過去放送記録

FILE044:「どこから来たのか ニッポンのヒト」

2008年7月22日放送

 

篠田謙一(分子人類学)

今、「人類の歴史」が急速に書き換えられようとしている。その立役者は生物の遺伝情報を記録しているDNA。そこには地球に生命が誕生してからあなたが生まれるまでの全ての軌跡が刻まれている。このDNAを分析することによって、人類の歴史を明らかにしようとしているのが「分子人類学」と呼ばれる新しい学問分野。そしてその日本における第一人者が国立科学博物館の篠田謙一だ。彼は、日本でいち早く、縄文・弥生時代の遺跡から発掘される古人骨のDNA分析を手がけた研究者として広く知られる。彼が明らかにしたのは、縄文人のルーツは従来言われていたよりもずっと広く、東アジア全域に渡る可能性があるということだ。日本人は実はいろんなところから来ているらしい。

そもそも、ヒトという種はどのように世界へ広がっていったのだろうか。彼が専門とする分子人類学は、細胞の中にある「ミトコンドリア」のDNAを分析することによって、数万年前の人類の歴史をよみがえらせることに成功した。母から子へと形を変えずに受け継がれて行くミトコンドリアDNAを使って行われるこの分析は、私達の「母方の祖先」が辿った軌跡を太古の昔にまでさかのぼることを可能にしたのだ。つまり、数万年前を生きたあなたの曾曾・・・・・お婆さんがどこにいたのかまでわかってしまうということである。そして、見えてきたのは、私達現代を生きるヒト全てに関わりのある、驚愕の事実・・・。果たして、現代人はどのような過程を経て65億人にまで増えたのだろうか。

番組では爆笑問題の二人にDNA検査を実施。太田・田中のルーツを探り、ひいては日本人、つまりは、現代を生きるヒトすべての起源をたどっていく。


篠田謙一(しのだけんいち)
国立科学博物館人類研究部研究主幹。専門は分子人類学。古人骨DNA解析の日本における第一人者。日本や周辺諸国の古人骨を分析し、日本人の起源を追求。また、スペインによる征服以前のアンデス先住民の起源研究では世界的に著名である。

今回の対戦内容

篠田謙一(しのだけんいち)/爆笑問題


太田:こうやって広がる性質が人間にはあるわけで、それはやっぱりこの中にヒントがあるんでしょ。恐らくその、好奇心だとか、未開の土地へ行ってみたいっていうさ。
篠田:それもあったと思う。アフリカの人口がうんと増えちゃって、それでもう追い出された形でアフリカから出ていったんだっていう人もいるんだよね。っていうのは、結局、ごく一部しか出ていかなかったっていうことは、本当にアクシデントで動いた可能性もあるわけでしょ。それがあるから、後の世界がこうやってあるわけなんですけどね。
太田:そうすると、国がない人たちですよね。国なき民族、みたいな人たちがまたこれを理由に「おまえは元はここだった、ここじゃないんだ」みたいなことの証拠としてこういうのをね、闘う根拠としてこういうのを・・・。
篠田:使えると思います?
太田:使うんじゃないかっていう気がしちゃうのね。しかも、もっと今までより説得力のある・・・。
篠田:そういうのを打ち立てられると、そうなんでしょうけどね。でも、私なんかこういう仕事をしていて感じるのは、これをやってもね、いくらやっていても国が出てこないんですよ。どこに行っても国が出てこないんですよね。で、ある時何かこうやってみんなが分かれたところに、こうやって定規で線を引っ張って「ここは私の国!」っていう感じにしているのかな、というふうにも思うんですけどね。

先生の対戦感想

篠田謙一(しのだけんいち)


感想ねぇ・・。なかなか一言で言うのは難しいですけど、面白かったですよ、全体としてね。太田さんが問題意識として持っているものっていうのはおそらく、私たちが事実として出しているもののもう一つ先にあるような話だと思うんですよ。DNAでいろんな遺伝的な性質が明らかになったときに人間はどういう行動をとるかっていう話とかは特にね。研究の成果を一般の方々にまで伝えようとするときに、おそらく多くの人が太田さんと同じことを考えるはずだと思うんです。その部分にまで踏み込んで考える一つのトレーニングみたいな感じはしてましたね。うまくいったかどうか心もとないんですけど。いろんなことを考えながらしゃべらないといけないから、正直なところ、かなり疲れました・・・。

