14% 無党派17%

 与党支持者の内閣支持率が9ポイント急落していて、もともと支持率が低い野党支持者、無党派層よりも落ち込みが激しくなっています。言い換えれば与党支持者の中で進む岸田離れの気配をうかがわせるものです。

 自民党の国会議員の中には「衆議院選挙や参議院選挙を控えていれば『岸田降ろし』が表面化しかねないが、当面は来年4月の統一地方選挙だけだからそうはならない」と語る人たちもいます。

 果たしてそうなのでしょうか。私は日頃から地方議会の議員たちとの意見交換を心がけていますが、先月あたりから「このままでは来春の選挙で当選できない」という自民党議員の悲痛な声を耳にするようになりました。11月のNHK世論調査では、こういう質問もしています。

☆旧統一教会と国会議員の関係が、相次いで問題になっています。あなたは、地方議員も関係を点検し、明らかにすべきだと思いますか。それとも明らかにする必要はないと思いますか。

 明らかにすべきだ  71%
 明らかにする必要はない  18%
 わからない、無回答  11%

国民の7割が「明らかにすべき」と答えているところに、旧統一教会を巡る問題に対する国民の厳しい視線を感じます。これに応えないままで国民の政治意識が変化するとは考えにくいというのが正直なところです。

 岸田総理は、葉梨前法務大臣から齋藤新法務大臣へのバトンタッチを見届けて、東南アジア各国で開催されている各種の首脳会議に精力的に臨んでいます。安倍内閣で4年8か月にわたって外務大臣を務めた経験を生かし、国際情勢が不安定化する中で、外交で存在感を示したいという思いが強いのはよくわかります。

 13日にはASEAN関連の首脳会議が開かれたカンボジアで、アメリカのバイデン大統領と日米首脳会談を行いました。厳しさを増す安全保障環境に対応するために、日米同盟の抑止力と対処力の一層の強化を図ることで一致しました。

 ただ、気になるのは日米同盟の強化に必要な防衛費の増額についてです。財源問題を含めて、具体的な内容が国民の目に触れるのは、まさにこれから。財務省は財源確保のためには各種の増税も必要になるという方針をすでに示していますが、そこに国民の理解が得られるかは不透明です。

 周囲を中国、ロシア、北朝鮮に囲まれた日本で、国民の多くが総論では防衛力強化は必要と考えても、増税を伴う各論に理解を得るのは容易な仕事ではありません。

 岸田総理の胸中を推し量れば、来年5月19日から21日に自らの地元の広島で開催するG7サミットに向けて外交・安全保障でポイントゲットを重ねて政権の浮揚を図りたいということでしょう。

 しかし、その前に今の臨時国会での補正予算案審議、年明けの通常国会での来年度予算案審議などを乗り越えなくてはなりません。「政権の体力回復」が必須条件で、そのために国民にどう自らの考えを発信していくのか。正念場です。