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メディアの動き

メディアの動き 2023年04月19日 (水)

【メディアの動き】テレビ朝日『タモリ倶楽部』が最終回,40 年余りの歴史にピリオド

テレビ朝日系列で1982 年10月から放送されてきた『タモリ倶楽部~ FOR THE SOPHISTICATEDPEOPLE ~』が3月31日深夜(4月1日未明)で,41年にわたる放送を終えた。

テレビ朝日は終了について「番組としての役割は十分に果たしたということで,総合的に判断した」としている。

コロナ禍の時期などを除き,番組はほぼ一貫して全編ロケスタイルで制作された。番組内では「低予算でスタジオセットが組めない」と説明し,MCのタモリによる「毎度おなじみ流浪の番組『タモリ倶楽部』でございます」という口上が人気だった。

開始当初から深夜特有の独自性の高い企画を放送し,番組内のミニコーナーなどで“サブカルチャー”をいち早く取り上げるなど,世に数々のブームをもたらすきっかけとなった。

タモリ個人の鉄道の趣味に寄り添う「タモリ電車クラブ」や,洋楽歌詞の聞き間違いを募集しVTRを添え楽しむ「空耳アワー」などが特に注目されてきたが,番組は長年にわたり音楽・アート・料理・伝統文化・地形,時には専門性のきわめて高いニッチな工業製品の世界なども,『タモリ倶楽部』ならではの軽快さで伝えた。

もちろん,深夜帯ならではのお色気度の高いものもあったが,マイナーなテーマを数多く取り上げるというスタンスは,多くのテレビ番組制作者にとって憧れ・目標でもあった。

最終回は,ネット上にあふれるタモリ考案の料理レシピの不確実さを,本人がいつもと変わらずゆるい空気で訂正していった。

メディアの動き 2023年04月19日 (水)

【メディアの動き】GYAO!が終了, U-NEXTとParaviが統合など 動画配信サービスの再編進む

ヤフーのグループ会社GYAOの動画配信サービスGYAO! (ギャオ)が,3月31日に終了した。

GYAO!は,Yahoo! 動画とGyao(当時のUSEN)が2009年に統合して発足し,早くからテレビ局の公式動画などの見逃し配信を行ってユーザーを獲得してきた。

しかし,2015 年にコンテンツホルダーである民放テレビ局自体が連合し,TVerを開始した。

また,2019 年にLINEとヤフーが経営統合。2023年2月には,2 社と,その親会社にあたるZホールディングス(以下,ZHD)が合併した。

ZHDが内部の重複・類似する事業の整理を進めていることに加え,2023年1月31日に,TVerとZHDが長期的な業務提携に向け基本合意したことも,GYAO !終了の理由とみられる。

一方,同じ3月31日には,動画配信サービスU-NEXTとParavi(プレミアム・プラットフォーム・ジャパン)が経営統合した。

U- NEXT が存続会社となり,2023年7月からはサービスも統合する予定で,視聴者370万人以上,売上高800億円超の規模となり,国内勢では最大となる見込みだ。

TELASA,FOD,NHKプラスなど, テレビ局が単体で自社の見逃し配信を展開し,さらにNetflixやAmazonプライムビデオなど海外プラットフォーマーに国内のテレビ番組が外販されている。

プラットフォームが乱立し,視聴経路がきわめて複雑になる中,ユーザーはどれを選べばいいのかがわかりづらい状態が続いている。

今後のプラットフォーム再編などさらなる動きを注視したい。

メディアの動き 2023年04月17日 (月)

【メディアの動き】放送法の「政治的公平性」解釈めぐる 総務省内部文書で国会が紛糾

立憲民主党の小西洋之議員は3月3日,参議院予算委員会で,放送法が定める「政治的公平」の解釈をめぐり2014年から翌年にかけて作成されたとされる総務省の内部文書を入手し,安倍政権の圧力で法解釈が変更されたことが示されていると指摘した。

これに対し,当時,総務大臣だった高市経済安全保障担当大臣は「まったくのねつ造文書だ」と述べ,「もしねつ造でなければ大臣や議員を辞職するということでいいのか」との問いに「結構だ」と応じた。

