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メディアの動き 2020年11月09日 (月)

#283 バーチャル空間で、ハッピー・ハロウィーン!

メディア研究部(メディア動向) 谷 卓生


 今年のハロウィーン(10月31日)、どう過ごしましたか?
 ぼく自身は、正直言えば、これまではあまり関心を持っていたわけではなく、渋谷などの繁華街で仮装して楽しんでいる人たちを通りすがりに見かけるぐらいのものでした。

 でも、今年は、大いにハロウィーンを楽しみました!
 コロナ禍で“密”を避けるために、リアルのハロウィーンパーティやイベントが開きづらいなか注目を集めた「バーチャルハロウィーン」に行ってきたんです。
 「バーチャルハロウィーン」というのは、インターネット上のバーチャルの空間で開催されたハロウィーンのイベントです。

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「バーチャル渋谷 ハロウィーンフェス」会場を、アバターで散歩

 まず、テレビなどでも話題になった「バーチャル渋谷」のイベントから話しましょう。「バーチャル渋谷」は、バーチャルリアリティー(VR)1)の技術を使ったイベントなどを開催するためのプラットフォーム「cluster」(日本企業cluster社の運営)上に、CGで作られた“第2の渋谷”(渋谷区公認)。現在、公開されているのは、スクランブル交差点周辺のエリアだけですが、ここが、10月26日から31日までの6日間、ハロウィーンのために飾り付けされてバーチャルハロウィーンの会場になりました(「バーチャル渋谷 ハロウィーンフェス」)。
 パソコンやスマートフォンを使って、clusterのアプリを立ち上げて、インターネットでバーチャル渋谷に入ります2)。アバターに着替えて街を歩き回ると、渋谷に行ったことがある人なら見覚えがある建物などをいくつも発見できるはず。バーチャル・ハチ公もいましたよ!このバーチャル渋谷で、連日、イベントが開かれ、ぼくは、きゃりーぱみゅぱみゅさんのライブ(28日)やハロウィーン当日の31日にはDJイベントなどに参加しました。

 さて、どんな体験だったのか?
 イベントの参加者は、上の画像のようなハロウィーン仕様のアバター姿でライブ会場へワープします。

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きゃりーぱみゅぱみゅのライブ(10月28日)

 目の前に現れたのは、「Halloween Fes」という大きな看板を掲げたステージがある空間。そこは、さっきいた空間の、いわば“パラレルワールド”で、バーチャルのスクランブル交差点の上にステージが建っています。PCのキーボードを使ってアバターをステージの近く、好きな場所に移動させ開演を待ちます。夜8時、きゃりーぱみゅぱみゅさんなどの出演者は、モニターに映像が映し出される形ではなく、ホログラムのような映像で現れました。参加者は、clusterの画面に仕込まれたボタンを押して拍手をしたり、ペンライトを振ったり、コメントを送るなどのリアクションをしてライブを盛り上げました。ライブ中も自由に移動してステージをいろんな場所や角度から見ることができたんですよ。
 きゃりーさんのライブは、初日に予定されていましたが、アクセスが殺到して不具合が生じ延期されたほどです。ただアバターの数からは、あまり参加者が多いようには見えないため、少し盛り上がりにかける気がしたのは残念でした。
 イベントを主催した「バーチャルハロウィーン実行委員会」3)は、会期中に、約40万人がバーチャル渋谷を訪れたとしています。


 次に、VRを使ったSNS、「VRChat」の中で行われたバーチャルハロウィーンのイベントについて見ていきましょう。VRChatは、アメリカのVRChat社が、2017年からインターネット上で運営しているVRプラットフォーム。そこでは、利用者はみんなアバターを身につけて、自分の声で、コミュニケーションを楽しむことができます。インターネットにつながり、VRを楽しめる機材(ゲーミングPCやHMDなど)を持っていれば、誰でも無料で利用できるんです。

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VRChat内で行われたハロウィーンイベント(10月31日)

 これは、ぼくが参加したハロウィーン当日に行われたイベントで撮られた写真です。ユーザーは、思い思いのアバターを身につけています。写真をよく見てもらうと手を振ったり、体を傾けたりしているアバターがいるのがわかると思いますが、このとき、現実世界にいるユーザーも同じような動きや姿勢をしています。アバターと自分の動きが連動すると、「一心同体」になる。こればかりは、体験しないとなかなかわかってもらえないと思いますが、この城のある空間に、自分が入り込み、目の前に、こうしたアバターたち(もちろん3D)がいる世界を想像してみてほしい!ここで、アバター(をまとったユーザー)たちは、城の中や周囲の庭で、飛んだり、はねたり、走りまわったりなどして、いっしょに遊びます。VRChatで利用するアバターは、ユーザーの自作のものや販売されているもの、無料で使えるものがありますが、こうした分野に詳しいユーザーは、ハロウィーン向けに、自分のアバターを“仮装”して(=改変して)いるので、「かわいい!」「すごい!」などと互いのアバターをほめあったり、作り方について教え合ったりしている光景が見られました。去年までは、渋谷などのリアルの街頭で大勢の人たちが仮装を楽しんでいましたが、それと同様のことが、バーチャル空間でも行われたというわけです。アバターを身にまとうことを、一種の“仮装”と考えるなら、VRChatでは、“毎日がハロウィーン”と言えなくもないですね。
 ちなみに、この空間(VRChatでは「ワールド」と呼ばれる)も、ハロウィーンのイベントのために、ユーザーが自作したもの。こうしたイベントは、他にも数多く行われていて、VRChatならイベントのはしごも簡単にできるので、ぼくもいくつかのイベントに参加しました。そうそう、イベントの開催・運営自体も、ユーザーによる自主的なものなんですよ。
 今年のハロウィーンは、直前に、PCがなくてもそれだけでVRを楽しめる機器(Oculus Quest2)が4万円弱という低価格で発売されたため、それを使って初めてVRChatを始め、バーチャルハロウィーンに参加した人も多くいました。

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VRChat内で行われたハロウィーンイベント(10月31日)

 コロナ禍がいつまで続くのかは、誰にもわかりません。
 来年のハロウィーンは、“密”になる心配が全くないVR空間でお目にかかりましょう。っていうか、ハロウィーン翌日には、VRChatでは早くも「クリスマスのアバターどうする?」という話で盛り上がっていたので、みなさんも“バーチャルクリスマス”を楽しんでみるのはいかがでしょうか?

(追伸)
 VRChatでは、こうした季節のイベントの他にも、ゲームやコンサートを楽しめるワールドやクラブ・バー・居酒屋、学校、そして、まじめなテーマで話し合えるワールドなど、現実世界にあるものはなんでもというと言い過ぎですが、かなり幅広い種類のワールドが揃っているので、今後ますます、その可能性は広がっていくと思います。


1) VRに「仮想現実」という訳語を使わない理由について、以前、論考にまとめたので、そちらをご覧ください。
「VR=バーチャルリアリティーは、“仮想”現実か」(『放送研究と調査』2020年1月号)

2) PCにHMD(頭部搭載型ディスプレイ)をつなげば、3Dで見ることもできる。しかし、ぼくが使っているOculus Quest2は、clusterに対応していないので、PCの画面で体験した。

3) KDDI株式会社、一般社団法人渋谷未来デザイン、一般財団法人渋谷区観光協会などから構成されている。