FILE066:「この世は‘破れ’ている」
2009年3月31日放送
益川敏英(素粒子物理学)
番組もいよいよ三年目に突入!今年度最初に訪れるのは、いま日本で最も有名な科学者、2008年ノーベル物理学賞受賞者である益川敏英・京都産業大学教授だ。益川の研究対象は、その大きさがわずか10兆分の1センチ以下という素粒子の世界だ。その中でも、特にクオークと呼ばれる素粒子の性質を、世界で初めて見抜いたことで知られている。1973年益川は、クオークの種類は、理論的に考えると少なくとも6種類以上存在するはずだと予言した。まだクオークは3種類しか確認されていなかった時代のこと、当時の物理学者の中でこの予言を信じる者はほとんどいなかったという。しかし、その後1994年までに、未確認だった残りのクオーク3種類が全て発見され、益川の予言の正しさが実証された。
このことが、今回のノーベル賞受賞に至っただけでなく、「なぜこの世が存在しているのか」という根源的な問いに答えることも可能にした。世界の始まりの解明に深い関わりをもつといわれる益川の研究が明らかにしたこととは、一体何なのか?
番組初のノーベル賞学者に立ち向かうのは爆笑問題。知のゲリラ戦士・太田と、筋金入りのあまのじゃくとして知られる天才物理学者・益川が、それぞれ独自の世界観をぶつけながら、科学の最前線に迫る。
益川敏英(ますかわとしひで)
今回の対戦内容
益川敏英(ますかわとしひで)/爆笑問題
太田:要するに先生が最初におっしゃったように、つり合っているっていうか、対称的なものが人間は好きだと。この宇宙も全部そういう、これがあればこうなっている、鏡のようにつり合うっていう、まあそういう法則で、ある程度出来ていると。
益川:うん。
太田:ところが、素粒子の世界では、それがつり合わない場合があるぞと。アンバランスになっちゃうわけですよね。
益川:うん、そうそう。
太田:その先生の仮説といっていいんですか、最初は。その仮説が証明されたということになって、ノーベル賞をとることになったわけですね。で、世の中そういう理屈で、素粒子はそういう先生の言った通りだったと。これは一体、簡単に言うとどういう意味ですか。何を表しているんですか。
益川:我々の理論を使えば、宇宙の始まりの段階では、粒子と反粒子が対等にあっても、対称性の破れがあるから、これが消滅していく時にね、1億分の1ぐらいの確率で消え残るやつがある。小松左京的な言い方をすれば消え残り。それが我々の宇宙だと。
先生の対戦感想
益川敏英(ますかわとしひで)
いやぁ、面白かったですね。やはり太田さんも田中さんも、自分の世界を持ってみえるなあって思いました。通常インタビューされる時は、特に新聞記者さんって概ねそうだけど、結論はこういうことに持っていきたいんだなっていうことが分かることが多いのね。僕なんか多少へそ曲がりなものだから、そういうのを感じると「ちょっと意地悪をしてみるかなぁ」って思っちゃう方なのね(笑)。でも今回はそういうことはなかったですね。
まあ、実際お会いしてみて、テレビで見る印象とはそれほど大きくはずれてはいなかったような気がしますね。まぁ科学の話題ですからね、極端な突っ込みもし得ないだろうしね。だから非常に何ていうんだろう、とても穏やかなインタビューだったと思います。僕だったら「もうちょっと意地悪を言って、困らせてやろうかな」とか思うかもしれないんだけれどねぇ(笑)。
爆笑問題の対戦感想
田中:いやぁ、楽しかったですねぇ。まあテレビとかでね、益川先生のインタビューなんかはよく見ていたので、何となくキャラクターは知っていたんですが、まあ本当にその通りで「可愛らしいおじいちゃんだな」っていう感じがすごいしましたよ。やっぱり理屈っていうか、理論が好きな人なんだっていうのと、数字がやっぱり好きなんでしょうね。なんか益川先生がそうなるのもわかる気がするんです。正確に厳密に言った方がきっと面倒臭くないんでしょうね、ああいうタイプの人って。話の中でも「1955年に出たレポートで・・・」とか、いちいち正確な数字が出てくるでしょ。一日のスケジュールも何時に何をやるって決めた方が楽っていうのもね。数字っていうのが生活の中で大きな位置を占めているという感じがひしひしと伝わってきましたね。それと、何十年も一つ一つ疑問をつぶしていって「これは違う、これも違う・・・ああこれが本物だ」っていう作業をずっと何十年もされている人ですからね。つまりそれってどういうことですか?ってきいても、そういう一つひとつをきっちりと話をしないと次の話には行けないみたいなところがきっとあるんでしょうね。それはものすごく感じたな。まあでも、確かにクォークとか素粒子だ何だって言われても、僕なんか全然分からなくなっちゃったりするんですけど、益川先生は他の話になるととても分かりやすいですよね。例えば霊の話とか、UFOの話とかね。ものすごく意見がはっきりしているしね。とにかくしゃべっててとても楽しかったです。もうちょっと時間があったらなぁ、って思いましたけどね。どうですか、太田さんは?
