#16 月報3月号紹介②「テレビ美術」を知っていますか?
メディア研究部(メディア史研究) 廣谷鏡子
テレビがスタートしたのは63年前。そのとき同時に生まれたものがあります。さて何でしょう。ヒントはそれまでのラジオ(音だけの世界)になかったもの。そう、「ビジュアル」(目に見えるもの)ですね。理屈っぽく言えば、テレビによって「情報」は「視覚化」された。その視覚化によって生まれたのが、「テレビ美術」です。
では、いちばん最初のテレビ美術は何だと思いますか。もう一度ラジオを思い出してください。ラジオになかったのは番組の“表紙”、つまり「タイトル(文字)」でした。
これは“裏表紙”、ですね(手書きのテロップカード、1961~3年頃)
こうして「文字」に始まったテレビ美術は、63年をかけて成長、変貌を遂げていきました。
ドラマを見るとき、あなたの視線はまずどこに行きますか。主人公がイケメンかどうかが重要だったりもするわけですが、ちょっと目をずらしてみてください。彼が着ている服、演技をする部屋、置いてあるテーブル、その上の料理、壁の絵画、時代劇なら侍のかつらにその時代のメイク。そればかりか、窓の外を吹く風、雨に打たれる樹木、降り積もる雪にいたるまで、ぜーんぶ「テレビ美術」なんですね。言ってみれば、目に見える(素っ裸の)人間以外のものすべて。
こちらは大河ドラマ第1作『花の生涯』(1963年)のオープンセット
実はいままで、この職種についてあまり詳しくは語られて来ませんでした。演出家やプロデューサーのように、番組の意図や内容をカッコ良く語ろうとした人がいなかったみたいです。だってテレビである限り、美術は当然ついてくる。当然のことをしていたまでさ…。
と思っていたかどうかは知りませんが、きっと職人気質の無口で謙虚な人が多かったのだろうと、筆者は2年前から美術の担当者に聞き取りをし、5回に渡って掲載してきました。月報3月号はその総集編です。「証言」によって放送の歴史に別の角度から光を当てる、「オーラル・ヒストリー」研究の新たな試みでもあります。
テレビ美術を際立たせるキーワードは「時間」と「本物らしさ」。それって何?と思った方はぜひご一読を。そしてこれからテレビを見るとき、少しだけ、「人以外」にも注目してみてください。
放送のオーラル・ヒストリー
シリーズ「テレビ美術」の成立と変容
3月号の総集編をお読みになって興味をもたれた方は、バックナンバーもご覧ください。
(こちらの5回はPDFで全文掲載しています)
(1) 文字のデザイン
http://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2014_01/20140103.pdf
(2) ドラマのセットデザイン
http://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2014_04/20140402.pdf
(3) メイク・かつら・衣装
http://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2015_01/20150103.pdf
(4) 時代劇スタジオをつくる人たち
前編http://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2015_12/20151204.pdf
後編http://www.nhk.or.jp/bunken/research/history/pdf/20160101_5.pdf