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ドキュメンタリー
2017年09月14日

「老いてなお 花となる~織本順吉 90歳の現役俳優~」by中村

役者より作家の方がエライんだよ。
幼い頃、私は父・織本順吉にこう言ってダマされた。父としては、娘がうっかり「役者になりたい」などと言いださないように、知恵をしぼった末の一言だったのかもしれないが、その言葉に乗せられて、放送作家という仕事に就いた。
80年代後半から、ドキュメンタリーの仕事を手がけ、2000年代になってNHKの番組で何度か父と一緒に仕事をする機会を得た。

0916-3.jpg2004年放送の衛星ハイビジョン「一本桜の物語~花と過ごす春の一日」という番組では、生放送での朗読劇。梶井基次郎など桜を描いた日本文学の名作を根岸季衣さん、岡田浩暉さんらと読む。しかし朗読といいながら、冒頭部分は演出の都合で、父だけ台本を離し、本番にのぞまなければならなくなったテレビ創生期に、生ドラマの経験があるとはいえ、生で数分間の一人語りである。スタジオの緊張感が高まる中、父は見事に桜に魂を奪われた老人を演じきった。見事だと思った。

2005年放送の「あの日~昭和20年の記憶」では、終戦の年の父の記憶をインタビューした。年末のスペシャルでは、ドラマ仕立てで山田風太郎、徳川夢声らの日記を紹介。父にはその日記を結ぶ案内役として老教授を演じてもらった。このときも、モニターを一切見ずにカメラワークに合わせて、自在に立ち位置を工夫しセリフの間を調整した。父の役者としての底力をしみじみと感じた現場だった。0915-1.jpg父は生涯脇役を貫いた俳優だ。映画・ドラマの出演作品は2000本を超えるが、名前を言ってピンと来る人は少ない。顔写真を見せれば、「ああ、このおじいさん見たことある」という反応。例えば、最近なら中井貴一・小泉今日子の「最後から二番目の恋」のファンキーなエロじいさん・一条さん…といえば、わかるだろうか?
脇役一筋だが、与えられた仕事を確実に演じる修正の要求が入る前に、それ以上のものを提示する。それが父の誇りであり、私はそんな父の後ろ姿を見て育った。0915-2.jpgだが、そんな父にも老い」はやってきた。誰よりも早く台本を離し、セリフ覚えの苦労など見せたこともなかった人が、あれこれ台本にケチをつけるようになった。それは覚えられないことの言い訳の始まりだった。仕事帰りに迎えに行く母に、「時間を間違ってる!」と責めるようになった。自分が間違った時間を伝えたのに、それを認めようとせず、間違うのは全て母、と決めつけた。

母の日々の嘆きを聞き、娘として、そして同じく放送の世界に身を置く者として、どう父と向き合えばいいのかと考えた。そして、2015年。撮らされる者である『父』と、撮らす者である『娘』を結ぶ物として、カメラを手に父の姿を記録することにしたのだった。0916-4.jpg今回のこのドキュメンタリーでも、カメラは残酷に父の老いを映し出す。娘としては厳しすぎるかもしれないが、でもその視点こそが、父から受け取った財産だと信じて、この番組をお届けする。


★放送予定
BS1スペシャル 「老いてなお 花となる~織本順吉 90歳の現役俳優~」
9月22日(金)午後9:00~9:49

中村 結美(なかむら ゆみ)

【コラム執筆者】
中村 結美(なかむら ゆみ)

放送作家。フジテレビ「ムツゴロウとゆかいな仲間たち」「ワーズワースの冒険」日本テレビ「はじめてのおつかい」TBS「神々の詩」NHK「総合診療医ドクターG」などの構成を手がける。2005年「あの日~昭和20年の記憶」で初めてディレクターを経験。長編セルフドキュメンタリーは今回が初めての挑戦である。