文研ブログ

メディアの動き 2023年05月18日 (木)

NHKを巡る政策議論の最新動向①受信料制度 何が議論されているのか?【研究員の視点】#480

メディア研究部(メディア動向)村上圭子

はじめに

 総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会1) (以下、在り方検)」ではいま、NHKの将来像に関する議論が続けられています。直近の会合(公共放送ワーキンググループ、以下WG)2) では、受信料制度について踏み込んだ議論が行われました。このWGの後、「NHK受信料、スマホ所持でも徴収へ。有識者会議の意見一致」という内容がツイッターに投稿され、リツイートは約1.4万件、表示回数は2,300万回を超えています3) 。しかし、これはWGで議論されている内容とは大きく異なるものでした。実際にどんな議論だったのかは後述しますが、WGを傍聴していた私はとても驚きました。5月9日、オンライン上の情報のファクトチェック(事実の検証)を専門とする非営利組織「日本ファクトチェックセンター4) 」は、総務省にも問い合わせた上でこの内容は誤りであると発表しています5)

 現在の受信料制度は、テレビなど放送を受信できる設備を設置してNHKの放送を受信することができる環境にある世帯や事業者が、NHKと契約を締結し受信料を負担する義務を負うという制度です。逆にいえば、放送を受信できる設備を設置していない世帯や事業者には、受信料を負担する義務はない制度であるともいえます。WGでは、テレビを設置せずにパソコンやスマートフォン(以下、スマホ)を使ってインターネット(以下、ネット)経由でニュースやコンテンツに接触する人が増えていく中、NHKのネット活用業務や受信料制度は今後どうすべきかを中心に議論が行われています。
 こうした議論が行われていると聞くと、パソコンやスマホを持っているだけで受信料を払わなければならなくなるのか?とか、日本も受信設備の有無にかかわらず全世帯が負担するドイツのような制度6)になっていくのか?といった疑念や不安を抱かれる方もいると思います。また、国民・視聴者の負担をうんぬんする前に、NHKの業務内容や役割を見直す議論は十分行われているのか、という批判もあります。今回、誤った投稿が拡散してしまった背景には、こうした国民・視聴者の潜在的な疑念、不安、批判などがあったのではないかと推察しています。

 私は去年9月から始まったWGを全て傍聴していますが、丁寧かつ慎重な議論が行われていると感じてきました。一方で、専門性の高い論点が複雑に入り組んでいるため、議論の枠組みそのものがどこまで国民・視聴者に理解されているのか、また、議論の内容を報じるマスメディアが、当事者であるNHKだったり、そしてNHKと競争関係にあるという別な意味での当事者と言える民放や新聞だったりすることにより、議論の内容がどこまで客観的に伝わっているのか、懸念しています。
 文研ブログではこれまで、WGの第4回までの議論をフォローして整理してきました7)。文研はNHKの一組織ではありますが、メディア全体の動向をできるだけ俯瞰した上で今後を展望するという役割を担っています。NHKや受信料制度の今後というテーマについても例外ではなく、むしろより一層、その役割が問われるのではないかと私は考えます。第5回から直近の第7回までの会合では、今後のNHKや受信料制度に関する非常に重要な論点が議論されています。今回からこの3回分の議論をいくつかに分けて整理し、私なりにその意味を考えていきたいと思います。なお、議論を整理するにあたり、構成員の発言については、文脈をわかりやすく伝えるため、逐語的な引用ではなく私の解釈も含めて要約していることをあらかじめお断りしておきます。

1.議論の全体像

 図1はWGの資料と議事要旨 などをもとに8)、3回分の論点を簡略化してまとめたものです。①ネット時代における公共放送の役割、②ネット活用業務を中心としたNHKの業務範囲、③民間事業者(民放・新聞)との競争ルール、④財源・受信料制度、の順番で議論が行われてきました。これまでの議論の中で、構成員の意見がおおむね一致している論点もいくつかありますが、まだ議論が結論に至っているわけではありません。NHKには今後、これらの議論を受ける形で何らかの報告を行うことが求められていますし、また民放連からはWGの議論の進め方に対して、意見と10項目以上の質問9)が提出されています。こうした事業者サイドの意見や要望を踏まえ、WGでは改めてそれぞれの論点を振り返りながら再度議論を行い、夏頃にとりまとめを行うというスケジュールが想定されています。

