#69 「俺はナンバーワンになりたいんだ」 ←誰が言ったことばでしょう?
メディア研究部(放送用語・表現) 太田眞希恵
俺はナンバーワンになりたいんだ 200mでは世界記録を狙いにいく |
俺はやると言っただろう 自分を誇りに思うよ |
これは、リオデジャネイロオリンピックを伝えるテレビ番組に出た、ある外国人選手のインタビューについていた翻訳テロップです。誰のインタビューかわかりますか?
このインタビューの話者は、陸上男子100m、200m、4×100mリレーに出場して3つの金メダルをとったウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)です。多くの人がこの選手を思い浮かべたのではないでしょうか。「200m」「世界記録」というのが大きなヒントになったとは思いますが、実はそれ以外にも、多くの人を正解に導くヒントがあります。それは、「俺」という1人称代名詞や、「~んだ」「~よ」などのことばづかいです。ボルト選手らしいことばで訳されています。
このような“ある人物像と結びついた特徴あることばづかい”のことを「役割語」といいます。ちょっと聞きなれないことばですよね。先行研究にある次のような例題を解いてみると、イメージがつかめると思います。
問題 次のa~hとア~クを結びつけなさい。
『<もっと知りたい!日本語> ヴァーチャル日本語 役割語の謎』金水敏 著(岩波書店)より (※正解は末尾に)
この「役割語」については、日本語研究の分野でいろいろな研究が進んでいます。漫画や小説などフィクションの世界で使われることが多いのですが、ノンフィクションの分野であるテレビのスポーツ放送でも、外国人選手のインタビューにあてた翻訳のことばにけっこう使われていることがわかっています。最初にご紹介したボルト選手の翻訳テロップもその例です。
さて、「俺」という1人称代名詞や、「~さ」「~よ」「~んだ」などの男性的なことばづかいが似合うボルト選手ですが、リオデジャネイロオリンピックのテレビ放送では、次のような翻訳テロップもありました。
リオでのゴールと私の夢は同じです |
僕はなぜか他の種目より 200mでいつも緊張するんです |
そうです リオが最後です |
これらの翻訳テロップでは、「私」「僕」や、「~です」という丁寧な表現が使われていました。このような違いは、なぜ現れるのでしょうか。
こうした、オリンピック放送に使われた翻訳テロップの「役割語」について研究・分析したものを『放送研究と調査』3月号に掲載しました。
■再考 オリンピック放送の「役割語」 ~“日本人選手を主人公とした「物語」”という視点から~
『放送研究と調査』2017年3月号
2008年の北京オリンピックの際に分析した下記のものと合わせてお読みいただくと、オリンピック放送で展開される「役割語」の世界について、さらに理解できるかと思います。
■ウサイン・ボルトの“I”は、なせ「オレ」と訳されるのか ~スポーツ放送の「役割語」~
『放送研究と調査』2009年3月号
ぜひ、お読みください。
…これを「役割語」ふうに言うと、
「ぜひ、読んでくれよな」 (ボルト選手ふう)
「ぜひ、お読みくださいませ」(奥様ふう)
「ぜひとも、読むのじゃぞ」 (博士ふう)
「ぜったい、読んでよね」 (男の子 または 女の子)
…あなたなら、どんなふうに言いますか?
「ぜったい、読んでよ! ちゃんと読みなさいよ!」(家で息子に言うときの私…)
「問題」の答え:a-エ,b-ウ,c-ク,d-ア,e-キ,f-イ,g-カ,h-オ