爆笑問題の対戦感想

田中:今日はとても興味深い話でしたね。何となく人類はみんなアフリカの方から・・・みたいなことは聞いたことがあったんですけど、あんなに細かくわかってるっていうのはすごいなぁと思いました。でも、話が壮大すぎてあんまり実感が湧かないっていうのもあるかもな。こういうのって、知りたいような知りたくないようなみたいなとこあるじゃないですか。ドキドキする感じっていうか。DNAの分析であんまりいろいろわかっちゃうと怖い気もするしね。でも面白かったですよ、骨もたくさん見れたし。太田さんはいかがでしたか?
太田:今日思ったのは、僕自身が「ルーツを知りたい」っていう気持ちがあんまり湧いてこないんだぁ、ってことですね。確かにスケールが大きくて圧倒されるものはあるんだけどね、今日の話。「ホモ・サピエンスはみんな兄弟みたいなもんだ」って科学的な根拠を持って言われてもあんまり「おおっ!」って思わない。オレ、普段から自分だけは違うと思ってるのかもしれないですね、たぶん。この番組をやってると、「お前は何者なんだ?」って聞かれることがあるんだけど、そういうことよりは「これから自分がどんな表現をしていくか」っていうことをいろいろ考えているもんだから、あんまりルーツとかに意識が行かないのかもしれない。今日はそういう自分に気付いた、っていう感じがしましたね。

ディレクター観戦後記

もともと僕は科学の好きな方ではなかったのですが、この番組を担当するようになってからというもの、そのおもしろさにはまってしまっています。その中でも篠田先生の著書にふれた時の衝撃は忘れられません。65億にものぼる人間のルーツをたどるとすべて東アフリカのわずか数千人のグループに行き着き、しかもその歴史はわずか15万年ほどしかない・・・。簡単に言えば、人類皆兄弟は本当だったわけですし、先祖をたどっていけば、目の前の見知らぬヒトと自分は必ずどこかでつながっているんですね。それにしても最先端の科学はすごいことを明らかにしたなぁとなんだか圧倒された気分になりました。
僕も自腹を切ってDNA検査を受検してみましたが、「M7b2」というグループに当てはまることがわかりました。ということは母方の先祖をたどって行けば「M7a1a」の太田さんの先祖とまず重なり、その後「D4a」の田中さんと重なるわけです。そしてさらにさかのぼっていくと「N9a」の篠田先生と重なる。あまりにも具体的なだけに、なんと言ったらよいのか、とらえどころのない不思議な感覚すら覚えます。
こうした取材の中で感じるのは、現代では最新の科学が私達の生きるこの世界の成り立ちを新たに定義し直しているんだなぁ、ということです。私達の世界観は今、科学の力によって再構築されているような気がします。かつて宗教が「この世界がこうなっている理由」を明確に説明してくれた時代がありました。しかし、今となってはそれは難しいでしょう。そんな時代に「人類皆兄弟は生物学的に正しい」とか言われてしまうと、僕なんかはどこか癒されるような、安心した気持ちにさえなります。自分が何か深いものとつながっているような気がするからかもしれません。科学は宗教とは違いますが、かつて宗教が果たしてきた役割をこれからは科学が受け継いでいくのだろう・・・そんな印象を強く持ちました。
もちろんこうした事実を知ったからといって、すぐに世界が平和になるわけでもなければ、なんとなく虫が好かない‘あのヒト’のことが急に愛おしくなるわけでもありません。しかし、分子人類学が明らかにした科学的事実は、感情に揺さぶられがちなヒトに、冷静さを取り戻させるような大きな力が秘められている気がします。
客観的な事実として「人類は皆兄弟」である。しかし、今や自分とは直接の関係がない多くの人々を「他人」と呼ぶようになった現代にあって、この「他人」との良好な関係をいかに取り戻し、どのように維持していくかは、個々人の交友関係から国際関係まで、様々なレベルで大きな課題になっている・・・。篠田先生に教えていただいた分子人類学の世界は、少なくとも僕にとっては、そんなことを考えたくなるような大きなインパクトがありました。みなさんはいかがでしたか?

プロデューサーの編集後記

僕のDNAはM9a1でした。日本人の中ではかなり少ないらしく、南方ルートで日本に入ってきました。自分も、アフリカから地球上に散らばっていった人類の壮大な旅の端っこにいて、渋谷NHKの自席でキーボードを叩いているというわけです。
DNAによる人類の系図。それは国とか民族とか宗教とかとは全く関係がない、全人類のグループ分けでした。たとえば僕のDNAタイプは、なぜかチベットの人々に異様に多かったりする。篠田さんが示してくれたのは、世界の見方が切り替わる「新しい世界地図」でした。
人類はこのようにつながってきたのか・・・!という感慨の一方で、僕は全く別のことも感じていました。篠田さんは縄文時代の人骨から、その人の食生活や死に方まで類推し、さらにDNAを採取してしまう。つまりそれは、自分であることの痕跡がいつまでも主張し続けている、ということです。「人類は皆兄弟」の一方で、どうしようもなく個性的であることに、少し安心もしました。

収録現場となった部屋で、たくさんの骸骨と対面しました。まさに「会う」という感じで、人柄や感情がにじみ出ているような気がします。「人間、一皮むけば骨だ」というような言い方があります。この寒々としたニヒルは、そのくせ「人間って結局骨のくせに、恋をしたり悩んだりしてる」というような一種の滑稽味というか人間愛も感じさせます。
篠田さんは、もしかしたら「人間、一皮むけばDNAだ」というようなレベルで感じることができ、向き合っているのかもしれません。

つぶやき


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