<図1>

sheet1_fix2_murakami.png 本ブログではまず、直近の第7回の論点である④財源・受信料制度の議論について整理します。その上で、次回以降①~③の議論にさかのぼり、積み残されている課題を提示していきたいと思います。

2.提示された4方式→日本は引き続き受信料方式で合意

 2022年、フランスで受信料制度が廃止となりました。NHK職員の私にとっては衝撃的なニュースでしたが、一般にはどのくらいの方がご存じでしょうか。制度廃止後のフランスでは現在、2年間の暫定措置として付加価値税で公共放送の財源が賄われています。
 しかし、こうした受信料廃止の動きはフランスだけではありません。ヨーロッパでは2010年代から受信料制度を廃止する国が相次いでおり、フィンランド(2012年廃止)、スウェーデン(2019年廃止)、ノルウェー(2020年廃止)の公共放送は、いずれも税方式に切り替える形で運営が行われています。
 税方式の他、広告方式を採用している国も少なくありません。国によって様々な制限がかけられているものの、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、韓国などの公共放送のチャンネルでは広告が流れているのです。文研が毎年発行している「NHKデータブック世界の放送 2023」によれば、公共放送もしくは国営放送のある56か国中40か国で、何らかの広告方式が採用されてます10)。ただし、その大半は広告収入単独ではなく、広告方式と受信料方式、もしくは広告方式と税方式のハイブリッドでの運営となっています。
 このように、国内だけを見ていると公共放送と受信料制度は切っても切り離せない関係にあると捉えがちですが、海外では多様な形態がとられており、制度も大きく変化していることがわかります。

 さて、ここからがWGの議論についてです。WGではこうした海外の状況を踏まえ、日本における今後の公共放送の財源として受信料収入以外の方式が考えられるかどうかという論点が示され、視聴料収入、広告収入、税収入の方式が紹介され、その上で議論が行われました(図2)。

<図211)

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 議論では、全ての構成員から、日本は今後も受信料収入による方式を続けるべき、という意見が出されました。理由として、公共放送は特定の個人や団体の支配や影響を受けないことが重要とか、広告主や国家権力のほうを向かない安定的で自律的な言論情報機関として維持されることが大事、といったコメントが多くみられました。これらの内容と同趣旨の内容を示した、2017年の最高裁判決の内容12) を再確認する発言も複数ありました。また、宍戸常寿構成員は、現在の制度は、人々がテレビを持たないことで放送の受信者共同体に入らないという自由を確保することにつながっているとした上で、多様なメディアが多元的に活動する今の日本の状況においては、その自由を国家が認めないと判断しなければ、健全な言論空間が確保できない状況ではないと述べ、受信料制度の維持を強調しました。
 ただ、議論の中で、広告方式については、民放と競合しない国際放送に限り、検討の余地があるのではないか、との意見もありました。ちなみにイギリスのBBCは、国内での広告放送を禁じられていますが、海外では実施されています。また、NHKが広告放送を行うことを禁止する放送法13) の内容を厳密に解釈するがあまり、外部の動画サイト等にNHKのコンテンツを提供することが制約される事態が生じてしまうのであれば、見直しを検討していくことも必要では、との意見が複数ありました。

