BSオンライントップ > BSコラム > ■海外ドラマ■『シャーロック・ホームズの冒険』の放送が始まりました by 岸川靖

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20131031_kaigai.jpgご承知のように、今月初めから、BSプレミアムでジェレミー・ブレットが主演した『シャーロック・ホームズの冒険』の放送が始まりました。ハイビジョン・リマスター版での登場です。

久しぶりの再放送ですので、初見の方も多いかもしれません。今回は、この名作シリーズのみどころをご紹介しましょう。

シリーズは英国の作家、サー・アーサー・コナン・ドイルのベストセラー小説『シャーロック・ホームズ』シリーズを映像化したものです。
英国グラナダ・テレビジョンで1984~94年にかけ、104分の長編が5本、52分の通常尺が36本、合わせて41エピソードが製作されました。ホームズの連続ドラマは数本あるので、ファンは「グラナダ版」、もしくは「ブレット版」ホームズと呼んでいます。

ドイルの書いた原作(※熱心なファンは“聖典”と呼んでいます)は長編が4本、短編が56本、合わせて60エピソードなので、ほぼ7割66%が映像化されている計算になります。

日本初放送はNHK総合テレビで、1985年~1995年にかけてのことでした。
シリーズは人気、評価ともに高く、一度でもご覧になった方なら、魅力はいくら語り尽くしても尽きないと思います。
残念ながら放送はホームズを演じたジェレミー・ブレットの病死により、終止符が打たれました。しかし、ブレットの演じたホームズと本シリーズの“聖典”の再現度は、幾多のホームズ映像化作品のなかでも、頂点にあることを疑う余地はありません。

例えば人気を博した『SHERLOCK (シャーロック)』は、オリジナルのホームズシリーズをベースに、舞台を現代に移した“リ・イマジネーション”版です。
『SHERLOCK (シャーロック)』は主人公ホームズを演じたベネディクト・カンバーバッチを、一躍、世界的スターにしました。
しかし、この『SHERLOCK (シャーロック)』にしても、グラナダ版の成功がなければ、決して生まれなかったシリーズなのです。
なぜならば、原作を忠実に映像化し、うるさがたのファンをうならせたグラナダ版の存在があったからこそ、制作側はあえて同じ路線を歩まず、オリジナリティあふれるホームズを現代に再生し得たからです。

その理由を説明するために、少々脱線しますが、例え話をしましょう。
過去の映画界では、「パート2もの」は第1作に比べると興行成績や評価が低いというのが通例でした。それは最初の第1作で制作陣がやりたいこと(テーマや物語)などを描ききっており、続編を作ろうという発想はみじんもなかったからです。
一方で、当たる映画ほど続編は映画会社、ファンに望まれるのも事実です。その結果、製作される続編は、ヒットした第1作の要素やパターンを再構築した、縮小再生産のものが多かったのです。

その定説を覆したのは、ジェームズ・キャメロン監督の『エイリアン2』(86)でした。この映画はリドリー・スコット監督の『エイリアン』(79)の続編でありながら、第1作の宇宙を舞台にしたSFゴシック・ホラーから、SFアクション作品へと大きく方向性を変えていたからです。
ちなみに第1作『エイリアン』の興行成績は1億490万ドルでしたが、『エイリアン2』は1億3千万ドルと上回っているのです。
ここから導き出される結論は、ヒットした作品の続編は、方向性を変えたもの、もしくは『ターミネーター2』(91)のように(※本作も『エイリアン2』と同じ、キャメロン監督作)、バージョンアップしたものということなのです。

つまり、“聖典”から現代版に方向性を変えた『SHERLOCK (シャーロック)』が生まれたきっかけは、ホームズシリーズの映像化である『シャーロック・ホームズの冒険』の完成度があまりによかったためです。その人気も“聖典”を忠実に映像化したグラナダ版があればこそなのです。

以上のような理由で、『SHERLOCK (シャーロック)』ファンは、このブレット版ホームズは必見ということになります。また、オリジナルを見ることで、事件やキャラクターを、どう変えたのかが分かります。
 