総務省は7日,これら78枚を行政文書と認めたうえで公表した。

このうち4枚に,高市大臣が解釈をめぐって安倍総理大臣と電話で協議したなどと記載されていたが,翌日の参議院本会議でも4枚はねつ造されたもので議員辞職はしないとし,その後も発言を撤回していない。

放送法が定める「政治的公平」については,安倍政権が2016年に,放送局の番組全体を見て判断するとしつつ,1つの番組のみでも不偏不党の立場から明らかに逸脱している場合などは政治的公平を確保しているとは認められないとする統一見解をまとめた。

今回の文書について小西議員は「当時の総理大臣補佐官が特定の民放番組が政治的に偏っているとして法解釈の変更を発案し,安倍元総理大臣がそれを認めたことが示されている。放送に国家権力がいつでも介入できるという恐ろしい解釈が不正なプロセスで作られたことを示す文書だ」と指摘している。

放送局の報道姿勢を萎縮させかねない解釈の変更があったとしたら,いかになされたのか。

高市大臣の関与にとどまらず,国会にはその点を明らかにしてほしい。

メディアの動き 2023年04月17日 (月)

【メディアの動き】英BBC,デジタル化に向けた経営改革, 音楽サービスの合理化には難航も

イギリス公共放送BBCは,財源不足に対応しながら,デジタル関連に経営資源を集中させる改革を進める中,クラシック音楽に関する合理化案を発表したが,音楽家や市民からの反発を招き,計画は一部見直しを余儀なくされた。

BBCは3月7日,クラシック音楽の新しい戦略を発表し,幅広く国内の合唱団に投資して合唱界全体の発展をめざし,オーケストラはより多くの音楽家と柔軟に全国で活動するため,100年近い歴史がある傘下の合唱団BBCSingersを廃止し,BBC交響楽団など3つのオーケストラも人員を20%削減するとした。

これに音楽家はじめ著名な指揮者らが反発した。
特に合唱団の廃止には,ヨーロッパ各国の放送合唱団が反対声明を出し,多数の民間合唱団が「BBC Singersをつぶすな!」と訴える動画をまとめてYouTubeに投稿したりした。

存続を求めるオンライン署名も15万件を超えた。

BBCは3月24日,複数の団体から代替財源について提案があったとして,BBC Singersの廃止をいったん保留した。

また,オーケストラについても極力,強制的な人員削減は避けるとした。

BBCの改革をめぐっては,3月15日,イングランド地方のローカル放送で働く職員およそ1,000人が,地域向けラジオ番組の合理化策に反対してストを行い,テレビやラジオの番組の一部が休止となる影響が出た。

ジャーナリスト組合は,人々は地元に関連したニュースを求めており,ローカルサービスをBBC の中核として守るべきだと訴えている。

組合は,5月の地方選挙の日などにもにストを行う可能性にも言及している。

メディアの動き 2023年04月17日 (月)

【メディアの動き】オーストリア,公共放送の新たな財源 制度として全世帯徴収方式を採用へ

オーストリア政府は3月23日,公共放送ORF(オーストリア放送協会)の財源制度として,受信機の有無にかかわらず,すべての世帯から「ORF 負担金」を徴収する新制度を導入すると発表した。

政府は,徴収額は現行の月額18.59 ユーロ(約2,600円)から15 ユーロ(約2,100円)程度に値下げされるとしている。また企業の事業所も,これまでどおり徴収対象となる。

現行制度の「番組料」は,テレビやラジオの所有世帯を徴収対象としており,インターネットでORFのサービスを利用しているだけの世帯は対象になっていない。

この状況について,オーストリア憲法裁判所は2022 年7月,不公平な負担が生じており,放送の独立を保障した憲法の規定に反すると判断し,2023 年末までに制度を改正するよう求めていた。

新制度の候補としてあがったのが,ドイツとスイスが採用している,受信機の有無にかかわらず全世帯から負担金を徴収する方式だった。

連立与党の1つオーストリア国民党(ÖVP)は,この方式を採用する条件として,ORFの大規模な経費削減をあげた。

これを受け,ヴァイスマンORF会長は2023 年2月,2026 年末までの4 年間で約3億2,500万ユーロ(約452億円)の経費削減計画を提示した。
ÖVPはこれを認め,「ORF 負担金」の導入が決まった。

