文研ブログ

2022年7月28日

調査あれこれ 2022年07月28日 (木)

#406 女性20代・30代は東京五輪・パラをどう楽しんだのか?① ~「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」~

世論調査部 (視聴者調査) 斉藤孝信

 東京オリンピック・パラリンピック(以下、五輪・パラ)が開催されてから、まもなく1年です。『放送研究と調査』6月号では、“人々にとって、東京五輪・パラとは何だったのか”と題して、文研が大会招致決定後の2016年から7回にわたって実施した「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」の結果をもとに、人々はコロナ禍での開催をどのように感じていたのか。そうした状況で大会をどのように楽しんだのか。今大会は人々にとってどのような意義を持ち、日本にどんなレガシーを遺したのかなど、さまざまな視点で考察しました。
 今回のブログでは、その中から、20代から30代の女性が、大会をどのように楽しんだのかを、ご紹介したいと思います。
 みなさんは、今回の東京五輪・パラを楽しめましたか?
 グラフは、大会後の去年9月から10月にかけて実施した第7回調査で、大会を楽しめたかどうか尋ねた結果です。

4-1waku.png 全体の72%が『楽しめた(とても+まあ)』と答え、男女年層別にみても、ご覧のように、どの年代も『楽しめた』が7割前後から8割程度と多数を占めています。
 今大会は、新型コロナウイルスの感染が収まらない中で開催されました。大会を開催することによって、さらに感染が拡大してしまうのではないかと不安を抱えていた方も多かったと思いますので、「ああ、多くの方が楽しめたようでよかった」というのが、この結果をみた私の最初の感想でした。

 この結果をみて、“どの年代も、楽しめた人は同じぐらいに多かった”と結論づけてしまえばそれまでですが、実は、性別や年代によって『楽しめた』人の割合に差がないこと自体が、「へえ!」と驚かされる結果なのだ!というのが、このブログのテーマなのです。
 どういうことかと言うと、この調査では、別の質問で、ふだん、テレビやラジオ、インターネットなどでスポーツをどのくらい視聴しているか尋ねています。その質問で『見る(聞く)ほう(よく+まあ)』と答えた人の割合と、さきほどの、五輪・パラを『楽しめた』人の割合を、男女年層別に重ねてみたのが次のグラフです。

4-2waku.png ほとんどの年代で、紫色の線で示した『ふだんスポーツを見る(聞く)』人よりも、赤の線で示した五輪・パラを『楽しめた』人のほうが多いことがお分かりいただけると思います。その傾向は、女性のほうが顕著で、特に女性の20代と30代は、ふだんスポーツを視聴する人は4割ほどしかいないのに、五輪・パラを楽しめたという人は7割もいるのです。
 言うまでもなく、五輪・パラはスポーツの国際大会ですが、20代や30代の女性にとっては、ふだんのスポーツとは“別物”ということなのでしょうか?
 ふだんスポーツを視聴する人が4割程度で、五輪・パラを楽しめた人が7割程度いたということは、間違いなく、“ふだんスポーツを視聴しないのに、五輪・パラは楽しめた”という人が女性の20代、30代にはいたはずです。
 そこで、ふだんスポーツを『見る(聞く)』人と『見ない(聞かない)』人に分けて、それぞれで、五輪・パラを『楽しめた』人の割合を集計してみました。

4-3waku.png まず、『見る(聞く)』ほうでは、全体も、女性の20代と30代も、8割以上が五輪・パラを『楽しめた』と答えています。言い換えれば、“ふだんからスポーツを見ている人では、大多数が五輪・パラも楽しめた”ということです。
 一方、『見ない(聞かない)』ほうをみると、全体では57%で、“ふだんスポーツを視聴しない人で、五輪・パラを楽しめた人は、6割弱にとどまる”のです。
 ところが、女性の20代と30代は64%と6割を超えて、全体を上回りました。すなわち、“ふだんスポーツを視聴しない20代や30代の女性でも、6割以上が五輪・パラは楽しめた”のです。
 なるほど、女性の20代、30代にとっては、五輪は、ふだんのスポーツとは“別物”なのだなあ。つまり、女性の20代と30代は“五輪・パラ好きな年代”なのだ”と結論付けたくなります。
 ところが! 次のデータをご覧ください。
 同じ第7回調査で、東京五輪に『関心があった(大変+まあ)』と答えた人の割合を、『楽しめた』の結果と重ねてみます。もしも、さきほどの仮説どおりだとすれば、女性の20代と30代は、“五輪に関心を持っていた人も多いし、楽しめた人も多い”というグラフになるはずですが……

4-4-a.png 実際には、仮説とは逆に、『五輪に関心があった』人の割合は、女性の20代は52%と全体よりも少なく、30代も59%と6割に達していないのです。
 あれ?女性の20代と30代は“五輪・パラ好き”ではなかったの?という疑問が生じます。
 
 ここまでを整理しますと、女性の20代と30代は、ふだんスポーツを視聴する人も、五輪に関心があった人も、全体より少なかったのに、五輪・パラを『楽しめた』人は、他の年代と同じぐらい多かったということになります。
 ではいったい、彼女たちは、なぜ五輪・パラを楽しめたのでしょうか?
 次回のブログで、その謎を明らかにします!

 『放送研究と調査』6月号では、7回にわたる世論調査の結果をもとに、“人々にとって、東京五輪・パラとは何だったのか”を考えます。人々はコロナ禍での開催をどのように感じていたのか。そうした状況で大会をどのように楽しんだのか。今大会は人々にとってどのような意義を持ち、東日本大震災からの“復興五輪”たりえたのか。そして、日本にどんなレガシーを遺したのかなど、さまざまな視点で考察します。どうぞご一読ください!