過去放送記録

FILE059:「建築のチカラ」

2009年1月27日放送

 

西沢立衛(建築設計)

いま、ひときわ熱い視線を浴びている新進気鋭の日本人建築家、西沢立衛。
パリ・ルーブル美術館が新たに建設する分館「ルーブル・ランス」の設計を、西沢らに依頼。そのニュースは世界をあっと言わせた。世界中の名だたる建築家をコンペで押しのけ、日本人が取り組む快挙だ。 西沢は、建物は、それが建つことによって周囲の環境まで変えてしまう力を持っている、と語る。だからこそ、建築家は、常に時代を見据えた建築を創造すべきだという。
西沢の考えをよく表し、彼が注目されるきっかけとなったのが「森山邸」(2005年竣工)。賃貸住宅とオーナーの住居など大小様々な建物が、塀のない開放的な敷地に建ち並ぶ集合住宅だ。街に向けて開放的な建物にすることで、住民と近隣との自然で自由な交流を作り出し、個を大事にしつつもゆるやかに周りとコミュニケーションする現代人のライフスタイルを反映させたものだ。
家族のあり方や価値観の多様化が進む現代。これからの建築はどうあるべきか?そして、建築家の役割とは?「森山邸」をステージに、西沢立衛と爆笑問題が語り合う。

西沢立衛(にしざわりゅうえ)
1966年生まれ。建築家。横浜国立大学大学院/建築都市スクール准教授。プリンストン大学大学院客員教授。ハーバード大学大学院客員教授。
1995年、建築家・妹島和世(せじまかずよ)氏と共同建築設計事務所「SANAA」設立。1997年、「西沢立衛建築設計事務所」設立。
ヴェネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展 金獅子賞[金沢21世紀美術館](2004年)、ベルリン美術賞(2007年)等多数。

今回の対戦内容

西沢立衛(にしざわりゅうえ)/爆笑問題(太田/田中)


太田:先生は、メッセージをデザインに込めるみたいなこともするんですか。
西沢:やっぱり住宅を作る、もしくは道路を作るっていうのは、どこかでライフスタイルみたいなものを出すっていうことになりますよね。
道を作ればその歩道と車道が分かれていた方がいいのか、全部混ざっていった往来がいいのかって、 それだけでもそのライフスタイルというか、ある価値観が出ますから。
住宅を作っても、めちゃめちゃ出るわけですよね。
そうするとやっぱり、現代の生き方みたいなものは、どういうふうに生きるのが豊かというか、いいのかっていうことはやっぱり、提示することになると思いますね。
太田:なりますよね。そうするとこの家なんかまさにね、こういう古い住宅地にガツンと突然このモダンがこうっていうのは、ある種何ていうんですか。攻撃的じゃないですか。
西沢:普通であれば、やっぱりこう庭って作らずに、もっと閉鎖的なワンルームマンションがバンと出来る、街と切り離されたようなものが出来る。でも、ここではそういうのじゃなくて、 路地を人が歩けるように何となく中にも。
まあプライバシーがあるので入りづらいですけども、似たようにこうあの通れるような開放的な作りというのを目指していて。街の成り立ちに対する共感というものによって、建築を作ろうとしているんですけどね。ただおっしゃるように、確かにそういう攻撃的な面っていうのは非常にあると思いますね。どこかで現代的な新しさっていうことに非常にこう先鋭的に向かっちゃうがために、そういうものが出てしまうっていうのはおっしゃる通りだと思いますね。
太田:ねぇ。それは多少なりともこの周りの、今度、家を建て替える時にですよ、 この家は絶対に多少なりとも影響していくわけですよ。
田中:それはあると思う。
太田:メッセージはありますよね。
西沢:そうですよね。
田中:でもそれは、建築って本当にそうでしょうね。何にしてもね。
西沢:都市っていうのはもともとそういう関係ない人がこうギューギュー詰めで住むっていうようなところがあって。
やっぱりその関係を断つっていうよりは、何らかのその議論・・・・
太田:つながってるね。
西沢:つながりだし、議論だし、批判し合うということがあるべきだと思うんですよね。
まあそういうものに対する期待っていうのもあるのかなと思うんですけどね。

