文研ブログ

メディアの動き 2019年04月05日 (金)

#179 「Screenless Media」の可能性

メディア研究部(メディア動向) 越智慎司 

3月29日、「Screenless Media Lab.」という研究所の設立発表会を取材しました。TBSラジオが外部の研究者とともに、「聴覚からの情報」についての研究を始めるということです。ラジオのリスナーを増やすのにつなげようということなのでしょうか?取材すると、目指すところは、もっと先にあることがわかりました。

研究所の所長に就任したのは、政治社会学者の堀内進之介さんです。スマートスピーカーなどの技術と人間との関わりについての著書があり、企業で音声に関する研究も行ってきました。

設立発表会で堀内さんは、「Screenless Media Lab.」の研究テーマのひとつとして、「『視覚からの情報』と『聴覚からの情報』のバランス」を挙げました。堀内さんによると、これまでは情報の取得や伝達の手段としては、視覚からが優位とされ、視覚からの情報に偏っている環境があるが、近年の研究では、聴覚からの情報が、内容の整理や理解、動機づけといった積極的な関わりについて、効果が高いと評価されているということです。研究所では、情報過多で受け手が疲れるなどの問題が起きている中、視覚からと聴覚からの情報の役割を切り分け、聴覚からの情報が受け手の理解や意欲にどのようにつながっているかといった視点から研究を進めることにしています。

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(右から2人目が堀内所長)

また、TBSラジオの制作現場の人たちは経験で、「ラジオショッピングは商品の返品率が低い」とか「パーソナリティーの話を聞いていると、その気になってくる」といった、ラジオ独特の効果のようなものを感じているということです。研究所では、こうした現場で培われたものと研究者の知見とを合わせて、音声メディアでどのような情報の伝え方をすればよいか、使うワード、語順、速さ、言い方といった具体的な部分についても研究するそうです。

NHK放送文化研究所が2015年に行った「もしラジオ未利用者が1週間ラジオを聴き続けたら」という調査でも、利用者から「知らない人の話を、ラジオだとすんなり聴けた」「なぜか、話していることが頭に入る」といった、ラジオを評価する声があがっています。

単なる音声メディアでなく、視覚のメディアとも共存する「Screenless Media」としての可能性を探ろうとする「Screenless Media Lab.」ですが、ロゴなどに「TBS」の文字がありません。研究の成果は、書籍の出版やラジオ番組での報告などを通じて、業界や社会に広く還元したいと考えているそうです。