文研ブログ

メディアの動き 2021年05月12日 (水)

#320 これからの"放送"はどこに向かうのか? Vol.6 ~公共放送・受信料制度議論~

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子


 私は2018年から、メディア環境の変化について放送業界の最新動向を中心に俯瞰する「これからの放送はどこに向かうのか?」という論考を「放送研究と調査」誌上で発表してきました。半年に1度のペースで執筆しているのですが、先日、Vol.6をネットで公開しましたので、本ブログでそのサマリーを紹介します。

 今回の内容は、2020年4月から1年弱かけて総務省の「放送を巡る諸課題に関する検討会」の「公共放送の在り方に関する検討分科会」で議論されてきた、NHKの改革と受信料制度の改正がメインです。議論の結果、とりまとめ1)が公表され、その内容は、現在、放送法の改正案として総務省から国会に提出されています2)

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(放送法の一部を改正する法律案の概要 ※抜粋)

 ただ、改正案提出後に、東北新社やフジテレビが、放送事業者の外国人株主の議決権比率を20%未満とするよう定める放送法に違反(外資規制違反)していることが発覚し、法改正の新たな項目として、この外資規制のあり方についても盛り込むべきではないか、という声が出ています。武田良太総務大臣は法案の提出者である立場上、今国会での成立を目指す姿勢を崩していません3)が、本ブログを書いている5月11日現在、審議が行われる目途は立っておらず、今後の見通しは不明です。

 さて、今回の検討会での議論は、NHKが毎年決算時に収支差額がゼロを上回った場合、一定額を積み立て、それを受信料の額の引下げの原資に充てるという仕組みや、テレビを設置しているにもかかわらずNHKと受信契約を締結していない世帯に対して「割増金」という制度を設けることなど、受信料制度に関する内容が中心でした。そのため、新聞やネットメディアでもその内容が取り上げられることが多かったように思います。しかし、これらの記事は、全ての検討会を傍聴した私から見ると、取りまとめの結果や改正案の一部が断片的にしか伝えられていなかったり、その伝え方も断定的だったりするものも少なくないように感じました。国会での審議では、“値下げ”や“負担”の議論の一段深いところにある、メディア環境が変化する中におけるNHKの公共性とは何かについての議論や、その内容を多くの人々が共有することを期待したいですが、仮に、今国会で改正案が議論されなかったとしても、いや、議論されない場合はより一層、この1年、検討会で行われてきた議論の内容については、できるだけ多くの人々に関心を持っていただきたいという思いが強くあります。

 論考では、検討会の議論について、できるだけわかりやすくまとめるよう心がけました。併せて今回の検討会の議論では先送りされた論点や、そもそも俎上に載せられなかった論点についても私なりに整理して触れてみました。特に俎上に載せられなかった論点、たとえば、スクランブル化ではなぜダメなのか、番組の内容に不服な場合に支払い拒否はなぜ認められないのか、受信料の使い道をもっと多様なメディアの支援などに使えないのか、などは、視聴者・国民が少なからず抱いていると思われる疑問や違和感だと思います。こうした論点は総務省の検討会ではなかなか真正面から取り上げられることがないため、そのことが、視聴者・国民が検討会の議論に今一つ関心を持てない理由の一つではないかと私は感じています。これまでの取材活動や原稿執筆では、今行われている検討会の議論を傍聴し、その議論の論点整理や課題の提示をすることを中心に行ってきましたが、論考の範囲を広げていかなければならないと、原稿を書きながら改めて感じました。

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 また論考では、検討会の議論だけでなく、前田晃伸会長のもとで今年1月に公表された「NHK経営計画(2021-2023年度)4)」の概要についても記しています。この計画では「新しいNHKらしさの追求」と「スリムで強靭な「新しいNHK」」が掲げられています。論考には、この内容に関する私の見解も少し記しています。

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(NHK経営計画(2021-2023年度) ※抜粋)

 私は放送文化研究所という組織に所属する研究員で、放送やメディアの動向について研究していますが、同時に受信料収入で成り立つNHKの一人の職員でもあります。そのため、私が特に受信料制度の問題点やNHKの経営のあり方について、当事者の視点を排して客観的に論じきることは困難ですし、自身でも限界を感じることも少なくありません。どう論じても、経営を擁護していると捉える人もいれば、批判していると捉える人もいるのではないかと思います。しかし、こうした受け止めを超えて、自分にしかできない役割があるのではないかという思いも持っています。これからも、一人の研究者として、そして一人のNHK職員として、この問題を考えていきたいと思っています。


1) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu07_02000198.html
2) https://www.soumu.go.jp/main_content/000734730.pdf
3) https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02001014.html
4) https://www.nhk.or.jp/info/pr/plan/assets/pdf/2021-2023_keikaku.pdf