先生の対戦感想

西沢立衛(にしざわりゅうえ)


建築を勉強されていない方のインタビューでしたが、非常にズレていないという印象を受けました。
例えば、太田さんが街を攻撃してもいるっておっしゃったのは、あれは鋭い指摘で。そんな攻撃しているつもりはないんですけど、結果的にやっぱり環境を変えようとか、そういう環境的なことをやろうとするのは、その周りを肯定するだけじゃなく、そういう批評的な側面もやっぱり非常に強く持ってしまうということを、まあすごく分かりやすくおっしゃってたなぁと思いますね。
長屋みたいだってお二人がおっしゃった。あれもおっしゃる通りで、まあ設計時に長屋をイメージしながらやったわけではないですけども、長屋っていうのも要するに生活が中と外に出て、一つの環境を作っているっていうところでは、まあ同じではないですけど、ある共通性はあって。それを指摘されたお二人は鋭いなという印象はありました、表面的に見ているだけでもないというかですね。

最後におっしゃっていましたけど、お宅探訪みたいになっちゃったな。僕もそれを感じていて、これはお宅探訪。ありましたよね、建築探訪でしたっけ? お宅拝見。建築家の理念的な側面っていうよりは、実際的な側面。住宅だとやっぱりみんな住宅は、自分たちがずっと使ってきたという経験があるから、実際的な側面でも十分いろいろ話せちゃうわけですよね。やっぱり美術館とか裁判所とか図書館みたいなところで対談をやったほうが、まあ疎遠な分、そういう自分の経験で話すというよりは、もうちょっと客観的に引いた目線で、建築の理論的な部分を話せたのかなぁという印象を感じました。

爆笑問題の対戦感想

太田:まあいろいろ考えさせられたなあ。一つの表現としては、建築というのはそれだけ単独で成り立つものじゃないだろうから、関係というか、つながりというか、人と環境とのつながりっていうのは、当然、近隣のどんな家が建っているかとか、全部総合的に行くと、最終的にはそこみたいなことになっていくんだろうと思いましたけどね。
田中:やっぱり環境に合わせるみたいなところでしょうね、先生が何度も言っていたところは。どうしてもね、建築っていうとまずデザインが一番目立つから、そこに目がいくんだけど、でもまず「何の目的なのか?」「建てる場所は?」って、そういうところから入っていって、その周りの環境にも影響があるっていうお話。そこが、一番説得力があるというか、なるほどっていう気がしましたよね。僕にも建築家の友達がいて、そいつに自分の家の設計も頼んだんだけど、ただデザインだけじゃやっぱり無理じゃないですか、実際にね。で、生活にはまあ、ある程度こういう感じが必要になってきて、そうすると、どこかで妥協があってみたいな、まあそういうのもあるし。結構、話としてはすごく分かりやすいという感じがしましたね。
太田:でも、やっぱり大体モダンっていうのが、僕はあまりちょっとこう。シンプルすぎるっていうのと。やっぱり直線で区切るっていうことが、自分の中にあまりないんですよね。それとやっぱりこう、ニューヨークの時もそうでしたけど、気持ち良くないんでしょうね、僕自身がね。あとは無地で。それよりはやっぱり、ゴテゴテしたことの方が、混沌としているものの方が落ち着くんですよね。いやあ、どうだろうな。おれは無理だな。やっぱり。全部カーテン閉めて暮らすんじゃないかと思いますけど。
田中:森山邸は、すごく異様な形をしているとかね、何か見たことがないデザインとかっていうんじゃなくて、すごくシンプルな感じで、割とまあ好きな感じ。うちがね、割とあっち系なんですよ。で、後でもいろいろ話して、多分世代もあるのかもしれないね。何かああいう、あそこまで生活感のない感じではないんだけど、うちの場合。
基本的には、ああいう白いコンクリートでシンプルな四角っぽいというか、そういうデザインがいいですよね。で、そういう雰囲気っていうのは、なんだか自分の家に似ている感じがあったんですけどね。

