
家族や地域、会社などで急速に絆が失われていく社会。
私たちは、それを「無縁社会」ととらえ、その社会がもたらす様々な問題の現場を取材し解決の糸口を探っていくことにしました。

1回目のキーワードは「単身化」です。
今、ひとりで暮らす人が急増する「単身化」の時代を迎えています。国の研究機関の推計によりますと、1980年には20%にも満たなかった単身世帯の割合は、今から20年後の2030年、40%近くにのぼる見込みです。単身化の到来は、どんな問題をもたらすのか、ある団地を取材しました。
“単身化” ある団地の現実

東京・葛飾区の都営高砂団地。単身化が進み、およそ900世帯のうち、ひとりで暮らす人が、すでに30%にのぼっています。私たちは、この団地に暮らす、すべての単身世帯を対象に、去年10月、2週間にわたって聞き取り調査を行いました。なぜ、ひとりで暮らすようになったのか。どんな生活を送っているのか。回答を得たのは125人。その人たちの年末年始を取材しました。

藤田幹男さん(仮名・75歳)。15年前にこの団地に引っ越してきてから、ずっとひとりで暮らしています。かつて、とび職人として働いていた藤田さん。安全管理の責任者をまかされ、多くの同僚に囲まれていました。結婚して娘にも恵まれましたが、藤田さんが身体を壊し、働けなくなったことをきっかけに、19年前に離婚。今は一切連絡をとっておらず、どこにいるかも分からないといいます。
団地で行った聞き取り調査
ひとり暮らしの85%を占めていたのが、65歳以上の高齢者でした。
こうした高齢者が孤立している現実が浮かび上がっていました。
「足や腰が悪く、外出するのが怖い。近所づきあいはほとんどなく、誰とも話しません」(90歳女性)
「家にいても、誰からも電話がかかってこず、誰も訪ねてきません」(80歳女性)
藤田さんは、脳梗塞の後遺症や膝の痛みを抱えています。
近所の人とのつきあいはほとんどなく、ひとりで暮らす寂しさから自殺しようとしたこともありました。
先月29日。藤田さんの故郷、北海道から手紙が届きました。ただひとり連絡をとりあっている妹からの、1年ぶりの便りでした。
身体を気遣ってくれる妹の言葉。藤田さんは、何度も読み返していました。
“生涯未婚”の不安

団地では、元日をひとりで過ごす人も少なくありません。
水野由紀夫さん(仮名・56歳)。
「今年は年賀状なしですね。しょうがないかっていう程度。あんまり感じないですよ」
水野さんは、結婚していません。今回の取材で、水野さんのような働き盛りの世代にも、単身化が広がっていることがわかってきました。
幼い頃、父親と一緒の写真です。43年前、家族で団地に暮らし始めた水野さん。その後、兄弟が独立し、両親も亡くなりました。30代の頃、結婚を考えたこともありました。
しかし、バブル経済が崩壊。タクシーの運転手をしていましたが、収入が年々減り、結婚をためらうようになったと言います。
「結婚する、家庭を守る、守れるわけないよなっていうのが1つにはあったでしょうね。収入がないものにとっては、結婚は、かなり難しくなってきますよね」

50歳の時点で、結婚していない人の割合を「生涯未婚率」と言います。国の研究機関の推計によると、その割合は今後急増し、20年後には50歳の男性のおよそ3人に1人が結婚していない社会になるとみられています。
水野さんは、おととし、体調を崩して、タクシーの運転手をやめ、派遣の仕事をしていました。その仕事も半年前に失い、今は、人と話をすることすら、なくなりました。
去年、胃けいれんで倒れ、救急車を呼んだという水野さん。孤独死の不安を、急に感じるようになったと言います。
「救急車呼べなかったら、死ぬのかな、と思いながらいくわけでしょ?それ、苦しいのはもちろんわかるけど、客観的に見れば、悲しいですよね。すごい。自分でも」
水野さんは、倒れてから始めたことがあります。夜、鍵をかけずにチェーンだけするようになったのです。何かあってもチェーンを切って、すぐに助け出してもらえるようにして眠ります。
水野さんが今、再就職を焦っているのは、収入のためだけではないといいます。

「人とのつながりがなくなった時点で、昔はそれほど考えなかったけど存在がなくなったのと変わらないのかなって、今ちょっと、このところ深刻に考えすぎちゃって。人とつながりがなければ、存在しないのと一緒じゃないですか。そういう意味では、人とのつながりっていうのは、自分の存在の確認みたいなもんでしょうね」

藤田幹男さんは、今、週に3日、デイサービスに通っています。
ここで、他の人たちと一緒に過ごす数時間が、藤田さんを支え始めています。
「楽しいよ。ひとりで部屋にいるのと全然違う!毎日でもいいよ」
単身化が急速に進む日本。孤独や命の不安を抱えて生きる社会にしないために、新たな絆をどう結んでいくのか、考えるときにきています。
【記者の視点】
これまでの日本は「家族」がいること、家族の支え合いがあることを前提に、社会の仕組みが成り立ってきた。しかし、これからは“単身”、ひとり暮らしを前提にしたものに、大きく変える必要がある。「家族」に変わるつながりを、社会全体でどう作るのか。私たちひとりひとりが周りの人との関係を見つめ直してみることも大切な一歩だ。