 視聴料(サブスクリプション)方式についても触れておきます。昨今、NHKの受信料を巡る国会審議やネット上の発言などでは、「スクランブル化14)」という言葉が用いられることが少なくありませんが、こちらの方式と同義です。WG事務局の報告では、この方式を採用している国の紹介がありませんでしたので、私のほうで、文研の海外メディア担当の研究員に聞いてみたり、改めて「データブック世界の放送」で調べたりしました。あくまでその範囲ではありますが、この方式を採用している国は見当たりませんでした。
 議論では3人の構成員から、この方式について、契約している人たちに向けて番組を作ることになることは公共放送にはなじまない、対価を支払う意思を表明する人が増えるようにコンテンツを提供するようになると公共放送の趣旨に沿わない、といった意見が出されました。それ以外の構成員からは特段の言及はありませんでしたが、日本においてもこの方式は取り得ないという前提で議論は進行していたように思います。
 なお、イギリスでは現在、受信許可料見直しに向けた議論が行われており、様々な費用負担方式を検討する中に、この視聴料(サブスクリプション)方式も入っています。WG事務局の資料15)によると、イギリスの上院通信・デジタル委員会がまとめたリポートには、この方式のみでの運営は、「収入が不足する上、国民の必要な情報へのアクセスに不公平な障壁を生むことになるため、推奨できない」と記されています。ただ、ハイブリッド(コアコンテンツを公的資金で、その他をサブスクリプションで運営する)方式については、「値上げなしに必要なサービスへのアクセスを担保できるが、“コア”の範囲などを精査して検討すべき」となっています。今後の日本の議論においても、費用負担のあり方を総論ではなく各論で整理していく際には、こうしたイギリスの議論の内容は大いに参考になると思いますので、引き続き、日本の議論と照らし合わせながら注目していきます。

3.テレビ非設置者の負担の在り方は?→アプリのインストールだけでなく意思の表明が前提に

 次にWG事務局が示した論点は、テレビを設置していない者に対しても、今後、何らかの受信料負担を求めるべきかどうか、というものでした。これが、冒頭に触れたSNS上の誤った投稿に関する論点です。実際はどういう議論だったのか、詳しくみていきます。
 
 まず、注意が必要なのは、この論点には、NHKが現在は任意業務で実施しているネット活用業務を必須業務化する場合、という前提があることです。このことについて少し説明しておきます。
 現在、放送法で定められているNHKの必須業務、つまり「実施しなければならない」業務は、国内放送、国際放送、放送に関する研究開発等の3つです。一方、ネット活用業務は任意業務、「実施することができる」業務です。そのため、NHKは毎年、どんな内容でどのくらいの予算を使うのかなどが記された実施基準を作成し、総務大臣に申請、認可を得なければなりません。中でも受信料を活用する業務の内容と規模については様々な認可要件があり、過大な費用にならないよう、現在は年間200億円を上限に業務が行われています。
 この上限200億円の受信料財源を負担しているのは、テレビを設置してNHKと受信契約を締結している視聴者です。そのこともあって、現在NHKが提供している地上放送の同時・見逃し配信の「NHKプラス」については、受信契約を締結している視聴者のみが利用できるサービスとなっているのです。

 こうして任意業務として行われてきたネット活用業務ですが、なぜ必須業務化が必要なのでしょうか。WG事務局からは、若者のテレビ離れや、ネット上でフェイクニュース、フィルターバブルなどの課題がある中、NHKはテレビだけでなくネットを通じても信頼ある情報を視聴者に届ける役割を担うべきであり、その役割に資する業務は「実施しなければならない」業務とすべきでは、との論点が提起されました。NHKも同様の認識を示し、テレビを設置しておらず「NHKプラス」を視聴できない人たちから、視聴を求める声があるという報告も行っています。こうした事務局の提起とNHKの認識を受けてWGで議論が進められ、これまでのところ、構成員たちからは必須業務化に対しおおむね賛成の意見が述べられてきました16)

 前提の説明が長くなりました。改めて確認しますと、もしもNHKのネット活用業務を必須業務化し、その業務を受信料収入で行うとなった場合、(これまで受信料を負担してこなかった)テレビを設置していない人たちの負担はどうあるべきか、というのが論点です。事務局からは参考情報として海外の下記の3例が示された上で議論が行われました(図3)。

<図317)> 

  • 1)  全ての者(世帯・事業所)が運営費用を負担<ドイツ型>
  • 2)  パソコンやスマホなどを保有する者が負担<かつてのドイツ型>
  • 3)  パソコンやスマホなどを保有し、公共放送を視聴できるアプリ・ サービスを利用しようとする者が負担<イギリス型>

