文研ブログ

2018年11月 2日

おススメの1本 2018年11月02日 (金)

#152 8Kで地域の災害を記録し、伝えつづける意味 ~NHK熊本 8K防災ワークショップから~

メディア研究部(メディア動向) 山口 勝


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ハイビジョンの4倍・16倍の高精細映像を使った4K・8K放送が、いよいよ12月1日に始まります。自然や芸術、スポーツ中継など、新たな映像体験が期待されています。
私はこの8Kを「美しさ」だけでなく「命を守る映像センサー」として活用できないかと、8K防災活用の研究に取り組んでいます

きっかけとなったのは2016年の熊本地震。地震直後に8Kカメラで空撮した被災地の映像を解析すると、従来の空中写真や現地調査ではわからなかった断層や亀裂、家屋倒壊や車中泊の様子などが詳細にわかり、防災や人命救助に役立つことが分かりました。NHKスペシャル「活断層の村の苦闘 熊本地震半年間の記録」(2016年10月放送)や、サイエンスZERO「防災から医療まで活用 8K  SHV」(2017年4月放送)、「超高精細映像で災害に挑む 8K SHV」(SHV試験放送2017年4月、5月、6月放送)などの番組にも展開しました。

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熊本地震から2年半となる10月6,7日。NHK熊本放送局の220インチ大型8Kモニターを使って、視聴者のみなさんと8Kワークショップ「8Kでわかった熊本地震の爪痕」を開きました。2日間で定員の2倍以上となる120人が参加。地震や防災に対する関心の高さを感じました。参加していただいた皆さん ありがとうございました!

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ワークショップでは、まず8Kを防災に生かす方法や事例について解説した後、NHK熊本局制作の「熊本地震 痕跡を未来へ」という20分の8K番組を見ていただきました。この番組は、地方局が独自に制作した初の8K番組です。熊本地震の活断層や破壊された阿蘇大橋、断層が鉄筋コンクリートの建物を引き裂いた東海大学阿蘇キャンパスなど、災害を後世に伝えるために「震災遺構」として保存することが決まった場所を、8K撮影しました。人が近寄ることが出来ない峡谷の壁面に表れた断層露頭は、小型8Kカメラをドローンに乗せて撮影。断層で引きちぎられた建物の床や柱の8K映像は、現場以上に、破壊の様子を鮮明に伝えていました。参加者からは、「立体感や奥行き感があるので驚いた。床の砂ぼこりまで見える」「この8K空撮で、美しい熊本や九州の島々をぜひとって、全国の人に見てもらいたい」などの声をいただきました。

撮影監督のNHK熊本局の中西紀雄チーフエンジニアは、「アマゾン熱帯雨林での自然番組の撮影で使った小型8Kカメラなら、NHK熊本局という地方局でも8K番組が作れる。熊本の震災を8Kで記録することで、自分のふるさと熊本に恩返ししたいと企画した」と制作意図を熱く語りました。防災教育が専門の熊本大学竹内裕希子准教授は、「風化し、失われやすい震災遺構を現物と8Kというデジタルの両方で保存することで、災害を後世に伝えることができる。熊本県が構想する『巡回型震災ミュージアム』の一角に、熊本城に近いNHK熊本局が入り、8Kをはじめとした映像で震災の記録を、多くの人に見てもらえるとすれば、防災教育や復興観光への貢献にもなるのではないか」と述べました。

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今回のワークショップで、最前列で見ていた高齢の女性から頂いた言葉が強く記憶に残りました。番組を見た感想を聞くと「熊本地震の記憶が、よみがえってきました」と涙をこらえながら答えてくださいました。この方は、冒頭に紹介した2016年放送のNHKスペシャル「活断層に苦闘する村 熊本地震半年間の記録」の舞台となった西原村大切畑から、ワークショップのために熊本放送局まで来てくださっていたのです。
地域の放送局が、地域の災害を記録し、伝え続けることの意義を改めて感じました。
震災当時は渦中にいた方たちが、震災から2年たって、ようやく何が起きていたのか知りたくなったのかもしれないと感じました。

「公共放送から公共メディアへ」とNHKは変わろうとしています。新しく始まる8K放送、美しい自然や文化だけでなく、8Kで災害を記録し、放送するだけでなく、こうしたワークショップや上映会、VODなどを使って伝え続けることは、災害などから命と暮らしを守ることが使命であるNHKだからこそできる、新たな公共メディア像の1つではないかと感じました。