文研ブログ

2016年11月18日

ことばのはなし 2016年11月18日 (金)

#54 [ドートンボリ ̄]と[ドート\ンボリ] NHKサンはどっちなの?

メディア研究部(放送用語・表現) 井上裕之

大阪の繁華街・道頓堀。この「どうとんぼり」という地名、みなさんは声に出して読むとき、どう読みますか?全国的に使われてるのは、抑揚を付けない[ドートンボリ ̄]ですよね。でも、地元・大阪では[ト]にアクセントを置く[ドート\ンボリ]と言う人が多いんじゃないでしょうか([\]は、そこで音が下がる、つまりその前の音にアクセントを置いて読むことを表す記号で、[ ̄]は、音の下がり目がなく平板に読むことを表す記号です)。
こんなふうに、“全国的なアクセント”“地元のアクセント”が違う地名って、国内にはけっこうあるんですよね。少しだけご紹介しますと…。

岡崎(愛知) [オカ\ザキ]vs.[オカザキ ̄]
清里(山梨) [キヨ\サト]vs.[キヨサト ̄]
北谷(沖縄) [チャ\タン]vs.[チャタン ̄]
前橋(群馬) [マエ\バシ]vs.[マエバシ ̄]
余市(北海道) [ヨ\イチ]vs.[ヨイチ ̄]  

ここに挙げた地名、2つのアクセントのうち、先に挙げた型が全国的に知られてて、後ろの型が地元で親しまれてると思うんですよね。こういう地名、実はNHKのアナウンサーの中でも、「放送ではどっちで読んだらいいの?」という疑問が、けっこう以前からあるんです。視聴者から「NHKサンはどっちで読むの?」とか、「あ、このアナウンサーのアクセント、地元の読み方と違う!」とか、いつもいろんな意見を言われますから、アナウンサーは。
NHKにも、これまでルールは、あることにはあったんですよ。ただ、「全国放送で読むときは全国的に親しまれたアクセントを使いましょう。地域放送では、地元のアクセントを使ってもよいでしょう」という、大まかなルールで、よく使われる地名のアクセントをひとつひとつ細かく決めてたってわけじゃないんですね。どれが全国的で、どれが地元のアクセントなのかってことは、案外、調べるのが難しくって(一口に“地元のアクセント”と言っても、誰が話すアクセントのことなのか…)。そもそも、毎日出てくる知らない土地の名前をどんなアクセントで読むのかってことに、アナウンサーはいつも頭を悩ませてるっていうのがホントのところなので。
というわけで、『NHK日本語発音アクセント新辞典』#28#43で発刊のご報告をさせていただきました!)では、よく使う3000語ほどの日本の地名について、新たに本編に載せようってことにしました。そしてそれに向けて、全国各地のNHKの放送局のアナウンスグループに調査をして、地元にある地名のアクセントを、「実際に放送でどう読んでいるか」聞いてみました。すると、各放送局では、放送に出てくることの多い地名についてはだいたいアクセントを決めてて、この調査結果をもとに、辞典に載せる地名のアクセントのかなりの数を、決めることができたんですね。
ただ、はじめに書いたような、地元の放送局で使うアクセントが全国的に知られてるものと食い違う場合、どっちを載せたらいいだろう…という問題は、やっぱり最後に残っちゃいました。これについては、文研の中でもケンケンゴーゴー…いや、カンカンガクガクの、まあ、かなりの大議論があったんですが、今回、この問題への一つの答えとして、「地元放送局アクセント」という枠を作ってみることにしました(「地元アクセント」ではなく、「地元放送局アクセント」です)。全国的に知られてるアクセントと違ってても、地元の放送局が実際に放送で使ってれば、この枠で辞典に載せよう、と。例えば「道頓堀」はこんなふうに…。

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この「地元放送局アクセント」、実際に放送する場面では、地域放送だけでなく、全国放送でも使っていいことにしました。ニュースや番組を制作する放送現場の人にとっては、ここに載せた情報をもとに、どっちを使うのがいいのか、番組ごとに選んでもらえるようにしたというわけです。いかがでしょうか?
これについては、『放送研究と調査 11月号』に「NHKアクセント辞典“新辞典”への大改訂⑤ 日本地名と『地元放送局アクセント』~積年の課題に解を求めて~」という論考を載せたので、詳しくはこちらをご覧ください!