文研ブログ

2018年5月18日

メディアの動き 2018年05月18日 (金)

#125 スマホは媒体と場所を選ばない

メディア研究部(メディア動向) 関谷道雄

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『放送研究と調査』5月号に掲載した「越境するローカル 交錯するメディア」は、放送、新聞、そしてプラットフォームの3つの業種を8か月かけて取材を進め、執筆しました。脱稿後、取材にご協力いただいた方々に弊誌を送付したところ、「結構幅広いテーマだったんだね」という趣旨の感想が複数寄せられました。弊誌は、放送を中心とした調査研究の専門誌です。放送がメインテーマなのは当然ですが、今回はプラットフォーム活用の視点を縦軸に、放送と同じ既存メディアとして新聞を取り上げました。若年層を中心にしたテレビ離れ、さらに新聞離れが指摘されて久しいですが、スマホのユーザー側から見れば、スマホ上では、プラットフォーム、放送、新聞の差異はどんどん小さくなっているように見えます。私自身、スマホの購入は2010年ごろと周囲を見回しても比較的早いほうで、以来、スマホを中心に放送、新聞に接し、スマホが媒体を選ばなくなりつつあることを実感してきました。その一端が本稿で取り上げたラジオによる文字情報の積極活用と新聞による動画展開です。

また、プラットフォームの伸張に伴い、放送、新聞両媒体の関係者の間では、「どのように活用して、収益に結び付けるか」という議論が活発化しています。収益化の話は難しく、軽々にその議論には入れませんが、深刻なテレビ離れ、新聞離れを背景に、両媒体の関係者の危機感は年々強まっているように見えます。

その一方で、プラットフォーム展開をチャンスと捉える関係者も出ています。本稿では取り上げませんでしたが、沖縄戦のデジタルアーカイブコンテンツを制作した沖縄タイムス社デジタル部記者の與那覇里子氏は「スマホは場所を選ばない。地方の課題を全国の俎上(そじょう)に載せることができる」(『新聞研究』2016年3月号P57)と、収益化に悲観的な見方とは対照的に、積極的にスマホに活路を見出そうとしています。與那覇氏の意見は「我が意を得たり」でした。放送、新聞とも企業としてプラットフォーム、スマホに対応して、収益化を図り、存続させるというテーマは、今後さらに重要性を増していきます。それでも放送、新聞のうち、ローカル局、地方紙という地域社会を担うメディアは、與那覇氏が指摘したチャンスという視点もあわせ持つ必要があるように思います。