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2021年11月 1日

メディアの動き 2021年11月01日 (月)

#347 最新の民意は「熟議への期待」 ~政治に小休止無し~

放送文化研究所 島田敏男


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 10月31日に投票が行われた衆議院選挙で、自民党は解散時より議席を15減らしましたが、単独で絶対安定多数の261を獲得しました。自民党単独でも国会を安定的に運営できる数です。

 これに公明党を加えた与党の議席は293に上って衆院の議席総数465の63%を占め、就任から間もない岸田総理大臣は引き続き自公政権の安定した基盤を確保しました。

 これに対し野党側では、第1党の立憲民主党が共産党の候補者絞り込みに助けられて各地の小選挙区で接戦を演じましたが、解散時よりも議席を14減らし党勢拡大に至りませんでした。枝野代表にとっては厳しい結果です。

 このように自民、立民の双方が議席を減らす中で、日本維新の会は解散時の4倍を超える41議席を獲得。全国各地での積極的な候補者擁立が功を奏し、公明党を抜いて第3党に躍り出ました。

 コロナ禍との戦いが続く中、第5波の感染拡大が一旦収まったタイミングに狙いを定めて行われた今回の解散・総選挙。この日程を組んだ岸田総理の判断が与党にとっては功を奏した格好です。

 ただ、自民党は野党候補の一本化によって甘利幹事長が小選挙区で議席を得ることができず幹事長辞任の表明に追い込まれるという痛手を負いました。また自ら派閥を率いる石原伸晃幹事長も野党の一本化候補に敗れ、議席を失う事態となりました。

 それでも全国的に見ると接戦で競り勝った小選挙区が多数あったわけですから、自民党は損害を「小破」にとどめたと言えそうです。


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 今回の衆院選で示された民意を全体としてどう受け止めるべきでしょうか。
立場によって受け止め方は様々で、新聞論調の中には「勝者なし」というものもあれば、「立民・共産の共闘不発」を強調するものもあります。

 私は是々非々を唱える日本維新の会が大きく躍進したことも併せて見ると、有権者は日本が直面する様々な課題に向き合うために「政治の舞台で展開される熟議への期待を示した」と見ることもできると考えます。

 短期的にはコロナウイルス対策の一層の強化。中期的には中国の台頭がもたらす経済・軍事の安全保障分野での不安の解消。さらに長期的には社会保障制度の持続可能性を担保する国家財政の健全化。温暖化対策。

 こういった課題について、国会の場で与野党が論戦を交わし、それを基に政府が必要な政策を立案する。そしてそれを実現するために必要な法律の制定や改正などを、国民によく見える形で積み重ねる。

 これまで2年近く続いてきたコロナ禍との戦いの下で委縮し先送りされてきた感がある、こうした政治本来の役割の再活性化を国民が期待していると見るのは決して的外れではないでしょう。


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 今回の衆議院選挙の投票率は55.93%で、前回(53.68%)前々回(過去最低の52.66%)を上回りました。SNSで投票を呼び掛ける芸能人やアーテイストの行動なども話題を呼びました。若い世代に「選挙に行く」ことの大切さを伝えようという機運が盛り上がってきたのは好ましいことです。

 この背景には、コロナ禍の緊急事態宣言の経験を通じて、国民に我慢を強いることができるのは政治の意思決定だということが実感され、政治参加プロセスへの接近が大切だと気付いた人が増えたという面もありそうです。

 「政治に小休止無し」という言葉があります。現代社会が未来に向かって進んでいくために乗り越えなくてはならない課題は次から次へと現れます。政治はその一つ一つに向き合い続けるのが宿命です。

 来年夏には次の大きな政治参加のプロセスである参議院選挙があります。まずはそれまでの間に国会の場で熟議が展開され、より多くの国民が政治参加に意義を見出してくれるようになることを期待しています。