過去放送記録

FILE037:「私が愛したゴリラ(後編)」

2008年5月20日放送

 

拡大版!2回シリーズです

山極壽一(霊長類社会生態学)

一体ヒトはどんな特徴を持った生きものなのか?お笑い界のトップランナー・爆笑問題と世界のゴリラ博士こと山極壽一・京大大学院教授が語り合う2回シリーズ・後編は、いよいよその佳境へと進んでいく。 前編のキーワードは「共感」であった。ヒトにとっては取り立てて珍しくもないこのココロの有り様にこそ、ゴリラとヒトの違いは顕著に表れるらしい。ゴリラは他の仲間が何を感じているのかあまり考えようとはしないが、他のゴリラが気になることはなる・・・。これに対してヒトは他人が何を考えているか推し量らずにはいられない動物であるという。「共感とは人間が独自に開発した世界やな」と山極教授。遺伝子の違いはたった2%に過ぎないというゴリラとヒト。その世界は微妙にすれ違う。「ヒトがヒトである理由」とは一体何なのか?
前編に引き続いて、後編も舞台は日本で最初にゴリラの赤ちゃんが生まれた“京都市動物園”。普段はゴリラが遊んでいる屋外のグラウンドで、爆笑問題と山極教授が人類進化の謎に迫る!





山極壽一(やまぎわじゅいち)
京都大学大学院理学研究科教授。1952年東京都生まれ。専門は霊長類社会生態学。アフリカ各地の熱帯雨林でゴリラの調査に従事してきた世界的なゴリラ研究者。その保護活動でも国際的に高い評価を得ている。

今回の対戦内容

山極壽一(やまぎわじゅいち)/爆笑問題


山極:どの文化でも祖先神話みたいなものがあって、こう、祖先と私はつながっているというように思っているよね。だから、動物にとったら、自分の子どもは自分が責任を持つけど、子どもにとって親って、全然責任を持つものじゃないんだよね。でも人間の社会っていうのは、子どもが親の責任を持つっていうところで、すごく大きく社会が支えられているわけ。その価値観っていうのは、それは一つの例ですよ、でもその価値観を全部取り払っちゃったら、今の社会はないわけです。そういう大革命が起こる、起こらないでもない。起こる可能性だってあるわけでしょ。だって、ゴリラは少なくともそういう価値観は持っていないんだから。
太田:いつかね、こういう都市を絶滅させて自然に帰るっていうんじゃなくて、進化した到達点としてみんなが、「いいだろう、これで・・・」っていう、その、何かそういう時がね、おれはなんか、人間は求めているような気がするんだよね。
山極:だから言い換えれば、すごい人間の世界って過剰なんだよね。早い者勝ちの世界なんだよ。だから、先に行った方が、まあ有利ですよっていうことが優先されている価値観を、みんなが共有しているわけだ。それをね、どこか逆転しちゃうと、ゴリラってね、そういう価値観を持ってはいないんだよね、先がすべてではないんだよ。それはどこかでさ、それを変えてしまうと、多分全然違う世界が作られちゃう可能性はあるよね。

先生の対戦感想

山極壽一(やまぎわじゅいち)