例によって、いささか前置きが長くなりましたが、今回は不朽の名作と言われているこのシリーズのみどころを簡単に3つご紹介しましょう。

1)初放送のハイビジョン・リマスター版(そしてノーカット版)
シリーズは何度も再放送が行われています。しかし、今回の再放送は過去のどの放送映像より、はるかに鮮明なハイビジョン・リマスター版なのです。
ハイビジョン・リマスター版の放送は、今回が日本初です。
19世紀末のヴィクトリア時代のロンドンの風景や風俗、ホームズの髪の毛の一本一本まで鮮明に見ることができるのです。  
鮮明なハイビジョン映像として生まれ変わった本作は、新たな発見があると思います。
何度も見られている旧来のファンには、その鮮明な映像を充分に堪能できると思います。

また、それと同時に、今回の放送は、基本的にノーカット版での放送になります。そもそも、90年代の総合テレビでの初放送時には、放送時間の都合などもあり、一部分カットされた版でした。今回の放送では、そうした部分を戻したノーカット版ということで、これまたファンにはうれしいところですね。

2)
“聖典”に忠実ながらも、多少の変更を加えた物語
“聖典”では、ホームズは天才的頭脳を持ちながら、コカイン(麻薬)をたしなむという困った部分を持つキャラクターです。コカインは19世紀では嗜好(しこう)品として合法でしたが、現在ではもちろん違法です。
放送時、ホームズものということで、多くの子どもたちが見ているのを意識していた主演のジェレミー・ブレットと制作陣は、その設定を憂慮したのは言うまでもありません。
そこで、原作者であるドイルの遺族に了解をとり、ホームズがある事件の後で、コカインの注射器を地面に埋める描写を加えたのです。
また、“聖典”にある矛盾点やキャラクター造形の薄い部分も、制作陣は最善の改訂を加えています。
これらの部分は、作品全体に比べれば些末(さまつ)な部分ですが、逆に“聖典”をお読みの方は見比べてみると新たな発見があります。

幸い、ホームズシリーズは出版各社から刊行されていますし、たいていの図書館にも(一般向け、子ども向けともに)収蔵されていると思われ、入手も楽です。
「子どもの時に読んだから、いまさら読むのは抵抗がある」と思わずに、是非、お読みください。もちろん、テレビを見て楽しんでから、答え合わせのように“聖典”を読むのも楽しいものです。

3)個性的なキャラクター
主人公であるホームズは、天才にありがちなエキセントリックなキャラクターです。ともすれば漫画的に描かれがちなそのホームズを、ブレットは、実に巧みに演じています。
史上最高のホームズと、多くの“聖典”ファンが認めたその演技を楽しんでください。

ちなみに、日本語吹き替え版では、ホームズ役は往年の大ヒット刑事ドラマ『太陽にほえろ!』で「山さん」こと山村精一刑事を演じた露口茂が演じています。その渋い声とはうらはらにブレットの軽妙な演技にも、きちんと合わせている演技は絶品です。

また、ホームズと言えば相棒のジョン・H・ワトソン博士が有名ですが、本シリーズでのワトソンは、従来のホームズに比べ間抜けたイメージで描かれていることはなく、きわめて優秀、かつ人間味あるキャラクターとして描かれています。
なお、ワトソンは第1、第2シリーズで演じていたデビッド・バーク(声:長門裕之)が降板したため、第3シリーズ以降はエドワード・ハードウィック(声:福田豊土)が演じています。この二人のワトソンを見比べてみるのも面白いと言るでしょう。

もっとも、“聖典”では第2シリーズ最終話「最後の事件」と第3シリーズ第1話「空き家の怪事件」の間は、3年の月日が流れていたという設定で、さらにハードウィックのほうが年長で落ち着きがあるため、この交代は違和感なく楽しむことができます。

なお、吹き替え版では、ワトソンの音声が変わる部分もありますが、先ほど申し上げたように、これは日本初放送時にカットされた部分を、他の声優さんで追加収録しているためです。ご了承ください。

それでは世界最高と言われるグラナダ版『シャーロック・ホームズの冒険』をお楽しみください。

シャーロック・ホームズの冒険 ハイビジョン・リマスター版
BSプレミアム 毎週日曜 午前0:30~(土曜深夜)

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(取材・構成:工藤浩紀)

岸川 靖(きしかわ・おさむ)

1957年、東京生まれ。編集者・ライター。雑誌「幻影城」編集を皮切りに執筆をはじめ、海外ドラマ、特撮映画等の著書多数。

岸川 靖(きしかわ・おさむ)

投稿時間:15:00 | カテゴリ:海外ドラマ

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