FILE058:「万物は汚れている」
2009年1月20日放送
田辺信介(環境化学)
今から40年以上前に環境問題に注目し、その原因究明に挑んできた愛媛大学・沿岸環境科学研究センター教授、田辺信介。田辺は、地球上の化学物質を調査し、環境汚染の現状を分析する環境化学の世界的なパイオニアだ。田辺の研究を支えるのは、「生物環境試料バンク」。イルカ・クジラなど海棲動物をはじめ土壌や水など約1300種類、10万3000体に及ぶ世界中の検体を冷凍保存した施設だ。その規模、充実度は世界一といわれ、地球の環境汚染の変遷を知る格好のアーカイブスである。
1990年、田辺らは世界に先駆けてある海洋汚染の実態を明らかにした。陸上で使われる化学物質PCBが海に溶け込み、海の食物連鎖の頂点イルカに、ヒトの10倍を超す高濃度で蓄積されていたのだ。さらに、これまで知られていなかった化学物資による東南アジアの環境汚染の解明にも着手。パソコンや家電製品に含まれる難燃剤が、日本では自主規制されているにもかかわらず、東南アジアで多用され、高濃度で排出されている事実を突き止めた。
番組では、爆笑問題の髪の毛の分析から、彼らの化学物質汚染の実態にも肉薄。産業界・市民を巻き込み、環境改善に努めようとする田辺教授の研究哲学を明らかにする。
田辺信介(たなべしんすけ)
1951年大分県別府市生まれ。75年愛媛大学大学院農学研究科、85年農学博士(名古屋大学)、88年テキサス農工大学研究員、96年愛媛大学農学部教授。99年より現職。
趣味は研究と野球観戦。筋金入りのジャイアンツファン。
今回の対戦内容
田辺信介(たなべしんすけ)/爆笑問題
田辺:例えば、化学物質を規制する法律、今たくさんありますけれども、これのほとんどがね、やっぱり人間を中心にした法律なんです。だけど、同じ哺乳動物でありながら、イルカやクジラなどある種の動物はこんなに化学物質に対して弱いと。あるいは、汚染が深刻化するという動物がいるわけですから。人の法律で野生生物が守れますかということになるんですよね。
太田:野生生物を守れなければ、またその濃度の上がった生物を、また人間が食べるから、あまり意味がないですね、あの基準というのはね最近何かほら、インゲンにどうのこうのってあるじゃない。あれ、農薬ですよ。よく言い訳にみたいにして言うのはさ1日何個食って、何年たっても大丈夫だみたいなことを言うじゃないですか。まあそんなことを言っても、複合的に汚染されたら。
田辺:複合的ならまだいいんですけどね、相乗的っていうことも考えられるんです。1+1は2じゃないかもしれないんです。
田中:3にも5にもなっちゃう。
田辺:3にも5にもなる可能性がね、あるんですね。
太田:そうするとでも、何も食えないですね。
田辺:やっぱりね、そういう考え方が浸透しちゃいますとね、じゃあ我々は何を食べたらいいんだろうかということにやっぱりなっちゃいますね。
太田:僕は全部が同じような気がしてきちゃうんですよね。つまり工業廃水や農薬なんかも、最初に考えた時っていうのは夢の発明だったわけじゃないですか。それがいつの間にか負になるということが起きているわけですよね。かつて農薬ってこんな便利なものはない。植物を奇麗に育てられる。あるいは、遺伝子操作なんかもそういうところがあって。これなら大丈夫っていうのが必ず後でそうなるっていう。何かおれはこのことをどうしたら逃れられるのかっていうか。
田辺:それはね、こういうことがあるんです。科学的に明らかになった。真実が明らかになった。だけど、その時代の経済状態とか政治の動向で、ねじ曲げられてしまうとか解釈が分かれることがあるわけです。地球温暖化なんかまさにその典型かもしれませんね。サイエンスが業界とか、あるいは政治家に否定されているわけですよね。ああいうのはね日常茶飯事、環境問題には大なり小なり付きまとってきているんです。
太田:文明批判みたいな。
田辺:そういう時代の中で、よく言われることですが、論より証拠。証拠が一番重要ですよと。だけど僕、証拠だけではね、環境問題はやっぱり解決出来ない。論を作らないといけないんです。証拠から。行政を動かしたり、社会を動かしたり、政治家を動かしたり、一般市民を動かすだけの説得力のある論。
太田:それはだから、要するに政治的な言葉を科学者が持つべきだという。
田辺:そうだと思います。科学者にこんなことを言ったら怒られるかもしれませんけど、僕はよく思うことがあるんです。自分のやっている研究っていうのはマスターベーションじゃないかなと。自分が満足しているそれで終わっている可能性はないかと。これがね、学術的だけじゃなくて、社会的にもどういう意味を持つんだろうと、そういうこともやっぱりまじめに考えないといけないんじゃないかということをね。
太田:でも、こういう先生は珍しいね。