太田:うん、もうちょっと欲しかったですね。でもすごく印象に残ったのは、特殊相対性理論は高校生でも分かる数式で書かれているんで、理解するのはさほど難しくないんだけれども、そこで書かれている意味を実感することが難しいって言う話。なるほどねって思ったんですよ。やっぱり、益川先生の理論っていうのを文章でいくら読んでも、まずクォークというものを想像出来ないですよね。そもそも今回の話のキーワードでもある「対称性の破れ」っていうことがまずそう簡単に頭にイメージを浮かべられない概念ですよね。物理学も論理が重要だとは言っても、結局想像力っていうのかな、そこの才能なんだろうなというのを感じたんですよね。飛躍した想像力とでもいうのかな、そういうずば抜けた想像力というのが結構大事なんだろうな、って話してて感じましたね。あと、印象という点で言えば、思った以上に優しい印象があるというか、俺なんかがギャーギャー言うことに関しても、いわゆる上から目線じゃないんですよね、決して。なんていうんだろう、いろんなものに対して変な先入観を持たないっていうのかな。いろいろ調べたりして確かめないうちから勝手な判断をしない、というのかな。そういうのが自分には益川先生の優しい人柄として感じられる。そういう態度で普段から研究しているんでしょうね。でもそうでなければ、科学をする中で、いろんな可能性を本気になって考えるなんてとてもできないんだと思うんです。そういう印象がありましたね。
ディレクター観戦後記
番組に入れたかったのですが、時間の関係でどうしても入れることが出来なかった話を一つ・・・。益川先生は大変なクラシック音楽愛好家として知られていますが、研究のさなかで、なんらかのひらめきを得るときの心象風景をうまく表現している曲が二つあると教えてくださいました。お好きな方は聞いてみて下さい。
ベートーベン作曲 ピアノソナタ14番『月光』第2楽章
シベリウス作曲 『交響詩 フィンランディア』
「おっ!これはいけるかもしれない。俺って天才かもわからん!」という感覚は僕のような一般人には縁遠いものですが、聞いてみると確かにひらめいたときの益川先生の気持ちが感じられるような気がするから不思議です。でもそれは当然なのかも知れませんね、だって、僕らはみな137億年前にたまたま消え残った粒子の「子孫」なのですから。地球だって太陽だって、夜空に瞬く星だって、そして目の前にいる知らない誰かだって、137億年前までたどればみんな一緒、極小の粒子だったって考えると、なんだか妙な気分になってきます。じゃぁ、何で宇宙の謎を解き明かそうとするようなヒトという生物がこの世界に存在し得たのか。そもそも生物が生まれるべき必然性はどこにもありません。たまたまいろんな偶然が重なり合ってこの世界があり、地球でヒトは繁栄を許されている。「人生、生きてるだけで丸儲け」とは明石家さんまさんの名言ですが、その通り!です。人間がこの世に生きていることそのものが奇跡的なんですよ、やはり。そんなことを特に強く感じた今回の番組制作でした。
プロデューサーの編集後記
東大の新入生歓迎シンポジウムに爆笑問題が乗り込む、という形で始まったこの番組も、3年目を迎えることができました。ありがとうございます。
爆笑問題が謎の競技をする新タイトル映像に、菊地成孔氏のペンによる新テーマ音楽がセッションを挑みます。爆笑問題も菊池氏も半端ではない愛情で制作に取り組んでいただきました。これは私たちスタッフの、今年度もJazzyに、挑戦的にいくぞ、という宣言のつもりでもあります。いかがだったでしょうか? また今後、オープニングテーマやエンディングテーマの別バージョンが番組のBGMとして続々登場しますので、お楽しみに。
今回の益川教授。ノーベル賞受賞の時の報道を見て、一風変わった方という印象をもつ方もいるかもしれませんが、私はちょっと違う印象を持ちました。益川教授は本当に「ブレない」方です。テレビが来たからといって、何かよそ行きの言葉をおっしゃったり、愛想を作らない。どんな人と話す時でも、態度が変わらない。つまりいつも「普通」の状態でいられるのです。逆にいえば、普段テレビにいかに「普通でない」人々が映っているかを考えさせられました。
そして「アインシュタインの相対性理論の数式自体はそれほど難しいものじゃない。ただ<わかる>ということと<実感できる>ということは違う」という益川教授の言葉を聞いた瞬間、彼が、私などには想像できない、広大な宇宙空間の中をゆっくりと歩いているような姿が浮かんだのでした。
つぶやき
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