文研ブログ

メディアの動き 2020年07月22日 (水)

#260 これからの"放送"はどこに向かうのか? 民放ローカル局

メディア研究部(メディア動向) 村上 圭子


*総務省「放送を巡る諸課題に関する検討会」のとりまとめ
 総務省では2015年から、放送の将来について考える「放送を巡る諸課題に関する検討会(諸課題検)」が開かれています。総務省にはこの他にも様々な検討会がありますが、5年に及ぶ期間の長さや、11という分科会やワーキンググループの数の多さは群を抜いています。つまりそれだけ、放送という事業や制度には、将来に向かって改革しなければならないテーマが多いということだと思います。
 このうち、「放送事業の基盤強化に関する検討分科会」と「公共放送の在り方に関する検討分科会」が、6月末に議論の取りまとめを公表しました1)。これまでも本ブログでは、諸課題検での議論の内容について、その概要をお伝えすると共に私なりのコメントを記してきました。今回は、基盤強化分科会の議論のメインであった民放ローカル局(以下、ローカル局)の経営基盤をどう維持・強化していくかというテーマについて、思うところをまとめておきたいと思います。

*コロナ禍で存在感が増したローカル局
 分科会の取りまとめに言及する前に、ここ最近のローカル局を巡る動向について触れておきたいと思います。コロナ禍以前、私は全国各地のローカル局に直接足を運んで取材することが多かったのですが、今はなかなか難しい状況です。そのため、こうした時期だからこそと思い、ローカルテレビ局122社全てのウェブサイトを閲覧し、各局がコロナ禍に対しどんな取り組みを行っているのかを調べてみました。

 分科会の議論では、テレビではコロナ禍に関する情報は東京キー局発のものばかりで、ローカル局では地域に特化した情報はあまり伝えられなかったのでは、という指摘がありました。しかし、ネットでの取り組みも含めると、ローカル局は地域メディアとして多様な取り組みを積極的に行っているとの印象を私は強く持ちました。知事会見のネット中継、感染情報をはじめとした行政発情報の伝達、感染拡大防止に対する啓発、在宅中の暮らしを充実させるためのコンテンツ制作等々……。ウェブサイト上でこれらをまとめた特設ページを設けている局も6割程度ありました。地元の飲食店を応援するテイクアウトや宅配の情報については、積極的に番組内で紹介すると共に、同じ情報をウェブにも掲載。局自身がこうした情報のまとめサイトを立ち上げ運営している事例も、確認できた範囲では15局ありました。また、独立局が中心ではありましたが、14地域、21局では地元の教育委員会と連携し、サブチャンネル等も活用して小・中学校のオンライン授業を放送する取り組みが行われていました。報道やドキュメンタリーでは、本ブログ2)も以前紹介しましたが、感染者や医療従事者に対する差別や誹謗中傷について真正面から取り上げた意欲作がいくつもありました。
 図1は「withコロナ時代に求められるローカル局の役割」について私なりにまとめたものです。青の部分は感染拡大直後から各局が取り組んできたこと、赤の部分は今後取り組みを伸ばしていくと思われる方向性です。コロナ禍を契機に、ローカル局は今後一層、放送だけでなく、多様なコンテンツの制作や展開を行う“地域メディア”として、地域の人々や組織、地域と全国・海外をつなぐハブ機能を担う“地域プロデューサー”として、地域社会から大きな役割が期待されることになるだろうと感じています。

(図1)
260-1.PNG

 次に、ローカル局に特化したものではありませんが、コロナ禍における人々のメディア接触に関するデータにも少しだけ触れておきます。ビデオリサーチが7月6日に発表した「VRデータでみるコロナ禍とメディア動向 vol.1 3)」によると、今年4月・5月の全国11地区別のテレビの総世帯視聴率は、全地区で去年の同月を約10~15%ほど上回っていたそうです。また、総務省が実施した「新型コロナウイルス感染症に関する情報流通調査4)」とNHKが実施した「新型コロナウイルス対応に関するネット調査5)」のいずれにおいても、コロナ禍に関する主要な情報源として1位だったのは民放テレビでした。2位はNHKテレビで、3位以下のネットメディア、新聞等を、地上波テレビが大きく引き離す結果となりました。コロナ禍によって、テレビのメディアとしての価値が、多くの人々に再認識されたといえるのではないでしょうか。