 先に結論を言ってしまうと、SNS上の誤った投稿が拡散された、パソコンやスマホなどを保有する者(世帯・事業所)が受信料を負担しなければならないという、2)のモデルに賛同した構成員は1人もいませんでした。そして、大半の構成員が選択したのは、3)のイギリス型でした。ただ、1)の考えに近いとする構成員も2人いました。まず、3)の意見から整理しておきます。
 3)に賛同する構成員の多くが指摘したのが、チューナーで放送波を受信する専用機18)であるテレビと、ネットに接続する汎用機であるパソコン・スマホは等価ではない、ということでした。そのため、パソコンやスマホを持っているだけでは負担の義務が発生するということにはならず、さらにアプリをインストールするという行為をもってしても要件としては不十分ではないか、という意見が大半を占めました。インストール後、利用を開始するのに必要となる個人情報の入力や約款への同意など、より積極的に“アプリを使用する意思の表明”があってはじめて、“公共放送を受信できる環境にある”とみなされ、受信料を負担する義務が発生するのではないか、この方向に議論は収れんしていったと感じました。

 一方、1)のドイツ型に近いとする考えを示した2人のうちの1人、大谷和子構成員は、NHKを直接視聴していなくても、人々は何らかの形でNHKのコンテンツからの利便を受けていると考えられることから、本来望ましいのは全世帯が受信端末の保有の有無にかかわらず幅広く受信料を負担するべきではないかとの考えを示しました。ただ、この方式はこれまでの国内政策との連続性を欠くという認識も同時に述べ、個人的な思いはあまり強調しないようにしたいとして、3)への賛意を示しました。
 もう1人は内山隆構成員です。内山氏は、自らはドイツ型に近い考えであるとした上で、多様性・多元性の促進につながるような採算性の乏しいマイナーな内容が供給過小・断絶にならないために、伝送路を問わずNHKのコンテンツを届けられるようにすべきであること、またNHKは、いまは見ていなくても将来に必要とされる、いわゆる“オプション価値19)”的な存在であるとして、近視眼的に受益者と費用負担をつなげるべきではない、という意見を述べていました。

4.議論を通じて感じていること

 ここまでWGの第7回の議論を私なりに整理してまとめてきましたが、最後に傍聴して感じたことをいくつか述べておきます。

 各国で公共放送の財源を巡る制度改正や議論がある中、日本にとっての唯一の選択肢は受信料収入方式であることが改めて確認されたというのは前述のとおりです。しかし、構成員の1人がいみじくも発言していましたが、日本では視聴料、広告、税金の方式はとれない、だから受信料であるといった消去法的な議論に感じられた部分が気になりました。WGのような場で有識者が論理的に議論する法制度のあるべき姿と、負担の当事者となる国民・視聴者の納得感とのかい離は、もはや見過ごせないほどの状況になっていると感じています。国民・視聴者の中には、海外でも今のところ実際されていないとみられる視聴料(サブスクリプション)方式に対して、賛意もしくは関心を示しているということがその現実を表しています。こうした中、消去法ではなく積極的に受信料収入方式を選び取ってもらえるような状況を作り出していくのは、法制度の議論ではなく、公共放送NHK自身の取り組みにあると改めて感じました。