削減計画には,ORF 所属のウィーン放送交響楽団や,スポーツ専門チャンネルORF Sport+の廃止が含まれていたが,各方面から反対の声が相次いだため,政府は同日,これらの存続を前提とする方針を発表した。 

メディアの動き 2023年04月14日 (金)

【メディアの動き】英BBC スポーツ解説者の政府批判 きっかけに混乱,不偏不党の議論に

公共放送BBCは,人気サッカー解説者のギャリー・リネカー氏が3月7日,Twitterで政府を批判したことを受けて番組を降板させたが,政府の圧力に屈したなどとの批判が相次ぎ,混乱が広がった。

この問題は,英仏海峡をボートで渡るなどして不法入国した移民には亡命申請を認めないとする政府の法案について,リネカー氏が,ナチスドイツに例えて批判したことに端を発した。

政府や保守党の議員から批判の声が相次いだ。

BBCは,公共放送として不偏不党を守るため,報道番組などの職員・スタッフには,政治的な発言を控えるようSNSの利用のルールを定めている。
同局は,知名度が高いリネカー氏にも遵守を求めてきており,同月10日,「SNSの使い方について明確な合意ができるまで」同氏の番組への出演を差し止めるとした。

しかし,この方針に反発するほかのサッカー解説者や司会者が出演をボイコットする動きが広がり,BBCはリネカー氏が司会を務める看板番組を90分から20分に短縮したほか,テレビやラジオの複数の番組が再放送やポッドキャストで編成の空白を埋めることになった。

混乱を受けてBBCのデイビー会長は3月13日に声明を出し,視聴者に謝罪するとともに,リネカー氏の番組への復帰を表明した。

さらに「BBCにとって不偏不党は大事なものだ。また表現の自由も守るべきもので,そのバランスは難しい」としたうえで,SNSの利用のルールがより適切で明確なものになるよう見直す方針を示した。

一方,BBCの記者のインタビューに対し,デイビー会長は自らの辞任は否定した。

メディアの動き 2023年04月14日 (金)

【メディアの動き】イラク戦争開戦20年,報道の教訓は

アメリカが,存在しない大量破壊兵器を理由にイラク戦争を開始してから,3月20日で20年を迎えた。

Watson Instituteによると戦争による死者(2021年9月集計)はイラク市民を中心に30万人近くに達した。

米メディアの大半は当時のブッシュ政権幹部や亡命イラク人の情報を検証せずに報じて開戦への世論づくりを後押しし,その後,報道の誤りを認めたが,その教訓が十分に生かされているか,疑問もある。

開戦前,大手メディアでは唯一,イラクの大量破壊兵器保有を打ち消す報道を続けたKnight Ridder社のワシントン支局長だったジョン・ ウォルコット氏は『Foreign Affairs』誌への寄稿で,当時のみずからの経験を振り返った。

この中で同氏は,報道を誤らないためには,政治目的に沿った情報を求める権力者ではなく,現実を把握している現場に近い軍関係者や専門家の声を報じることが必要だったと強調。

2022年にアフガニスタンから米軍が撤退した際に,その後の政権崩壊や混乱を予期できていなかったことに当時の教訓が生かされていないことがうかがえると指摘した。

『Columbia Journalism Review』のメディア評論執筆者 ジョン・オルソップ氏も戦争や安全保障に関わる報道が,相変わらず,イラク戦争時に誤った情報を流した国防総省や情報機関の幹部に依存している問題を指摘した。

ロシアのウクライナ侵攻では米メディアの多くが現地取材に基づく独自の報道を続けているが,ロシアやロシアと接近する中国との対決姿勢を強める政権幹部の情報に依存せず,両国の現実を客観的に伝えることができているのかも問われている。

  

メディアの動き 2023年04月14日 (金)

