文研ブログ

2022年9月12日

メディアの動き 2022年09月12日 (月)

#420 この作品をコピーして使いたい ➡ 作者に連絡しても返事がない ➡ どうする!?   ~文化審議会「新しい権利処理の仕組み」議論から考える~

メディア研究部(メディア動向) 大髙 崇

 今日から宣伝部に配属されたあなたの最初の仕事が、販売促進イベントのポスターの制作になりました。素敵なポスターを期待しているよ、と上司に言われたあなたは、プレッシャーを感じたのか、どうもいい案が浮かばず、とりあえずインターネットであれこれ閲覧していると・・・。

 「おお、これは素敵だ! イベントのコンセプトにもぴったりだ!」

という写真画像とご対面。一瞬にしてポスターのイメージが浮かび、さっきまでのプレッシャーはどこへやら。俺って才能あるかもしれない。俺のハイスペ、やべえ。

(10分経過)

  できた!ポスターデザイン案! デキる男は仕事が早いぜ。写真を背景に宣伝文字をゴン攻めでレイアウトしたデザイン。このイベントは行きたくなる!・・・おい上司、見て驚け。

「部長、よろしいでしょうか。デザイン案を作りましたのでご確認お願いします」
「早いね。・・・・・・おお、いいねえ!」

 どうだ。どうだ! ボーナス今から楽しみだ‼

ところでこの写真許可取ってるよね? 著作権、大丈夫だよね?」 

 え?・・・げげ! 萎え~~。。。

 その場は何とか取り繕い、撮影者の写真家さんのホームページから秒で連絡先を見つけ出し、写真使用の許可お願いメール送信。・・・ふう。俺に乙。弱気に勝つ。もう終わっちまうのかい夏。あぁ~~、無事にOKもらえたらいいんだけど・・・。

(2日経過)

「ポスターデザイン、まだ?」
「ぶ、部長、すみません! ちょ、ちょっとお待ちください。もう少しいい感じになりそうなので、デザイン練り直してまして・・・」
「こだわるねえ。立派、立派。まぁでも、今日中にはお願いね」
「いやあ、お待たせしてすみません。は、今日中で。承知しました。どうぞご心配なく」

 ・・・あの写真家! 昨日も今日もメール送ったのに全然返信ねーし。ガチ無礼‼
 どうしよう。・・・いや待て。こっちは誠意を尽くしてお願いしてるし、返事をしないほうが悪いわけだし・・・。写真使っちゃっても許されるんじゃね? 時間切れってことで、いいんじゃね??

 なんだか3月まで放送していた「バラエティ生活笑百科」風になりますが(あ、すみません。この段から筆者本人に戻っています)、このような場合、写真を使用すれば、法律上、写真家(権利者)の著作権の侵害だといわれたら、反論するのは難しいでしょう。写真家が返事を怠っていたとしても、あなたは権利者から使用許諾を得ていない(権利処理をしていない)ことに変わりありません。 

 しかし、「返事がもらえないから使えない」というのも、モヤモヤ感は残りますね。
 著作権法の目的は、権利者を保護しつつ、文化の発展に寄与すること。そのバランスをどう図るかが肝ですが、IT技術の発達によって著作物の流通が飛躍的に伸びている今、もっと権利処理の仕組みをシンプルにしてほしい、という声が高まっています。

   時代のニーズに対応すべく、文化審議会の著作権分科会・法制度小委員会では現在、「新しい権利処理の仕組み」について、活発な議論が行われています。「返事がもらえないから使えない」状態も含め、権利者本人からの許諾がなくても、しかるべき手続きをすることで、暫定的に著作物を利用できるようにする「簡素で一元的な権利処理」の方策を検討しているのです。

 8月30日の第二回小委員会では、文化庁から制度化のイメージが示されました。(図)

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 制度化のイメージでは、運用は以下のような流れを想定しています。
 著作物の利用を希望する人は、新たに創設予定の著作物の分野を横断した窓口組織に相談し、データベースを活用して権利者を探します。
①権利者が不明、②権利者の連絡先がわからない、または③利用に対する権利者の意思表示がないような場合、「新しい権利処理」の手続きへと進みます。利用者は使用料相当額を支払い、窓口組織はWEB上で公告(利用について広く一般に知らせること)をします。公告と並行して、利用者は「暫定的利用」を行うことができる、というものです。

   現行の著作権法では、上記の①②、すなわち、権利者が不明、連絡先がわからない、といった場合、著作物を利用できる道を開くための「著作権者不明等の場合の裁定制度(※2)」というものがあります。文化庁に対して所定の手続きを行い、使用料相当額の補償金を供託する(法務局に預ける)ことで、権利者に代わって文化庁長官が利用を認める「裁定」をする制度です。著作物の利用に国がお墨付きを与えるわけです。
   しかし、冒頭のポスターに写真を使いたいという例のように、権利者の連絡先はわかるけど③意思表示がない(返事がない)、もしかすると送ったメールを権利者がたまたま見ていなかっただけ、といった場合、裁定制度の申請対象にならない、ということが課題視されています。
  そこで、「新しい権利処理」では、③をカバーしようとしているのです。手続きや費用負担などもあわせて考えると、「新しい権利処理」が利用者の利便性を向上させ、利用の促進につながる期待が持てます。

  しかし、「新しい権利処理」は、お墨付きがない暫定的利用を始めてから権利者が意思表示をした場合、利用を停止させられるリスクも残ります。写真付きポスターの例でいえば、ポスターが完成し、あちこちに掲示したあとになって権利者である写真家から使用不可の連絡が来たら・・・、全部回収という最悪の事態も懸念されるのです。

  第二回小委員会では、出席した複数の委員から、
「権利者の意思表示とは何を指すか、もっと具体例を示して検討する必要がある」
「権利者から不許諾の意思表示があれば即、暫定的利用の停止となれば、利用者側が萎縮する恐れがある。一定期間の利用継続を認めるような設計が必要だ」などの声が上がりました。
  これまでにない制度改正案のため、さらに精査が必要になるでしょう。意思表示のほかにも、窓口組織やデータベースをどの程度「一元的」なものにできるか、など検討課題が残されています。小委員会の予定では、来年1月には報告書を取りまとめ、次期通常国会に法改正案の提出を目指しています。
  今回示されたイメージ通りになるのか、時代のニーズに沿った制度となるのか。私たち放送関係者にとっても、また、著作物を利用する誰にとっても大いに関係する議論です。今後も注視して、随時お伝えしていこうと思います。

2209_1_meda_2.jpg

※1 文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第2回)「簡素で一元的な権利処理方策と対価還元の制度化イメージについて(案)」より
※2  著作権者不明等の場合の裁定制度(文化庁ホームページ参照)https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/