#144 受信料は時代遅れで不公平?-デンマークの選択
メディア研究部(海外メディア研究) 中村美子
4月に、デンマークに行って来ました。
いま、番組研究グループの渡辺誓司主任研究員と共同でパラリンピック放送をテーマに調査研究を進めています。デンマークの公共放送DRのパラリンピック放送を取材することが、デンマークを訪問する第1の目的でした。
ところが、1月に「受信料廃止/税金化」と「DRの予算を5年間で20%削減」の2点について与野党が合意し、4月にはこの政治合意を前提に、政府は2019年から5年間のメディア政策提案を発表しました。いま、ヨーロッパ各国で、公共放送の財源制度や財源規模の見直しが続いています。が、正直に言って、デンマークの動きはノーマークでした。
他の国に比べると“電光石火”の決定に、いくつもの疑問がわきあがりました。受信料廃止の理由は?税金化のリスクをどれほど考慮したのか?また、DRに「ニュース、教育、文化」に集中することを政府は求めています。公共放送にとってコンテンツを通じて視聴者との関係の構築することがますます重要になっています。ましてや、NetflixやYouTubeなどの利用が高まり、情報や娯楽の選択肢は拡大しています。それなのに、公共放送の範囲を狭める意図は何か?
そこで、パラリンピック放送の現地調査をチャンスに、メディア政策に係る国会議員、メディア・コミュニケーションの研究者、当事者のDRにこうした疑問をぶつけてみました。その答えは、ぜひ『放送研究と調査』9月号 「受信料廃止を決めたデンマーク ~新メディア政策協定と公共放送の課題~」をご覧ください。
原稿では、聞き取り調査での空気をお伝えすることができませんでしたが、国会議員は、DRを“governmental broadcaster”と呼び、「DRに対する政府のコントロールを維持し続ける」と正直に語るため、内心複雑な思いがありました。また、研究者とDRの幹部職員が、「政治的交渉に立ち入ることができない」と淡々と語る様子も想像とは違ったものでした。
デンマークでは来年総選挙が予定され、左派への政権交代があるかもしれません。その場合、メディア政策の修正も考えられますが、「受信料の廃止/税金化」は与野党合意ですから、よほどのことが起きない限り、これが覆ることはありません。
ところで、デンマークの取材は今回が2回目です。10年余りのブランクがありました。海外のホテルでは滞在中、部屋のテレビのチャンネルをあちこち変えながら、その国のテレビ番組をチェックします。なぜか、公共放送DRが放送する6つのチャンネルしか見ることができませんでした。広告放送のTV2など数チャンネルはあったはずなのに、どうしたのでしょうか。ホテルが悪い? 一応、三つ星には宿泊できました。あとで思い出したのですが、デンマークの地上デジタル放送は、DRのチャンネル以外すべて有料サービスで提供されています。これが、原因かもしれません。
それにしても、DRのどのチャンネルも超真面目。ドキュメンタリーやクラシック・コンサートが目に付き、夕方の子ども向けチャンネルはアニメ、若者向けと思われるチャンネルではテレビゲームの攻略をテーマにしたスタジオ番組でした。最近世界的にじわじわと人気が出てきた北欧ドラマ・ミステリーは、週末を含め5日間の滞在期間中、まったく見ることができませんでした。こんなところに、もうすでに政治の意向が影響しているのでは、と思ってしまいました。