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メディアの動き 2020年03月10日 (火)

#239 総務省・吉田眞人情報流通行政局長インタビュー②~「放送を巡る諸課題に関する検討会」今後の論点・NHK~

メディア研究部(メディア動向) 村上 圭子

 今回は、総務省の吉田眞人情報流通行政局長へのインタビューの2回目。前回は「放送を巡る諸課題に関する検討会(諸課題検)」の今後の論点として、同時配信に関する著作権処理について、放送法改正も視野においた議論をしていきたい、という内容を中心にご紹介しました。今回は、分科会が新設されることになった「これからの公共放送の在り方」に関する内容をお伝えします。なお、インタビューは2月21日及び、一部追加項目について3月3日に実施しました。

 <常時同時配信について>

村上:3月1日からNHKの常時同時配信・見逃し配信サービス「NHKプラス」が始まりました。局長はもう使われましたか?

吉田:はい。アプリのインターフェイスがよく出来ていて使いやすいですね。
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時差出勤だった日の朝に、国会中継を電車の中で見ていまして、非常に重宝しました。ユーザーオリエンティッドなサービスだと思いますので、4月の本格サービスへ向けてしっかりとやっていただくことを期待しています。

村上:このインタビューは放送政策の今後について伺うのが目的なのですが、NHKの常時同時配信については、これまでの経緯に関して1つだけお伺いしておきたいことがあります。私は今“常時”と申し上げましたが、実際は深夜~早朝の時間帯はサービスを休止しています。これは「NHKインターネット活用業務実施基準(実施基準)」を定める際、ネット活用業務に充てる費用を一年間の受信料収入の2.5%以内という、常時同時配信開始前の水準に“据え置く”こととなったため、時間的な制限を設けざるを得なかったことが背景にあります。
実施基準は総務大臣の認可が必要です。総務省はNHKが最初に認可申請した案(常時同時配信等の基本的業務は2.5%以内とし、それ以外のネット活用業務として4項目を新設)に対して再検討を求め、NHKはその多くを受け入れた見直し案を提出し、認可を受けました。
質問は、総務省がNHKに再検討を求める際に示した「NHKインターネット活用業務実施基準の変更案の取扱いに関する総務省の基本的考え方(基本的考え方)」についてです。ここでは、NHKのネット活用業務の内容に関する見解だけでなく、三位一体改革の徹底や受信料水準の見直し等に関する総務省の見解が、かなりのページを割いて示されました。私は実施基準の認可の可否は、あくまでネット活用業務の範囲内で行われるという認識を持っていましたので、正直、再検討に際しNHKのあり方そのものを問うような総務省の姿勢に対しては違和感を持ちました。「基本的考え方」について募集したパブリックコメントにも類似のご意見がありました。手続きは終了していますので今更ではありますが、総務省の真意や手続きの正当性についてどのようにお考えかお聞かせください。

吉田:あのような「基本的考え方」を出した理由は大きく2点あります。1つは、NHKにとって常時同時配信が、任意業務の1つということではあっても、今後の位置付けから考えると、現状の放送も含めた業務全体に大きな影響を与えるだろうと総務省が認識していたからです。そのため認可にあたっては、NHK自身が業務全体の中で常時同時配信をどう位置付けるのかという明確な認識をもうすこし知っておきたい、という思いがありました。
2つ目は費用を巡る話です。NHKは経営計画(2018-2020)で既に発表していますが、そこで2020年度は215億円の赤字を見込んでいました(図1)。これは決して小さな数字ではありません。3桁の赤字予算前提で新たなサービス(常時同時配信)を始めるのなら、それにどこまで投資をしていくかを考えた時に、現状で費やしているネット活用の水準をまず基準に考えてもいいのではないか、まずは既存の2.5%という枠をどこまで維持して出来るのかをもう少し考えていただいてもいいのではないか、というトーンを強く出しました。これが黒字予算を見込んでいるタイミングであれば、ここまで強いトーンは出さなかったと思います。
なお、認可からは少し離れた個人的意見となりますが、私は、NHKが標榜している“公共放送から公共メディアへ”というスローガンには、やや違和感を持っています。公共メディアという言葉には、公共放送という言葉が持っているような重みと深みと存在感が感じられません。公共と放送を切り離し、放送という文字を単にメディアと置き換えているだけのように思います。私は、公共放送という言葉は、国営放送でも民間放送でもない存在、つまり、国家権力からも独立し商業的な影響力からも独立し、幅広い国民全体に支えられることで、情報提供や番組提供を国民に対して行っていく1つの優れた社会文化装置機能を指し示すものであり、それが公共放送という“ワンワード”であって、“公共+放送”ではないと思っています。これが、公共メディアとなると、急に意味が一般化してしまうのですよね。民放も新聞も公共メディアですよね。言い換えると、NHKは”only one”から”one of them”になりますと言っているように思えるわけです。そうではないというのなら、NHKが考える“ワンワード”としての公共メディアの持つ意味とは何か、単に放送を太い幹にしてネットもやる、ではなく、明確に国民に納得できる言葉で説明してほしい、という思いを持っています。

