文研ブログ

メディアの動き 2020年03月13日 (金)

#241 マスク姿と「肖像権」

メディア研究部(メディア動向)大髙 崇

テレビをつけると、マスク姿の人がほんとに増えています。
昨年のブログで「肖像権」について書きましたが、テレビに写る人もマスク姿で顔がよくわからなければ肖像権はどうなるんだろう、と思ったりしております。
深刻なマスク不足。最近ではハンカチなどを使って布マスクを自作する人も見かけます。
マスク姿の人々を写したテレビ映像は「モザイク」すべきか?必要ないか?・・・

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もの思いにふけっている場合ではない。本題に入ります。

ほぼ1か月前の2月15日、同志社大学で開催された肖像権ガイドライン円卓会議in関西に行ってまいりました。
博物館などのデジタルアーカイブ機関が所蔵写真を公開しようとする際、被写体の肖像権をどう考えるかは重要な課題です。それを客観視するためのツールとして、昨年9月にデジタルアーカイブ学会・法制度部会が公表したのが「肖像権ガイドライン(案)」。被写体の社会的地位や撮影状況など、様々な要素に対して「点数」をつけ、それらの合計点が高い順に「公開可」「公開範囲を限定」「マスキング(モザイクなどで隠す)が必要」などと分類しています(概要はこちらを、詳しくはデジタルアーカイブ学会のホームページをご覧ください)。
このガイドライン、放送局関係者からも大きな注目を集めています。「この映像のこの人、モザイクかける?かけない?」は、現場の担当者たちを日々悩ませていますから。
今回、法制度部会はガイドラインのバージョン2を公表。新たに、「事件の被害者とその家族」は-5(減点)、「(街頭デモや記者会見などの)公共へのアピール行為」は+10(加点)などの要素と点数が加わりました。
これをもとに、肖像権の問題と日頃から向き合う博物館や放送局の関係者などによる「円卓会議」が開催され、熱い議論が交わされたのです。

議論の中で私がグッときたのが、朝日放送テレビ(ABCテレビ)の記者・木戸崇之さんのお話でした。
ABCテレビでは今年1月に「阪神淡路大震災25年 激震の記録1995・取材映像アーカイブ」と名付けたウェブサイトを開設。被災当時のインタビューや風景など1970クリップ、約38時間の映像を公開しています。木戸さんはこのサイトを立ち上げた中心メンバーです。

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ABCテレビ 木戸崇之記者

クリップ映像では、被災者の顔もたくさん、しっかり写っています。
しかし、問題は肖像権。そこで木戸さんたちは、ガイドラインでの計算を試みたところ、多くの映像が「公開可」の結果となりました。一方で、避難所にいる人のアップなどいくつかが「公開範囲を限定」と出ました。最終判断にあたって木戸さんは次のように話します。

「25年経って、当時の避難所などの映像を公開されて『いやだ』と言う方がどれくらいいらっしゃるかなと思った時に、これは我々が責任を持って公開していこう、となった」

もちろん、あきらかに被写体の名誉を傷つけるだろうと推察できるものは除外しましたが、1970クリップの公開という勇気ある決断に至りました。映像に写った人をできるだけ探し出して承諾を求めたところ、一人として拒否しなかったことも後押しとなりました。
あれから25年、この震災を知らない若い世代が増える中で、都市型震災の教訓がたくさん詰まっている当時の映像をできるだけそのまま見てほしい。記憶を風化させず、今後の防災に役立ててほしい。この思いは、放送局の記者にも被災者にも共通するものだったようです。
「この映像」を人々に公開する意義は何か。その意義が正しいのなら、責任をもって公開すべきではないのか。ガイドラインでの点数計算も参考にしつつ、最終的には公開する側の「覚悟」が問われていると強く感じた次第です。

話戻ると、現在の新型コロナによる「街中がマスク姿」の映像も、将来的には2020年の春の記録としてモザイクせずに広く見てもらうべきものだと言えるでしょう。
いずれにしても、みんながマスク着けてる風景って、どうも苦手です。
早く終息しますように。みなさんもどうぞご自愛ください!