*無料広告型ビジネスモデルの課題が浮き彫りに
 しかし、7月に「民放経営四季報 夏2020年6月(No.128)」で公表された地上波民放、特にローカル局の営業収入予測の数値は極めて厳しいものでした。四季報を発行している民放連研究所では、会員社にアンケートをとり、その結果から予測を行っています。それによると、
2020年度上期のテレビ局の営業収入予測は、全体で前年同期比マイナス約23%、うち東阪名を除いたローカル局はマイナス約26%になるとしています。また、下期も含めた通年の予測はマイナス約19%。コロナ禍の収束が見えない中、今後、より厳しい数値になる可能性もあります。
 メディアとして地域に向き合い、視聴者の期待にも応える努力を続け、視聴率も上がっていたにもかかわらず、なぜ局の営業収入は減り続けているのでしょうか。それは、地上波民放が、視聴者と広告主の二面市場によって成り立つビジネスモデル、言い換えれば、広告つきで視聴者に無料でサービスを提供する「無料広告型」であることに起因しています。日本経済の景気の不透明感が増し、広告を出稿する多くの企業が“ない袖は振れない”となって、局の努力や成果が営業収入になかなか反映されないのです。逆にこのビジネスモデル、景気が良かった時には、仮に局が努力を怠っても、視聴率が高くなくても、局の営業収入が担保される仕組みになっていたとも言えるでしょう。つまり、地上波民放のビジネスモデルは、日本経済や企業が成長し続け、人々の消費も拡大し続けることを前提に設計・運営されてきたと言っても過言ではないのです。


 幸い、テレビ局の企業としての自己資本比率は、いまのところ他の業種に比べても高い水準にあります。多くの局は、地域で公共的な情報機関としての役割を担っているという自負心を持っているので、営業収入が上がらない中でも、当面は地域メディアとして努力し続けると思います。ただこのコロナ禍で、経営が本格的に苦しくなってきている局も出ていると聞きます。先が見えない努力をどこまで続けていけるのか……。コロナ禍の長期化は、民放のビジネスモデルの屋台骨を揺さぶり、経営が苦しくなる局は今後ますます増えてくるのではないかと懸念しています。
 更なる懸念材料もあります。コロナ禍以前から指摘されていたのは、企業のインターネットへの広告のシフトです。3月に電通が発行した「2019年 日本の広告費6)」で、インターネット広告がテレビメディア広告費(地上波+衛星)を抜いたと報じられたことは記憶に新しいところです。これまでは、たくさんの視聴者を集めるテレビに広告を出せば多数の購買につながるとしてきたけれど、これからはユーザーの数は少なくてもその属性や行動を把握してターゲットを絞り訴求できるネットに広告を出す方が、費用対効果が高い、少なくともデータで把握できる点を大事にする企業が増えてきています。
 もちろんテレビ局でも、広告の指標の変更や視聴データの整備など、広告主のニーズに応えられるよう努力が続けられています。しかし、コロナ禍ではテレビ視聴も伸びましたが、それ以上に、テレワークやオンライン授業など、日常生活の中で人々がネットを活用する時間が増えています。こうした中、企業の広告戦略は今後どうなっていくのか……。私は、よりネットシフトが進んでいくのではないかと考えています。

*「経営基盤強化分科会」取りまとめに対するコメント
 前置きが長くなりました。ここからは総務省の取りまとめに対する私の受け止めを記しておきます。基盤強化分科会では、ラジオの今後とローカル民放の経営基盤強化という大きく2つのテーマが議論されてきましたが、本ブログでは後者にフォーカスします。
 率直に言って、この取りまとめについては3つの違和感を覚えました。

 1点目は、
コロナ禍の影響について記載されなかったということです。取りまとめ案が作成されたのが4月、その後パブリックコメントが募集され、それをもとに修正の議論が行われて7月1日に公表されました。そのため取りまとめの「はじめに」では、「新型コロナウイルス感染症が経済全般にわたって及ぼしている甚大な影響の詳細やこれに対応する放送事業の基盤強化の在り方については、本取りまとめに反映されていないことに留意が必要である」と書かれています。
 行政の手続きからするとやむを得ないのかもしれません。しかし、コロナ禍は社会全体を大きく変革させてしまうほどのビッグイシューです。コロナ禍前と後では、先に述べた通り、民放の営業収入は大幅に下降し、それは一過性では済まされないという状況が見えてきています。こうした中、今後のローカル局の経営を考える前提やスケジュール感は大きく変わる可能性が出ています。何より、分科会のテーマは他ならぬ経営基盤強化です。パブリックコメントの時期をずらしてでも、分科会での議論をもう少し深め、せめてコロナ禍が局の経営にもたらしている影響の実態や、そうした状況を踏まえた分科会の問題意識くらいは取りまとめに加えることはできなかったのでしょうか。パブリックコメントに寄せられたローカル局の意見の中には、コロナ禍における経営の窮状を切々と訴える内容や、「『ローカル局の今後の経営見通し』を記載していますが、新型コロナウイルス感染症によってパブコメ募集当時とは環境が激変しています。この取りまとめを陳腐化させないためにも、(中略)分科会を継続するなどして、継続検討すべきと考えます」といった内容が寄せられており、私も大いに共感しながら読ませてもらいました。