【メディアの動き】東日本大震災から12年,「震災アーカイブ」閉鎖相次ぐ

東日本大震災から12年。各放送局とも3月11日午後2時46分の地震発生時刻にあわせて,特別番組を組んだ。

繰り返し強調されたのが「忘れず語り継ぐこと」。

しかし,そのための重要なコンテンツの1つ,「震災アーカイブ」の閉鎖が相次いでいる。

震災アーカイブは,地域ごとの被害や復興の様子を示す資料や情報をデジタル化しネット上で公開するもので,記録を劣化させず残すことができる。

震災後,自治体や大学などの研究機関,民間団体などが多数の震災アーカイブを設立。それを一元的に検索できるポータルサイト「ひなぎく」を国立国会図書館が整備した。

しかし,国立国会図書館の井上佐知子主任司書によると,「ひなぎく」で検索できた50以上の震災アーカイブのうち,これまでに7つが閉鎖・休止した。

原因については「権利処理の負担」や「新規に収集される資料の減少」などがあげられる。例えば資料を収集した時点で ネット上の公開までの許諾をとっていなかったり,追加される資料が時間の経過とともに減ったりすると,新たに公開される資料が少なくなりアクセス数が減少。

その結果,自治体などからの出資金が減るなどして運営が難しくなるという。

井上主任司書は「閉鎖によって地域の防災教育での利用や震災対応の検証,新たな資料の発掘などが進まなくなる。継続する方法を各地域で探るべきだ」と指摘している。

東日本大震災は,地域ごとに被災や復興の状況に違いがあるだけに,各地域で貴重な資料をどのように後世に引き継いでいくか,見つめ直す時期に来ている。

メディアの動き 2023年03月31日 (金)

#468 "不偏不党"と"表現の自由"で揺れるBBC 

メディア研究部(海外メディア)税所玲子

世界の「公共放送の母船」とも形容されるイギリスBBC。その看板スポーツ番組に、解説者として出演するサッカー・イングランドの元主将のギャリー・リネカー氏が、政府の移民政策の批判を約890万のフォロワーを持つ個人アカウント上でツイートし、同局のジャーナリズムの原則の1つである「不偏不党」と「表現の自由」をどう両立させるのか大論争になっています。

ロンドンの観光名所、オックスフォード・ストリートから数分のところにあるBBC本部の玄関脇には2.5メートルのジョージ・オーウェルの像があります。1941年から2年間、BBCの対外宣伝放送に携わった作家の横には、「もし自由に意味があるとするとすれば、それは相手が聞きたくないことを告げる権利のことだろう」との言葉が刻まれ、「権力監視」と「表現の自由」をうたっています。

BBC1_W_high.jpg BBC本部の前にあるジョージ・オーウェルの像

もう一つ、BBCのDNAと呼ばれるのが「不偏不党」(impartiality)です1) 。伝統的な二大政党の時代には左右のバランスをとることとも理解されていましたが、政治・社会が多軸・多様な今、「どの立場にもくみせず、偏見のない状態をいう」とBBC関係者は説明しています 2)。この原則は、国王からの「特許状」に明文化され、いかなる勢力にも偏ることなく、事実に基づいた報道を目指す その姿勢が、信頼の源となってきた、とBBCの職員は胸を張ります。

BBC2_W_high.jpg「不偏不党」が明記されているBBCの特許状 
(BBCのホームページより)

今回の論争のきっかけとなったリネカー氏のツイートは、3月7日、イギリス政府が打ち出した移民政策についてのやりとりの中で起きました。英仏海峡を小舟で渡り入国を試みる移民が後を絶たず、政府は対策としてこうした手段で入国した人には亡命申請を認めないという法案を発表しました。
これに対し、難民を自宅に受け入れるなどの支援を行っているリネカー氏は、「1930年代のドイツが使ったのと変わらない言葉で、最も弱い立場の人たちに向けられた残酷な政策だ」と厳しく批判したのです。

BBC3_W_high.jpg問題となったリネカー氏のツイートを伝える英Daily Mail紙 
(Daily Mail ホームページより)

これに対し、与党・保守党の議員から批判の声が上がり、首相官邸の報道官も「受け入れられない」と述べました。一方、ネットでは支持の声が広がりました。

実はリネカー氏の「不規則発言」は今回が初めてではありません。EU離脱や保守党へのロシアからの献金を批判するツイートを繰り返し、ネット時代にあった「不偏不党」のあり方を模索するBBCにとって、その苦悩を象徴するような存在でした。

BBCは、2010年代からソーシャルメディア(SNS)での活用を進めてきました。取材者個人が批判されたり、いわゆる炎上事件が起きたりするリスクは認識しながらも、ネット空間での視聴者との対話が、これからは避けて通れないと判断したのです。

