文研ブログ

2022年7月20日

調査あれこれ 2022年07月20日 (水)

#404 "岸田カラー"はどこまで出せるのか? ~安倍元総理追悼の先に~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 安倍総理が凶弾に倒れて命を絶たれたのが7月8日。その2日後の参議院選挙で、自民党は改選議席125の半数を超える63議席を単独で獲得し勝利しました。

 安倍氏の悲報が全国を駆け巡り、最後の1日で自民党の得票が若干伸びたという見方もあります。ただ今回の参議院選挙は勝敗の鍵を握るとされた1人区で野党候補の一本化が限定的だったことから、選挙戦が中盤を過ぎる頃には与党有利の分析が政党関係者の間で大勢になっていました。

 岸田総理大臣は、昨年10月の衆院選に続いて今回も選挙に勝ち、自らの足場を固めました。これによって自民党総裁としての1期目の任期が切れる2024年9月までの「黄金の2年間」を手に入れた格好です。

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 参院選を終えて最初に岸田総理が打ち出したのが、亡くなった安倍総理に最大級の弔意を捧げる「国葬」の実施です。

 戦後、「国葬」に関する法律は無くなり、1967年(昭和42年)の吉田茂総理の「国葬」が例外的に閣議決定で行われました。今回は、平成の中央省庁再編に伴って整備された内閣府設置法で、所掌事務に「国の儀式に関する事務」が加えられたのをよりどころに、9月27日に日本武道館で「国葬」が行われる見通しです。

 7月16日から18日にかけて行われた、参院選後最初のNHK電話世論調査で次のように聞きました。

☆政府は安倍総理の葬儀を、国の儀式の「国葬」として今年秋に行う方針です。あなたはこの方針を評価しますか。しませんか。

 評価する49%>評価しない38%

これを詳しく見ると与野党支持の違いによって傾向が異なります。

 与党支持者・・・評価する68%>評価しない25%
 野党支持者・・・評価する36%<評価しない56%
 無党派・・・・・・・評価する37%<評価しない47%

 野党各党の中からは「在任中の評価が分かれる安倍総理に対し、国葬という形をとるのは問題だ」といった反対の意見も出ています。

 確かに内政・外交ともに評価が分かれる安倍政権でしたが、それでも岸田総理が「国葬」の実施を決めたのは特に2つの理由からだと周辺は言います。

 1つは通算の総理在任期間が8年8か月に及び、憲政史上最長を記録したこと。『長きをもって貴しとする』という価値観は尊重すべきものという、為政者ならではの考えをうかがわせます。

 もう1つは今回の出来事が銃器を用いたテロ行為にほかならず、言論による民主主義を守るという日本の姿勢を世界に強くアピールする機会を設けるべきだという考えからです。
 shimada4.jpg ただ、岸田総理の心の奥底をのぞき込むと、これだけではないでしょう。安倍総理の下で5年近く外務大臣を務めていた時から、岸田氏は必ずしも安倍氏の判断に全て追従していたわけではないと言われています。

 2人をよく知る自民党幹部は、「衆議院議員として当選同期の間柄だけに、権力関係の中に身を置けば、複雑な思いを常に抱えるものだ」と言います。

 岸田総理としては、安倍氏を最大級の手厚い追悼の場で弔うことで、後を受け継ぐ者として一つの区切りをつけたいという思いがあっても不思議ではありません。

 昨年10月の総理就任後、岸田カラーを打ち出すのは手控え、政府・与党内に波風を立てない安全運転が目立ちました。特に経済政策では安倍氏が在任中に掲げたアベノミクスへの配慮が色濃く伺えました。

 安倍氏の死去、そして参院選での勝利を経て、岸田カラーをどこまで出せるかが、当面の政局の焦点になってきます。

 こうした岸田総理に向けられる国民の視線に変化はあったのでしょうか?

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する   59%(対前月±0ポイント)
 支持しない 21%(対前月-2ポイント)

 対前月というのは参院選投票日の4週前にあたる6月10日から12日にかけて行った6月の月例電話世論調査の数字との比較です。

 これを与野党支持の別に見ると、微妙な傾向の違いが浮かび上がってきます。

 与党支持者・・・支持する86%>支持しない  5%
 野党支持者・・・支持する47%>支持しない41%
 無党派・・・・・・・支持する37%>支持しない29%

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 与党支持者で86%という高い割合を示しているのは、参院選の結果を見てもうなずけます。考えさせられたのは、野党支持者で「岸田内閣を支持する」と答えた人の割合が「支持しない」よりも多く、なおかつその割合は無党派の「支持する」を上回っている点です。