 2点目は、
ローカル局の経営基盤強化を考えていくには、取りまとめにあげられた要素では不十分ではないか、ということです。まず最も大きな違和感は、経営基盤強化策として挙げられている内容の大半が「放送外収入」の取り組みであったことです。
 現在、キー局は5局とも認定放送持株会社を設立し、不動産業や通販など、放送以外の多様な事業を展開して収入増の道を切り拓いています。ローカル局でも認定持株会社を設立している局は5局あります。ただ、いまだに収入のうち9割程度を放送による営業収入を占めているローカル局が大半で、過度な営業収入依存からの脱却が急務だということはかねてから指摘されてきました。すでに数年前から、各局で放送外収入の道が積極的に模索されるようになっており、そのことには大いに意味があると私も考えています。しかし、多くの局では、取り組みは進めてみているものの、なかなか収入増という成果には結びついておらず、本当に今取り組んでいる新たな事業を第二の収入の柱にしていけるのか、今後どうしたら効果的、効率的に取り組んでいけるのかなど、悩みを抱えているのが実情です。
 取りまとめでは、どんな取り組みの方向性が新たな収入の柱を作ることにつながるのか、その部分の分析や考察が乏しく、取り組みの類型化に留まってしまっていたのが残念でした。期待すべき点としては、取りまとめで「環境整備のために取り組むべき事項」として掲げられた4項目のうち「インターネット等の活用の推進について」です。特に、ここ数年懸案とされてきた同時配信に関する著作権法改正については機が熟してきたとみられていますので、実現に向けて総務省のイニシアチブが求められています。ただ、同時配信をどうマネタイズにつなげていくかは、今後の局や業界の取り組み次第。道のりはまだまだでしょう。

 では、現状で9割を占める営業収入の今後に関しては、議論はどのくらい深められたのでしょうか。残念ながら分科会では、無料広告型のビジネスモデルが抱える課題に関する深堀りや、時代の変化にあわせてどのような対応策をとっていくべきかについては、大きな論点にはなりませんでした。これは、このテーマが地上波民放全体のビジネスモデルや、系列ネットワークの内部の取り決めにも深く関わるものであるため、分科会で触れるのは難しいという判断だったのかもしれません。しかし、経営基盤強化というテーマを扱うからには、この問題にこそ真正面から向き合い、構造変化のあり様と今後について分析すべきだと思いました。その中で、ローカル局でも可能な取り組みは何なのかなど、何等かの示唆が与えられるような議論を深めるべきだったと思います。

 以上あげた2つ、放送外収入と営業収入については、既存の局の姿を維持しながらどう経営基盤強化を考えるか、という視点です。しかし、長期を見据えると、企業や業界としての更なる大改革が避けられないのは自明の理になってきています。その際の改革としては例えば、ハード・ソフト分離という抜本的な業態の変更や、資本の移動を伴うもの、具体的にはキー局の認定放送持株会社下での子会社化や、地元企業等との合併、局同士の統合や再編等々です。そこには制度的に現行法下で可能なものもあれば、「マスメディア集中排除原則(放送法第93条)」の緩和や「特定地上基幹放送普及計画(同第91条)」と「基幹放送用周波数使用計画(電波法第7条)」の見直しを行わなければできないものもあります。分科会では構成員から、「都道府県ごとに人口等が違っていることから、放送事業者が経営基盤を都道府県に依拠することは、小さな県では、難しい部分があるので、この点については議論したほうがよいのではないか」「現行の県域免許制度や系列局によるネット報道といった仕組みは、やや古くなっている気がするので、少し考える必要があるのではないか」といった制度改正を視野に入れた意見が提起されました。しかし、会議を傍聴していた私の印象では、こうした議論は今回、意識的に見送られたのではないかと感じています。それは、総務省がこの分科会に臨むスタンスとして、事業者の要望がない限り、制度改正に関わる政策議論を行うことはしないと表明していたからです7)。ちなみに分科会では今回、事業者からこうした提起は一切ありませんでした。
 私は、かつては放送政策主導で、将来のローカル局の姿を大胆に議論すべきではないかと考えていました。しかしこの議論は、ローカル局が自らの局の経営基盤を強化したいと主体的に考えること以上に、キー局がネットワークを維持するための戦略の一環として考えることの方が多いと推察されるため、単純に地域情報の確保や地域メディア機能の維持という観点からこの問題を扱えないところに難しさがあります。そのため、政策目的をローカル局の経営基盤強化にのみ置いて、キー局主導で、もしくはアメリカのような放送以外の大資本の参入を想定したような規制緩和の議論が行われることは、ローカル局にとって、それ以上に地域社会にとって、必ずしもプラスにならないのではないかと思っています。もしも議論するとすれば、政策目的を地域情報の確保や地域メディア機能の維持ときちんと定めるべきだと思います。しかしそうなると、再編や統合に伴う何等かのルール、例えば一定の地域情報の番組制作や地域における編成権の担保を義務付けるといった規制の議論も避けられないと思います。それを行政サイドから提起するのは、これまでの業界と総務省との関係を考えるとかなりハードルが高いのではないかというのが現時点での私の認識です。もちろん、可能であればこうした"行為規制"ではなく、事業者が主体的に地域情報の確保を行う姿が望ましいと私は考えていますが、そうしたことの是非も含めて、真正面からこの議論を行う覚悟はあるでしょうか。今の総務省には、そして事業者にも、その準備はまだないのではないかと感じています。
 とはいえ、経営基盤強化を扱う分科会の議論や取りまとめにこの種の要素がほとんど言及されていないというのは、かなりの違和感を覚えました。既に現行法下でもハード部門の共有化や地域メディア同士の連携、資本の移動(キー局の子会社化)などが行われている実態はあるので、それらをレビューすることくらいはできたのではないかと思います。また経営基盤強化に関わる制度についても、現行法では何が出来、何は法改正しなければ出来ないのか、という現時点における制度の整理について、確認の意味も含めて詳細に提示しておくことくらいはできたのではないでしょうか。そうすれば、問題意識を持つローカル局の人々にとっても、この取りまとめはより有用なものになったのではないかと感じました。 