しかし、格差、移民、ポピュリズムなどの課題を抱えたイギリスは、2016年のEUからの離脱を問う国民投票をきっかけに対立が噴出します。国のあり方をめぐる論争は、自分が何を大事に思うのかという「価値」を際立たせ、記者たちは右からも左からも「偏向だ」と批判されることが増えていきます。

そして2019年、難航するEU離脱交渉を終わらせることを公約に掲げて総選挙に勝利したジョンソン首相は、交渉の行方を追及するメディアにいらだち、対決姿勢を強めます。BBCの受信許可料の不払いに対し刑事罰を科す制度の見直しを試みたり、Channel4の民営化計画を打ち出したりするなど揺さぶりをかけました3)

BBC4_W_high.jpgBBCデイビー会長就任を伝えるBBCニュース
「不偏不党を守らないスター出演者の解雇も辞さず」

そんな緊張が漂う中、2020年9月に会長に就任したティム・デイビー氏は、「不偏不党」の徹底を最重要課題に掲げます。当時、欧米では、#MeToo運動や黒人の人権擁護の運動が広がっていましたが、デイビー会長は、報道や社会番組に関わる者は、政治志向を推察される言動はもとより、キャンペーンへの参加も許さない姿勢を打ち出し、SNS利用のルールを厳格化しました。キャスターや記者の中には、管理を嫌い他局に移る人も少なくありません。またSNSでの発信を当然と考える若い職員の間には不満がくすぶっていると伝えられています。

ただ、リネカー氏は、BBCの職員ではなく、フリーランスとして番組に出演しています。リネカー氏は、自分はガイドラインの対象でないと考えていたと主張しています。一方、BBCからすれば、135万ポンド(約2億2000万円)と局で最高報酬を得、抜群の知名度を持つリネカー氏には特別な責任が伴うとの考えがあったようです。

リネカー氏がツイートの削除を拒否したことを受けて、ついにBBCは10日、「SNSの利用について、明確な方針の合意が得られるまで」番組の一時降板を要請したと発表しました。

BBC5_W_edited.jpg

リネカー氏を支持する出演者による番組ボイコットを伝える新聞各紙
(BBCのホームページより)

ところが、このBBCの決定に、リネカー氏を支持する他のサッカー番組の司会者や出演者による番組ボイコットが起きました。また一部の選手が、試合後のBBCのインタビューを拒否する考えを選手組合に伝えたため、プレミアリーグは、すべての選手と監督が、リネカー氏を降板させた番組のインタビューを見送る方針を示しました。

土曜日のイギリスは、朝から晩までテレビやラジオでサッカー番組が組まれています。しかし11日は、多くの番組が放送できなくなり、テレビでは文化系番組の再放送で、ラジオではポッドキャストの放送で編成の空白を埋めることを余儀なくされる、異例の事態に陥りました。

BBC6_W_edited.jpgシャープ理事長に対する議会での聴聞の様子を伝えるBBCニュース

この大混乱は、BBCにとって最悪のタイミングで起きました。
今年1月、シャープ理事長がジョンソン元首相の約80万ポンドのローンの保証人の仲介に関わっていたことが発覚。シャープ氏は、ジョンソン氏のロンドン市長時代やスナク首相の財務相時代のアドバイザーを務めていました。保証人の仲介は理事長の選出のさなかの出来事だっただけに 「お友達人事」との批判を浴び、選出のプロセスが適切だったか外部調査が進められていました。
13日には、議会下院でリネカー氏の問題と不偏不党について、文化相に対する緊急質問が行われ、 野党からは、「権力に対しモノを申した人物を降板させるのはおかしい」「BBCへの信頼を傷つけたシャープ氏こそ辞任すべきだ」などの声があがりました。

混乱の収拾を図るため、デイビー会長はリネカー氏と話し合い13日、番組に復活させる方針を示すとともに、SNS利用のルールを見直す考えを示しました。声明の中でデイビー会長は、視聴者に謝罪するとともに「BBCは、特許状で不偏不党を誓っている。まだ表現の自由も同じように大事だと考えている」と述べ、2つの価値のはざまで苦悩していることをあらわにしました。

