過去放送記録

FILE061:「あなたの知らないメロデイー」

2009年2月10日放送

 

藤枝守(音文化学)

いま我々が日常的に聞いている音楽は、平均律と呼ばれる音律でつくられている。
音律とは、音と音の高さ(周波数)の関係を厳密に規定したもので、平均律は、1オクターブ内の音の高さを、半音によって12に等分割したものである。
しかし、そもそも音楽というものを人類が創造した時の音律は、平均律ではなかった。現在のように平均律が普及したのは、19世紀以降であり、その歴史は極めて浅い。平均律に基づいて作られたピアノが大量生産・消費されたために、平均律がいつのまにか音楽演奏や作曲の基準とされたからである。 「音律は人類4000年の知恵である」と語るのが、「音を聴く」ことの意味を考察し続けてきた九州大学芸術工学院教授兼作曲家の藤枝守だ。
藤枝は、音律の歴史を仔細に検証した結果、音律には様々な種類があり、それぞれが独自の響きを持っていることに気づいた。そして、平均律によって、人間は本来の音を「聴く」豊かな能力を失ってしまったのではないかと警鐘を鳴らしている。
音律の彼方に見える、本当の音とは何か?爆笑問題のニッポンの教養が音の本質にはじめて迫る。


藤枝守(ふじえだまもる)
九州大学大学院芸術工学院教授・音文化学。1982年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)音楽学部博士課程に留学 。留学中にハリー・パーチやルー・ハリソンから影響を受け、あらたな音律の方向の模索を始める。古来から伝わる音律によって作曲された「植物文様」シリーズや音律をテーマにした《響きの交唱》 などの作品を発表している。著作に『響きの考古学−音律の世界史』がある。

今回の対戦内容

藤枝守(ふじえだまもる)/爆笑問題(太田/田中)


藤枝:ベートーベンも平均律じゃなかったんです。
太田:ベートーベンは後半どちらかというと耳も。
藤枝:弱くなってきたりして。
太田:そうすると、ほとんど絶対音感の中で作曲したっていう。
藤枝:絶対音感なんてあるわけない、その時代に。だって音の高さなんて、もう地域自由ですから。絶対音感なんて、あれはまさに信仰、あれはまさにフリークですよ、あの感覚は。
太田:そうなの。今だって、こうこれでレとか言う人いるじゃない。
藤枝:あれ、おかしいんですよ。あれは誤った感覚。あるいは、矯正ですよ一種の、近代の。
太田:僕はねそれを思うんですよ。言ってみれば、ピタゴラスが決めた、その時代、暫定的なんですよ。音階なんて、全部。暫定的に決めているんだと思うんですね。昔ピタゴラスの時代やバッハの時代は、恐らくそんなところまで要するに譜面や音符で表現しなくても、人間があとは補って考える、そういうところにあったんじゃないかっていう気がするのね。
藤枝:だからその時代は良かったんですよ。今太田さんが言ったように、ドミソっていうのはあくまでも一つの暫定的なものだと思ってしまえば、その自由度はあるんだけど、そう思う人は少数派で、みんな法律と同じで、ドとミとソ、あるいは音楽はこう出来ていますよ。音楽というのは、ハーモニーとリズムとメロディですみたいな、もうこう決めた上で音楽を発想しちゃうでしょ。
つまり平均律という問題がやっぱりその本当に遊びがなくなっているっていう。
太田:だからもちろん、それは絶対なんですけど。そのそれを表現する時は、自由に遊べばいいじゃないですか。その前後で。メロディメイカーね。言ってみれば組み合わせで作ってきた人たちの中で、やっぱりみんながこう、ビートルズがあれだけみんなが共感するっていうのは、やっぱりその何ていうんだろ。一番分かりやすい形で、誰もが受け入れやすい形の中で作っていくものっていうのが。そういうすごさってあるじゃないですか。

先生の対戦感想

藤枝守(ふじえだまもる)


いや、大変でしたね。でもやっぱり、彼らの音楽の好みとか、やっぱりそういう聞き方ということを改めて感じて、やはりむしろこういう音の小さいものとか、音律の多様性をやっぱりうまくどうやって伝えていくかっていうことをこれから考えていこうと思いますけど。
特に呼吸という問題は僕もよく考えていたので、そういう話が出てきたのは意外であることと、やっぱり現場を緊張感を持っていつも感じているということのまあ言葉かなと思って、逆に同じような問題を感じたんですけど。それがはたして音律とどう絡むかというところまでは、ちょっと話が至らなかったかもしれないけど。でも、いろんな共通性って、やっぱり場とか、こうインタラクションとか、あるいはそこを感じ取る力というのは、やっぱりああいう人たちと僕とは近いなと思いましたけど。

