BSオンライントップ > BSコラム > 「『SHERLOCK(シャーロック)』の楽しみ方、教えます」(by  岸川靖)

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『SHERLOCK(シャーロック)』のBSプレミアムでの日本初放送が来週にせまりました。作品については、既に前回のコラムでプロデューサーから紹介されましたので、今日は、もう一歩踏み込んで、さらなる楽しみ方についてお話ししたいと思います。

さて、米国で人気を博しているミステリードラマに『THE MENTARIST メンタリストの捜査ファイル』という作品があります。元奇術師の主人公が、警察のコンサルタント的な立場で、事件の捜査に参加。その観察力と洞察力、さらには心理的な誘導術を用いて、事件を解決するというシリーズです。日本でも放送されDVD化もされている作品ですから、このコラムをお読みの方はおなじみの作品でもあるでしょう(なお、このシリーズが当たったので、ライバル局では同じような趣向の『ライ・トゥ・ミー 嘘は真実を語る』というシリーズをスタートさせました)。
今回、『SHERLOCK』第1シリーズ全3話を楽しみながら、あらためて思ったのは、米国で制作されたこうしたドラマのルーツには、世界一有名な名探偵シャーロック・ホームズがあるということでした(『~メンタリスト~』との共通点については、前回のコラムで担当プロデューサーの荒谷さんも指摘していました)。

相手の容姿や持ち物などを見て、その人物が置かれている環境や、経済状態、趣味や嗜好(しこう)までをも看破してしまう、という能力。そして、人間関係に波風が立つことを気にすることなく、事実を口にするという性格。多くの部分で、影響を受けていることは明白です。そして、この部分こそが、古典を現代らしいシリーズとして成立させ、成功させた要因であると思います。

では、世界に探偵小説を定着させた原作と世界でいちばん知られている名探偵ホームズが現代によみがえったことの面白さとは、具体的にはどんな点なのでしょうか?

なお、ミステリーを語るときの、いちばん重要なお約束であるネタバレはないように注意していますので、これからドラマをご覧になる方も、安心してお読みください。

まずは、基本的な部分から説明しましょう。ミステリーマニアでなくても、ご存じのことかと思いますので、簡単におさらいです。
原作である「シャーロック・ホームズ」の小説は、英国の小説家サー・アーサー・コナン・ドイルが生んだ、ミステリーです。19世紀末から20世紀初頭にかけて発表されています。主人公はベーカー街221のBに住む、シャーロック・ホームズと、その友人であるジョン・H・ワトソン医師。ホームズは、そのたぐいまれな観察力と推理力で、殺人、窃盗、詐欺など、あらゆる難事件を解決に導きます。そのホームズの活躍は、ワトソンが手記として発表する、という形式の小説として、長編が4、短編が56、合わせて60話が発表されました。

今回の『SHERLOCK』では、主人公たちのキャラクターは、ほぼそのままにして、舞台を現代に置き換えた部分にあります。
しかし、古き良き時代はともかくとして、科学捜査が進んだ現在では、名探偵という存在自体が非常に空々しいものになってきているのも事実です。
従って、最近発表されているミステリーは、突拍子もない設定だったり、妙に大がかりなものだったりと、いかにも作りものの寓話(ぐうわ)めいた作品が数多く見られました。
ひとことで、言ってしまえば、リアルではないのです。

ところが、『SHERLOCK』の主人公ホームズは、原作のキャラクターをうまく現代に存在させ、ある意味、とてもリアルな存在になっているのです。ホームズが難事件に挑む、その根元にあるのは自分の知的好奇心を満足させるためです。正義とか、治安の維持にはさほど興味がないのです。また、事件の裏にある真実を探るためには、あらゆる手段を惜しみません。部屋の中で銃を撃ったり、冷蔵庫に研究のため、死体を保存したりと、およそ常識では考えられない行動をとっています。また、これまでのホームズは愛煙家でパイプを吸っていたのですが、本作では時代を反映してニコチンパッチをつけています。

一方、ホームズに対してワトソンは、元軍医であるだけに、非常に常識人です。ホームズの気まぐれ(のように見える)行動にも、文句を言いながら付き合い、彼が危機に陥ると、必死になって助けようとします。行動力も実行力も、我々がイメージしているワトソンとは別で、ある意味、頼もしい存在です。
このホームズとワトソンの関係について、原作の小説の研究者の間では、しばしば同性愛の持ち主ではと指摘されていましたが、この『SHERLOCK』では、そうした部分を逆手にとって、2人とも違うと描きながら、そう感じる人々への過剰なサービスもあるのです。
例えば、捜査中にふたりでレストランに入ると、カップルに間違われて、キャンドルサービスをされたりするのです! このいかにも現代風な描写、そして、そうしたシーンを喜々として演じている(ようにしか見えない)キャスト、さらに、その裏に透けて見えるスタッフの「どうです? 面白いでしょ、このふたり」といった姿勢が見えるのがほほえましいのです。


