「鮒」

2017年7月1日

作:向田 邦子

 塩村は、妻と2人の子供との平凡な暮らしを大切にしている。ある日曜の昼さがり、塩村家の台所に、一匹の鮒の入ったバケツを誰かがそっと置いて行った。塩村は一年ほど前に別れた愛人・ツヤ子のアパートで飼われていた「鮒吉」だとすぐに気付いた。息子・守が飼うと言い出し、鮒は水槽に入れられた。塩村は「鮒吉」にいつも見られているようで、落着かなくなってくる…。
 一見平穏そのものに見える家庭に、一匹の「鮒」が巻き起こす”小さな波紋”。

「殿中にて」

2017年7月8日

作:村上 元三

  建部兵庫は一本気な性格の武士である。ある日、登城すると自分に向けられる周囲の眼がいつもと違うのに気づく。実はその前日、同役の伊丹左太夫の家で御政道について批判的な事を口走ってしまい、その事を左太夫が周囲にもらしていたのだ。勤めを終えた朝、兵庫が朝食を取ろうとしていると、そのやり方を批判した老中水野越前守の姿が見えた。すると突然、ただならぬ声が響いた。「殿中でございますぞ、お刀、お刀!」
 そこで、兵庫がとった行動は…。

「二人でお茶を」

2017年7月15日

作:恩田 陸

 主人公のピアニストが、自らに起きた奇妙な体験について語る。ある音楽コンクールに出場する直前、親知らずの痛みに悩まされていたピアニスト。その痛みが頂点に達した瞬間、“何か”が体の中に入ってくるような感覚が起こる。その後、まるで誰かが自分の体を使ってピアノを引いているような感覚と、外国語で語りかけてくる人物の存在に気付く。
 “彼”は1950年に33歳の若さで亡くなったルーマニアのピアニスト、ディヌ・リパッティ。二人は次第にシンクロし、主人公はピアニストとして成功を収めるがことになるのだが…。

「超たぬき理論」

2017年7月22日

作:東野 圭吾

2015年7月4日放送のアンコール。
 少年時代、薄暗い倉庫の窓から外に飛び立つ小動物を見た主人公の空山一平。目撃の瞬間、飛び立ったのはタヌキだと確信する。それ以来、一平は、“タヌキは空を飛ぶ。UFOもタヌキが化けたものだ”と考えるようになり、その研究に生涯をかけることになる。テレビ番組で「UFOは宇宙人の乗り物説」を唱える宇宙人研究家と激論。一平はユニークな持論を展開し、宇宙人研究家を圧倒した。
空山一平の「空飛ぶタヌキ」に寄せる思いと発想の面白さを伝える。

「砂売りが通る」

2017年7月29日

作:堀江 敏幸

2015年8月29日放送のアンコール。
 親友の三回忌で海辺の町を訪ねた「私」は、幼い娘を連れた故人の妹と三人で、浜辺を歩いている。桜貝を拾い集めたり、砂の城を親友と三人で築いたりと、浜辺は少女だった頃の彼女との思い出の場所だ。「砂売りが通る」とは、仏語で眠くなること。「私」が寝転ぶと、砂売りが通り、時間がよじれる。目覚めた時、友人の「妹」は娘とともに砂の城を作っていた。人気のない浜辺の静かな情景に「私」の心象が重なり、「妹」をめぐる回想が瑞々しく描かれる。