文研ブログ

メディアの動き 2021年03月17日 (水)

#311 世界の国際放送の新型コロナ報道

メディア研究部(海外メディア研究) 堀 亨介


 国際放送をご存じでしょうか?ある国(地域)から、その国(地域)の外にいる人たちに向けて行う放送のことです。日本でも1970年代には、海外からの国際放送を短波ラジオで受信することがブームとなっていました。インターネットのなかった当時、リアルタイムで海外の情報に触れることのできるメディアとして、短波ラジオで海外からの国際放送を楽しんだ方も多いと思います。その国際放送ですが、短波ラジオから衛星テレビ、そしてインターネットと、メディアをシフトしつつ今もサービスが行われています。
 NHKも国際放送を、戦前の1935年から行っています。私はその国際放送にこれまで27年ほど関わってきましたが、昨年8月から文研で海外メディアの動向、特に正確で公正な報道とプロパガンダのはざまにある世界の国際放送のあり様を研究しています。
 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の中、各国の国際放送でも、日本ではあまり伝えられていない情報や各国の状況が垣間見えるニュースが伝えられています。そこで、インターネット上で見ることのできる日本語での報道の中から、最近話題の新型コロナワクチンの情報など、気になったニュースの一部をご紹介します。

〇イギリス BBC (British Broadcasting Corporation)

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 まずはBBCです。イギリスの公共放送として誰もが知っている放送局です。国際放送局としても世界で最も知られています。国際放送としてのBBCは、日本でもCATV経由などで視聴出来る英語テレビのBBC WORLD NEWSが一番思い当たるところですが、そのほかアラビア語やペルシャ語のテレビや多言語ラジオ、インターネットなど、43の言語で情報を発信しています。インターネットでは、テキストによる日本語ニュースもあります。
 その日本語ニュースで新型コロナ関連のニュースを眺めてみると、アメリカのファイザーとドイツのビオンテックが開発した新型コロナワクチン、アメリカのモデルナの新型コロナワクチン、イギリスのオックスフォード大学とアストラゼネカが開発した新型コロナワクチンの3種類を比較する記事が目に留まりました。1)特に、オックスフォードとアストラゼネカの開発した新型コロナワクチンは、弱毒化したチンパンジーの風邪ウイルスに、新型コロナウイルスの遺伝子情報を組み込んで開発しているといった情報が、このブログの執筆時点では日本であまり取り上げられていないこともあり、参考になりました。

〇スイス SWI swissinfo.ch

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 ヨーロッパでもう一つ、スイスを取り上げてみます。スイスは短波ラジオの時代にはSRI(Swiss Radio International)という、スイスの公共放送が実施していた国際放送が人気でしたが、短波放送が下火になる中でいち早くインターネットに乗り換え、現在はSWIとして10の言語で情報発信を行っています。ラジオ時代にはなかった日本語もあるので、普段目にすることの少ないスイスのニュースを読むことができます。
 1月28日には「コロナ危機を乗り越えたスイス株は?」2)と題したニュースで、スイスの株式市場が新型コロナによる昨年3月の大暴落前の水準を取り戻したと伝えています。新型コロナの影響が比較的小さかったスイスでは株価が回復したということで、欧米はどこも大変な状況であるかのように漠然と思い込んでいましたが、実は必ずしもそういう訳ではないということに気づかされました。

〇中国 CRI (China Radio International)

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 アジアに目を向けて中国です。中国の国際放送には、テレビのCGTN(China Global Television Network)とラジオのCRIがあります。CGTNは、国営の中国中央テレビの英語による24時間ニュース放送チャンネルで、英語のほか、アラビア語、スペイン語、フランス語、ロシア語版もあります。同じく国営の中国国際放送局CRIは、かつて「北京放送」を名乗っていましたので、なじみのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。CRIでは多言語のラジオとネットサービスを、44の言語で行っています。
 CRIの2020年12月25日の日本語ニュースでは、イギリスの「フィナンシャル・タイムズ」などの報道も引用しつつ、アラブ首長国連邦(UAE)で中国製の新型コロナワクチンの接種態勢が整ったと伝えています。3)中国製ワクチンの宣伝色が強いとも思えるニュースではありますが、日本ではあまり報道されていない中国とUAEの関係が見えるという意味で、興味深いニュースだと思います。

〇ベトナム VOV (Voice of Vietnam)

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 アジアでもう一つ、ベトナムです。ベトナムはテレビの国際放送を行っていませんが、国営ラジオVOV(Voice of Vietnam)では、13言語で国際情報発信を行っていて、日本語ラジオ「ベトナムの声」は1963年から放送を続けています。
 VOV日本語のウェブサイトに2020年12月10日に掲載された「ベトナム 国産新型コロナワクチンの臨床試験へ」4)というニュースでは、ベトナム軍医学院が国産新型コロナワクチンの臨床試験を開始するために、ボランティアの募集を発表したことが伝えられています。日本では、アメリカ、イギリス、中国、ロシアのワクチン開発については頻繁にニュースを目にしますが、ベトナムでも臨床試験が行われているということには少し驚きました。

 今回は、新型コロナの範疇で目に留まったニュースをお伝えしました。新型コロナによる閉塞感もあり、ともすれば内向きになりがちな昨今ではありますが、世界各地から発信される国際放送に接することで、少しでも世界に目を向けることができればと思います。
 なお、新型コロナウイルスに関して世界各地のメディアが国内向けにどのような報道を行っているかを、私たち海外メディア研究グループが「放送研究と調査」2月号、3月号で網羅的に論考しています。私も担当の1人として2月号で東南アジアの現状をまとめました。是非お読みください。

『放送研究と調査』2月号
「新型コロナウイルス」はどのように伝えられたか
~ 海外の報道をみる(1)~


1) 新型コロナウイルスのワクチンを比較 効果が高いのは?安いのは?
https://www.bbc.com/japanese/video-55628482
2) コロナ危機を乗り越えたスイス株は?
https://www.swissinfo.ch/jpn/boerse_コロナ危機を乗り越えたスイス株は-/46320340
3) アラブ首長国連邦が中国産ワクチンを大規模に無料供給
http://japanese.cri.cn/20201225/17023b34-96d3-b2bc-70f2-be1c1419fe72.html
4) ベトナム 国産新型コロナワクチンの臨床試験へ
https://vovworld.vn/ja-JP/ニュース/ヘトナム-国産新型コロナワクチンの臨床試験へ-930526.vov