 かつてはニュースの表現でも「野党側はそろって・・・」というフレーズが頻繁に登場したものです。ところが最近は一口に「野党」と言っても政府・与党との距離の取り方には様々な違いが出ていて、なかなか「そろって」とはなりません。

 従って野党支持者の中に様々な考え方の違いが存在するのが現状ですが、これが参院選での「野党敗北」につながったとすれば、政府・与党は何と楽なことでしょう。

 岸田総理にとって、緊張感を持って臨むべき当面の課題は、自民党内での求心力をどのように高めるかになりそうです。

 派閥会長を失った安倍派では、幹部の話し合いで様々な方針を決めるとしていますが、今後の政策決定に関して「安倍路線の継承」を強く主張すると見られています。

 安倍氏が力説していた防衛力の強化、金融緩和の継続、積極的な財政出動を伴う経済対策などなど。

 これを引き継ぐだけでは岸田カラーは出てきません。「黄金の2年間」を生かして新たな長期安定政権を目指そうとするならば、安倍氏とは違う内政・外交のビジョンを国民に示し理解を得ることが欠かせません。

 そして、いずれかのタイミングで国民に信を問う機会が必要になります。自民党内で強い求心力を手にしようとするならば、やはり幅広く底堅い国民の支持を背負うことができるかどうかが鍵になります。

 

文研フォーラム 2022年07月20日 (水)

#403 テレビに写る人の顔の「ぼかし」問題、語り合います!

メディア研究部 (メディア動向) 大髙 崇

  7月28日(木)開催の「文研フォーラム2022夏」プログラムBは、テレビ「ぼかし」対策会議です。
「ぼかし」とは、テレビに写った人などに対してモザイク加工をするなどして、特定できないようにする映像処理を指します。
 ootaka1a.jpg 実は2014年に、BPO(放送倫理・番組向上機構)の「放送と人権等権利に関する委員会」の当時の委員長・三宅弘弁護士が「顔なしインタビュー等についての要望」と題し、ぼかし(顔なし)についての意見を公表しました。特に顔を見せないようにする理由が見当たらないにも関わらず「ぼかし」をしている映像が目立つことに苦言を呈し、テレビでのインタビューなどは顔出しを原則とすべきだとして、次のように指摘しています。

 「安易に顔なし映像を用いることは、テレビ媒体への信頼低下をテレビ自らが追認しているかのようで、残念な光景である。」

 一方で三宅氏は、プライバシー保護が特に必要な場合などは本人が特定されないように配慮が必要だとして、放送局が議論し、ルール作りを進めるよう求めました。
 
 この、三宅氏の意見公表から月日は流れて早8年。

 むしろ「ぼかし」は増えているんじゃないの!? と思いつつ、テレビに写る人の顔や姿に関する権利、すなわち「肖像権」について研究をしています。
(NHK放送文化研究所年報2022に掲載された論文もぜひご参照ください)

 テレビの「ぼかし」、みなさんはどうお感じになっていますか?

 この「ぼかし」について大いに語り合おうというのが、今回のプログラムの目的です。
テレビに写りたくない人を守るためには「ぼかす」べき? しかし、「ぼかし」てばかりだと真実性が疑われるんじゃないの? ルール作りはできるのか?

 ゲストの登壇者、各界で活躍する3名をご紹介します。

  鎮目 博道さん
  ootaka2.jpg テレビ朝日で「報道ステーション」などを手がけ、ABEMA TVでもご活躍のプロデューサー。さまざまな媒体でテレビの課題を論じています。一方では「顔ハメパネル愛好家」という不思議な肩書も・・・
 
  久保 友香さん
 ootaka3.jpg プリクラ、スマホなどで容姿を自在に変える若者の「盛り」の文化と、それを支える技術を研究するメディア環境学者。テクノロジーが進歩し、美意識とライフスタイルが変化する中で、改めて顔とは何か……。久保さんには、テレビ関係者とは違った角度から、「ぼかし」問題にアプローチしていただきます。
 
  数藤 雅彦さん
 ootaka4.jpg 上記のNHK放送文化研究所年報2022は、弁護士である数藤さんと私の共著です。数藤さんは、所属するデジタルアーカイブ学会が2021年4月に正式版を公表した「肖像権ガイドライン」の策定リーダー。今回のプログラムでも、このガイドラインが議論の軸になります。

 そして、NHKの制作陣からは、NHK総合で放送中「チコちゃんに叱られる!」の制作統括・西ヶ谷力哉プロデューサーが登壇します。

 どんな議論になるでしょうか。テレビの未来をぼかさず、明るくクリアにする内容を目指します!

 たくさんの方のご参加、お待ちしています!
 
 お申込みはこちらから。

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