クローズアップ現代 シリーズ アジア新戦略(2) “ボリュームゾーン”を狙え
 9月17日(木)19時30分~19時56分 ゲスト:木村 福成さん 慶応義塾大学教授 東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)チーフエコノミスト キャスター:国谷裕子

日本の製造業が誇る匠の技術や最先端の製造ノウハウを活かして高性能・高付加価値の製品を生み出し、主に豊かな欧米の消費者に買ってもらう。日本の輸出産業はアメリカの旺盛な消費に支えられて収益を上げてきましたが、金融危機で欧米市場で物が売れなくなり、この構造が一変しました。日本はどこに活路を見出していくのか、「シリーズ・アジア新戦略」2回目は、日本企業にとって急速に重要性を増しているアジアの中間層の取り組みです。

かつて、貧困層が人口の多くを占めていたアジアでは今、急速な経済成長に伴って年間の可処分所得が45万円から315万円の層が急増しています。この購買力をつけてきた、いわゆるボリュームゾーン、その数は8億8000万人と日本の人口の8倍近くに及びます。
世界経済の構造変化への対応が急がれている日本の製造業。現地の人々にとっては価格だけでなく商品としても魅力的な製品開発ができるのか、ボリュームゾーンの開拓で先を行く中国・韓国の企業を相手に巻き返しを図ろうと苦闘する日本の家電メーカーの現状からご覧ください。

巨大市場を狙え 日本の決断

国内トップの携帯電話メーカー・シャープ。北京で開いた新商品の発表会で新たな戦略を打ち出しました。6万円台の高級携帯に加えて、2万円台の低価格モデルを発表。これからはボリュームゾーンも狙うと宣言したのです。シャープは、リーマン・ショック以降、欧米や日本の市場で売り上げが激減し、昨年度1200億円を超える最終赤字に陥りました。これまで高機能・高価格の商品に力を入れてきたシャープ。

しかし、それだけでは成長を取り戻すことはできないと、アジアのボリュームゾーンへの進出を決断したのです。シャープの菅野信行海外営業本部長は、「ハイエンドの商品だけでしたら、ブランド・イメージはあっても量としてなかなか稼げない。ミッドクラスからローエンドに近いところまで、さらにもう一つ踏み込んだゾーンにまで、ラインナップを広げていきたい」と話しました。

しかし、日本メーカーが獲得に動き出したアジアのボリュームゾーンは、ライバル・メーカーがひしめく競争が激しい市場です。いち早くシェアを広げている韓国メーカーの最大の武器は安さ。同じタイプの冷蔵庫を見ると、日本製品に比べて10%から20%安くなっています。現地の細かいニーズや好みを取り込んでいるのも特徴。家電製品が憧れというボリュームゾーンの人向けに、冷蔵庫には花のデザインをあしらいました。洗濯機は、フタをガラス製にして高級感を演出。東南アジアで猛威をふるうデング熱を媒介する蚊を、超音波で撃退する装置を組み入れたエアコンも人気を集めています。
高級機種に比べて、利幅が小さいボリュームゾーン向けの製品で利益をあげるには、販売台数を増やさなければなりません。中国支社の幹部、酒井功(さかい・いさお)さんは、販路拡大のため、上海から西へ2000キロにある中国内陸部の昆明を初めて訪れました。酒井さんたちが店長に訴えたのは、新製品の安さとデザイン。中国の若者の好みにあわせて、15の鮮やかな色を取りそろえたことをアピールし、新製品を置いてもらえる事になりました。

ボリュームゾーン獲得に動き始めたシャープ。取り扱ってもらう店舗の数を、今後半年間で、3000から5000まで増やすことを目標に、地道な営業を続けています。酒井さんは、「シャープの知名度が都市部ほどまだ高くない。シャープの携帯はこれからのブランドなので様子をみてやっていきたい」と話しました。

ボリュームゾーンを狙っているのは、電機メーカーだけではありません。トイレのメーカーのイナックスは、ライバル・メーカーの買収でボリュームゾーンを獲得しようとしています。住宅の建設ラッシュが続き、風呂やトイレなどの需要が大きく膨らんでいるアジア。自力での事業拡大にこだわっていて買収の最大の狙いは、アジア全域に広がる販売網の獲得。アジア8か国で、イナックスの商品を販売できる店が大幅に増えます。さらに、現地のニーズにあわせた商品開発のノウハウも手に入れました。イナックスの川本隆一郎社長は、「アジアの国が経済発展すると必ず都市化が起こってきますから、スピーディーに対応していかないと、ビジネスを拡大できない」と話しました。

巻き返せるか 日本企業

ゲストは、シリーズ1回目に引き続き慶応義塾大学 教授で東アジア・アセアン経済研究センター 、チーフエコノミストの木村福成さん。日本企業がボリュームゾーンの獲得に動き出した背景について、アジアのボリュームゾーンの成長はものすごく速い。経済成長で貧困層が急激に減り、ボリュームゾーンの部分が増えている。2000年の段階では、2億人位だったが、今は8億8000万人。富裕層も伸びているが、ボリュームゾーンの拡大が目覚ましい。日本の企業が主に得意としてきたのは富裕層だったが、もう少し下の所得階層のボリュームゾーンがすごく大きくなっているので、この市場を放っておけない、なるべく早く市場を取りにいかなければならない、ということで日本企業は、戦略を転換している、と解説しました。

韓国などのメーカーが存在感を示している理由については、特に家電製品では、韓国企業・中国企業は、日本のメーカーよりもう少し低い所得層を狙ってきた。そこが丁度ボリュームゾーンに当たっていて、そこが非常に大きくなってきたということ。韓国企業は日本企業と競合しない市場や、地域、国、所得階層を攻めていたが、そこが大きくなってきたので、結果的にその努力が報われてきているということ。日本のメーカーにとってボリュームゾーンは、薄利多売になっても取らなければならない市場。そういう市場があることを前提として企業戦略をもう一回組み直す段階にきている。成長している市場に入っていくという話なので、日本勢も頑張ればやっていける余地がありチャンス。積極的な攻めが必要だ、と話しました。