  <図1> NHK経営計画(2018-2020)より抜粋
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村上:ただ、結果論ではありますが、総務省はNHKの肥大化を懸念する民放連や日本新聞協会の立場に寄った形になったという印象を持ちました。「基本的考え方」の中にはNHKの「業務全体を肥大化させないことが求められる」との文言もありました。

吉田:NHKの現状を以って肥大化している、という言い方はしていません。また民放の方々にも折に触れ、一体何が肥大化なのか、そしてその肥大化によって民放の業務、少し広く言うと放送の市場やメディアの市場においてどのような悪影響が出るということを訴えているのか、データを示して議論してほしいと伝えています。
他方で、10年前に比べると受信料収入が約1千億円増え、それに伴って支出も約1千億円増えているのは事実であり、放送業界の中ではNHKのみがこういう傾向にあるのは事実です。このことはNHKにもしっかり考えてもらいたいです

<分科会での議論の論点>

村上:今回、諸課題検に「公共放送の在り方に関する検討分科会」が設けられることになりました。そこではどのようなテーマが議論される予定でしょうか。

吉田:1つはこの夏にも原案が策定されるのではないかと思われるNHKの中期経営計画についてです。これはあくまでもNHKにおいて経営委員会と執行部が様々な議論をしながら作るものではありますが、NHKに何を求めるか、やはり少し提言的なものを出していきたいと思っています。先程も申し上げましたが、三位一体改革への取り組みも含めて、自分たちの公共メディアとしての将来像、それをわかりやすく示していただきたい。またその1つのバリエ―ションとして、二元体制の一翼である民放に対してNHKはどのような関係を築いていきたいと思っているのかがわかる内容も盛り込んでいただけるといいと思っています

村上:今回、NHKはネット活用業務において、他の放送事業者の要望に応じ、連携・協調について協議の場を設けることとされました。しかし、NHKと民放では運営モデルが異なることに加えて、民放のビジネスモデルは大きな転換点を迎えています。こうした中で協調領域を作っていくことはとても難しいというのが、ここ数年の現場レベルでの実感ではないかと思います。更に、受信料収入で成り立つNHK側から民放との連携・協調に関するビジョンを示していくことはもっと難しいと想像します。ネット活用に即していえば、例えばですけれども、現行法において、民放と一緒に配信基盤を整備するとか、そういうことは可能なのでしょうか。

吉田:明らかに民放の経済的利益の下支えをするといったようなことは厳しいと思います。ただ、NHKの任意業務として「放送およびその受信の進歩発達に特に必要な業務を行う」ということは可能なので、それをより広げて、放送事業者のサービスを今日的に発達させるために必要な基盤整備にNHKが一定の役割を担うということ自体は否定されないのではないかと思います。ただ、受信料の使い方の議論になるので十分な議論が必要です。こうしたことも分科会で議論できればと思っています。

村上:分科会では受信料制度についても議論されるということですが・・・。

吉田:先日の諸課題検で高市大臣も問題意識を示しましたが、従来のテレビセットを基準にした制度が、中長期的に見れば不安定になっていっていく部分はあると思います。総務省はこれまで受信料制度については、まずはNHKにおいて考えていただくべき問題だというスタンスでした。しかし今後は、私個人としてもそういう言い方はしないよう、総務省として主体的に受信料制度の議論に取り組もうと思っています。
当面の具体的な論点としては、ワンセグやカーナビからの徴収に対して違和感を持つ国民が少なくないということをどうするか、また、地上と衛星の2段階体系のあり方等について議論したいと思っています。将来的には、ドイツ方式と言われるテレビセットに依拠しない制度というものも含めて、今後のあり方を議論していかなければならないとも思っていますが、これは国民の受け止め方によっては、新たな税に似た負担の創出というニュアンスもありますので、時間をかけた幅広い国民的な議論が必要だと思っています。まずは、どのような時間軸で考えていくべきか、検討のロードマップ的なものを示していきたいです。役所のあり様として、大臣が変わったり局長が変わったりすると、議論が立ち消えになることも少なくないのですが、人が変わっても議論が後戻りしないような形を作っておきたいと思います

 
欧州各国ではここ数年、かなり急ピッチで受信料制度改革が行われています。しかしこの議論は、吉田局長のインタビューにもありましたが、まさに“時間をかけた幅広い国民的議論”が不可欠です。その際、通信・放送融合時代における負担のあり方という側面からだけでなく、国家的権力からの独立性の担保をどうアップデートしていくのか、という側面からの議論も同時に行っていかなければなりません。こうした議論が監督官庁である総務省の諸課題検だけで果たしうるのかも含めて、引き続き注視していきたいと思います。

 この吉田局長へのインタビューは今回で終わるつもりでしたが、ボリュームが多かったため、次回も3回目(災害対応・ローカル局)をお届けします。