文研ブログ

2017年3月31日

調査あれこれ 2017年03月31日 (金)

#72 世界の"いま"を読み解く国際比較調査ISSP

世論調査部(社会調査) 村田ひろ子

71-0331-1.png

家庭生活に満足している日本人女性は33%、つまり3人に1人。これを多いととらえるか、少ないととらえるか。参考になるのが世界との比較です。
NHKが参加している国際比較調査グループISSP(International Social Survey Programme)は、世界約50の国・地域の調査機関が、毎年テーマを設定して共通の質問で世論調査を行っています。これまで「社会的不平等」「環境」「職業意識」など多岐にわたるテーマで調査を実施してきました。冒頭のデータは、2012年に実施した「家庭と男女の役割」調査の結果です。家庭生活に満足している日本人女性の割合は、調査を行った31の国・地域の中で、2番目に低い結果でした(詳しくは、「放送研究と調査2015年12月号」をご覧ください)。

ISSPが発足したのは1984年、NHKが参加するようになったのは1993年からです。以降、毎年国内で調査を行い、その結果は各国のデータを集約するドイツの研究機関を通じて、世界の政策担当者や研究者に活用されています。
調査テーマや質問項目は、毎年1回開催される総会で話し合われています。6~7か国から成るドラフティング(調査票設計)グループが練り上げた英語の調査票案について、通訳なしで活発な議論が交わされます。総会で確定した調査票は、それぞれの国の言語に翻訳したうえで調査を行います。

71-0331-2.png
2016年にリトアニア・カウナスで行われた総会の様子
(手前右から2人目が筆者)

総会で質問文や回答の選択肢を検討する際、イギリスの担当者に言い回しを確認する場面がたびたびあります。これは、ISSPのおおもとの調査票がイギリス英語で作られているためです。ところで同じ英語でも、イギリス英語とアメリカ英語とでは表現が異なることがあるのは広く知られています。ISSPでも、オリジナル版の調査票で“private creche”(民間の保育所)という選択肢は、アメリカの調査票では”private day care center”となっている例があります。“creche”は、アメリカ英語だと「キリスト生誕の光景」という別の意味にとられてしまう可能性があるからです。
2つ以上の言葉が使われている国では、複数の言語に翻訳して調査を行います。例えば南アフリカは6つの言語、フィリピンでは7つの言語、インドに至っては10もの言語に翻訳されています。調査票には、翻訳上の諸注意が記され、できるだけ原文の意図が伝わるような工夫がなされています。
71-0331-3333.png

「放送研究と調査3月号」では、2013年に実施した「国への帰属意識」調査の結果をもとに、国への愛着と外国人に対する意識の関係について考察しています。日本では各国と比べて、国への愛着が強い人が多いのか。2016年にEUからの離脱を選択したイギリス国民は、3年前の時点で、移民に対してどのような感情を抱いていたのか。排外主義が吹き荒れる2017年の「いま」を占うヒントが結果から読み取れます。ぜひご一読ください。