BSオンライントップ > BSコラム > 渡辺支配人のおしゃべりシネマ館「東京物語デジタルリマスター版」

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4月から始まる「山田洋次監督が選んだ日本映画の名作100本」のオープニングを飾るのは、昭和28年(1953)に小津安二郎監督が撮った「東京物語」です。日本を代表する名作映画として海外でも高い評価を受けている作品ですが、この映画には不幸な歴史がありました。

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日本の映像文化遺産ともいうべき国宝級の映画ながら、公開から7年後の1960年7月24日、委託していた現像所が火災になり、貴重な「原版フィルム」が消失したのです。つまり現在、私たちが見ることができる「東京物語」は、原版以外からコピーを繰り返したものなので、公開当時の映画よりかなり画質が悪いものだということです。しかも、フィルムは呼吸する生き物のようなものなので、50年以上の歳月をへて、さらに劣化が進んでいます。そこで、今回NHKでは松竹や現像所と協力してこの危機にひんしている名作を、当時の映像を知る撮影スタッフとともに、最新のデジタル技術でよみがえらせることにしました。デジタル修復の映像監修を担当したのは大島渚監督の「青春残酷物語」(60)、野村芳太郎監督の「砂の器」(74)、今村昌平監督の「黒い雨」(89)などで知られる名カメラマン、川又昴(たかし)さんです。川又さんは現在84歳ですが、27歳の若さで「東京物語」の撮影助手をつとめていました。映画を正しく復元するためには、川又さんの若き日の記憶こそが頼りだったのです。

復元にあたっては、まず現存する最も状態の良いフィルムを選び、汚れを洗浄します。次に最新のデジタルスキャン機を使い、普通のハイビジョン映像の数倍という、世界最高の解像度レベルで1コマ一コマをコンピューターで読み取ってデータ化していきます。こう書くと簡単そうに思えますが、映画のフィルムは1秒間24コマですから1分間で1440コマ。「東京物語」は137分間の作品なので、合計19万7280コマということになります。さらに読み取った映像を最新のデジタル技術によって、手作業で丹念に傷を修復・補正していく、という気の遠くなるような作業なのです。しかも、途中、思わぬ事態が次々に発生するなど、名作の修復にあたっては、まるで「プロジェクトX」で、中島みゆきさんの歌声が聞こえてくるような、劇的な物語が展開したのです。

映像だけではありません。古い日本映画を御覧になると、日本語なのにセリフが聞き取りにくい、と感じる方が多いと思いますが、今回は「東京物語」の音の修復作業も、かつて「東京物語」が誕生した地である、神奈川県大船のサウンドスタジオで行われました。音の修復というのは、単にノイズを消すだけではなく、バランスが肝心です。この作業も時間をかけて、丹念に実施されました。こうして、ようやく「東京物語デジタルリマスター版」が完成。関係者が集まった試写室では、美しくよみがえった「東京物語」の映像と音に、感動の声が上がったといいます。特に監修にあたった川又さんは「もう死んでもいい。やっと小津監督に恩返しできたような気がします」と語っていました。

NHKでは今回、「東京物語」と同じ年に製作され、1954年度のアカデミー名誉賞(現在の外国語映画賞)、衣装デザイン賞(色彩計測を担当した画家・和田三造に対して)を受賞した衣笠貞之助監督の鮮やかなカラー映画「地獄門」、成瀬巳喜男監督の不朽の名作「浮雲」(1955年度キネマ旬報第1位)もデジタルリマスター化し、5月に放送する予定です。最新のデジタル技術でよみがえった名作を、ぜひお見逃しなく!

渡辺俊雄(わたなべ・としお)

1972年、アナウンサーとしてNHK入局。10年以上「衛星映画劇場支配人」として映画に関連する番組の制作や出演、ナレーションを担当。

渡辺俊雄(わたなべ・としお)

投稿時間:04:04 | カテゴリ:映画

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