 BBC7_W_edited.jpgデイビー会長へのBBC記者によるインタビュー動画
(BBCホームページより)

ところでこの騒動をBBCの報道部門は、過去の自局のスキャンダルの時と同様に、客観的に報じています。出張先のアメリカでデイビー会長へのインタビューを行った特派員が、「視聴者はリネカー氏でなくあなたの不偏不党に疑問に投げかけている。政府や与党・保守党、右派のメディアの圧力に屈したのではないか」「BBCにとって不偏不党と同じく信頼も大事だ。その信頼を失った今、辞任すべきではないか」と問う様子を収めた動画は、全編、ネットで公開されています4)

 BBC8_W_edited.jpg BBC外観

誰もがネットを通じて自由に発信できるようになり、多様性が重視される今の社会で、不偏不党はどう実践されるべきか。問題をきっかけに議論が 広がっています。

BBCの元報道局長で、現在、ネットメディアTortoiseを率いるジェームズ・ハーディング氏は、BBCのラジオ番組で、「公金で支えられる放送局が提供するニュースや情報は公平でなければならないが、政治的な問題の判断は個人に委ねられるべきだ。すべての作家、監督、音楽家、スポーツ解説者、科学者、経営者のオピニオンを管理するのは無理がある」と行き過ぎた管理に疑問を呈します。
また外部規制監督機関・放送通信庁(Ofcom)の元会長のパトリシア・ホジソン氏も「BBCのブランドを傷つけないように表現の自由を行使すべきで、そのことによって、視聴者の多様な意見を尊重することにもつながるのではないでしょうか」と述べています5)

一方、偽情報や誤情報が飛び交う時代だからこそ、正確で信頼できる情報が必要で、それを担保する情報の多様性や不偏不党は譲れないとの主張も聞かれます。BBCのデイビー会長はもちろん、元会長のマーク・トンプソン氏も、かつて「不偏不党がなくなるくらいなら、BBCがなくなった方がよい」とまで言い切りました。

BBCの歴史の編さんに携わったウェストミンスター大学のジーン・シートン教授は、「そもそも不偏不党は不完全なものだ」といいます。放送が始まった100年前を振り返り、「当時世界は“新しいメディア”によって、大企業の利益が国民の利益よりも優先されたり、海外のイデオロギーによって世論が影響を受けたり、戦争の宣伝によって政府やメディアに対する国民の不信が高まったり、国民が分断されることが懸念されていた。そうした懸念を克服するために国民の声を反映する場、議論の出発点となる情報が必要だったのだ」と説明します6)

この言葉は、今の時代にも、そのまま当てはまると思います。

日本のメディアが未曾有の災害によって変化したと言われるように、BBCは戦争や政権交代など社会の変化の中で生じる影響から、編集権の独立をいかに守るかという組織防衛の歴史の中で成長してきました。

激動のメディア環境の中で、これまで試され、再構築してきた ジャーナリズムの原則にBBCが向き合い続けることで、ネット時代の不偏不党の姿が見えてくることを期待しています。そして、それは、世界の公共放送にも示唆に富むものになるでしょう。


1)Impartialityは「公平公正」の訳も使用される。本ブログでは、BBCが「予断を持たないバイアスのない状態」との説明を受け、検察官が任務遂行にあたって用いる不偏不党の概念に近いと考え、同訳を使用している。

2)BBCの編集方針に関する議会証言 https://committees.parliament.uk/oralevidence/3201/pdf/h / 編集指針Editorial Guideline で求めるのはDue Impartialityとされ、問題に相応(due)の対応を求めている。意見が対立する問題について同じ秒数を配分する必要はなく、1つの番組でなく放送全体で判断されるものだと説明されている。また21世紀の不偏不党のあり方について検討したBBCの報告書“From Seesaw to Wagon Wheel”(2007)では、不偏不党は、正確性やバランス、公平性、客観性、透明性など様々な要素が組み合わさってできるものだとした上で、「視座の広がり」も重要で「より多くの意見を取り入れることで実現される」と強調している。https://www.johnbridcut.com/documents/seesaw_to_wagon_wheel_report.pdf

3)いずれの政策も、途中で見直しとなり、実現されなかった。

4)Gary Lineker: BBC director general Tim Davie’s interview in full https://www.bbc.com/news/av/uk-64928580