いやあ、面白かったね。この動物園のゴリラも面白かったと思う。っていうのは、やっぱり太田さんも田中さんも、動物園はあまり経験していないと思うんだよね。だから、いうならば動物に対する身構えっていうのが出来ていないわけだ。だからひろみちゃん(ゴリラ)はね、二人をからかいに来たんだと思うんだよね。あそこで田中さんも太田さんもちょっと肝を抜かれたかなっていう気がちょっとした。やっぱり言葉で仕事している人たちじゃないですか。ゴリラとは体で付き合わなくちゃいけないから、すごく大変だったと思うよ。で、外に出て、普段の彼らに元に戻ったっていう感じだったね。まあ、でもそれがあったお蔭で、いつもの太田さん田中さんと違う感覚で話が出来たかなっていう気がしますね。
で、やっぱり彼らは漫才師の前に芸術家だよね。そういう思考方法を持っている。細部を説明するのではなくて、全体の雰囲気というものを絵にする、イメージ化するということを、おそらくずっとやってきた人たちだと思うけど、ゴリラに関してもね、その全体をとらえようと必死に頭の中で考えていたっていう感じがすごいした。それは我々にはない発想だな。
まあ出来ればね、僕が実際に仕事をしている野性のゴリラと会ってほしかったんだけどね。やっぱりね、鉄格子を挟んでお互いに了解しないまま、ゴリラと対面するっていうのはすごいつらい話だから。もっとこう、人間とゴリラが打ち解けて出会えるシーンを見てもらえば、もっと感じが違ったんじゃないかなっていう気がする。また機会があれば今度はアフリカでやりたいっていう気がするね。彼らの世界の中に入ってさ。だからまだここでは、彼らとの間に溝はあるわけだよね。アフリカでは彼らの世界の中に体ごと丸ごと入って話ができる。そうすると、田中さん、太田さんの芸術家魂が、もっと前に出てくるんじゃないかなっていう気がしました。
ゴリラの研究をしていて僕が思うのは、自分が人間であるということをゴリラの世界に入っていくとすごく感じさせられるっていうことなんですよね。だから、今日はまだこっちが人間っていうことを保ったままでゴリラと対面したから、逆にいえばあまり人間は意識出来なかった。で、ゴリラの世界に入っていくためには、いったん人間を捨てなくちゃいけないので、非常に自分が人間であることを意識させられるものなんですよ。本当はそれを爆笑問題の二人にも感じてほしかったんですけどね。まあだから今日は半分ぐらいできた感じかな。
いずれにしても、太田さん、田中さんの興味深い発想をいくつもお聞きすることが出来たので、大変面白かったと思います。

爆笑問題の対戦感想

田中:いやぁ、動物園は久しぶりだったのでかなり楽しかったですね。それにしても、ゴリラをあんなに間近で見ると、やっぱり相当でかいし、なんていっても迫力がありますよね。ホントに楽しかった。山極先生は京大SPの時もそうだったけど、とっても話しやすいしね。
ゴリラと人間の違いって、まぁ、そういうのはいくらでもあるんだろうけど、改めてそう言われると、たいして違いがないような気もしてくるから不思議ですね。視力とか嗅覚とか五感はほとんど人間と変わらないわけでしょ。普段は、人間の方がずっとすごいと思って過ごしているじゃないですか。なんか、素直に驚きましたけど。太田さんもかなりテンションあがってたように見えましたけど、どうでしたか?
太田:おもしろかったねぇ。すごく印象的だったのは、ゴリラは子どもの時は笑うんだけど大人になったら笑わなくなるっていう話ね。ゴリラが笑うなんてのは、俺知らなかったからね。人間以外の動物で笑うっていうのはあんまりないのかなと思ってたんだけど。
それにしても、子どもの時に笑っているゴリラが、何で大人になって笑わなくなっちゃうんだろうっていうのが、不思議だよねぇ。山極先生は笑うことでお互い感情を共有するみたいなところが人間の特徴だっていうわけだけど、でも、もともとあった「笑う」みたいなことがね、大人になるとなくなっちゃうのは、俺からしてみたら、寂しいなぁと思ったね。まぁ、それもゴリラの立場に立って考えてみないと、本当に寂しいのかどうか分からないんだけどさ。
それとやっぱり、ゴリラは鼻歌を歌うっていうのもおもしろいよね。でも、鼻歌を歌ってみんなで合唱するみたいなのはあるのに、そこで終わりっていうのは一体どういうことなんだろうか・・・。人間だったらもっともっと膨らませたくなるだろうけど、そこで止めるっていうのは・・・すごく不思議だよ。収録終わってんのに、未だに「何でだろう・・・」って考えちゃってるし。先生に言わせれば、そういうところが人間ってどんな生き物なのか考える大きなきっかけになるんだって言うことでしょうけど、こういうことにのめり込む感覚って、すごくよくわかるような気がしましたね。

