見直しになった再就職支援事業
100年に一度と言われた経済危機。影響をもろにかぶったのは、派遣労働など非正規雇用で働く人々でした。それまでの景気の回復を支えてきたとされる、自動車など輸出関連産業の第一線の現場で働いていた人たちです。リーマンショックに端を発した世界的な経済危機は、その第一線を直撃し各産業へと波及していきました。
そうした中、麻生政権は非正規雇用の労働者に対する新たな再就職支援に取り組み始めました。平成21年度補正予算で組まれた「緊急人材育成支援事業」です。雇用保険の対象になっていない非正規雇用の労働者を対象に、生活費(10〜12万円/月)の給付と職業訓練を同時に行うのが特徴です。

東京都の専門学校の団体では、パソコンの基礎を学ぶ職業訓練のコースを開設しました。
受講者からは「これを機会に職業能力を高める勉強をしたい。まして生活費の援助もしてもらえるので、すごくありがたい制度だと思います」と、制度の必要性を訴える声が聞かれました。予算総額は7000億円。今後3年間で35万人を職業訓練する目標です。
ところが9月に就任した長妻厚生労働大臣は、この再就職支援事業の見直しを打ち出しました。事業の運営方法に問題があると見ていたのです。
事業はどう運営されているか
7000億円の予算が投入された先は、東京・文京区のオフィスビルに事務所を構える、「中央職業能力開発協会」という団体でした。常勤の役員4人はすべて厚生労働省の局長経験者などの天下りです。今回の事業では、職業訓練を実際に行う民間の専門学校や受講者に直接、予算が支払われるのではなく、「協会」が間に入る形になっていました。協会のこれまでの主な業務は、ものづくりに関する技能検定などで、予算は国からの補助金など年間40億円余り。そこに突然、7000億円もの資金が交付されたのです。
失業者の職業訓練を初めて手がけることになった協会は、急きょ新たなフロアーを借り、44人からなる事業本部を設置しました。しかし、協会がみずから行っていたのは、生活費の振り込みなど主に事務手続きでした。訓練コースを用意したり、受講者を募集したりする主要な業務はそっくり別の団体に委託していました。
その委託先は、独立行政法人「雇用・能力開発機構」。ここも厚生労働省などのOB・5人が、役員として天下りしている団体でした。今回の事業では、「機構」のスタッフがハローワークの窓口で、非正規で働いてきた人たちの相談に乗り、どんな訓練コースを受けたらいいか、専門学校との間の橋渡し役をすることになっていました。今年度末までに10万人の受講を目標にしていました。ところが調べてみると、9月末までに受講したのは全国でわずか2300人余り。申し込みをした人を入れてもまだ5000人足らずでした。
受講者が少ない理由は・・・

この事業を受けて新たに訓練コースを設けた専門学校などでは、定員に満たず中止に追い込まれるケースも相次ぎました。専門学校の団体は「潜在的なニーズはあるはずなので、20~30人程のクラスの定員が埋まらないということは考えられなかったことです。あまりの反応の少なさに驚いています」と話しています。
なぜこれほどまでに受講者が少ないのか。実際に訓練に来ている人に尋ねてみると、「ハローワークでこの訓練コースを勧められたことはありませんでした」「積極的にPRしている様子はなく、自分で張り紙を読んで申し込みました」などという反応が返ってきた。
実は、当初配置を予定していた橋渡し役の独立行政法人のスタッフ260人が、まだそろっていなかったのです。これに対して厚生労働省は「事業がスタートしたばかりで、態勢が整っていなかった」と話しています。
さらに、今回の事業の対象となった非正規で働いてきた人たちはそもそもハローワークに来ないという指摘もあります。仕事探しを人材派遣会社などでする人が増えているためです。危機感を持った専門学校は、人材派遣会社に募集チラシを配るなど受講者を増やすための取り組みを始めています。専門学校の団体は「応募者が少ないのは、ハローワークに来なかった人たちの間に職業訓練のニーズがないからではありません。周知の手段や方法に工夫の余地があるはずです」と事業の運営方法に疑問を投げかけます。
どう見直す 独立行政法人
事業の運営にあたっている、「中央職業能力開発協会」や「雇用・能力開発機構」はこれまで補助金の使い方に問題があると会計検査院から指摘されたり、赤字のハコモノをつくったりしてきました。限られた税金を投入する以上、むだづかいは許されず、効果を上げる事業運営をしなければならないことは言うまでもありません。しかし、新政権は、再就職支援事業をどのように変えようとしているのか具体像はまだ見えてきません。

国内外の雇用政策に詳しいみずほ情報総研の藤森克彦・主席研究員は、「失業者に個人アドバイザーをつけて、進路相談から就職に至るまできめ細かなサポートを行うなど、就職支援の量的な拡大だけではなく、質の向上が求められています」と指摘しています。再就職支援の質を高めるために、どの組織がもっとも効果的なのか。国が直接担うべきか、独立行政法人に任せるのか、あるいはもっと民間を活用するのか、事業の担い手を見直す作業が必要だと言えます。