田中:本当にそうなんだよ。いわゆるマスターベーション的な先生が多いんです、どっちかというとねでも先生みたいに、それを誰でもが、みんなが納得して、じゃあこれはこうだろうって思えるようなのを発信するっていうことですもんね。
先生の対戦感想
田辺信介(たなべしんすけ)
楽しくやらせていただきました。結構突っ込みきついところもありましたけれども。
例えば「いろいろなことで環境問題を考えてもむなしいのではないか」というお話、そういうのは反論が難しいですね。だけど太田さんも田中さんも、根底では環境改善を図りたいとか、人類の存続が重要だと感じていると思いますので、やや刺激的なことを言って何かいい知恵はないかということを引き出そうという考え方ではないかと思うんですよね。
環境学は社会性の強い学問分野ですから、専門家だけではなくて、一般市民とか、あるいは行政とか、あるいは政治家ともよく話すことがあるんです。ですから田中さん、太田さんと話したということは、僕にとってはそんなに違和感のあることではありませんでした。
爆笑問題の対戦感想
田中:うちのおやじ、サラリーマンですけど環境何だかんだって昔から言っていてヒステリックなんですよね。文明批判みたいなことになったり。でも、今日の先生は本当にバランスがとれていて、優しくいろいろ分かりやすく教えてくれた感じがありまして、すごく良かったなという感じがしました。
地球の環境ということだけで言ったら、人が減るというのは解決にはなる。だからといって少子化を進めるまで行くと、確かにそれも極論になるんだろうけれども。まあでも、理屈的には分かりやすい話でしたよね。パソコンの解説も今日は一番分かりやすかった。先生は割とこう、理路整然としゃべる感じ。かといって、無機質じゃないじゃないですか。だから伝わりやすかった。
太田:先生の考えは非常に分かりやすいというか、端的ですよね。かといって、それをどう解決するかっていうと一つは人口を減らすべきだという。ただ実現するのは相当難しい。おれも人口を減らすべきだと思うけど、だったらこのまま放っておけばいいと思うんだよね。考えれば考えるほど、何が有効なのかっていうのは、自然の変化が相手だと難しい。
あと先生が、学者はマスターベーションじゃなくて、論を立てて世界とか社会にアピールしていかなければいけないって、あれはまさにそう思いますね。本当に、言葉の重要性がすごく大きいと思います。
ディレクター観戦後記
テレビで伝えにくいものの一つに、暑さや寒さがあります。今回の生物環境試料バンクは−25℃、防寒着を着ていても10分が限界で体の芯が震えだします。バンクの外とは気温差45度、この2つの世界を何往復もしたため夜には体中の関節が痛みだすありさまでした。研究者には強靭な体力が不可欠だと痛感しました。
田辺教授らは、海辺にイルカが漂着したと聞けばトラックを飛ばして取りに行き、交通事故死したネコさえ引き取ってバンクに保存しています。地球の全生物が汚染物質に暴露されているがゆえ、すべてが研究対象なのです。ふと思いました。環境問題を「自分や大切な人のいのちを守るため」の問題ととらえれば、私にでもできること、しなければならないことが見えてくるのではないか。近所のスーパーでビニール袋を断ること以外に何ができるか。遅ればせながら新年の目標の一つにしたいと思います。
プロデューサーの編集後記
環境汚染を考える時に、一度はたどりついてしまうことがあります。
人間さえいなければよかったの?
何の因果か、人間は地球を改造しまくり、「地球上で汚染されていないところはない」状態にまでしました。そして今度は、自然保護に大忙し。究極のひとり相撲をしているかのようです。
地球の汚れた場を飛び歩き、あらゆる生き物の汚染をつぶさに見てきたフィールドワーカー、田辺教授の言葉は重いものでした。
(汚染に人間が手だてを打つ気になるには)「論より証拠」ではなく「論も証拠も」。
ヒトは、誰も見ていないところだと、つい空き缶や吸い殻を捨ててしまう動物です。(もちろんそうでない人も多いですけど)。そんな動物は、地球や他の動物が汚れている証拠を見せられても、どこか別の星のことのように感じる。魚が汚染されているニュースと食卓の魚は結びつかない。結局「なぜ汚してしまった地球をきれいにしなければならないのか?」を極めて自分本位で納得しなければ動けないのかもしれません。スローガンではなかなか動けない。証拠だけでも動けない。面倒な生き物です。
たぶん田辺教授は、エコロジストである前に、人間という動物をよく知るリアリストなのだと思います。その言葉は、やっぱり重い。
つぶやき
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生物
人間
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