 NHK自身の取り組みが問われている、という点でもう1つ言及しておきたいことがあります。私には、WGの議論当初から疑問を感じていることがありました。それは、仮に制度改正がなされたとして、パソコン・スマホのみであってもNHKの番組を視聴したいという意思を持ち、受信料を負担してもいいと考える人たちは一体どのくらいいるのだろうか、ひいては、ネット活用業務の必須業務化という制度改正を行っても、受信料収入の安定化にどれだけ実効性があるのか、という疑問です。
 WGでは山本隆司構成員から、NHKがネット活用業務にも受信料制度を導入する際には、理解を徐々に得るように努めるプロセスを経るべきであり、視聴者の意思の介在を強く求める考えが適切ではないかという意見が示されました。それを聞き、感じてきた疑問が解消されると同時に、2015年からNHKが標ぼうしてきた公共メディアの具体的な姿がシビアに問われる時代がいよいよ来るのだと思いました。つまり、仮にパソコン・スマホのみでNHKを視聴する人にも“放送の受信者共同体”を支える一員となってもらうためには、テレビ設置者以上にNHK側の説明責任と、納得感を得られるような対話の場が必要となってきます。それができなければ、今後一層テレビ離れが進む中、受信料収入は安定するどころかこれまで以上に厳しい状況に陥っていくことは目に見えています。海外の状況、テクノロジーの進化、視聴者のメディア接触の状況、さらに在り方検で再三指摘されているデジタル情報空間の課題などを鑑みると、全世帯が何らかの形で等しく負担して公共放送を支えるモデルが合理的なようにも映ります。しかし、NHK側の姿勢が問われることなしに、そして国民・視聴者からの信頼なしに、日本においてはこうした議論は成立しない、そのことをこれまでのWGの議論はNHKに突きつけているともいえます。議論の傍聴を通じ、NHKの一職員としてもそのことを深く自覚しました。

 これまでの議論で十分に深まっていないと思われる論点についても指摘しておきます。
 第7回のWGの議論では、放送同時・見逃し配信であるNHKプラスが受信料負担の対象となるという想定で議論が行われていたように思います。ただ、現在のNHKプラスは一般の通信回線を使って提供するサービスであるため、30秒程度の遅れがあります。著作権や配信権などの関係で配信不可の番組や映像も存在し、画面には視聴できない旨を記す画面(通称”ふた”と呼ばれる)が表示され、視聴することができません。テレビのように録画機能を付加することもできません。そしてなによりNHKの単独サービスであり、アプリをインストールしても、テレビのようにNHKと共に民放の番組を視聴することはできません。つまり、放送波を受信するテレビよりも、提供されるサービスは劣る部分が多いのです。内山氏からは、NHKから受ける将来の便益を考慮しながら、その差に対しては価格面で配慮する、いわゆる“第三種価格差別20)”という考え方が理論上考えられるのではないかとの意見が述べられていました。こうした便益による価格差を考慮していくのか、それとも視聴の意思を示した段階で、テレビより劣るサービスが提供されるということを了解したとみなすのか。議論はまだ十分に深められていません。

 そして、こうした視聴者目線の論点とワンセットで考えていかなければならないのが、放送の同時・見逃し配信を放送法上どのような位置づけとするのかです。現在、放送に課されているユニバーサルサービス義務や、様々な規律についてどう考えていくのか。この論点は、在り方検の別な会合21)で検討が行われている、放送局で整備・維持するコストが割高なミニサテ・小規模中継局エリアの放送ネットワークをブロードバンド網で代替していくという施策にも通じるものです。この論点を、あくまでNHK単独で捉えていくのか、それとも、放送全体として捉えていくのか。
 これまで在り方検では、NHKについてはネット活用業務の必須業務化と受信料制度という観点から、ブロードバンド代替は放送局のコスト削減という観点から、それぞれ部分的に議論されています。しかし、在り方検も開始してもう1年半になろうとしています。通信と放送を一体の伝送路として捉えていく伝送路ニュートラル、経路独立といった考えが議論でも頻繁に示されている中で、本質的で統合的な議論を期待したいと思います。

 最後に、次回のブログにつながる論点を書いておきます。在り方検の問題意識として、喫緊の課題としてあげられているのは、デジタル情報空間におけるインフォメーションヘルスの確保です。NHKのネット展開には、日頃テレビを視聴しない人たち、もしくはテレビを設置していない人たちへの対応も期待されています。今後、仮にNHKプラスが制度的に視聴可能になったとして、それを能動的に視聴しようと考えないであろう人たちに対しても、何らかの便益を提供することが求められている、むしろそこをどうするかを、NHKも含めたメディア全体で考えることこそが、デジタル情報空間の課題を考える上では重要な論点だと私は考えています。

