「秘密」

2016年9月3日

作:谷崎 潤一郎

主人公は20代の男性。気まぐれから浅草の寺での隠遁生活を始める。寺にいながら、刺激的で奇怪な事を求め、それに耽溺するという「秘密」を楽しもうとするうちに、女装に目覚める。夜な夜な世間の目を欺いて出歩いていたが、ある劇場で、美貌の女性に会う。それはかつて自分が捨てた女であった。その翌日から2人は逢瀬を再開するが、女の家までの往復は目隠しをされて人力車に揺られて行くため、「夢の中の女」「秘密の女」に好奇心を掻き立てられることになる。  女の秘密を暴くことに夢中になる男。秘密が秘密でなくなった時、男はさらなる刺激を求めて…。

「人間椅子」

2016年9月10日

作:江戸川 乱歩

2003年1月12日放送のアンコール。
外交官を夫に持つ作家の佳子は、毎朝夫の出勤を見送った後、寄せられたファンレターに目を通すのが日課だった。ある日、「私」と記した人物から1通の手紙が届く。それは「私」の犯した罪悪の告白だった。  椅子専門の家具職人である「私」は、ある時、外国人専門のホテルに納品される椅子を製作していた。「私」は出来心から、椅子の中に人間がひとり入り込める空洞を作り、水と食料と共にその中に入り込んだが、その椅子はホテルに納品されてしまう。それ以来、「私」は昼は椅子の中にこもり、夜になると椅子から這い出て、盗みを働くようになる。そして、椅子の中で女性の感触を革ごしに感じることに夢中になった。 その後、「私」が潜んでいた椅子は古道具屋に売られてしまう。古道具屋で「私」の椅子を買い求めたのは日本人の官吏だった。「私」は新たに女性の感触を得られると胸を躍らせるが…。

  語り:小野 卓司

「蜘蛛の糸」「犬と笛」

2016年9月17日

作:芥川 龍之介

2011年1月15日放送のアンコール。
「蜘蛛の糸」
人殺しを初め悪行の数々を重ねた男、カンダタは、たった1度、蜘蛛の命を助けたことで地獄から天国へ昇るチャンスを御釈迦様から与えられる。天国からの1本の蜘蛛の糸だ。これを必死で登るカンダタ、しかしその下には大勢の地獄に堕ちた者たちが続いていた。「このままでは他の者たちの重さで糸が切れて自分が天国へ行けなくなる。」そう思ってあがいた瞬間、蜘蛛の糸は切れてしまう。
「犬と笛」
髪長彦は、木こりで笛の名手。仕事の合間に奏でるその笛の音に心動かされたのは山の神々であった。その笛の心地よい演奏を聴かせてくれるお礼にと、髪長彦の前に神々が次々に現れ、「欲しいものは何か」と告げる。そこでもらったのが3匹の犬、鼻が鋭く何でも見つける「嗅げ」、どこにでも飛んでいける「飛べ」、どんな恐ろしい鬼神をもかみ殺す「噛め」。この犬の力を借りて、鬼神のもとにとらわれた2人の姫を助ける。

「夏のはじまりの満月」

2016年9月24日

作:穂高 明

宮城県の海沿いの小さな町で生まれた20代の男性。東日本大震災から10年経った2021年5月、故郷を離れて東京で社会人となっていた。男性は震災直後、地震と津波で大きな被害を受けた故郷を家族とともに後にしていた。  「自分は故郷から逃げ出した裏切り者なのか?」。そんな後ろめたい思いを抱えながら都会に移り住んだ。男性は、ある日、都内の地下鉄で高校時代の同級生と偶然にも再会する。彼女から伝えられた同級生たちの消息。その時、彼の脳裏によみがえってきたのは、被災地となった故郷の風景と、ひそかに思いを寄せていた同級生の笑顔だった。  10年前の「あの日の記憶」と向き合った時、男性は、故郷を流れる川の姿を、隅田川の水面に重ねる。自分の進んできた道は本当に正しかったのか、自問自答をしながら。そして、ひとつの答えを導き出そうとしていた…。