ディレクター観戦後記

一昨年前、真夏の暑くうだるような時期でしたが、西沢先生が建築設計した森山邸を探して歩き回りました。
強い日差しの中で見つけた森山邸の真っ白な佇まいは、想像を絶する強烈な建築物で、「建築が作り出す空間」に対する考え方を覆す、衝撃的な出会いでした。
塀がなく、とてもオープンな集合住宅。まるで、どこかの農村に迷い込んだような空間。
時々、近所の猫たちや隣の敷地のおばさんが、ふらりと立ち寄るおだやかな裏路地のような庭。
森山邸が提案している、つかず離れずのゆるやかな人間関係が、なぜかどこか懐かしく感じられました。

集合住宅である森山邸のオーナー森山さんには、森山邸の誕生秘話から森山邸で使用されている 建築素材のことまで幅広く教えて頂きました。「建築のチカラ」について考えるきっかけを作ってくださったのは、あの時の森山さんの笑顔と森山邸のお陰だったと思っています。

そして去年4月、青森県の十和田市現代美術館を見学に行きました。
森山邸以上に浮世離れした抽象的なイメージを持つ建物で、その圧倒的な美しさと存在感は、新しい建築の可能性を強く感じさせるものでした。

そのとき、西沢立衛先生は、開館した美術館の中でこのようにおっしゃいました。
「十和田市現代美術館では、敷地境界線を越えていく建築を目指した」

十和田市現代美術館を後にしようとしたとき、地元の小学生が美術館の大通りを自転車で走っていました。
彼の目は外からまる見えの展示室に釘付けとなっていて、何度も何度も美術館の前を自転車で往復していました。西沢先生の「敷地境界線を越える」試みは、成功しているのだなぁと実感しました。

西沢先生は、建築の話を始めるとノンストップで語り続け、そのエネルギーは爆発的なものです。
西沢先生のパワーと、そこから生み出される西沢建築には、現代を生きるわれわれのライフスタイルに対して、強い意志=メッセージが込められています。

「衣食住」の「住」である建築物は、われわれの人生にとって欠かせないものです。
身近な存在であるがゆえに、爆笑問題の太田光さんや田中裕二さんがそうであるように、視聴者のみなさまも、「住」に対してさまざまなお考えをお持ちでいらっしゃるかと思いますが、この放送回が、視聴者のみなさまに、日頃何気なく囲まれて暮らす街の風景を彩る建築物に向けて思いを馳せて頂けるきっかけとなれば良いなぁと思います。

プロデューサーの編集後記

2001年、ベルリン。私はある番組で、ベルリンの壁崩壊後、復活を遂げたポツダム広場の周辺で、建築を取材していました。壁があった頃、何もなかったところに、世界の名だたる建築家たちの作品が次々と建てられていた最中でした。街を歩くと、たとえば東ドイツ側の公団住宅に、アーティストや音楽家の卵たちが住み着き、おしゃれなアトリエやブティックに改造しています。毎日そこかしこで工事の噴煙があがり、まるで、一つの都市の復興のドラマを見ているようでした。
 すさまじいエネルギーでした。それは、もちろん建物ができるだけでは湧きあがらない。コンペを勝ち上がった個性ある建築物に、負けない位に、新生ベルリンの誕生に浮き立った人々が出たり入ったり、ぐちゃぐちゃに往来して初めてドラマが成立する。
 その時、ふと思いました。
「人は衣装を着るように、建築をまとっているんだ」

 一つ一つの部屋が独立して建てられ、ゆるやかにつながっているような西沢さんの作品、森山邸。そこを下見でうろうろし、出たり入ったりしながら、私は思ったのでした。
「何だろうこれは。ものすごく新しくて、ものすごく着やすい!」
西沢さんの、こんな都市生活のあり方もあるんだよ、という、さりげない提案のようなもの、建築のチカラ・・・を感じた瞬間でした。

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