昨年春に突如出現したSARSはまさに"SARSパニック”と呼ぶにふさわしい混乱を
医療現場にもたらしました。SARSは世界各地で主に院内感染という形で猛威をふる
い、我々にこのような国際的感染症に対して現在の医療体制がいかに無防備であった
か
を思い知らせるとともに、感染症の脅威を改めて認識させるものであったと思いま
す。
SARSの感染力や死亡者数などを他の疾患と単純に比較することによって、SARSの脅威
が過小評価されるならそれは間違いでしょう。SARSはこれまで人類が経験したことの
ない全く新しいタイプの感染症であり、その事実に真正面から取り組み、これまで
以上に院内感染対策の底上げに努力することが、我々医療従事者の重大な責務である
と考えています。
今後起こりうるSARS再来や新型インフルエンザ、バイオテロなどに対し、現在の感染症法によるシステムで臨機応変に対応できるのか不明な点もありますが、
はっきり
していることは、現場の医療従事者はプロフェッショナルとして、いかなる局面にお
いても
国民の生命を守る義務があり、恐怖感から義務を放棄するようなことは許されないと
いうことです。
先のSARS流行では、SARS関連情報が毎日のようにインターネット上に溢れていました
が、
臨床上有用な情報の多くは英語であり、多くの臨床医にとって多忙な日常診療の合間
に
これらをチェックしていくことは、極めて難しいものでした。マンパワーの不足も深
刻でした。
流行期は昼夜を問わず、電話による問い合わせやSARS疑い患者が来院し、
これまでの通常業務に上乗せされる形でこれらの外来業務や夜間当直業務をせざるを
得ない状況でした。SARSの診療に当たった多くの医療施設では、これらの業務に対する報酬も
危険手当も支給されることはなく、医療従事者の使命感に頼っていたのが現状ではな
かったかと推察します。
この医療現場の現状は現在でもほとんど改善されておらず、
SARSのような感染症の大規模な流行が起こった場合は、
現状の医療体制ではとても対応できないのではないかと危惧しています。
単なる医療面のみならず、一国の経済に大きな影響を与えうる国際感染症では、
情報公開のあり方や、人権の問題など簡単には解決できないさまざまな問題を包含し
ています。
万全な対策をたてるためには、SARSという警鐘を真摯に受け止め、安全を人任せにす
るのではなく、
国レベルで、地方自治体レベルで、そして国民一人一人が、
感染症の脅威をリアリティをもってとらえ、日本の感染症対策が今後どうあるべきか
を考える必要がありそうです。
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