過去放送記録

FILE071:「ヒトと殺しと男と女」

2009年5月19日放送

 

長谷川眞理子(進化生物学)

なぜヒトはヒトを殺すのか?この深遠な問いに進化論の立場から挑む科学者がいる。進化生物学者・長谷川眞理子。日本進化学会会長である。
進化論による殺人の研究は、動物としてのヒトが進化の過程で身につけた特質を解明することを目的としている。従って殺人を研究するに当たって長谷川は、個々の殺人がどのように起きたのかを分析するのではなく、国など大きなヒトの集団を一つの単位として全体の傾向を分析する手法を取る。このアプローチがあぶり出した事実に「世界中どんな社会でも最も殺人を犯しやすいのは20代前半の男性だ」というヒトの驚くべき性質がある。長谷川はこの事実からヒントを得て、日本の殺人を調べてみることにした。過去100年間の殺人統計や3000件以上に上る殺人事件の裁判記録を調べた結果、長谷川は世界でも稀な現象をそこに見出すことになる。日本の殺人には全体として、ある非常に特殊な傾向がある・・・。それは、一体どのようなものなのか?
あくまで人間の動物的な側面に注目して人間の本質を問い続ける長谷川の議論に、知のゲリラ戦士・太田は何を思うのか。気鋭の女性科学者と爆笑問題が、「ヒトがヒトを殺す」進化論的意味について語りあう。

長谷川眞理子(はせがわまりこ)
総合研究大学院大学先導科学研究科教授。東京都生まれ。専門は進化生物学・行動生態学。ニホンザルの母子関係の研究からスタートし、生物の繁殖行動の進化がどのように行われているかを研究してきた。近年は人間行動を進化論の視点から読み解く研究も活発に行っている。無類のダーウィン好きとしても著名。

今回の対戦内容

長谷川眞理子(はせがわまりこ)/爆笑問題


太田:でも、殺人っていうのは確かに・・・。でも今、これだけ減っていると言っても、それでも感覚的には・・・。何で人を殺すのがいけないのかって考えることっていうのが、何で人間が生まれたんだろうって考えることのすごく入り口にあって。むしろそれを疑問に思う子どもは、おれは当たり前だと思うのね。そこを疑問じゃないって思っていることの方が不自然で。だって、牛肉食って、豚殺して、鳥殺して、動物殺して、何で人間殺しちゃいけないの。戦争やってるじゃん!っていう話ですよね。戦争のためにはいいの? いいわけないんですよ。じゃあ殺人のやつは死刑にするじゃん。それはOKなの? そっちの殺人はOKなのっていう。そんなことじゃないんだよっていう。社会っていう、ルールっていうさ、人間っていうのはそういうものっていう、それこそ思考停止のものをがーんとやられちゃうと、分からないってなっちゃうんだけど。
長谷川:でもいけないことなんだという気がする、っていうそこは、そこは私、普通あると思うんですね。あの、大学で教えている時に、生物学でこうやってゾウアザラシが一所懸命けんかしたりするのを見せていろいろしゃべると、時々ね、生き物は何でそんなに一生懸命生きているか分からないっていう質問をする子がいるんですよ。で、私はすごい驚いたの。何を説明しようかというと、一生懸命生きてなかったら、いないのよと、ここには。生き物ってみんなそうやって一生懸命何かやって、で、子どもが残って、上の世代は死んじゃって、その子どもがまた一生懸命何かやって、だから一生懸命やっていないっていうのは、見ることが出来ないのよ。で、それでもしあなたが一生懸命生きなくてもいられて、人から一生懸命やっていない人がここにいるっていうのが見られるとしたら、それは随分不思議なことで、生き物としては。それは誰か別の人が、あなたがそうやって一生懸命やらなくても生きていけるように支えてくれているからなのよっていうのだけを言うんです。

先生の対戦感想

長谷川眞理子(はせがわまりこ)


面白かったですね。やっぱり普段から人間観察を随分とやっていらっしゃる人達だなぁ、と思いました。お笑いの人は、やっぱり人間がいつどのような時に笑うのかとかね、そういうことも分かっていないとできないんでしょうね。人間に対するいろいろな感覚っていうのが、研ぎ澄まされた方々だと思いましたよ。
で、人間についての研究も同じなんだけど、やっぱりね、人間について研究しようとするなら、人間を熟知していないと駄目なのよ。だから私は40代ではまだね、人間の研究は出来なかったと思うの。細かい一つ一つのピースみたいな研究は若いときでもできますけどね。まぁ、その辺は年の功で、昨今はやっと「人間とは・・・」って言えるような気がしてきたところなんですよ。まだ駄目かもしれないけど。
私は自分の子どもがいないんですね。だから私が死んだら、ここまで伝わってきた生命の様々な情報が全部途絶えちゃうわけですよ。そのことは生物学的に見て残念なことだと思います。ただし、人間っていうのは、自分の子どもを産むことだけが何かを伝えていくことではないので、私が一生懸命に他の子供たちを教えたりしているっていうのは、私の何かを残すという意味では同じような意味合いを持っているかもしれない。それにしてもなお、自分自身の生物学的な子どもがいないということは残念なことだとは思う。そういうことをいろいろ経験して、人生経験も豊富になった結果、自分が生きていくということの意味が、年と共にすごく変わっていったのよ、私自身ね。だから今やっと「人間」をテーマにするっていうことを正面切って言えるようになったんだと思う。