5)Press Gazette, BBC to review social media rules for all staff in bid to resolve Gary Lineker row, March 13 2023

6)Jean Seaton, History of the BBC: impartiality https://www.bbc.co.uk/historyofthebbc/100-voices/inventingthefuture/impartiality/

メディアの動き 2023年03月27日 (月)

#467 平成の放送制度改革を振り返る

 メディア研究部(メディア史研究)村上聖一

  平成(1989年~2019年)の約30年間、インターネットが普及し、放送と通信の融合が進展していく中で、放送制度にも大きな見直しが迫られました。この間、制度改革をめぐってどのような議論が行われ、どのような結論に至ったかについては、『放送研究と調査』で2回にわたってまとめましたので、以下より、ぜひお読みいただければと思います。ここでは、簡単にその内容をご紹介します。

▶ 『放送研究と調査』2023年1月号
  平成の放送制度改革を振り返る(1)放送・通信融合と法体系見直し

▶ 『放送研究と調査』2023年2月号
  平成の放送制度改革を振り返る(2)番組規律をめぐる議論

  従来の制度で問題になったのは、放送と通信が融合する中で、テレビや電話といった業態別の縦割りの法体系では、新たなサービスの創出に支障があるのではないか、という点でした。これについては、2000年代に入り、官邸主導の政策形成が進む中、総務省や放送事業者に加えて、IT戦略本部といった新たなアクター(行為主体)が政策形成に参入しました。そして、以下の図にあるように、縦割りの法体系からレイヤー型(横割り型)の法体系に転換し、規制の緩和を図るべきといった改革案が浮上しました。

2001年の法体系見直しのアイデア
kiseikaikaku.jpg(IT戦略本部IT関連規制改革専門調査会資料)

  これに対して、以下の図は、2010年に実現した放送・通信関連法の再編後の法体系です。この図を見ると、新たなアイデアが採用され、レイヤー型の法体系に移行したと言うことはできるでしょう。一方で、先のアイデアが提示されてから実際の法改正に至るまでに、10年近くの期間がかかったこともわかります。また、図からは読み取れませんが、改正内容を詳しく見ますと、放送での完全なハード・ソフト分離といった改革は見送られ、規制の見直しを含め、法改正は、既存の放送事業者の経営に大きな影響を及ぼさないものとなりました

2010年の放送・通信関連法の再編
soumusho.png(平成27年版情報通信白書)

  改革の中身が変化していった背景には、制度を抜本的に見直すアイデアは新たなアクターによって打ち出されたものの、それが具体化される段階で、所管官庁(総務省)や放送事業者といった従来の政策共同体が大きな影響力を持ったという点があります。そして、そうした政策共同体を中心に検討が進む中で、改正内容が次第に漸進的なものになっていった面があります。

  さらに、平成期の制度改革をめぐって指摘できる問題はこれだけではありません。放送制度の見直しでは、法体系の再編に加えて、メディアが多様化する中でのコンテンツ規律(番組規律)の見直しも重要な課題になりますが、制度の見直しにあたっては、その2つが切り分けられ、異なるアクターによって別々に議論されたということも指摘することができます。そして、コンテンツ規律をめぐる議論は、放送・通信融合への対応というよりも、番組をめぐる個別の問題が発端になって起きることが多く見られました

  例えば、1997年放送法改正でなされた番組審議機関の機能強化では、それに先立って起きた番組をめぐるさまざまな不祥事が存在していました。また、2010年の法体系の再編の際には、通販番組を含め、放送番組の種別の公表を義務づける規制強化がなされましたが、これもその直前の通販番組に対する批判がきっかけでした。

  しかし、放送制度の目的が、究極的には、「放送による表現の自由の確保」や「健全な民主主義の発達」(放送法1条)にあることを考えれば、法体系の見直しにしても、番組規律の見直しにしても、そうした目的を踏まえた上で、双方をどのように組み合わせれば政策目標の達成につながるのか、といった観点からの議論がより求められていたのではないかと指摘することができます。

  放送制度は、令和に入ってからも見直しが続いています。そこでは、近年の情報空間の変容を踏まえた上で、放送政策の目標を改めて確認し、制度のあり方を体系的・総合的に検討していくことが求められていると思います。