「親方と神様」

2017年12月2日

作:伊集院 静

 昭和23年12月、中国地方の山道を歩く老人と少年。50年間、鍛冶場の火を消すことのなかった鍛冶職人の六郎が、初めて仕事を休み、小学生の浩太を連れ、かつて自分が親方に連れられてお参りした鉄造りの神様・金屋子神へと向かっていた。浩太は六郎に憧れ、仕事場に毎日見学にやってくるようになっていた。六郎は、浩太の母と担任の先生に頼まれ、浩太の鍛冶職人になる夢を断念させるために連れ出したのだった…。
 そして、何十年も時が経ち、鉄鋼業界の重鎮として“鉄の番人”と呼ばれるほどの人物となった浩太老人は…。

「海の見える理髪店」

2017年12月9日

作:荻原 浩

 海辺の小さな理髪店へ初めて足を運んだ「僕」と、この町に移って15年になるという理髪店の「店主」。
 「僕」に向かって、「店主」は、戦後老舗の理髪店を受け継ぎ、波乱に満ちた店の浮き沈みを経験、刑務所を経験するなどした自身の来し方を、静かにとめどなく語りだす。
 そして、物語のラストで明らかにされる事実が、静かに人々の胸を打つ。

「あみだくじ」

2017年12月16日

作:村松 友視

 首都高をタクシーで走っていると、突然、追突事故に巻き込まれた「私」。事故処理に時間がかかる中、約束には間に合うか。どんな言い訳をするか考えた。思わず、バッグから紙を取り出して3本の線を書き、「あみだくじ」を始めた。
「あみだくじ」を習ったのは、子供のころ、祖母からだった。決して幸せとは言えなかった祖母。答えを何かに託することで、気が軽くなったのだろうか。その答えは宙に浮いたまま、あみだくじという一人遊びだけが、「私」の中に棲みついていた。
 出版社を辞め、作家となった私。人生の情景とあみだくじをからめつつ、答えを何かに託そうとした気持ちと、その訣別とを、「私」の一人称で描く。

「秘密」

2017年12月23日

作:谷崎 潤一郎

2016年9月3日放送のアンコール。
 主人公は20代の男性。気紛れから浅草の寺での隠遁生活を始める。寺にいながら、刺激的で奇怪な事を求め、それに耽溺するという「秘密」を楽しもうとするうちに、女装に目覚める。夜な夜な世間の目を欺いて出歩いていたが、ある劇場で、美貌の女性に会う。それはかつて自分が捨てた女であった。その翌日から2人は逢瀬を再開するが、女の家までの往復は目隠しをされて人力車に揺られて行くため、「夢の中の女」「秘密の女」に好奇心を掻き立てられることになる。
 女の秘密を暴くことに夢中になる男。秘密が秘密でなくなった時、男はさらなる刺激を求めて…。