とはいえ、ただそうした部分を面白おかしく描いているだけではありません。変人ゆえ、友人が居ないホームズと、戦地帰りで戦場でのトラウマから心を閉ざしがちなワトソン。このふたりが(家賃を節約するため)一緒にルームシェアをすることで、ふたりに変化が現れるのです。ふたりの変化は、少しずつ描かれていきますが、実に丁寧に描かれています。

ところで、原作はワトソンがホームズの活躍を手記という形で発表しているという形式になっていますが、『SHERLOCK』では、ホームズは自分の研究発表サイトを持っており、またワトソンはブログでホームズの活躍を発表しているのです。
ちなみに、ホームズのサイトは原作小説「四つの署名」第1章タイトルの「The science of deduction」と同名になっています。
しかも、BBC内にそのサイトもちゃんとあるというサービスぶり!

(BBCのサイトはコチラ)※NHKのサイトを離れます。

また、原作ファンをくすぐるようなせりふや固有名詞も頻繁にでてきます。
この『SHERLOCK』、英国ではシーズン1は90分×3話。2010年7月25日~8月8日まで、3週連続でBBC1で放送されました。

col_thu_110818_01.jpg第1話「ピンク色の研究」は「緋色の研究」をベースにしたもので、ホームズとワトソンの出会いが、ある連続殺人を通して描かれています。
第2話「死を呼ぶ暗号」は有名な「踊る人形」をベースに、全く異なる物語を作りだしています。
そして第3話「大いなるゲーム」は、「ブルースパーティントン設計書」など複数の短編がベースになっています。

面白いのは、原作をそのまま現代に置き換えてトレースしたのではなく、あくまでもヒント程度にしている点にあります。ですから、原作を熟読している方が見ても、その展開や解決は異なるので充分楽しめるのです。
"原作に忠実"であることからも、はなっから逃れられるため、今読むと"どう考えても変だな~!?"などと思ってしまう設定やトリックを、そのまま映像化しなければならないという"義務"からも自由になれるという利点もあるわけです。

また、気になるほかの準レギュラー(ホームズの身内や、ホームズのきゅう敵)なども、現代風なアレンジでちゃんと登場し、ファンを喜ばせてくれます。

で、唯一残念なのは、現在のところ、完成しているのがこの3本だけということです。この点は、先週分で、荒谷さんも書かれていますが、3本の出来がいいだけに、あらためて念を押さずにはいられません。このあたり『プライミーバル』も、そうですが、1シーズンあたりの製作本数が英国は少なすぎますね。もちろん、英本国でも人気の本作ですから、現在、続編が制作中であり、そのベースとなっているのが「ボヘミアの醜聞」、「バスカヴィル家の犬」、「最後の事件」だということもわかっています。ファンならタイトルを聞いただけで楽しみになるでしょうし、しかも、早くも「最後の事件」が入っているところは特に気になるでしょう(なお、放送は、当初2011年後半の予定だったのですが、2012年にずれる見込みだそうです)。

この『SHERLOCK』は米国でも放映されており、2011年のエミー賞では、「ピンク色の研究」がミニシリーズ/TVムービー部門の脚本賞、編集賞、音楽賞、特殊効果賞にノミネートされていました。

とはいえ、『SHERLOCK』は古典的ミステリーの元祖として誕生した原作を、ドイル以外の人が書いたたくさんの小説(パロディやパスティーシュ)や、TVドラマ、映画をすべて消化し、1周してできた作品、という感じもします。
最初にも書きましたが、特に『~メンタリスト~』とテイストが近く、エキセントリックな主人公が警察のコンサルタントとして事件に関わり、正規の刑事たちから煙たがられながらも一目置かれているあたりは、とても似ていると言えるでしょう。

近年のミステリードラマはリアリティ志向で、証拠を丹念に集め、事実に白黒をつけ、それらが最後につながり、スッキリ感を楽しむ作品が多いため、ホームズのような、推理=推測だけで話を進めるやり方は、ちょっと強引に見えるかもしれません。しかし、それがホームズの面白さなのです。
番組HPに掲載されている、ベネディクト・カンバーバッチのインタビューで「ドラマの影響でオリジナルの小説を読みたいと思ってくれたら感激だね。そうなればすごくうれしい。」とありましたが、同感ですね。

SHERLOCK』は、キャラクターとともに、そうしたミステリーの面白さも充分あり、とても楽しめる作品です。ぜひ、楽しんでください。

岸川 靖(きしかわ・おさむ)

1957年、東京生まれ。編集者・ライター。雑誌「幻影城」編集を皮切りに執筆をはじめ、海外ドラマ、特撮映画等の著書多数。

岸川 靖(きしかわ・おさむ)

投稿時間:12:00 | カテゴリ:海外ドラマ

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