うーん、あと、印象的だったのは、「女は花が好き」っていう話かな。私も思い当たることがある。一般的に言って女性は花が好きですよね。太田さんはそのことをあんなふうに自信を持っておっしゃるから(笑)、本当にそうなのか、調べてみたくなりましたね。うん。

爆笑問題の対戦感想

田中:なんか、今日の先生は森山良子さんみたいな雰囲気の人で、話しやすかったし、わかりやすかったですね。でもね、最初にやった4枚カードの問題とかは、わかりにくいと言われていた最初の問題(A K 4 7のカードが並んでいた問題)でも、何ていうのかな・・・クイズ的な感じで、僕なんかは結構推理できちゃうんですよね。だから、逆にあれも経験のなせる技っていう気がしたんですけどね。そこで引っかかっちゃったので、太田も言っていたけど、カードの話と殺人の話とのつながりが今ひとつ理解できなかった部分があるんですよ、正直なところ。でも日本全体、とか人類全体とかいう引いた目線で見たときに、見えるものがあるんだというのはすごくよくわかりました。太田さんはどうでしたか?
太田:面白かったですね。やっぱり不思議なのは、殺人の場合、圧倒的に男が殺人を犯しやすいっていうことですよね。ホントに一体何なんだろうなって思うんですよ。「感情の揺れ」みたいなことを測るために、その極限状態である「殺人」の統計を分析するということなんだろうけれども、殺人までいかない感情の揺れとかが測れたらもっと興味深いことがわかってきたりするかもね。例えば、女は殺人までいかないけれども、感情の揺れの“激しさ“という意味では、頻繁に殺人寸前まで到達している・・・とかね。今まで見えなかったことが見えてくるような気がするんだよね、科学的に検証するのは難しいんだろうけどね。あとはまぁ、男と女のことは普段からいろいろ考えたりするので「女は花が好き」っていう話を、今回ここで開陳できたのはよかったかな。

ディレクター観戦後記

長谷川先生は引き潮の時の浜辺を見て歩くのが大好きだそうで、取材の時に大学の近くにある海岸に連れて行っていただきました。僕のような生き物に疎い人間には、引き潮時の磯は、やたらごつごつとした岩が目立つ殺風景な場所にすら見えます。しかし長谷川先生は現場に着くなり、生き物の息吹を全身で感じていらっしゃるようで、何気ない岩と岩の割れ目に貝の集団を見つけたり、砂の中にひっそりと身を隠す生き物を目ざとく見つけてみたり、そうかと思えば双眼鏡で浜辺の上空を飛ぶ鳥の群れをそそくさと観察し始めるのです。おそらく誰もがその姿を見れば「本当に生き物がお好きなんですね」と言いたくなるだろうという感じの没頭ぶりで、こちらとしては若干置いてけぼりを食った印象さえ持つくらいです(笑)。もちろん、そこが長谷川先生の魅力の一つでもあるのですが。そんな長谷川先生に僕は聞いて見ました。

ディレクター:「どうしてそんなに生き物を見て歩くのが好きなんですか?」
長谷川先生:「好きなことは直観的なものだから説明するのが難しいわね。でもあえて言うなら、こういう海草だって、貝だって、もちろん人間だって、とてつもなく長〜い生命の歴史を背負って今があるわけでしょ。同じ時間をそれぞれのやり方で切り抜けてきて、今、いろんな生き物の形になっているわけ。つまり、生き方っていうのはこういう生き物のレベルで見ても、た〜くさ〜んあるわけよ。その事実に感動するでしょ。凄いと思わない?この自然の創意工夫の力って。そういうのを感じるから好きなのかなぁ・・・。」
ディレクター:「なるほど。」

長谷川先生の「世界観」をほんの少しかもしれませんが、理解できたかもしれない、と思えた瞬間でした。こういう瞬間があるから番組作りはおもしろい。まさしく醍醐味であります。

つぶやき


KEYWORD

生物

人間

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