ディレクター観戦後記

継続して一つのことに取り組んでいると、以前は解決できないまま積み残していた課題が、いつの間にか、また別の形で立ち現れていることにふと気付く・・・なんていうのは、よくあることなんじゃないかと思うんですが、いかがでしょう?この番組にとって、今回の2回シリーズはまさしくそんなものだったように感じます。

というのは編集している間、僕の頭の中で、去年7月に放送した遠藤秀紀教授回での「動物園論争」が何度も思い起こされたからです。動物園はエンターテインメントだ、楽しくなければ意味がないと主張する太田さんと、動物園は進化を教える社会教育の場であると主張して譲らない遠藤教授。結論を出すのが目的ではないので、その時はお互いの立場を確認しただけにとどまったのですが、「大人の遠足」的なロケに挑戦してみようと企画した山極教授の回は、期せずしてこの「動物園論争」にもう一つ別の意見を付け加える結果となったように思います。その意見とは「動物園は、理屈抜きで楽しい。しかし、もっと楽しくするには見学する側にコツが要る」。動物園をもっと楽しいものにするために、「進化」という「教養」はかなり役に立つようです。

動物園は、たくさんの動物がいて、大人も子どももテンションが上がります。いろんな種類の動物がいればいるほど楽しさは増すでしょう。しかし、ちょっと視点を変えれば、動物園って数千万年という時間の中で、進化が作り出した「動物という名の芸術品」が展示されているようなものですよね。一つだって同じものはない。それぞれの動物が長い時間をどうやって生き抜いてきたかが、すべての動物に姿・形、性質として結実している。シロテテナガザルの手が白くて長いように、紛れもなく人間だって長い時間をかけて進化してきた結果として、今の風貌があるわけです。そんなことを考えたくなる動物園は、人間が数千万年という長いタイムスパンで物事を見つめ直すことの出来る、数少ない場所なんだと思います。

泰然自若を旨としてデンと構えるゴリラ。早い者勝ちの価値観を共有し、せっかちに生きるヒト。一体どちらが幸せなのでしょう?そんなことを考えながら、先へ先へと急ぐ人間世界の荒波から適当に距離を置くためにも、僕はまたフラッと動物園にゴリラを見に行きたいと思います。「近づけばわかる」ゴリラです。無言のうちに、ただ近寄ってきて、何かを伝えてくれるかもしれませんからね。

プロデューサーの編集後記

 「人間は最も早いことに優先権がある社会にしてしまった」「人間の社会は過剰」・・・。山極さんが徹頭徹尾、そのゴリラとの比較で、人間社会の「恣意性」を、飄々と、さらりと抉られる度に、心地よい緊張感を感じました。たまたま、「早いこと」「多いこと」が「いいこと」にして進んできた社会の有り様が一瞬にして相対化される・・・。前提を壊して考えてみようという時に、その不安定感を嫌がる人と面白がる人がいると思うのですが、私などは明らかに後者で、枠組みが解体し、なにやら得体の知れぬ様相が広がる瞬間に、実にわくわくどきどき・・・。危ないヤツなんでしょうか(笑)。
 しかし、あえて詭弁を弄せば、全ての学問の試みはここに本質があります。既成の手垢のついた思考の、認識のパターンを疑い、今一度、新たな枠組みを打ち立ててみること。事態は新たな遠近法とともに、また異なる姿を見せ始めます。一見突拍子もなさそうな仮定から、思わぬ成果が生まれぬとも限らないのですから・・・。
 そう言えば、かつて「パラダイム」、「時代的文脈」などのタームが流行した時代もありましたね。単に流行という話ではなく、常に、既知の風景を、未知に変えることもまた学問のもうひとつの魅力のはずです。学べば学ぶほど、わかることもあるけれど、わからなくなることの方が多い・・・。この番組を始めて素直に感じる今日この頃、未知の風景を、みなさんと一緒にたのしみ続けられれば幸せです。

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