 NHKは現在、ネットサービスにおいて、課金モデルのNHKオンデマンドの他、今回述べてきた放送同時・見逃し配信であるNHKプラス、そして、テレビを設置しているいないにかかわらず、広く情報や番組の内容が届けられるよう、「NHKニュース・防災アプリ」の提供や「理解増進情報」という形で、ネットユーザーに見てもらいやすいコンテンツの開発・提供に取り組んでいます。こうした、受信料を負担しない人たちも含めた社会全体に対する便益を、受信料収入を使ってどこまで提供していくべきなのか(図4)。そのサービスは必須業務なのか任意業務のままでの実施なのか。民放や新聞など民間事業者との関係はどうあるべきなのか。
 次回のブログでは、WGの第5回、第6回の議論を整理しながら考えていきたいと思います。

<図4>

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  •   1.「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」
       https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/index.html
  •   2. 総務省・在り方検 公共放送WG第7回(2023年4月27日)
          https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/02ryutsu07_04000369.html
  •   3. 2023年5月9日現在
  •   4. https://factcheckcenter.jp/
  •   5. https://factcheckcenter.jp/n/n0f5b0ae12e5c
       また、メディアコンサルタントの境治氏は、SNSで誤情報が投稿された背景に対する分析をニュースレターに記している
          https://sakaiosamu.theletter.jp/posts/094bf610-eed1-11ed-ae01-1919e8d2cb52
  •   6. ドイツでは2013年に受信機の有無にかかわらず、全世帯から徴収を行う「放送負担金制度」が導入されている
  •   7.「これからの“放送”はどこに向かうのか?Vol.9」(『放送研究と調査』2023年3月号)では、公共放送WGの第4回までの議論を整理している
           https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/pdf/20230301_7.pdf
  •   8. 第7回は執筆時に議事要旨が公開されていなかったので、筆者自身のメモを参照
  •   9. 「NHKインターネット活用業務の検討に対する民放連の見解と質問」(2023年4月27日)https://www.soumu.go.jp/main_content/000878381.pdf
  • 10. 「NHKデータブック世界の放送 2023」https://www.nhk.or.jp/bunken/book/world/2023.html
  • 11.  総務省・在り方検 公共放送WG第7回事務局資料(2023年4月27日)P2より引用
  • 12.  最高裁判決(2017年12月)「NHKの事業運営の財源を受信料によって賄う仕組みは、特定の個人、団体又は国家機関等から財政面での支配や影響がNHKに及ばないようにし、現実にNHKの放送を受信するか 否かを問わず、受信設備を設置することによりNHKの放送を受信することのできる環境にある者に広く公平に負担を求めることによって、NHKがそれらの者ら全体により支えられる事業体であるべきことを示すもの。」
  • 13. 放送法第83条(広告放送の禁止)「協会は、他人の営業に関する広告を放送してはならない。」
  • 14. 放送電波を暗号化し、解読する装置がないとテレビを見られないようにすること
  • 15. https://www.soumu.go.jp/main_content/000880474.pdf P7-8
  • 16. 民放連、日本新聞協会からは必須業務化について異を唱える意見が出ており、すでに民放連からは第7回で意見書が提出されている。今後再度検討される予定
  • 17. 総務省・在り方検 公共放送WG第7回事務局資料 P16を参考に筆者が作成
  • 18. 現在はネットに接続可能なテレビ(コネクテッドTV)が主流であるため、厳密には専用端末とはいえないが、チューナー内蔵(外付けも含む)という点で、パソコンやスマホとは異なる
  • 19. 将来利用可能性を保持することから発生する価値のこと
  • 20. 年齢や性別等、消費者の特性によって異なった価格付けを行うこと。学割やシルバー割引、レディースデー割引など
  • 21. 総務省・在り方検「小規模中継局等のブロードバンド等による代替に関する作業チーム」https://www.soumu.go.jp/main_content/000795321.pdf

 

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村上圭子
報道局でディレクターとして『NHKスペシャル』『クローズアップ現代』等を担当後、ラジオセンターを経て2010年から現職。 インターネット時代のテレビ・放送の存在意義、地域メディアの今後、自治体の災害情報伝達について取材・研究を進める。民放とNHK、新聞と放送、通信と放送、マスメディアとネットメディア、都市と地方等の架橋となるような問題提起を行っていきたいと考えている。