 3点目は、
地域情報の確保について、長期的な視点で踏み込んだ議論がなされなかったことです。人口減少が急速に進み、自治体の姿も大きく変わるであろう将来に向け、地域における情報流通、もう一歩踏み込んでいえば、地域メディア機能に格差や空白地が生じないようにしていくための鳥瞰的な視点をどこかが持たなければならない、と常に私は考えてきました。その場合、地域の情報の担い手は当然のことながらローカル局だけではありません。地上波では、NHKの地域局もあります。二元体制の下で、地域においてどのような協力・協業・すみ分けを探っていくのか……。この他、地域にはケーブルテレビ、コミュニティ放送局、放送以外では地方紙やタウン誌、ネットメディアなどもあります。これらをどこまで包含しながら、地域社会や地域の人々の目線で考えていけるか。人口減少時代の地域メディア機能・地域情報流通の下支えを、今後国の施策として実施していく方法があるのかないのか。そこにNHKの受信料を活用していく方策があるのかないのか。本来はこうした視点も備えた上で、ローカル局の将来の在り方を考えていく必要があると思っています。そうしなければ、パブコメで寄せられていたような、人口が少ないエリアの局への特別な施策の要望や、ローカル局の基盤強化に受信料を活用するといった問題提起はなかなか議論しにくいのではないかと思います。
 こうした議論は一分科会で担えるようなものではないことは十分に承知していますが、地域メディアの施策を担う総務省には是非持っておいて欲しい視点です。私自身も、研究所に身を置く者として何ができるか、今後も考えていきたいと思っています。

*おわりに
 ローカル局の多くがキー局のネットワークに所属するという仕組みである限り、ローカル局の経営基盤強化の問題はキー局の戦略とは切っても切り離せない関係にあるのが現実です。また地元では、新聞社を始めとする株主との複雑な関係もあるでしょう。しかし、こうした中でも私は、ローカル局が少しでも主体的に自らの将来について思い描き、そこに向かっていく道筋を作っていけないかと考えています。なぜなら、日々、地域に向き合い、人々と接し、地域の将来を考えているのは地域に基盤を置く局の人達だからです。民放連では今、「ローカルテレビ経営プロジェクト」でローカル局自身による議論が行われていると聞いています。それ以外にも様々な場で、ローカル局の人達が系列を超え、立場を超えて、自らの将来について議論を続けています。こうした議論がきちんと今後の改革につながっていくよう、これからもこのテーマについて考え続けていきたいと思っています。



1) 公共放送分科会とりまとめ
   https://www.soumu.go.jp/main_content/000694819.pdf
   基盤強化分科会取りまとめ
   https://www.soumu.go.jp/main_content/000698602.pdf
2) 「文研ブログ」6月26日 感染者や医療従事者等が追いつめられない社会を~放送は何をこころがけるべきか~
   https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/100/431561.html
3) https://www.videor.co.jp/digestplus/tv/2020/07/39417.html
4) https://www.soumu.go.jp/main_content/000693280.pdf
5) https://www.soumu.go.jp/main_content/000688992.pdf P5・6
6) https://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2020014-0311.pdf
7)「文研ブログ」3月11日 吉田眞人前情報流通行政局長インタビュー
   https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2020/03/11/