#172 競争から協力へ、危機をチャンスに変える ~アメリカのメディア連携~
お金がないと、紙おむつを買うにも小分けにして買うために高くつき、定期を買うにも短期間を買うお金しかないため高くつく、歯の治療をするのも耐えられなくなるまで我慢するため、大変な治療が必要になり、銀行口座がないと給与の小切手を現金に換えるために手数料がかかる・・・
これは全米10大都市のうちでも最も貧困率が高い東部ペンシルベニア州の都市フィラデルフィアで、まとまったお金がないと日々の暮らしのコストがいかに増えるか、という現実を伝える「High Cost of Being Broke(貧困の高いコスト)」というシリーズ記事の内容です。実は1社が連載したものではなく、市内の商業テレビや公共放送ラジオ、新聞やオンラインメディアが取材した記事を2018年8月から12月にかけて10本持ち寄るという企画でした。
「High Cost of Being Broke」のウェブ画面
フィラデルフィアでは、2016年から2017年にかけて受刑者の社会復帰の問題を、そして2018年から貧困の問題を、媒体や視聴者読者層を異にする市内の報道機関が協力して取材し、報道するメディア連携が行われています。重要だけれども見過ごされがちな社会の課題を、力をあわせて多角的に取材し、解決策まで踏み込んで伝えることで、より大きなインパクトをもたらすことをめざす「RESOLVE(解決)」という連携プロジェクトです。
連携プロジェクト「RESOLVE」に参加しているメディア
アメリカでは、地域メディアの多くがビジネスモデルの急激な変化、経営悪化や買収合併に伴う合理化による取材要員の減少、フェイクニュースの氾濫に伴うメディアの信頼低下など、同時におしよせる危機に直面し、ジャーナリズムの新たなあり方を模索する動きが広がっています。
「RESOLVE」の編集会議
競争より協力を、というメディア連携もその一つです。限られた要員の持てる力を最大限に活かして最大限のインパクトを、解決が難しい社会の課題に向き合うことで信頼回復を。危機をチャンスに変えようという試みです。
3月6日の「文研フォーラム」は、フィラデルフィアのメディア連携の主要メンバーであるフィラデルフィア・メディア・ネットワークの統括編集長、それに課題解決型の報道に重点を置く連携を各地で支援しているソリューション・ジャーナリズム・ネットワークの地域代表を招き、地方のジャーナリズムにメディア連携がどのような意味を持つのか、話し合う予定です。
スタン・ウイッシュナウスキーさん
フィラデルフィア・メディア・ネットワーク
統括編集長・副社長
セアラ・ガスタヴァスさん
ソリューション・ジャーナリズム・ネットワーク
米西部山岳地方マネージャー