爆笑問題の対戦感想

田中:先生がずっと言っていたのは、ピアノというか、平均律によっていわゆるデジタル化されてしまって、漏れちゃっている音がいっぱいある。それをもう一回合っていたのか、もしかしたら違っていたんじゃないかみたいなことを何度もおっしゃっていて。理屈はすごく分かるんだけど、実感がわかないというか、どうしても分からないよね。
太田:まあ同じジレンマが、言葉の世界と音符の世界とあるんだなって思うよね。表現という意味では。要するに、出ていない音を聞いていると思うのね。ドミソってやった時に、それが順番に来るわけだから、聞こえてくるわけだから。耳で追っている。要するにドからミへ行く過程で、ド・ミって聞いた時に、絶対にその間をおれたちは補っているんじゃないかっていう気がするのね。それは想像力だったり、感受性だったり、恐らくそういうことのような気がするね。
田中:ファミレスのカレーに例えていたけど、ピアノをね。僕の中では全然ファミレスのカレーじゃない感覚があるんだよね。今ジャズだ何だ、ポップスだ、ロックだ、いっぱいあって、いいなと思う曲は世の中にいっぱいあるから、ファミレスのカレーどころか、高級インドカレーもね、キーマカレーから、何か全部ある気がしているんだよね。言っていることは分かるんだけど、実感がそういう感じにはならなかったなって。
太田:うん、そうね。だからそれは逆に言うと、平均律っていうものにとらわれていたら、多分その中でしか出来ない。先生も同じようにそういう縛られるっていう思いがあるんだろうけど、何も別にピタゴラスが決めたことに、そこまでは、一応使っておいて、あとは自由にやればいいじゃんっていう感じはするよね。だから、絵なんかはまさにね、そのパレットって言っていたけど。それは買って混ぜればいいわけで。
田中:あと、太田も言っていたモーツアルトとサリエリの違いとか、ビートルズとそれ以外。圧倒的に支持される音楽、これだけ多くの人が思うっていうことは、何か共通点とか法則とかあるのかなっていうのは結構思ったことがあって。先生もそれが分かったら、僕ももっと売れているみたいなことを言っていたよね。だから、それは何かね、ちょっとそういう話、もしもうちょっと出来たらなとは思ったんだけど。いいなあと思うと、たいてい筒美京平作曲だったりするんだよ、僕の場合。だから、まあ染み付いたものっていうのはあるんだよ、きっと子どもの頃から。

ディレクター観戦後記

小さい頃、なぜか我が家には父親のギターと母親の三味線がありました。
二つの楽器を手に取り音を鳴らし、その響きの違いに驚いた記憶があります。結局ビートルズがギターを選ばせ、以来三味線を手にすることはなくなりました。それから数十年後「響の考古学」という本と出会い、小さい頃耳にした響の違いを理解することになったのです。いつも耳にしてきたギターもピアノも、平均律という音律の楽器とはまったく意識したことがありませんでした。異質だった三味の音が今回の取材を通して蘇ってきました。あのなんとも言えない素朴な響きと旋律。それはギターにはないものであり、どこか心の奥底で何かが疼くような感覚をもたらしてくれました。もしかしたら、別の音律が私の体のどこかに刻み込まれていたのかもしれない…。もう一度三味線を手にしようかと真剣に考えています。

プロデューサーの編集後記

世の中には、ドレミファソラシドでは表現できない音楽がいくらでもある。それを聞いて、かつてラジオで、ミュージシャンの細野晴臣さんとプロデューサーの桑原茂一さんが話していた逸話を思い出しました。「アヴェ・マリア」をインドの楽団でカバーする、という素敵な試みを行った二人。ところがインドの楽団は、時間を守らず、ダラダラと集まってきてはダベリ、一向に演奏しようとしない。やっとのことで演奏が始まったら、涙が出るほど素晴らしく自由にアレンジされていて、一発OKだった。リーダーが「これはとても単純な音階の西洋の音楽だから、すぐにできたのだ」というようなことを語ったとか。20年位前の記憶なので、定かではありませんが、確かこんな内容だったと思います。
なぜ覚えているかというと、夜、自分の部屋で「地球にはたくさんの違うルールの音楽があり、自分が今まで楽しんできた音楽はそのうちのほんのひと握りにすぎない」と、よく考えれば当たり前のことに、軽い衝撃を受けたからでした。それからしばらくは、色々な民族音楽を漁っていました。
今回の爆笑問題さんと藤枝教授の話が、あなたの音生活をより豊かにするようなきっかけになれば、うれしいです。
今でも、国を越え、宗教を越え、音律も越えた「アヴェ・マリア」を棚から取り出して、聴くことがあります。

つぶやき


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人間

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